◆果たせなかった『砂の惑星』のリベンジ

 ボードゲームに基づいたSF侵略バトル映画『バトルシップ』は、公開後に日本でカルト的な人気を博し、今や地上波テレビで放送されるたびにSNSを賑わす“お祭り“コンテンツとして定着した感がある。要因は多々挙げられるが、やはりこの作品の激アツなクライマックスに起因するのではないだろうか。未見の方の楽しみのために詳述は割愛するとして、筆者(尾崎)は本作のプロモーションで来日したピーター・バーグ監督にインタビューし、『バトルシップ』が生まれるまでの経緯や裏話を聞き出している。その一部は雑誌媒体に加工のうえ発表したが、やむなく切り落とした部分が多く、プロダクションノートにも記載されてないネタが含まれている。なので意訳ではあるが、今回それらを再構成し、陽の目を与えるに至った。実際に作品をご覧になるときの参考となればさいわいだ。

・『バトルシップ』撮影中のピーター・バーグ監督  Credit: Frank Masi

 

 俳優から監督へと転身し、『キングダム/見えざる敵』(07)や『ローン・サバイバー』(13)などの硬質なサスペンスアクションを手がけてきたバーグは、本作『バトルシップ』以前のキャリアにおいて、SFやファンタジーに属するようなサブジャンルに着手したことがなかった。唯一、スーパーヒーロー映画の再定義化を試みたコメディ『ハンコック』(08)がかろうじてそれに該当しないこともないが、監督いわく「ウィル・スミス主演のスター映画」と自らカテゴライズし、自らSFジャンルには入れていない(理由は後述する)。しかも本来は『バトルシップ』ではなく、別のSF作品を手がける予定だったのだ。
 
ピーター・バーグ監督(以下:バーグ)「『バトルシップ』の話がくる前、僕はパラマウントで『DUNE/デューン 砂の惑星』(以下:『砂の惑星』)を準備していてね。それにあたって、SFや宇宙についてかなり広範囲なリサーチをしたんだ。かつて一度もSF映画を作ったことがなかったからね。その過程でSFにかなり興味を持ったので、『砂の惑星』が立ち消えになったときには非常に残念な思いをしたんだ。だから『バトルシップ』は、僕にとって『砂の惑星』のリベンジでもあるんだよ」

 1984年にデヴィッド・リンチが監督し、後年ドゥニ・ヴィルヌーヴによって再映画化が果たされた『砂の惑星』は、もともとバーグによってプロダクションが進行していた時期がある。フランク・ハーバート財団から権利を取得したプロデューサーのケヴィン・ミッシャーがパラマウントに企画を持ち込み、ドウェイン・ジョンソン主演の『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』(03)で一緒に仕事をしたバーグに監督を依頼したのだ。しかし製作費の調達や度重なる脚本の改稿によってプロジェクトは棚上げとなり、バーグは『バトルシップ』に移行したのである。

『バトルシップ』はハズブロ社が同ボードゲームの権利をミルトン・ブラッドレー社の買収によって取得し、『トランスフォーマー』や『G.I.ジョー』のように映画として展開させる計画に端を発している。
 しかしオリジナルのボードゲームは、艦隊どうしが戦艦の撃沈をめぐって勝敗を競い合うもので、それがなぜ対エイリアン戦を描くSF映画となったのだろう? 「やはりSFにこだわっていたんだよ」とバーグは語り、方向性を変えた起点を以下のように明かした。

バーグ「2010年にディスカバリー・チャンネルで、宇宙天文学者のスティーヴン・ホーキンス博士がナビゲートを務めるミニシリーズ“Into the Universe with Stephen Hawking”(スティーヴン・ホーキングと宇宙へ)を観たんだ。その番組内で博士は、地球からシグナルを発信していると、地球以上の文明を持つ惑星がそれをキャッチし、資源を求めてやってきて争いになる可能性にあると示唆していた。それがエイリアンの侵略をストーリーベースにしたきっかけなんだ」

 この改変と同時に『砂の惑星』から同作にあったプロットの一部である「資源をめぐる争い」を骨格として組み込み、『バトルシップ』を本格的なSFものにしたのだと語った。

 また『砂の惑星』のプロダクションから移行させた要素は、それだけではない。バーグによると「自分のバージョンは環境描写や戦闘場面など、とても激しいものになる予定だった」と回想し、それらを『バトルシップ』に適応させた旨や、リンチが手がけたものとの違いを示してくれた。実際にバーグ版『砂の惑星』の世界観は非常に硬質なもので、参考としてイギリスのコミックアーティストであるマーク"ジョック"シンプソンよるコンセプトデザインを以下に見ることができる(ジョックは『バトルシップ』でもコンセプトデザインを担当)。

https://www.duneinfo.com/unseen/jock

 加えてバーグは「私の『砂の惑星』はオムツを履かせたりしない(笑)」と言って、リンチ版のハルコンネン男爵を揶揄していたが、奇しくもヴィルヌーヴ版では『バトルシップ』で主人公ストーンの兄を演じたアレクサンダー・スカルスガルドの父ステラン・スカルスガルドがハルコンネン男爵を演じている。


◆二人の映画監督から得た映像スタイル

 また先述した「激しい攻防戦」というワードは、そのまま監督の視覚スタイルの話題へと移行するのに都合がよかった。インタビューはバーグが2004年に発表した『プライド 栄光への絆』へとターンし、同作の試合シーンの緊張感がスポーツ映画史上でもっとも高いものではないかと言及。『バトルシップ』にもその傾向が顕著に見られ、それらの多動的でラフな映像スタイルはどこから得たものかを訊ねている。

バーグ「私には監督として、二人の師匠がいる。それはジョン・カサヴェテスとマイケル・マンだ。どちらもシネマヴェリテを基調としたスタイルを持っているが、カサヴェテスは非常に俳優に自由を与えてくれる監督で、あまりコントロールしない人だ。それが自然な演出とカメラモーションに繋がっているし、逆にマイケルは脚本がぶれないくらいのコントロールフリークで、そこが面白い。彼は友人でもあるし、『キングダム/見えざる敵』のプロデュースも担当してくれた、そしてなにより、彼のビジュアルスタイルには多くを学ばせてもらった。僕は二人の正反対なアプローチをうまく折衷させながら演出をしてるけどね(笑)」

 加えて、役者をコントロールしないという考え方は、バーグの中で映画における俳優の優先順位をおのずと示している。

「僕は過去にウィル・スミスと『ハンコック』を作ったけど、やはりというか観客は、ウィルのスター性に意識を支配されてしまう。違うんだ、映画のスターはストーリーなんだよ。だから『バトルシップ』はリーアム(・ニーソン)を除くと、あまり知名度の高い俳優を主要キャラクターとして劇中に置いていない。だってそのほうが、より完全にストーリーに没頭できると思ったからなんだ」

 こうした俳優の話題から、質問は出演者の一人である浅野忠信に関することへと移行したのだが、「アサノの出ている作品だけでも、まずは観ておかないといけないね」と監督は言い、自分が日本映画に関して理解があまりないことを筆者に詫びていた。
 しかしまさか、その日本で『バトルシップ』がこれほどまでに愛される作品になるとは、よもや思いもしなかったことだろう。■

『バトルシップ』© 2012 Universal City Studios Productions LLLP. ALL RIGHTS RESERVED.