ついに開催まで1か月を切った第89回アカデミー賞。今回ご紹介するのは今から64年前にアカデミー作品賞を獲得した『地上(ここ)より永遠(とわ)に』です!

 時は1941年、夏のホノルルの兵営にやってきたラッパ手のプルー(モンゴメリー・クリフト)。ウォーデン曹長(バート・ランカスター)が取り仕切るこの部隊は一見平和に見えるものの、一筋縄ではいかない曲者揃い。その内情は惨憺たるものだった。正義感の強いプルーは、上官や同僚からの壮絶なしごきやいじめに遭い孤立無援となるが、お調子者のアンジェロ(フランク・シナトラ)だけは彼に優しく接するのだった。内部での嫌がらせがエスカレートする中、やがて第二次世界大戦の激化が、兵士たちをさらに翻弄することになる。

 ジェームズ・ジョーンズのベストセラー小説の映画化である本作は、国を守るはずの軍隊の腐敗しきった内部を、戦争を背景に赤裸々に描いています。1950年代といえば、戦後の混乱した時期とは一変、アメリカが世界を牽引する国家へと成長した時代。ヒーローが活躍する勧善懲悪もの、男女が健全な愛を育むラブストーリーなど、いわゆる「ハリウッドらしい」娯楽作があふれる中、リアリティを追求した社会派の作品も流行していました。

 まず本作の見どころは、当時を代表する豪華スターの夢の共演。モンゴメリー・クリフト、バート・ランカスター、デボラ・カー、ドナ・リード、そしてアメリカを代表する歌手フランク・シナトラ!本作で彼はプルーを支える陽気な同僚アンジェロを好演、見事アカデミー助演男優賞を受賞しています。さらに『北国の帝王』『ポセイドン・アドベンチャー』などで渋い演技を見せた名脇役アーネスト・ボーグナインは、憎たらしさ満点の悪役を熱演しており、これまたハマり役です。こんな豪華すぎる名優たちがリアルな人間ドラマを織りなすのだから、面白くないわけがない!嫉妬や憎悪、そして許されぬ愛。本作が描くのは、人間の心の奥に潜むエゴそのもの。モノクロの映像で淡々とつづられていく中、夜の兵舎でラッパを吹くプルーや、禁断の愛に燃えるデボラ・カーとバート・ランカスターの波打ち際のキスといった要所に登場する有名なシーンはドラマチックなものばかり。現代の私たちが見ても思わず熱くなる、本能のままに感情をむき出しにする人々の姿が垣間見えます。

 戦争という狂気の時代で起きる悲劇の数々。本当の正義とは。人間は何のために生きるのか。そして、タイトルの「地上(ここ)」の真の意味とは。プルーがこれらを自覚したとき、残酷な時代の波がホノルルに襲い掛かります。あの日、あの時、あの場所で、人々は今の私たちと同じように、それぞれの人生を精一杯生きていました。ストーリーはフィクションですが、背景に描かれる1941年のあの出来事は、まぎれもなく歴史上本当にあった事実なのです。壮絶なラスト30分間、皆さまは何を思うでしょうか。

 「生きる」とは何かを教えてくれる、名匠フレッド・ジンネマンの時代を超えた一作。アカデミー作品賞受賞の珠玉の名作を2月のザ・シネマでご堪能ください!

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