9歳のバースデー・パーティーの最中に、父(リチャード・ジェンキンズ)と母(キャサリン・オハラ)が大ゲンカをした末に離婚するという衝撃的な経験を持つカーター(アダム・スコット)。だが彼はそんなトラウマを乗り越え、両親と関わることを避けながら現在はレストラン経営者として充実した日々を送っていた。

 そんなある日、弟のトレイ(クラーク・デューク)から「ガールフレンドと結婚するから、式には両親を呼んでほしい」と頼まれてしまう。激しく動揺したカーターが、悩みを相談しようと向かった先は、両親の離婚直後に熱心に話を聞いてくれたドクター・ジュディス(ジェーン・リンチ)だった。

 しかし当時はセラピストだと思っていた彼女は実は研究者で、カーターとの会話をネタにしてベストセラー本「離婚家庭の子どもたち(Children of Divorce)」を出版していたことが発覚。おまけに現在はそれぞれ別のパートナーがいる両親が何故かヨリを戻してしまい、カーターのストレスはピークに。遂にはガールフレンドのローレン(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)との仲もギクシャクしてしまい …。

 日本の離婚率は年々上昇していて、現在は約3割にまで達しているという。でもアメリカにはまだまだ及ばない。あの国では2組に1組が離婚しているからだ。

 ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープが、裁判で子どもの養育権を争う元夫婦に扮した『クレイマー、クレイマー』(79年)は公開当時、<家族の最新の形を描いたドラマ>として大いに評判になったものだった。でも昨年公開された『ジュラシック・ワールド』『ヴィジット』『ヴィンセントが教えてくれたこと』といったハリウッド映画に登場した子どもたちは、いずれも母親だけと暮らしている設定である。今やアメリカにおいては離婚家庭の子どもの方がデフォルトなのだ。

 だからといって、彼らがこうした境遇を平然と受けとめているなんてことはありえない。子どもにとっては両親の離婚は精神的な打撃であり、その後の人生観に重大な影を落としている。

 そんな重大な影を落とされた典型例が、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(15年)がこの夏に日本公開されるノア・バームバックだ。<大人になりきれない大人>を描かせたら右に並ぶ者がいない映画作家である彼の根底には、幼少期の両親の離婚が横たわっている。『イカとクジラ 』(05年)や『マーゴット・ウェディング』(07年)といった作品は、いずれも両親に振り回された少年時代の想い出をベースにした半自伝作だ。模範とすべき大人の姿を間近に出来ずに育ってしまった子どもは、成長してもなかなかしっかりした大人になれずに、もがき苦しむ。バームバックはそうした自分にとっての現実を執拗に物語にし続けているのである。

 『エレクトラ』(05年)や『ジ・アメリカンズ』(13年〜)といったアクション/スリラー系の脚本家として知られているスチュアート・ジマーマンの初監督作であるこの『ファミリー・アゲイン/離婚でハッピー!?なボクの家族』もまた、こうしたアダルト・チルドレンの姿を描いたビターなコメディだ。彼のいつもの作風とかけ離れていることには理由がある。本作もまたバームバックの諸作と同様にジマーマン自身が、弟の結婚式の準備中に両親とモメた実体験をベースにした半自伝作なのだ。

 両親のエキセントリックさを糾弾し、自分こそが一番マトモな人間だと主張していたカーターが、本当は自分が離婚に傷ついていたことを認めたくなかったことを悟るという展開は、だから説得力満点。脚本が執筆されると、2008年には「ブラック・リスト(製作が決定していないものの、優れた脚本が選ばれる業界内のリストのこと)」に挙げられ、複数の製作会社による争奪戦が繰り広げられたというのも納得だ。

 そんな注目作において主人公カーター役に抜擢されたのがアダム・スコットだ。アメリカン・コメディ好きにとっては、ウィル・フェレル主演の『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-』(2008年)やベン・スティラーの『LIFE!』(2013年)で憎まれ役を演じていた男として知られているかもしれない。でも本国での彼はコメディ・ドラマ『Parks and Recreation』(2009〜15年)のベン役で知られている人気俳優だ。

 日本では遂に放映されなかったけど、『サタデー・ナイト・ライブ』の人気コメディエンヌだったエイミー・ポーラーと、『セレステ∞ジェシー』(2012年)などへの出演で知られるラシダ・ジョーンズが中心となったこのドラマはもはや伝説となっている。というのも、あのクリス・プラットをはじめ、オーブリー・プラザやニック・オファーマン、そしてアジス・アンサリといった現在のコメディ界のVIPがブレイクしたのがこの作品だったからだ。

 そんな錚々たるメンツの中でアダムが演じていたベンは、主人公であるエイミーと恋に落ちるナイス・ガイ・キャラ。逆に言えば、『Parks and Recreation』で築き上げた圧倒的な好感度の高さがあるからこそ、演じる俳優によってはアブない人に見えてしまう危険性があるカーター役を任されたのかもしれない。

 本作を既に観ている人なら、これで気づいたはず。大スターであるエイミー・ポーラーが、父の後妻役という端っこの役で登場して、やたら楽しそうに奇人変人キャラを演じているのも、そんな彼女に向かってアダムが「こんな関係じゃなかったら、俺たち良い友達になれたかもしれないよな」と語りかけるシーンがあるのも、一種の楽屋オチなのだ。

 またアダムと彼の弟トレイに扮したクラーク・デュークのコンビネーションの良さにも注目してほしい。学園コメディ・ドラマ『GREEK〜ときめき★キャンパスライフ』(07〜11年)や『キック・アス』(10年)で注目されたクラークは、『オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式』(10年)ではチェヴィー・チェイス、『ジャックはしゃべれま1,000』(12年)ではエディ・マーフィというコメディ・レジェンドたちと渡り合った実力の持ち主。『オフロでGO!!!!!タイムマシンはジェット式2 』(15年)ではアダムとリユニオンを果たしているので、そちらも是非チェックしてほしい。

 女優陣に目を移してみよう。メイン・ヒロインのメアリー・エリザベス・ウィンステッドや、『glee/グリー』のスー先生ことジェーン・リンチもそれぞれ好演しているけど、個人的にはチョイ役で登場するジェシカ・アルバの演技が興味深かった。彼女が演じているのは、カーターと同様にドクター・ジュディスの研究対象だった離婚家庭の元子どもであるミシェル。父親くらいの年上の男としか付き合えないという明らかに病んでいるキャラが妙にハマっている。

 アクションやSFといったジャンルの大作映画では、セクシーで強い女を演じ続けているジェシカだけど、エイミー・ベンダーの『私自身の見えない徴』を映画化した『ジェシカ・アルバのしあわせの方程式』(15年)など、低予算のインディ映画ではたまに風変わりな文化系女子を演じることがある。そうした作品での演技が意外とイケてるので、そっちこそが彼女の真の姿なのではないかとか妄想してしまう。

 映画内ではそんなエイミーとカーターが出会ってすぐに互いを理解しあう様子が描かれる。その姿はどこかもの悲しくも滑稽だ。それは二人とも結構いい歳なのに『A.O.C.D.(Adult Children of Divorce=離婚家庭で育ったために大人になりきれなかった子どもたち)=本作の原題である』でい続けているからに違いない。

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