平凡な日常に満足しきっていた44歳の中年サラリーマン、キャル・ウィーバー(スティーブ・カレル)に、突然人生の危機が訪れた。25年間連れ添った妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)から離婚を切り出されたのだ。理由は彼女と職場の同僚デヴィッド(ケヴィン・ベーコン)の浮気。
ショックが冷めやらない中、家を出てひとり暮らしをすることになったキャルは、夜な夜なバーに繰り出すようになったものの、口から出るのは恨み言や泣き言ばかり。ドン底状態のそんな彼に、ある夜救いの手が差し伸べられた。
「男らしさを取り戻す勇気を与えよう!」
言葉の主は、同じくバーの常連でありながら、毎晩異なる美女をお持ち帰りする若きプレイボーイ、ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)だった。これまでエミリーとしか付き合ったことが無いキャルは尻込みしてしまうが、「彼女をもう一回振り向かるチャンスだ」と言われ、ジェイコブへの弟子入りを決意する。彼の厳しい指導のもとファッション・センスやトーク術を磨いたキャルは、努力が実ってイケてる中年プレイボーイへと変身を遂げるのだった。
しかしある日を境にジェイコブはバーに姿を見せないようになってしまう。彼は弁護士を目指す真面目女子のハンナ(エマ・ストーン)と真剣な恋に落ちていたのだ。そう、エミリーと出会った頃のキャルのように。
一方、キャルの13歳になる息子ロビー(ジョナ・ボボ)は、ベビーシッターとして家に訪れる17歳の女子高生ジェシカ(アナリー・ティプトン)に熱を上げていた。しかしジェシカには片思いの相手がいた。それは何とキャル。それぞれの恋はヒートアップしていき、ロビーと妹モリー(ジョーイ・キング)が企画したキャルとエミリーの仲直りパーティで大爆発するのだった……。
『ラブ・アゲイン』(11年)は原題『Crazy, Stupid, Love.』の通り、イカれてバカげた恋愛を描いた群像コメディだ。監督を務めたのはグレン・フィカーラとジョン・レクアのコンビ。もともと彼らは『キャッツ&ドッグス』(01年)、『バッド・サンタ』(03年)、リチャード・リンクレイター監督作『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』(05年)といったコメディの脚本を手がけてきたチームで、監督としてはジム・キャリーとユアン・マクレガーがカップルに扮して話題を呼んだ『フィリップ、きみを愛してる!』(09年)でデビューしたばかりだった。本作以降もウィル・スミス主演作『フォーカス』(15年)では脚本を兼務している。
本来は脚本家の二人が本作で監督に専念しているのは、脚本が彼らも唸るクオリティだからだ。脚本を手がけたのはダン・フォーゲルマンという人物なのだが、その彼のキャリアが凄い。脚本チームに参加したピクサー・アニメ『カーズ』(06年)であのジョン・ラセターに才能を認められ、再建期のディズニーアニメ『ボルト』(08年)、『塔の上のラプンツェル』(10年)の脚本を一手に引き受けていた才人なのだ。しかし大人向けのコメディを作りたいという欲望を抑えることができずに製作の予定もないまま影で執筆していたのが『ラブ・アゲイン』だったというわけだ。
本作の見どころは、四十代(キャルとエミリー)、二十代(ジェイコブとハンナ)、十代(ロビーとジェシカ)という異なる世代の恋愛が鮮やかに書き分けられる一方、それらが思いもかけぬ形で繋がっていることが終盤で明かされるトリッキーな展開にある。ヒントはそこかしこに転がっているので、未見の映画ファンは謎解きにチャレンジしてみるのも一興だろう。
ちなみにフィカーラとレクア、フォーゲルマンの3人は昨年テレビドラマ『This Is Us』(16年〜)でリユニオン(フォーゲルマンがクリエイター兼脚本、ほかの二人がプロデュース&監督)。本作同様、複数のカップルのドラマを平行して描いていたと思ったら、途中からそれぞれが暮らす時代が異なっていたことが明らかになる驚愕の展開で絶賛を巻き起こしている。こうしたトリッキーな仕掛けのルーツは『ラブ・アゲイン』にあるのだ。
本作の脚本執筆にあたって、フォーゲルマンは当初からキャル役をある俳優を想定して書いていたという。それがスティーブ・カレルである。カレルが当時出演していたテレビコメディ『ザ・オフィス』(05〜13年)で演じていた最低上司マイケルの<善人バージョン>こそキャルなのだ。『ザ・オフィス』そのままにダサかった彼が、洗練された男に大変身するところに本作の面白さがある。
対する妻メアリーを演じるのはジュリアン・ムーア。カレルより2つ年上の60年生まれなので、撮影時は五十代に突入していたはずなのだが、全くそうは見えない美魔女ぶり。キャル言うところの「セクシーとキュートが混じった存在」を演じきっている。
今年のアカデミー賞で本命視されているミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(16年)でハリウッド随一のゴールデン・カップルになったライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの初共演作としても本作は記憶されるべきだろう。本作で相性の良さが買われた二人はまず『L.A. ギャング ストーリー』(13年)で再共演を果たしている。
1940年代から50年代にかけてのロサンゼルスを舞台にLA市警とギャングの戦いを描いたこのクライム・ドラマで、ふたりは警察官とギャングの情婦という立場にありながら恋に落ちるカップルを熱演。レトロなコスチュームの着こなしも評価された。これを見込まれて三度目の共演を果たしたのが、舞台が現代のロサンゼルスでありながら何処かレトロなムードが漂う『ラ・ラ・ランド』なのだ。『ラブ・アゲイン』を観た者なら、歌い踊るふたりに、『ダーティ・ダンシング』の主題歌「タイム・オブ・マイ・ライフ」を踊る本作のシーンがフラッシュバックして思わずニヤリとすることだろう。
またブレイク前のアナリー・ティプトンとジョーイ・キングが出演していることも、今では貴重である。ティプトンはもともとリアリティ番組『America's Next Top Model』で世に出たファッション・モデルで、メインキャストを務めたのは本作がはじめて。しかし明後日の方向に暴走を繰り広げるジェシカ役を見事に演じきり、新世代コメディエンヌとして注目されるようになった。以降も『ダムゼル・イン・ディストレス バイオレットの青春セラピー』(11年)、『ウォーム・ボディーズ』(13年)で脇でキラリと輝くキャラを好演。出会い系アプリを題材にした今どきのコメディ『きみといた2日間』(14年)ではマイルズ・テラーの相手役を堂々と務めている。
ジョーイ・キングは、児童文学のベストセラー「ビーザスといたずらラモーナ」の映画化作『ラモーナのおきて』(10年)で主演に抜擢されたスーパー子役。「ダークナイト」三部作の最終作『ダークナイト ライジング』(12年)では一瞬の出演ながら物語の鍵を握るキャラを好演し、陶器人形を演じた『オズ はじまりの戦い』(13年)で共演したジェームズ・フランコとザック・ブラフから可愛がられており、ふたりの監督作の常連に。またティーン文学のベストセラーの映画化作『スターガール』の主演も決まるなど、次世代のエースとして期待されている。
つまり『ラブ・アゲイン』は、現在ではそれぞれ単独で主演を張る人気者が、一堂に会していた作品ということになる。だから本作が将来的に伝説のコメディ映画として語り継がれることになっても全然おかしなことではないのだ。
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