NYインディーズ界最後のイノセンス ハル・ハートリーの世界

90年代。インディーズ映画にハル・ハートリーという一陣の風が吹き抜けた。

ハートリー全仕事解説

ハル・ハートリー
全作完全網羅!

  • 長編・中編映画

    アンビリーバブル・トゥルース (別題:ニューヨーク・ラブ・ストーリー)

    The Unbelievable Truth/1989年/1h30m
    出演:エイドリアン・シェリー、ロバート・ジョン・バーク、イーディ・ファルコ、ビル・セイジ、他

    当時29歳だったハートリーの長編デビュー作。刑務所から出所して故郷の町に舞い戻った自動車修理工のジョシュと、学資のためにモデル業を始める美少女オードリーの恋物語を中心に、小さな町で起きるさざ波のような騒動を綴った群像ドラマ。オフビートな笑いを散りばめた軽いタッチの語り口ながら、世界の終末を憂うオードリー、静かに贖罪を背負うジョシュなどハートリー世界ならではの思索的な人物像が確立されている。日本では1991年に「ニューヨーク・ラブ・ストーリー」の邦題でVHSビデオがリリース、2014年のリバイバル特集では『アンビリーバブル・トゥルース』として劇場で初公開された。

    ※JVDよりDVDリリース、レンタルあり。

    トラスト・ミー

    Trust/1990年/1h45m
    出演:エイドリアン・シェリー、マイケル・ドノヴァン、イーディ・ファルコ、メリット・ネルソン、カレン・サイラス、ビル・セイジ他

    予期せぬ妊娠をしたはすっぱなティーンエイジャーのマリアと、世間に馴染めずテレビが大嫌いなインテリ青年マシューの不器用な恋の顛末を描いた長編第2作。“マリア”という名前に象徴されているように、ふしだらでだらしないヒロインが“聖女”性を獲得していく物語でもあり、ハートリー自身「理想を託した女性像」だと認めているのだが、ケバめの女子高生から聡明なメガネ少女に開花するエイドリアン・シェリーがとにかく素晴らしい。後にハートリー映画の顔となるマーティン・ドノヴァンは本作が初参加。原題は『Trust』だが、フランス公開時のタイトルに倣って日本でも『トラスト・ミー』の邦題で公開された。『はなしかわって』に登場するPossible Filmsの事務所には「Trust Me」と書かれたフランス版のポスターが貼られている。

    ※ザ・シネマにて2018年4月5、17、22、27日放送。4月28日~5月2日、刈谷日劇にて上映。6月2、8日、アップリンク渋谷にて上映。

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    シンプルメン

    Simple Men/1992年/1h45m
    出演:ロバート・ジョン・バーク、ビル・セイジ、カレン・サイラス、エリナ・レーヴェンソン、マーティン・ドノヴァン、ダミアン・ヤング、他

    カンヌ国際映画祭に正式出品された長編第3作。恋人に捨てられて傷心の犯罪者ビルのもとに生真面目な学生の弟デニスが訪ねてくる。テロリストとして指名手配されていた父親が捕まったというのだ。2人は面会に行くが、父親は既に脱走した後。わずかな情報を手掛かりに父親を探す兄弟は、ロングアイランドの田舎町で2人の訳ありな女性と出逢う……。マンハッタンから隣接するロングアイランドへと移動する、なんともささやかなスケールのロードムービー。クセのある登場人物たちが表情を変えずに哲学的なダイアログを投げかけ合うハートリー節と呼ぶべきスタイルを確立。ソニック・ユースの「Kool Thing」に合わせて3人の男女が唐突に踊り出す名シーンは90年代インディーズ映画の伝説となった。

    ※ザ・シネマにて2018年5月放送。JVDよりDVDリリース、レンタルあり。

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    愛、アマチュア

    Amateur/1994年/1h45m
    出演:イザベル・ユペール、マーティン・ドノヴァン、エリナ・レーヴェンソン、ダミアン・ヤング、他

    ポルノ作家志望の元尼僧イザベルは、記憶喪失の男トーマスと出会う。トーマスは犯罪組織と関わりがあり、ソフィアというポルノ女優が危険に晒されているらしい。ソフィアを救い出すことこそ神の使命だと信じたイザベルは、トーマスと共にイザベルを探し始め……。フランスが誇る名女優イザベル・ユペールが『トラスト・ミー』に惚れ込み、「一緒に仕事がしたい」と手紙を書いて実現したハートリー流のクライムミステリー。カンヌ国際映画祭監督週間に公式出品された他、1994年の東京国際映画祭(京都大会)でヤングシネマ1994コンペティション・シルバー賞受賞に輝いた。

    ※JVDよりDVDリリース、レンタルあり。

    FLIRT/フラート

    Flirt/1995年/1h25m
    出演:ビル・セイジ、マーティン・ドノヴァン、パーカー・ポージー、ロバート・ジョン・バーク、カレン、サイラス、ドワイト・ヨーウェル、エリナ・レーヴェンソン、二階堂美穂、永瀬正敏、松重豊、他

    浮気性の主人公が、人生の伴侶を選ぶ決断を迫られる数時間を、ニューヨーク、ベルリン、東京の三都市でそれぞれに別キャストで描いた実験的な短編オムニバス。ハートリーの長編は基本的に人間の“善性”を探求しているが、短編では人間的成長より愚かしさに焦点を当てるケースが多く、本作も身勝手な主人公の右往左往をユーモラスに描いている。基本的に3エピソードとも同じシチュエーションで始まるが、舞台となる都市、登場人物、そしてハートリー自身の変化に影響されて、それぞれに違った結末へと進んでいく。東京篇の主人公に抜擢された二階堂美穂とは本作を機に交際が始まり結婚。ハートリー自身が“映画監督ハル”という役で出演するなど、メタフィクショナルな要素も興味深い。

    ※ザ・シネマにて2018年6月放送。

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    ヘンリー・フール

    Henry Fool/1997年/2h17m
    出演:トーマス・ジェイ・ライアン、ジェームズ・アーバニアク、パーカー・ポージー、リーアム・エイケン、二階堂美穂、他

    ハートリーが初めて数年間に及ぶロングスパンの物語を描き、キャリアで唯一2時間超えの尺を要したヒューマンドラマ。自称天才作家のヘンリーとゴミ収集人のサイモンが出会い、奇妙な交流が始まる。自らは堕落したロクデナシながら、サイモンに詩人としての薫陶を与え、女性を次々と誘惑する謎の男ヘンリー・フールを演じたのは、本作が映画デビューとなった舞台出身のトーマス・ジェイ・ライアン。社会の中で押しつぶされる“善性”を描き続けてきたハートリーが、善悪の基準を超えた人物ヘンリーを投入することで、より現実的な社会批評を浮かび上がらせる新境地を披露。カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作品。

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    ブック・オブ・ライフ

    The Book of Life/1998年/1h3m
    出演:マーティン・ドノヴァン、PJハーヴェイ、トーマス・ジェイ・ライアン、デヴィッド・シモンズ、二階堂美穂、DJメンデル、他

    フランスのTV局の依頼で製作されたハートリー流の“黙示録”。1999年大晦日のNYにイエス・キリストが降臨。預言どおりに世界を亡ぼすか否かで悩むナイーヴなキリスト像をスーツ姿で演じたのはハートリー作品でお馴染みのマーティン・ドノヴァン。一方『ヘンリー・フール』のトーマス・ジェイ・ライアンがサタンに扮し、人間を堕落へと誘惑して回る。シャッター速度を落としたデジタルビデオ撮影で光をブレさせた幻想的な映像が現実感を取り払い、ゴスファッションでマグダラのマリアを演じたPJハーヴェイがCDショップで歌い出すなど、全編にフリーダムな空気が漂うファンタジックなコメディ。日本ではテレビ放送された後、2000年に劇場公開された。

    ※アップリンクよりDVDリリース。

    No Such Thing

    2001年/1h43m
    出演:サラ・ポーリー、ロバート・ジョン・バーク、ジュリー・クリスティー、ヘレン・ミレン、ビル・セイジ、ジェームズ・アーバニアク、ダミアン・ヤング他

    大手スタジオのユナイテッド・アーティスツが製作、フランシス・フォード・コッポラが製作総指揮を務めた「美女と野獣」の変奏曲。テレビ局の見習い職員ベアトリスは取材班が消息を絶ったアイスランドに向かい、不老不死の“怪物”と出会う。生きることに飽いて死を願う“怪物”をベアトリスはNYに連れ帰り、メディアによってにわかセレブに祭り上げられる。新時代のスター候補だったサラ・ポーリーや大物女優陣を迎えたハートリー初の本格的メジャー映画……になるはずだったが、再編集を求めるスタジオ側と対立してお蔵入り同然の扱いに。アイスランドの雄大な景色などハートリー映画には珍しい新機軸と、社会から逃げ出そうとする主人公が追い詰められていくという骨の髄までハートリー的な物語の合わせ技になっている。

    ※日本未公開

    The Girl from Monday

    2005年/1h24m
    出演:ビル・セイジ、サブリナ・ロイド、タチアナ・アブラコス、レオ・フィッツパトリック、DJメンデル、ジェームズ・アーバニアク、イーディ・ファルコ

    ハートリー自身が“フェイクSF”と呼ぶ、『ブック・オブ・ライフ』と同じデジタルビデオ撮影のゲリラスタイルで制作された近未来ファンタジー。大手企業によって人間が商品として評価され、セックスによって査定されるディストピアで、革命活動に巻き込まれた男女が美女の姿をした無垢な宇宙生命体に出会う。低予算SFのメソッドを駆使して、過剰な消費社会にまつわる考察をイメージとダイアログで綴った詩的な作品。ハートリーが立ち上げたプロダクションPossible Filmsによる初長編映画でもある。

    ※日本未公開、halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    フェイ・グリム

    Fay Grim/2006年/1h58m
    出演:パーカー・ポージー、ジェフ・ゴールドブラム、トーマス・ジェイ・ライアン、リーアム・エイケン、エリナ・レーヴェンソン、サフロン・バロウズ、他

    サイモンの姉でヘンリーの妻となったフェイを主人公に据えた、『ヘンリー・フール』9年ぶりの続編。夫ヘンリーは逃亡の身で行方不明、女手ひとつで息子のネッドを育ててきたフェイにCIAが接触。ヘンリーの手記“告白”には重要な国家機密が隠されており、フランス政府から“ヘンリーの遺品”として引き取って欲しいと依頼する。収監中のサイモンの釈放と引き換えに、フェイはヨーロッパの諜報戦の渦中に放り込まれる。911テロ以降の世界情勢の混乱と、当時ベルリンに拠点を移していたハートリー自身の心境が反映され、前作とは打って変わったまさかのエスピオナージ映画に変貌を遂げた怪作。

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    はなしかわって

    Meanwhile/2011年/57m
    出演:DJメンデル、ダニエル・メイヤー、チェルシー・クロウ、マティ・チャールズ、二階堂美穂、他

    ジャズドラマーで映像作家でなんでも修理ができる便利屋で、今は窓枠の輸入でひと山当てようと奮闘している中年男ジョセフ。わが身の苦境を脇に置いてついつい人助けをしてしまうお人よしな主人公の24時間を描いた、ユーモラスでほろ苦い中編。夫婦でありつつもマンハッタンの両端で別々に暮らしているハートリーと二階堂美穂の現実を物語に取り入れており、二階堂が本人役で出演。Possible Filmsの事務所を含む現実のロケーションを自然体で映し出しており、映像のルックはフィルモグラフィ中で最もナチュラル。2014年のリバイバル特集で劇場公開され、日本では15年ぶりにお披露目されたハートリーの新作となった。

    ※JVDよりDVDリリース、レンタルあり。

    My America

    2014年/1h17m
    出演:グレッグ・アレン、DJメンデル、トーマス・ジェイ・ライアン、他

    ボルチモアの劇場「センターステージ」の50周年を記念して、50人の戯曲作家が「アメリカ」をテーマに書いたモノローグを50組の役者が演じる姿を連作シリーズ。50篇の中から21エピソードを抜き出して一本の作品にまとめ上げた。一見ドキュメンタリーかと思うような独白から、アメリカという国の実像が少しずつ浮かび上がる。劇場の芸術監督クワメ・クウェイ・アーマーの企画だが、それぞれが部屋の中でセリフをまくし立てるスタイルはハートリーとも親和性が高く、中にはミュージカル仕立ての作品も。ハートリー組のDJメンデルとトーマス・ジェイ・ライアンも出演している。

    ※日本未公開、halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    ネッド・ライフル

    Ned Rifle/2014年/1h25m
    出演:リーアム・エイケン、オーブリー・プラザ、トーマス・ジェイ・ライアン、パーカー・ポージー、ジェームズ・アーバニアク、マーティン・ドノヴァン他

    足掛け17年に渡る三部作に膨らんだ「ヘンリー・フール・トリロジー」の幕を引く最終章。18歳に成長したネッドが、家族に不幸を呼び込んだ元凶である父親ヘンリーを殺そうと決意。叔父サイモンの詩に執着する風変りな女性スーザンを道連れに、父親捜しの旅に出る。『ヘンリー・フール』では映画初出演の子役だったリーアム・エイケンが美青年に成長し、ナイーヴな魅力で家族をめぐる波乱に満ちたサーガのアンカーを務めた。85分の小品ながらハートリーにも自らの集大成という意識があり、マーティン・ドノヴァン、カレン・サイラス、ロバート・ジョン・バーク、ビル・セイジとハートリー組の看板だった面々も顔を出している。

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    短編映画

    ※「Kid」「The Cartographer’s Girlfriend」「Dogs」「Iris」以外の短編はhalhatley.comでストリーミング視聴可能(有料/日本語字幕なし)

    Kid

    1984年/33m

    ハートリーの初短編にしてニューヨーク州立大学パーチェス校の卒業制作。カレン・サイラスや『セオリー・オブ・アチーヴメント』に出演し後に映画監督/プロデューサーになるボブ・ゴッスら、後の作品で関わる人々が多数参加しており、撮影監督は盟友マイケル・スピラー。ハートリーの故郷リンデンハーストを舞台に、恋人を探して都会に出ようとする若者の右往左往を描く。ネッドというキャラクターが早くも登場していることも興味深いが、初期の短編三作は現在公式には公開されていない。

    The Cartographer's Girlfriend

    1987年

    「Kid」と同様、マイケル・スピラー、カレン・サイラスらニューヨーク州立大学パーチェス校繋がりの仲間たちと作った短編。公式上映されておらず詳細は不明。世界地図作りに苦しむ測量士が慣れない恋愛に翻弄される様をシュールなユーモアで描いているらしい。“Girl”という役どころで出演しているマリッサ・チバスは『ヘンリー・フール』にも地方新聞の記者役で登場している。

    Dogs

    1988年/20m

    ユージン・オニールの戯曲「氷人来たる」を現代に置き換え、小さな町にくすぶる若者たちの姿を描く。ハートリー作品の多くでスチール撮影をしたリチャード・ルドウィグとスティーヴン・オコナーの共同脚本で、ハートリーが自分で執筆していない珍しい例(他には『My America』と「レッド・オークス」)。『アンビリーバブル・トゥルース』『トラスト・ミー』でエイドリアン・シェリーのボーイフレンド役を演じることになるゲイリー・ザウアーがハートリー作品に初参加。

    アンビション

    Ambition/1991年/9m
    出演:ジョージ・フィースター、パトリシア・サリヴァン、ビル・セイジ、ボブ・ゴッス、他

    成功と名声を求める若きアーティストの妄想を描いたシュールな短編。誇張された動きや非現実的なアクションなど、後にドラマの中で普通に行われるようになるハートリー的表現がまだ“妄想”という枠内で試みられている。成功を追い求めた先のイメージがストレスに満ちた悲観的なもので、映画監督としての未来が開けた自分に冷や水を浴びせるようなアプローチもハートリーらしい。ボブ・ゴッスのクレジットが「Parker’s Boyfriend」になっているのは、ゴッスが当時パーカー・ポージーと付き合っていたことに対するジョークか。ポージーは『アンビリーバブル・トゥルース』の主演候補のひとりだった。

    ※VHS「ハル・ハートリー短編集」に収録。halhartley.comでもストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    セオリー・オブ・アチーヴメント

    Theory of Achievement/1991年/18m
    出演:ボブ・ゴッス、ビル・セイジ、エリナ・レーヴェンソン、ニック・ゴメス、他

    ブルックリンをアートの中心地として盛り上げようとする作家志望の若者(ボブ・ゴッス)と、居候のカップル(ビル・セイジとエリナ・レーヴェンソン)らのボヘミアン的生活を描いたハートリー版「ラ・ボエーム」。「若く、中産階級で、大卒の白人で、実力もなく、文無し」と自分たちを表現するセリフは、まさにハートリーと仲間たちの自己認識だったのだろう。ミュージシャン役で出演し、自作曲を披露しているジェフリー・ハワードは、『シンプルメン』では主人公ビルに憧れる神経衰弱の男(役名はネッド・ライフル)を演じている。

    ※VHS「ハル・ハートリー短編集」に収録。halhartley.comでもストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    サバイビング・デザイアー

    Surviving Desire /1992年/55m
    出演:マーティン・ドノヴァン、メアリー・ウォード、マット・マロイ、レベッカ・ネルソン、他

    ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の同じ一節ばかり論じる文学教師と蠱惑的な女子大生の逢瀬の顛末を描いたラブコメディ。若い教え子に翻弄されるひねくれたインテリをマーティン・ドノヴァンが妙演。ショートカットのヒロイン、ソフィーを演じたメアリー・ワードも清楚風なビッチが板についている。突然始まる『ウエストサイド物語』風ダンスは『シンプルメン』の前哨戦か。道端で誰かれ構わず結婚を迫って強烈な印象を残すのは『トラスト・ミー』でエイドリアン・シェリーの母親を演じたレベッカ(メリット)・ネルソン。恋人にラブソングを披露するバンドマンとしてハートリー作品のサントラの常連ミュージシャン、ハブ・ムーアも出演している。アメリカではTV放送され、日本ではVHS「ハル・ハートリー短編集」に収録された。

    ※VHS「ハル・ハートリー短編集」に収録。halhartley.comでもストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    Iris

    1994年/3m23s
    出演:パーカー・ポージー、サブリナ・ロイド 音楽:ザ・ブリーダーズ

    音楽やポップカルチャーを通じてエイズ撲滅のキャンペーン活動を行うRed Hot Organizationが企画したコンピレーションアルバム「No Alternative」から派生した映像集に収録。オルタナロックバンド、ザ・ブリーダーズとのコラボ作品だが、ミュージックビデオというより楽曲「Iris」のフレーズが散りばめられたコラージュ的な短編。パーカー・ポージーとサブリナ・ロイドが演じる2人の若い女性が、借家住まいを続けるかで逡巡したり、ダンベルを持ち上げたりするイメージがランダムに映し出される。この作品が縁となり、ほぼ10年後にロイドは『The Girl From Monday』に主演する。

    Opera No. 1

    1993年/6m54s
    出演:パトリシア、ドゥノック、エイドリアン・シェリー、パーカー・ポージー他

    コメディセントラルの依頼で制作されたハートリーによる90年代風オペラ。パーカー・ポージーとエイドリアン・シェリー扮する妖精が、ローラースケートでユルいダンスを披露しながら口パクで歌い、人間の男女に恋のいたずらを仕掛ける。シェイクスピア喜劇風の惚けた小品。出演者唯一の男性は、本作がハートリー作品初参加となったジェームズ・アーバニアク。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    NYC 3/94

    1994年/10m
    出演:ドワイト・ユーウェル、リアンナ・パイ、ポール・シュルツ、ジェームズ・アーバニアク

    包囲され攻撃を受けている(らしい)NYで、非常事態下の市民の姿を断片的に描いたフェイクSF。低予算でファンタジーや近未来を描く『ブック・オブ・ライフ』や『The Girl From Monday』の手法の習作的な意味合いも強い。ジェームズ・アーバニアクがマイクスタンドを前に朗読する姿も、後に発展させた形でさまざまな作品で観られることになる。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    The Other Also

    1997年/7m18s
    出演:エリナ・レーヴェンソン、二階堂美穂、ジェームズ・アーバニアク(ナレーション)

    カルティエ現代美術財団の依頼で制作された、“愛”をテーマにしたインスタレーション的な幻想映像。フォーカスのぼやけた映像の中で、ゆらゆらと揺れる2人の姿と、声と音楽とのコラボレーション。ハートリー自身が撮影も担当。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    The New Math(s)

    1999年/15m6s
    出演:DJメンデル、二階堂美穂、デヴィッド・ヌーマン

    BBCが企画した、映像作家と現代音楽家のコラボレーション企画にハートリーが参加。音楽を手掛けたのは、後にオペラ『La Commedia』でもコラボするオランダの名作曲家ルイス・アンドリーセンと、同じくオランダの作曲家ミシェル・ヴァン・デル・アー。数学の講義が、なぜかカンフー風の脱力アクションに変貌する珍作。『フェイ・グリム』のほぼ全編で使われるダッチアングル(斜めに傾いた画角)など、多くの短編作品と同様に新たな手法の実験場としても機能している印象。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    Kimono

    1999年/27m13s
    出演:二階堂美穂、ヴァレリー・セリス、リン、シェン・ユン

    “エロス”をテーマにしたドイツのテレビシリーズのために製作された幻想譚。自動車から放り出されたウェディングドレス姿の女性が森の奥深くへと迷い込み、打ち捨てられた屋敷で美しい“着物”を発見する。日本の詩からインスピレーションを受けた作品で、ハートリーの「愛妻、二階堂美穂を撮りたい!」というパッションがほとばしっている。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    The Sisters of Mercy

    2004年/16m40s
    出演:パーカー・ポージー、サブリナ・ロイド

    1994年の短編「Iris」のアウトテイクをコラージュした作品。パーカー・ポージーとサブリナ・ロイドにハートリーが演出をつけている姿を映したメイキングドキュメンタリーでもあり、ダイアログや間の取り方、フレーミングなどハートリー独特の映画術の舞台裏を垣間見ることができて興味深い。またこの作品における若き日のサブリナ・ロイドの可愛らしさは出色。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    PF2

    2010年/1h16m

    ハートリーがベルリン在住時代に撮った短編5編を集めたコンピレーション的な作品集。現実とフィクションの境界が意図的に曖昧にされており、多くの短編がハートリーのベルリンの自宅で撮影された。

    <収録作品>

    A/Muse

    2009年/11m
    出演:クリスティーナ・フリック

    うら若い女優が、ハートリーと思しきアメリカ人映画監督の新しいミューズになろうと決意して、監督が暮らすベルリンに押しかけてくるが……。ユーモアとアイロニーが効いたコミカルな作品。「ドイツ製の窓枠の輸入」という『はなしかわって』に繋がるモチーフが出てくることも面白い。

    Implied Harmonies

    2008年/28m5s
    出演:ジョーダナ・マウラー、ハル・ハートリー、ルイス・アンドリーセン、他

    ハートリーのベルリンでのアシスタントの女性が、ルイス・アンドリーセンとオペラ『La Commedia』に取り組んでいるハートリーから手紙を受け取る。そこにはある本を送れという指示が……。軽いストーリー仕立てで描かれる『La Commedia』のメイキングドキュメンタリー。

    The Apologies

    2009年/13m36s
    出演:ニコライ・キンスキー、ベッティーナ・ジマーマン、イリーン・キルシュ

    急遽ベルリンからニューヨークに行くことになった劇作家、その不在中にアパートを借りる若い女優、そして劇作家の恋人の、交わりそうで交わらないすれ違いを描く。劇作家役は『フェイ・グリム』にも出演したクラウス・キンスキーの息子、ニコライ・キンスキー。

    Adventure

    2008年/20m26s
    出演:ハル・ハートリー、二階堂美穂、他

    ハートリーと二階堂美穂が日本にやってきて、東京や二階堂の実家を訪ねる中で12年に及ぶ自分たちの結婚や人生を振り返る。夫婦の赤裸々でプライベートな告白も飛び出す日記のようなドキュメンタリー。

    2009「Accomplice」

    3m8s
    出演:ジョーダナ・マウラー、DJメンデル(声)、ジャン=リュック・ゴダール(アーカイブ映像)、他

    ベルリンのアシスタントの女性が、雇い主が盗んだビデオテープが押収される前にコピーするように指示される。映っていたのはジャン=リュック・ゴダールのインタビュー映像だった……。ゴダールの映像はハートリーが1992年に(合法的に)入手した、長らく世間に発表されていなかった貴重なもの。本作と「Implied Harmonies」に出演しているジョーダナ・マウラーは実際にベルリンでハートリーのアシスタントを務めていた女性。

    Conspiracy

    2004/2010年/2m
    出演:ノーマンディ・シャーウッド、ライアン・ブロンズ

    街角でメモを拾った男女。読み上げると、ハートリーからルイス・アンドリーセンに宛てた私的な誕生日メッセージだった。『La Commedia』などでコラボしている現代音楽家、アンドリーセンに向けた寸劇仕立てのバースデイカード。『PS2』のボーナス映像として公開されている。

    ※halhartley.comでストリーミング視聴可能(字幕なし、有料)。

    ミュージック・ビデオ

    From A Motel 6

    ヨ・ラ・テンゴ/1993年

    ハートリー作品のサントラの常連で、『ブック・オブ・ライフ』では出演もしているロックトリオ、ヨ・ラ・テンゴとコラボしたMV。ガランとしたアパートというハートリーのMVではお馴染みのロケーションで、メンバーが楽器をセッティングするところから後片付けまでを映し出す。実際に演奏している姿は曲中盤のギターソロのみという人を喰ったアイデアはいかにもハートリーらしいひねくれ加減。

    https://youtu.be/apTwaiAyyPI

    The only living boy in New York

    エブリシング・バット・ザ・ガール/1993年

    ネオアコからエレクトロミュージックへと音楽性を変化させながら、80年代から90年代に人気を博した英国デュオが、サイモン&ガーファンクルの名曲「ニューヨークの少年」をカバー。ハートリーは大勢のバックダンサーを仕込み(『FLIRT/フラート』のドワイト・ユーウェルも)、エブリシング・バット・ザ・ガールもダンスに参加。2人はマイクに向かって歌わせているようで、実は口をつぐんで歌っておらず、ハートリーが「歌わないMV」という妙なこだわりをここでも貫徹させている。

    https://youtu.be/xgA6cpPNXEk

    Walking Wounded

    エブリシング・バット・ザ・ガール/1996年

    エブリシング・バット・ザ・ガールがエレクトロ化して音楽性を大きく変化させた大ヒットアルバム『哀しみ色の街』の表題曲。モノクロ映像で、メンバーの2人とジェームズ・アーバニアク、二階堂美穂らハートリー組の常連たちが、額縁を小道具に使ったパフォーマンスを繰り広げる。多くのハートリー作品で出演と振付を担当しているデヴィッド・ヌーマンも出演。この作品に限らず、ハートリー作品の現代舞踏的な要素は主にヌーマンが担っているものと思われる。

    https://youtu.be/EBQmlWVamFM

    キミとボク~Boom 'n Bust

    永瀬正敏/1996年

    俳優・永瀬正敏が90年代にビクターから発表した2枚目のアルバム『Vending Machine』に収録された楽曲。作詞は永瀬自身、作曲はジム・ジャームッシュ監督作『ミステリー・トレイン』で永瀬と共演した元ザ・クラッシュのジョー・ストラマーとリチャード・ノリス。ストラマーの名前を意識して聴くと、後期クラッシュやソロ時代のエレクトロポップス的な匂いに納得。ハートリーは永瀬を無機的なマネキンのように撮っており、オーソドックスながらスタイリッシュに仕上げている。ここでも一切歌うカットはない。

    https://youtu.be/cvwVA8uMgK8

    Stolen Car

    ベス・オートン/1999年

    イギリス出身、NY在住のシンガーソングライター、ベス・オートンの1999年のアルバム「Central Reservation」のファーストシングル。ハートリーのMVにしては珍しく、シンガーのオートンが歌う姿がちゃんと映るのだが、ブームマイクを持った黒子のようなパフォーマー3人(演じるのはDJメンデル、二階堂美穂、デヴィッド・ヌーマン)が入れ替わり立ち代わりマイクを向ける群舞のような構成はいかにもハートリー&ヌーマンのコンビらしい。舞台劇『Soon』でも大々的に取り入れられたブームマイクを駆使したパフォーマンスを流用した、ハートリー流のコレオグラフィーが冴えた一作。

    https://youtu.be/uJ35dnfYKrQ

    Crawl Home

    デザート・セッションズfeaturing Josh Homme & PJ Harvey/2003年

    『ブック・オブ・ライフ』では女優として出演していたロックミュージシャンPJハーヴェイが、元カイアス、現クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・ホーミのユニット“デザート・セッションズ”に参加したコラボ曲。ドリーショットやフォーカスアウトを駆使したいかにもMVらしい映像のモンタージュだが、終始PJハーヴェイとホーミが演じるカップルが停めた車中で諍いをしており、歌や演奏は一切なし。ミュージシャンの2人も俳優のように演技をまっとうしている。

    https://youtu.be/pab8gea5YWY

    その他

    Soon

    1998年/2001年
    演出・脚本:ハル・ハートリー
    音楽:ハル・ハートリー、ジム・コールマン
    出演:
    《1998年初演》
    グレッチェン・リー・クリッチ、エリナ・レーヴェンソン、DJメンデル、チャック・モンゴメリー、デヴィッド・ヌーマン、二階堂美穂、トーマス・ジェイ・ライアン
    《2001年再演》
    エミリー・コーテス、ステイシー・ドーソン、エリナ・レーヴェンソン、DJメンデル、デヴィッド・ヌーマン、トム・オコナー、ジェームズ・スタンリー

    1998年にオーストリアのザルツブルク音楽祭で初演されたハートリー初の舞台劇。キリスト教系の過激派教団ブランチ・ダビディアンが武装してFBIと対峙、教祖デヴィッド・コレシュを含む81人の死者を出した1993年の立てこもり事件をベースに、最後の審判の日を待ちわびる7人の男女を描く。“キリスト教”や“信仰”はハートリーが初期から描き続けてきたモチーフだが、これほど生々しい現実の事件をダイレクトに扱ったのはこれ一本だけであり、その後の作品にも大きな影響を与えている。ちなみにハートリー本人は自分について「信仰について考察を重ねた上での無神論者」だと述べている。出演者7人が4本のマイクを使い、全編をダンスのように振り付けた演出が特徴的。音楽はハートリーと『アンビリーバブル・トゥルース』のサントラを手掛けたジム・コールマンの共作。2001年にアメリカで再演。舞台の様子はメイキングドキュメンタリー「Regarding Soon」(2004)と公演を抜粋したボーナス映像(15分)で観ることができる。

    La Commedia

    2008年
    音楽:ルイス・アンドリーセン 原作:ダンテ・アリギエーリ

    ダンテの『神曲』に旧約聖書や17世紀のオランダ人詩人ヨースト・ファン・デン・フォンデルの詩の要素を加え、現代音楽家ルイス・アンドリーセンと組んで作り上げたオペラ。2008年6月にオランダアムステルダムのカルエ王立劇場で初演された。登場人物はみな現代の扮装をし、ハートリーが監督した映像にも出演。オペラの生演奏と演技、そしてパフォーマンス中に映し出されるモノクロ映像が交錯するメディアミックス的な演出が成された。アンドリーセンは本作での仕事で2011年のグロマイヤー賞作曲部門を受賞。公演の様子を収めたDVDが付いた二枚組CDが発売されている。

    ドラマシリーズ

    My America

    2012年

    ※長編『My America』の項目も参照

    ボルチモアの劇場センターステージの50周年記念企画。50人の劇作家が書いたダイアログを50組が演じる連作エピソードで、センターステージのロビーやネット上で公開された。現在50篇すべてを観ることはできないが、21エピソードをまとめて再編集した『My America』が発表されている。

    レッド・オークス

    Red Oaks/2015~2017年
    出演:クレイグ・ロバーツ、ジェニファー・グレイ、リチャード・カインド、エニス・エスマー、オリヴァー・クーパー、ポール・ライザー、アレクサンドラ・サーシャ、他

    スティーヴン・ソダーバーグ製作総指揮、『シンプルメン』『愛、アマチュア』でチーフ助監督を務めたグレゴリー・ジェイコブズ(『マジック・マイクXXL』監督)がクリエイターを務めたAmazonオリジナルの青春ドラマ。1980年代のニュージャージーを舞台に、テニスコーチのバイトをしながら漠然と映像業界に憧れる若者デヴィッドとその家族、バイト先の仲間たちの人生模様を描き出す。エイミー・ヘッカリングやデヴィッド・ゴードン・グリーンら映画畑の監督が各話の演出を務めており、旧知のジェイコブズの誘いでハートリーも参加。シーズン1では1エピソードのみの参加だったが、シーズン2では全体の半分を監督するなど全3シーズンを通じて演出回数は最多。

    ※Amazon Prime Videoで独占配信中

    新作企画:「OLHW」

    「レッド・オークス」のAmazonと企画を進めているというドラマシリーズ。タイトルの“OLHW”とは“Our Lady of the Highway”の略で、現存する修道院の名前。過激な活動家でもある尼僧が、ビールの密造で活動資金を得ようとする物語とのこと。ハートリー作品には“権力に抗う社会活動家”が登場することが多いが、デビューから30年近く経ってもまったくブレていない。なんとしても実現して欲しい。

    • ハル・ハートリー入門

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    • ハートリーと映画音楽

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    • ハートリー人名辞典

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    • クラウドファンド顛末記

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    • ハートリー全仕事解説

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    • 3ヶ月連続特別寄稿

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