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NEWS/ニュース2015.11.10
甘酸っぱく清々しい感動作『マルガリータで乾杯を』。 公開記念して行われたトークショーイベントの様子を(ほぼ)全文レポート!!します!!
ゲストには、裸も辞さない体当たり演技が高い評価を獲得している女優の安藤玉恵さん、自らの経験を活かし、障がい者の性活動を支援するNPO法人ノアールの理事長を務めるくましのよしひこさん、そしてくましのさんの10年来の友人であり、ノアールの活動に共鳴するリリー・フランキーさんという豪華布陣が登場。その模様を、(ほぼ)全文レポートします!! ※ネタバレ有。映画の内容、結末についての記載があります。 司会:岩田和明(「映画秘宝」編集長/以降、司会)登壇者:安藤玉恵(以降、安藤)、くましのよしひこ(以降、くましの)、リリー・フランキー(以降、リリー) 司会:早速ですが、映画の感想からお聞かせください! リリー:本当に良い映画だから、「映画秘宝」なんかが取り上げるべきじゃないですよ。「キネマ旬報」しかダメ。 司会:場違いですいません(笑)。安藤さんはいかがでした? 安藤:すごく元気になりました。笑顔になれますよね。 リリー:あれ、「私は主人公と歯茎が似てる」って言わないとダメじゃない? 安藤:主人公のライラは笑うとすごい歯茎が出るんですけど、それが私とソックリなんですよ。でもそのことは黙っていようと思ってたんですが、さっきからずーっとリリーさんが「言え言え」って(笑)。 リリー:でもさ、本当に良い映画なんだよね。インド映画できっちりタブーを描きつつ、役者の演技も素晴らしいし。しかもさ、まさか同性愛の展開になるなんて思わないよね。 安藤:本当にそう。まさかって思った! リリー:それでいて家族の物語でもあってさ、ちょっと凄いよね。 司会:くましのさんはいかがでしたか。 くましの:実は僕、1年くらい前から本作の存在は知っていて、ずっと追いかけていたんです。それでようやく初めて観た時、自分が障がい者なんで、「どっかで気を抜いて主人公が障がい者じゃなくなる一瞬があるんじゃないか」と、アラを探す感じで観たんですよ。でもね、正直騙されましたね。 リリー:プロの障がい者が騙されたんだ。 くましの:そうなんですよ。主演の女優さんを調べたら、普通に健常者だったんですよ。 リリー:あの子、魅力あるよね。あとさ、主人公のように同じ脳性麻痺で車いすの人でも、くましのくんみたいにハッキリ喋れる人と、ライラみたいに滑舌が良くない人もいるよね。 くましの:脳性麻痺は2、3タイプあって、僕は体が固まっちゃうタイプなんです。ライラは上手く卵を割れないシーンがありましたけど、手が揺れちゃったり、言語障害が出たりするタイプなんでしょうね。 リリー:くましのくんの場合、卵は割れないけどTENGAのエッグは上手にできるでしょ。 くましの:封を開けるのがちょっと難しいんですけどね。 司会:TENGAといえばオナニーということで(笑)、ライラも冒頭でしてましたよね。安藤さんも劇団ポツドールの舞台でオナニーシーンを披露されていましたけど…。 安藤:いいんですよ、それは(笑)。 リリー:それでいえばさ、これまでのドラマや映画で描かれてきた障がい者像って、すごく聖人化されてたんだよね。あの人は性欲がない、あるはずがないみたいなさ、とても驕った見方の作品が作られてきた。くましのくんが「ノアール」って団体で活動しているのは、僕ら障がい者にだって性欲はあるしセックスだってしたいんだってことを訴えるために活動しているわけです。んで僕もそれに共鳴してお手伝いしているんですけど、彼らの基本的な欲求や尊厳を、ボランティアの人でさえ認めてないんですよ。性欲があるってことを知った途端、冷たくなったりするんです。だから障がい者の人たちは“天使”を演じなきゃいけないんです。そういう意味でこの映画は障がい者の性をしっかり描いていて、くましのくんの活動にすごく近いんだよね。…っていう話をしたかったんだけど、なぜか安藤玉恵のオナニー話になるというね。でもね、彼女のオナニーもすごいですよ。 安藤:あくまで舞台で、ですから(笑)。それにしても主演のカルキ・ケクランは体当たりの演技でしたね。男の人ともするし、同性の女の子ともしてますしね。 リリー:そうなんだよ!幼なじみの男の子とチューしたかと思えばバンドマンによろめいて、NYではかっこいい男ともしちゃうしさ。あの時なんてさ、全然ションベンしたくないのにわざとトイレ行って男にパンツ脱がさせてたもんね。 安藤: うそ~。ちゃんとおしっこしてたでしょ! リリー:いや、俺ずーっと耳すませて音聞いてたけど、まったくションベンの音しなかったもん。 安藤:じゃあトイレに行ったのは、誘ってたってこと? リリー:そうですよ。また良いパンツはいてましたもんね。 くましの:間違いなく勝負パンツでしたね、あれは。 安藤:じゃあ彼の家に勝負パンツで行ってたってこと? くましの:たぶん。 安藤:もうちょっとふたりとも純粋に観てくださいよ(笑)。まあでも、あの状況になったらしたくなりますよね。それはわかります。 ■全盲の人でも家族おぶって天ぷらバリバリ揚げてる人もいるし、そういう生活描写も本当のリアルに近いよね。(リリー) リリー:話は変わるけどさ、全盲のレズビアンの子もライラにしてもさ、いつもパキっとした色の洋服を着てるよね。やっぱ目立つ服着ていないと危ないってことなんだよね。くましのくんもいつも赤い服着てるもんね。 くましの:はい。車いすも赤です。 リリー:スティービー・ワンダーも目立つジャケット着てるもんね。あ、そういえばくましのくんは監督と主演の人と会ってるんだよね。 くましの:9月にあいち国際女性映画祭でお会いして。ご拶程度でしたけど、日本でこんな活動してますって伝えました。カルキさん、いい匂いでしたね~。 リリー:カルキさんって、フランス人だけどインド育ちなんでしょ。インドって今、世界で一番映画作ってる国ですよね。 安藤:最近のニュースだとあんまりいい話を聞きませんけど、そんな国がこういう映画を作るんだって、最初は信じられなかったです。 リリー:まあ、インド映画の9割が踊りまくってますもんね。この映画でも途中、いい感じのダンスミュージックがかかって、「あ、やっぱ踊るんだ」って思ったよね。踊りは外せないんだろうね。あとさ、劇中の曲もすごい良かったよね。 くましの:踊る場面が2つあるじゃないですか。家族で踊っているシーンと、全盲の女の子と踊るところと。で、その2回ともライラが膝かっくんってなるんですけど、あれは“脳性麻痺あるある”ですね。力がぐいぐいって抜けちゃうんですよ、ライラみたいなタイプの脳性麻痺って。見る人が見ると、ああいう描写で騙されちゃんうんです。 リリー:健常者は勝手に「障がいのある人は何にもできない」って思いがちだけど、意外とそんなことないんですよね。全盲の人でも家族おぶって天ぷらバリバリ揚げてる人もいるし、そういう生活描写も本当のリアルに近いよね。 くましの:僕個人のことで言えば、時間をかければ大体のことはできます。ただ時間がかかりすぎるってことがあって、自分で全部やろうとしたら1日が35時間くらいないと収まりきらなくなっちゃうんです。だからヘルパーさんを入れるんですね。ライラもNYにお母さんと一緒に行くじゃないですか。あれをもし彼女ひとりで全部やろうとしたら、きっと1日じゃ収まりきらなくなっちゃうと思います。 リリー:お母さんもお父さんも良い感じだよね。そして小太りの弟がまた効いているよね。あの小太りの弟がいるだけで、ものすごい家族感がでるもんね。 ■すごいなって思ったのは、嘘がないのと、足りないことがひとつもないことです。(安藤) 司会:安藤さんは女優としてライラをご覧になっていかがでしたか? 安藤:本当に感動しましたね。すごいなって思ったのは、嘘がないのと、足りないことがひとつもないことです。 司会:障がいのある役を演じられたことはありますか? 安藤:ありますね。山下敦弘監督の『松ヶ根乱射事件』です。 リリー:そういえばさ、くましのくんは編集前の違うバージョンも観てて、公開版とエンディングが違うんだよね。俺はさ、最初本編を観た後に『マルガリータで乾杯を!』って邦題見てさ。この邦題のつけ方、ふんわり感がハンパないですよね。まあでも、原題が『Margarita, With A Straw』だから、『ストローでマルガリータを』にはならないか。それにしても最近はウッディ・アレンの映画も全部『恋するバルセロナ』とかさ、観たいんだけどDVD取るのが恥ずかしいみたいなタイトルのつけ方じゃないですか。この映画のポスターにしたって、全然内容と違うしね。でもラストシーンを考えると、『マルガリータで乾杯を!』はしようがないか。 くましの:原題はトンチが効いてるっていうか、脳性麻痺で手が動かないからビールも何もストローじゃないと飲めないんですよ。しかも、ビールはストローで飲むとめちゃくちゃ酔いが回るんですよね。あとこれも“障がいあるある”なんですけど、アルコールが入ると言語障がいが軽くなるんですよ。普段ガチガチの言語障がいの子も、お酒を飲むとスラスラ喋れるんです。 リリー:飲むとションベン行きたくなるじゃない。でも、車いすで入れるトイレを併設してる飲み屋ってほぼないんだよね。だから、飲むとしたら便所チェックするよ。俺はラブドールのリリカっていうのが家にいて、車いすにリリカを乗せて友だちと会わせたりしてるからさ。リリカが来たことによって、くましのくんの生活がもっと分かるようになった。 安藤:真面目に聞いて良いのか分かんない(笑)。 リリー:あとラストシーンでさ、ライラが新しい髪型にして、「今日はデートなの」って言ってレストランでマルガリータを飲んでるんだけど、そこに誰が来たかは映してないじゃないですか。あれちょっとお客さんに誰が来ると思ったか、挙手で聞きたいです。考えられるのは幼なじみか、レズビアンの元恋人か、このふたりでもない誰かじゃないですか。で、そこに来るのが誰であって欲しいかって、お客さんそれぞれが考える一番のハッピーエンドなのかなって。 (会場のお客さんに手を上げてもらう) 司会:幼なじみだと思った人はおひとりですかね。意外と少ないですね。レズビアンのハヌムは3、4人…これも少ないですね。ではこのふたりでもない、第3の人だって方は…これもあんまりいないか。じゃあ、誰も来ないと思った人っています?あ、これが一番多いですね。実は、僕もそう思ったんですよね。でもたしかに、お客さんに委ねるようなラストになっていましたもんね。 くましの:可能性としていろいろあるよっていう感じでしたね。 リリー:あとさ、ライラは言い難いことを親に告白したり、自分が浮気したことを彼女に言ったりとかさ、一番人間が持ちにくい勇気を持ってたよね。 司会:安藤さんは、お母さんに女優になるって言った時はどうでしたか。 安藤:うちは映画のお母さんのように反対されることはなくて、逆に「裸になれないなら、女優になるのはやめなさい」って言われました。 リリー:そして、ポツドールでオナニーしたっていうね。 安藤:もういいよそれは!でも、映画のお母さんも結局は理解しようとしていたよね。最初はつっぱねてたけど。 リリー:あと、インドからNYに行く展開もいいよね。 安藤:NYに留学できるってことは、ライラは裕福なお家ですよね。 リリー:借金してでも留学させたいって感じじゃない?だって弟と相部屋だったよ。だからオナニーする時も背中向けてたもん。でも、ハヌムの方はお金持ちでしょうね。実家が金持ちの顔してる。それにしても、本当に良い映画だったな。今年観た中でベスト5に入りますよ。 司会:これまでのインド映画は歌と踊りばっかりでしたが、最近はこういったおしゃれな作品も数多く作られています。今、インド映画は本当に一番おもしろくて豊かだと思いますよ。 安藤:日本でもインド映画ってけっこう公開されてるんですか? 司会:やっていますね。東京国際映画祭でも公開しています。 リリー:でも日本で一番ヒットしたのは『ムトゥ 踊るマハラジャ』でしょ。江戸木純さんが2万円くらで買ってきて大ヒットした伝説の映画ですよね。俺もね、名古屋の街で踊りまくるっていうインド映画のポスター書いたことあるよ。インド人がドジャースに入団するっていう話。 司会:『ムトゥ〜』の後はたくさんのインド映画が日本に上陸しましたもんね。最近では『きっと、うまくいく』がヒットしました。 ■女性が主人公でストレートに障がい者の性を描いた作品って、おそらく本作が初めてではないでしょうか。(くましの) リリー:しかしさ、女性が観るような映画で、障がい者の当たり前の性欲求を作品にしてくれるっていうのはいいよね。くましのくんと俺がトークショーしてもさ、こんな香ばしい女子は来てくれないじゃないですか。だからこういう機会にさ、ポスターに騙されたとしてもですよ、障がい者の現実をこんな甘酸っぱい温かい映画にしてもらえるっていうことは、くましのくんの活動にも説得力をもたらしてくれることだと思います。 くましの:これまで男性の障がい者が主人公の映画はありましたけど、女性が主人公でストレートに障がい者の性を描いた作品って、おそらく本作が初めてではないでしょうか。 リリー:障がい者の人の苦労って感覚的に分かっても、知らないことがたくさんあるんですよね。最近だと『最強のふたり』とかもあって、障がいのある人をきちんと描いた作品はいいなって思いますよね。マイノリティの人が主人公になる映画はまだまだ続いていくだろうね。 司会:安藤さんはライラ役のオファーがきたら演じたいと思いますか? 安藤:いいんですか?歳がアレですけど(笑)。 リリー:『マルガリータで乾杯を!3』だったら年齢も間に合いますよ。晩年のライラとしてさ。 安藤:顔も似てるしね。歯茎がね。 リリー:あとさ、ライラがNYの大学で会った男の子とセックスするじゃない。あれ、初体験じゃなかったっぽいよね。 安藤:初体験じゃないでしょ。だって最初にデートしてたよね。あれ、でもその時はしてなかったのかな。 リリー:幼なじみの男性とはしてたのかな? くましの:うーん。どうすかね。 リリー:なんか初体験じゃないっぽい反応だったんだよね。 司会:ちょっと痛がってませんでした? 安藤:でもあの時はすでに女の子とは関係があるわけだから…。 リリー:ペニスバンドでしてたってこと?そうかな〜。別にアラを探しているわけじゃくて、「彼らの映ってない部分の生活はどんなんだろう」って想像させるのは、良い映画ってことですよね。 安藤:でも初めてとは思ってなかった。 司会:僕も初めてじゃないだろうなって思って観てました。 リリー:そうなのかなあ。俺は初めてだと思ってたからなあ。ショックだなあ。じゃああの幼なじみとやってたのかなあ。アイツと最初、濃厚なキスしてたしな。 くましの:その時も誘ったのはライラの方ですもんね。 リリー:でもあのふたりはしてないでしょう。なんかしてないと思う。だってあのふたりがするとしたら実家になるでしょ。 安藤:意外とできるんじゃない? リリー:まあ、誰がやったかやってないかなんて、本当に下衆の詮索ですけどね。 くましの:でもそれって、監督の術中にハマってるってことですね。 リリー:それにしてもこの映画って、ものすごいテンポで進んでいくじゃないですか。それなのに忙しく感じないっていうのは、出演者の濃密な存在感だと思うんですよ。だってさ、「え?レズ?」と思いきや「え?癌!?」ってなってさ、ジェットコースタームービーっていってもいいような展開なのに、本当に緩やかな空気が流れてる。やっぱり監督や出演者の濃度とか精度がすごいんだろうね。 安藤:ライラの表情がひとつひとつ、いちいちものすごいリアルなんですよね。ひとつ事件があると、彼女の心情ががすごい伝わってくるでしょ。だから話は忙しいけど、そう感じないのかなって思いました。 リリー:あとさ、最近エンドロールって延々長くて1曲じゃ終わらないじゃない。でもこの映画のエンドロールはさ、1曲目が終わって次の曲に移る時、ライラの声が入るじゃない。「1、2、3、4」ってさ。だから切り替わりがすごく自然なんだよね。とはいえね、あの「1、2、3、4」がピエール瀧の声じゃダメなんですよ。余韻がなくちゃ。本当に監督が隅々まで心を砕いている映画なんだなって気がしましたよ。 司会:2曲目の歌詞の内容も、映画とリンクしているんですよね。歌詞と映画の内容が全然合っていない、ただのタイアップ曲、みたいな映画も多いですからね。 リリー:あとさ、映画の中ではインドの母国語が一切なくて、英語しか喋らないんですよね、言語問題ってどうなってんだろうね。その時さ、ライラはもしかしてもらいっ子なのかなって思ったんですよ。肌の色も白いし。 司会:すいません…そろそろ終了のお時間になってしまいました…。 リリー:まだ良い話全然してないですよ。このまま帰ったら俺はバカだと思われますよ。せっかくバリアフリーじゃない会場にわざわざ登壇してくれたくましのくんの活動とも繋がりますからね、この映画は。 くましの:女性向けってことでは激オシです。 リリー:この映画を観た後、レズビアンのシーンが嫌だったって人は、何か偏見を持っているかもしれない。そして何より、障がいのある人をテーマに選んで、いろんな性のタブーを描いているってところが素晴らしいと思いますよ。くましのくんも今は人前だから真面目に喋ってますけど、本当はものすごいユーモアの持ち主なんですよ。知り合った時、くましのくんに「夢とかある?」って聞いたら「立ちバックですよね」って。そういうね、身を切ったギャグが言える人っていうのはおもしろい人ですよ。障がい者はギャグや下ネタを言わないって思うなんて、それこそ健常者の驕りだよね。よく乙武洋匡さんも「手も足も出ないや」とかって言うけど、それを素直に笑えない感覚こそ、一番の偏見ですよ。だってせっかくおもしろいこと言ってるのにさ。 くましの:でも最近、エロくなくなってきたって怒られたんですよ。 リリー:どういうこと? くましの:なんかエロオーラがないって。ショックでしたね。修行します。気合入れ直します。 リリー:それどうするの?気合入れるって言っても。 くましの:どうしますかね…。まずはTENGAのエッグあたりからならし運転します。 リリー:でもさ、こうやって基本的な、誰もが持っている欲求を、手が動かなくたって全盲の人だって持っているんだってことを、くましのくんやこの映画がちゃんと言っているっていうことですよ。しかもこの映画は障がい者に性欲があるってことを描いている上に、バイセクシャルだからね。 安藤:でも描かれ方がすごく自然だし、オシャレなんですよね。だから私、『アメリ』みたいだよって周りにすすめようと思って。 リリー:でも『アメリ』でグッとくる人って、もうけっこういい歳いっているでしょ。今だとなんて言えばいいんだろう。『好きっていいなよ。』とかかな。 司会:あ、でもこの映画は『アメリ』に携わっていた方が宣伝をしているんですよね。 リリー:これはでも「映画秘宝」が取り上げないのが一番良いですね。「映画秘宝」は映画界の“おくりびと”ですから。個人的には友だちがやっている活動に近いことだし、精神的な価値観のバリアフリーが同時多発的に起きていることが嬉しいですね。映画の中で出てくる、偏見を持ったコンテストの審査員みたいなヤツって、現実に本当にいるんだよね。すごくドラマ的に見えるけど、現実にいるんだよ。 安藤:私、あの人見て佐村河内さんを思い出しちゃった。ああいう胡散臭い感じ。 リリー:佐村河内さんが話題になった時は、みうらじゅんさんとこにすごい取材依頼がきたって。長髪サングラスだからさ。 安藤:あと私はトイレのシーンが大好きです。グッときました。あ、でも幼なじみとキスするところも良いですね。そう考えると体で感じちゃうシーンが多かったですね。全体的に性を描いているところは圧倒的に良かった。 リリー:障がいの有無に関係なく、女の人の性がかわいく描けてるよね。 安藤:そうなんですよ。本当にああいう反応するよねっていう感じで。 リリー:甘酸っぱいよね。だからやっぱり『アメリ』っぽいね。くましのくんはどんなシーンが良かった? くましの:この前ちょうどNYに行って来たこともあって、ライラがイエローキャブの行き交う横断歩道をサーッと疾走するシーンとかがいいなって思いました。 リリー:意外とくましのくんの電動車いすも早いんですよ。重いから安定感あって。 くましの:NYでもコレで疾走してきたんですけど、誰も振り向いてくれないんですよね。それくらいいろんな人がNYにはいて、障がい者なんてめずらしくもなんともない。だからちょっと寂しかったですね。チラ見すらされないんですよ。LEDとかチカチカさせても振り向いてもくれなかった。 リリー:次行くときは志茂田景樹みたいな、南国の鳥っぽい格好していけばいいんじゃない。逆に目立ってくれないと危ないしね。まあでも、障がい者であるかどうかってこともそうですけど、女性の性欲求が本当にチャーミングに描かれているんで、珍しいと思いますよ。本当に良い映画なんで観て欲しいなって思います。 安藤:ちゃんと性を描いているのに、すっごいすんなり入ってきました。 くましの:しかも途中から障がい者っぽくなくなるんですよ。自然な感じで。 リリー:圧倒的に人間ドラマなんですよね。親の反対があったり勉強との兼ね合いがあったりさ。映画の途中からは障がいがあるってことを忘れて人間ドラマとして観ちゃいますよね。俺もくましのくんと10年くらい知り合いだけど、障がいがあることを忘れてるっていうか。こんなにメールの返信が早い手の曲がった人はいませんよ。あとくましのくんて、屋外で撮影する時もちゃんと警察に撮影許可取るし、本当にちゃんとした友だちなんですよ。だから周りに紹介する時は“ちゃんとした友だち”って言ってますよ。 司会:それではそろそろお時間がきてしまいましたので…。 リリー:最後になんかお客さんとゲームでもしますか。まあ、もう話し足りないことはないんですけどね。終わり方がわかんないの。お客さん、なんか物をもらったら帰ってくれるかな。 くましの:あ、リリーさんにイラストを描いてもらった、僕がやっているNPO法人ノアールのシールがあるんで、それをプレゼントしますよ。 リリー:せっかくくましのんがくれるんですから皆さん、捨てるんだったら劇場からなるべく遠いところで捨ててくださいね。劇場の外で見るのが一番傷つくんで。こんな良い映画観てもあいつら何も心変わってないなって思うから。ちなみに俺が描いた絵は車いすに乗ったクマがちんこ勃ててるやつですから、財布に一番貼りやすいデザインですよ。<終了> 取材、文:小泉なつみ ■ ■ ■ ■ ■ いかがでしたでしょうか?作品の魅力を余すことなくお話し下さった安藤さん、くましのさん、リリーさんの作品への愛が伝わる1時間をご紹介させて頂きました!本作は現在劇場にて絶賛公開中です。一人でも多くの方に観て頂きたい素晴らしい一本です!(編成部) 10月24日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー■公式サイト:http://www.margarita.ayapro.ne.jp/■facebook:https://www.facebook.com/margaritadekanpaiwo/■twitter:https://twitter.com/margaritamovie (C) ALL RIGHTS RESERCED COPYRIGHT 2014 BY VIACOM 18 MEDIA PRIVATE LIMITED AND ISHAAN TALKES
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COLUMN/コラム2015.11.10
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年12月】
ご存知『ダーティハリー』の爆発的人気でアクション・スターの名をモノにしたイーストウッドですが、その『ダーティハリー』シリーズがいよいよ3作目に突入したその翌年に公開されたのが本作『ガントレット』。いわずもがな、アクション・スターとして脂が乗りまくったギンギラギンのイーストウッドが拝められます。 物語はというと・・・とある事件の証人ガス(ソンドラ・ロック)を刑務所から裁判所まで護送する任務に就いたはぐれ刑事ショックリー(イーストウッド)。「命を狙われている」と身の危険を激しく訴えるガスを初めのうちは信じないショックリーだったが、護送中なぜか身内である警察官に銃撃されまくり、命スレスレの窮地に陥ってしまう。次第に犯人を突き止めたショックリーは、常識破りの手段をつかって護送任務を完遂しようと決死の強行作戦に打って出る!というお話。 イーストウッド十八番の痛快アクションと言うにふさわしく、全編通して繰り広げられる激しい銃撃シーンやヘリコプターとのチェイスシーンは必見。特に、前代未聞の銃弾攻撃を浴びせられる最後の銃撃シーンが最大の見所!!と、ここまではいかにもアクション映画な感じで書きましたが、本編をよく見るとショックリー(イーストウッド)はほとんど丸腰でひたすら逃げ回っているだけ。実はあんまり強くなくて、ちょっぴり情けないヒーローだということに気づきます。前述の最後の銃撃シーンも、実は一方的にヤラレているだけで撃ち返してはいないんですねー。 余談ですが、ショックリーとガスは護送という名のロードトリップを共に過ごす中で次第にと心(と体)を通わせるわけですが、、、撮影当時イーストウッドとソンドラ・ロックが実生活においても恋人同士だったことを考えると、本気でラブラブな感じ出ちゃってるよね?いつも無骨なイーストウッドだけど、若干ほっこりしちゃってるよね??とミーハーな気持ちになってしまいます。『ダーティハリー4』などイーストウッド作品に度々ヒロインとして出演しているソンドラですが、悩殺ボディなわけでも超演技派なわけでもなく。きっとスクリーンでは計り知れない人柄の良さがあったのでしょう・・・(と勝手に思っている)。 (話を戻して、)丸腰刑事が一方的に攻撃されまくるという一風変わったアクションに加え、反発しあう男女が次第に恋に落ちていくという王道アメリカン・ラブコメディの要素を盛り込んだ、痛快アクションラブコメ(何だそれ)。このあたりはイーストウッド監督ならでは?の隠れた見所なのであります!『ダーティハリー』に次ぐ人気を誇る、はぐれ刑事の痛快アクション!是非11月のザ・シネマでお楽しみ下さい!! © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2015.11.07
【DVD/BD未発売】淡い詩情を漂わせ、恋愛の残酷な本質にそっと触れた珠玉の小品~『くちづけ』~
なぜか日本では未だソフト化されていない1969年のアメリカ映画『くちづけ』は、アラン・J・パクラ監督のデビュー作である。ハリウッド・メジャーの一角、パラマウントでプロデューサーを務めたのちに監督へと転身したパクラは、ジェーン・フォンダ主演のサスペンス劇『コールガール』(71)で成功を収め、ウォーターゲート事件を題材にしてアカデミー賞4部門を制した『大統領の陰謀』(76)で名匠の仲間入りを果たした。そのほかにも『パララックス・ビュー』(74)、『ソフィーの選択』(82)、『推定無罪』(90)など、陰影あるミステリー映画や人間ドラマで職人的な手腕を発揮した。 そのパクラ監督が『コールガール』の2年前に発表した本作は、何やらエロティックな連想を誘う邦題がついているが、扇情的な官能描写とは無縁のみずみずしい青春ロマンスだ。主人公はアメリカ東部の大学に入学するため、バスに乗ろうとしているジェリー。いかにも内気な優等生といった風情で、昆虫オタクでもある彼の視界に突然、プーキー・アダムスという女の子が飛び込んでくる。 プーキーはジェリーとは別の大学の新入生なのだが、彼女は見かけも性格も普通の女子大生とは違っていた。文学少女風のショートヘアにべっ甲の丸縁メガネをかけ、困惑するジェリーにお構いなく「人間は70年間生きたとしても、いい時間は1分だけなのよ」などと甲高い声で一方的に奇妙なことをしゃべりまくる。バスを降りていったん別れた後も、ジェリーが入居した男子学生寮に押しかけてきて、一緒に遊ぼうと持ちかけてくる。かくして、すっかりプーキーのペースに巻き込まれたジェリーは、成り行き任せで彼女とのデートを重ねていくのだが……というお話だ。 本作が作られた1969年はアメリカン・ニューシネマの真っただ中だが、ここには『いちご白書』(70)のような若者たちの悲痛な叫びはない。翌1970年に大ヒットした『ある愛の詩』のように、身分の違いや難病といったドラマティックな要素が盛り込まれているわけでもない。ジェリーとプーキーが草原、牧場、教会などをぶらぶらとデートし、他愛のない会話を交わすシーンが大半を占めている。 しかし大学街の秋景色をバックに紡がれるこのラブ・ストーリーは得も言われぬ淡い詩情に満ちあふれており、フレッド・カーリン作曲、ザ・サンドパイパーズ演奏による主題歌「土曜の朝には」のセンチメンタルなメロディも耳にこびりついて離れない。このフォークソングはアカデミー歌曲賞候補に名を連ねたが、この年オスカー像をかっさらったのは『明日に向って撃て!』におけるバート・バカラックの「雨にぬれても」だった。 とはいえ、本作の魅力はノスタルジックな詩情だけではない。やがて中盤にさしかかるにつれ、映画のあちこちに不穏な“影”が見え隠れし始める。デートで墓場に立ち寄ったりする主人公たちに強風が吹きつけたり、プーキーがウソかマコトかわからない身の上話を告白したりと、それまで恋に夢中であることの喜びを謳い上げていた映画に、そこはかとなく嫌な予兆がまぎれ込んでくるのだ。エキセントリックな言動を連発していたプーキーが、実はただならぬ“孤独恐怖症”とでもいうべき病的な一面を抱えていることが明らかになってきて、ふたりの関係はメランコリックなトーンに覆われていく。 終盤、忽然と姿を眩ましたプーキーのことが心配になったジェリーが、ようやく彼女の居場所を突き止めてある部屋の“扉”を開けるシーンは、観る者に最悪のバッドエンディングさえ予感させ、ほとんどスリラー映画のように恐ろしい。 プーキーを演じたライザ・ミネリはご存じ代表作『キャバレー』(72)でアカデミー主演女優賞に輝いた大スターだが、それに先立って本作でもオスカー候補になっている。まるでストーカーのように押しかけてくるファニーフェイスのプーキーが、ジェリーとの恋を通してぐんぐんキュートに変貌していく様を生き生きと体現。後半には一転、ヒロインの内なる孤独の狂気をも滲ませたその演技は、今観てもすばらしい。ライザ・ミネリがまだ日本で“リザ・ミネリ”と呼ばれていた頃の映画初主演作である。 言うまでもなくラブ・ストーリーは今も昔も映画における最も“ありふれた”ジャンルだが、本作は何も特別なことを描いていないのに、一度観たら忘れられないラブ・ストーリーに仕上がっている。愛すべきキャラクターと魅惑的な詩情を打ち出し、誰もが経験したことのある恋愛の残酷な本質にそっと触れたこの映画は、今なお切ない刹那的なきらめきを保ち、ザ・シネマでの放映時に新たなファンを獲得するに違いない。■ TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.10.30
憧れのウェディング・ベル
アメリカ西海岸の都市サンフランシスコ。腕利きシェフのトム(ジェイソン・シーゲル)と心理学者を志すバイオレット(エミリー・ブラント)は、大晦日のパーティでの運命的な出会いからちょうど1年後に婚約した。 だがバイオレットに中西部のミシガン大学から採用通知が来たために結婚式の日程は棚上げに。トムは、バイオレットのキャリアを優先して一緒にミシガンに移り住むものの、実績を積み重ねていく彼女とは対照的にシェフとしてのスキルを活かせる職場が見つからず落ち込んでいく。そしてその格差は、愛しあっていたはずのふたりの関係にも影響を及ぼしてしまうのだった…。 大抵のロマンティック・コメディでは、主人公のふたりが困難を乗り越えて互いの愛情を確かめるとすぐに結婚式のシーンに切り替わって大団円を迎えたりする。でも『憧れのウェディング・ベル』はそんな「お約束」を守らない。ふたりは婚約までしながら、そこから結婚式までなかなか辿り着けないのだから。 このユニークなストーリーを書いたのは、ジェイソン・シーゲルとニコラス・ストーラーの主演俳優・監督コンビだ。実生活でも親友同士であるふたりの盟友関係は今から14年前に遡る。始まりは『Undeclared』(01〜03)というテレビ番組だった。イケてない高校生の青春をリアルに描いて一部で絶賛されながら、視聴率不振で打ち切られた『フリークス学園』(99〜00)のクリエイター、ジャド・アパトーが「今度こそは」と立ち上げたこの大学コメディには、『フリークス学園』で発掘された21歳のシーゲルがジェイ・バルチェルやセス・ローゲンらとともにキャスティングされていた。このプロジェクトに脚本家として参加したのがストーラーだったのだ。 やはりこのドラマも視聴率は振るわずに打ち切られてしまったのだが、ストーリー作りの才能を認められたストーラーは、アパトーと共同でジム・キャリーの主演作『ディック&ジェーン 復讐は最高! 』(05年)の脚本を書いてハリウッド・デビューに成功する。この作品での仕事をキャリーに気に入られたストーラーは、引き続きキャリー主演作『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(08年)の脚本を担当。単なるノン・フィクションだった原作をコメディ・ドラマに仕立て直して大ヒットさせるという離れ業をやってのけた。 一方、シーゲルもシットコム『ママと恋に落ちるまで』(05〜14年)のマーシャル役でお茶の間の人気者となっていた。この頃には『40歳の童貞男』(05年)と『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年、シーゲルは主演のセス・ローゲンの友人役で出演した)の連続ヒットでハリウッドを代表する売れっ子プロデューサー兼監督となっていたアパトーの強い勧めもあり、シーゲルは映画進出を決意する。この時に彼がパートナーとしてあらためて声をかけたのがストーラーだったというわけだ。 記念すべきコンビ第一作は『寝取られ男のラブバカンス』(08年)。突然ガールフレンドに捨てられたシーゲル扮する主人公が、傷心旅行先のハワイで巻き起こす騒動を描いたこの作品は大ヒットを記録した。 以降もシーゲルとストーラーは、スウィフトの有名な風刺小説をモダンにリメイクしたSFX大作『ガリバー旅行記』(10年、主演はジャック・ブラックだがシーゲルも出演)、『寝取られ男』に登場するロックスター、アンガスをメインキャラに据えたロード・ムービー『伝説のロックスター再生計画!』(10年、シーゲルは原案のみ)、カーミットやミス・ピギーが登場する、マペット・ショーへの愛に溢れたミュージカル『ザ・マペッツ』(11年)、そしてシーゲルとキャメロン・ディアスが、SEXを撮影したビデオが誤ってネット上で拡散されてしまう夫婦に扮したエッチな『SEXテープ』(14年)といったヒット作を生み出し続けている。特筆すべきは、どれも気軽に楽しめるコメディ映画でありながら、似ている作品はひとつとしてないこと。シーゲルとストーラーは妥協を許さないアーティストなのだ。 そんな中でも『憧れのウェディング・ベル』はビターで大人びたタッチの異色作である。ヒロインに『ガリバー旅行記』でシーゲルと既に共演していたエミリー・ブラントを起用したのは、ストーラーとシーゲルが気心のしれたメンツで映画作りに集中したかったからだろう。 本作でふたりが力を注いで描いているのは「アメリカの正式な結婚式」の面倒くささだ。アメリカというとノリがいい国に思えるかもしれないけどトンデモない! 日本の場合、一般的な婚約期間はせいぜい半年程度だけど、アメリカでは1年半くらいはザラだ。その長い間、新婦とメイド・オブ・オナー(花嫁付添人のリーダー、通常は新婦の一番の親友が就任)は工夫を凝らした結婚式のプランを延々と練り上げる。そして遂に訪れた結婚式の前夜には豪華な晩餐会を開き、二次会は新郎側と新婦側に分かれて「独身さよならパーティ」を夜通し開催する。そして翌朝、ヨレヨレになりながら本番へとなだれ込むのだ。 日本でも劇場公開されたクリステン・ウィグの主演作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年、この作品もプロデュースはジャド・アパトーだ)は、社会性が欠如しているにもかかわらず、親友からメイド・オブ・オナーを頼まれてしまった女子の苦闘を描いたものだった。また日本でもヒットした『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09年)や『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)は、独身さよならパーティではしゃぎすぎて結婚式開催に赤信号を灯してしまう付添人たちを描いたコメディだ。結婚式にトラブルと笑いはつきものなのである。 でも『憧れのウェディング・ベル』の場合、主人公のふたりは晩餐会にすらなかなか辿り着けない。原題(The Five-Year Engagement)通り、婚約期間は五年にも及んでしまう。ひとつのトラブルが何とか収まったと思ったら、別の予期せぬトラブルが起きて結婚自体が仕切り直しになってしまうからだ。その間に結婚式をすっ飛ばして「デキ婚」をしたトムの同僚アレックス(今をときめくクリス・プラット!)とバイオレットの姉のスージー(アリソン・ブリー)のカップルが、どんどんハッピーになっていく姿が並行して描かれることによって、シニカルさはレッドゾーンに突入する。 もちろんロマンティック・コメディなので、主人公のふたりはラストぎりぎりになって最高の結婚式へと超特急で向かっていく。でもそこで語られるのは「結婚する心の準備とは自分の抱える問題を解決することではない。その問題をふたりで分ちあえるほど相手を信頼できているかどうかだ」という、男女の仲について悟りきった者だけが放てるメッセージだ。師匠のジャド・アパトーが45歳のときに撮った苦いファミリー・ドラマ『40歳からの家族ケーカク』(12年、シーゲルはスポーツ・ジムのインストラクター役で出演している)の境地に、シーゲルは弱冠32歳で辿り着いてしまったのかもしれない。 そのシーゲルは、クロエ・セヴィニーやミシェル・トラクテンバーグ、リンジー・ローハン、ミシェル・ウィリアムズといった華麗なガールフレンド歴を経て、現在は写真家のアレクシス・ミクスターと交際中。今度こそゴールイン間近と噂されている。はたして彼がどんな工夫を凝らした結婚式を挙げるのか、それとも式をすっ飛ばすのか、固唾を飲んで見守っていきたい。 Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.10.30
ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン
中西部の地方都市に住むアニーは、起業に失敗して貯金もゼロの30代半ばの独身女子。楽しみと言えば幼馴染みのリリアンとバカ話をすることだけだった。そんなある日、リリアンから結婚することを告白された彼女は、ブライズメイズ(新婦介添人)の代表を頼まれて、喜んで引き受ける。でも不器用な彼女は失敗ばかり。加えて新郎の上司のセレブ妻でなんでも器用にやってのけるヘレンの存在が引き金となって、リリアンに先を越された寂しさと焦りが爆発。ブランチ・パーティをぶち壊して、ついにはリリアンと大喧嘩をしてしまう。はたして二人の友情は元通りになるのだろうか…。 結婚式の介添人が大騒動を引き起こすというプロットが、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』を彷彿とさせたため、“女版ハングオーバー!”との前評判の中、2011年に米国で公開されてメガヒットを記録したのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』である。でも見終わったあとで「『ハングオーバー! 』とそっくり」と感じる観客はまずいないはず。何て言うか、もっと痛くて切ないのだ。 ティーンの頃に思い描いた未来の可能性は年々閉ざされていく。その一方で同世代の友人たちは結婚して大人へのステップを上っていく。本作はあらゆる角度から追いつめられていくアニーの心理を執拗にほじくり返す。そこに男と女という違いは存在しない。三十代ボンクラというひとりの人間がただそこにいるだけである。バカの一つ覚えのように異性を「スイーツ」呼ばわりする男子も、この映画には魂の片割れを見いだして涙するかもしれない。コメディに冷淡なアカデミー賞で脚本賞にノミネートされたのも納得の完成度だ。 映画の発案者であり、主人公アニーを演じたのは「サタデー・ナイト・ライブ」史上最高の女性キャストとの呼び声高いコメディエンヌ、クリステン・ウィグ。彼女が、古くからの友人アニー・マモロと共同で書いた脚本を持ち込んだ先は、それまでも脇役として顔を出していた『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年)や『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08年)といった映画の監督/プロデューサーだったジャド・アパトーだった。こうしたヒット作を通じて、男同士の友情をメインにした”ブロマンス映画”というジャンルを確立したアパトーは、その方程式を女子に応用したウィグの脚本を絶賛。テレビドラマ『フリークス学園』以来の盟友ポール・フェイグを監督に指名して映画を現実のものとしたのである。 コメディ映画としての本作の大きな特徴は、ギャグのボケをすべて女優がこなしているところにあるだろう。しかも生半可なギャグではなく、セックス、ゲロ、ウンコ絡みのギャグがふんだんに飛び出す過激なものだ。そんなコメディ映画はそれまでハリウッドには存在しなかった。「女性が悲惨な目に遭っても男のようには笑えない」という認識が世間では一般的だからである。普通の監督なら出演者の一部を男優に差し替えるところだろう。しかしポール・フェイグはウィグとともに「悲惨な目に遭っても笑える」最強の女性キャスト陣を選んだのである。 まずアニーの親友リリアンを演じたのはマヤ・ルドルフ。名曲「ラヴィング・ユー」で知られるミニー・リパートンの娘で、ポール・トーマス・アンダーソン夫人でもある彼女は、実生活ではロサンゼルスのコメディ劇団「グラウンドリングス」時代以来のクリステンの親友。だから映画内の二人の友情はとても真実味が感じられる。 劇中最も難しいキャラであるイヤミなヘレン役に指名されたのは、オーストラリア出身の正統派美女ローズ・バーンだ。それまで『トロイ』(04年)や『28週後…』(07年)といったシリアス映画に出演しながら、いまひとつパッとしなかった彼女は、アパトーのプロデュース作『伝説のロックスター再生計画!』(09年)でイカれたポップスター役を好演。コメディ・センスを全面開花させた本作以降は、『ネイバーズ』(14年)や『ANNIE/アニー』(14年)といった作品で活躍。コメディ界に欠かせない人材になっている。 同じオーストラリア出身でも、アニーのルームメイトの妹を演じたレベル・ウィルソンはこの時点ではアメリカでの知名度はゼロだった。だが強烈な存在感を本作で示した彼女は、『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)やパワフルな歌声も披露した『ピッチ・パーフェクト』(12年)、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(14年)によってスターへの階段を駆け上っていった。年末に日本公開が予定されている『ピッチ・パーフェクト』(15年)は、すでに本国でメガヒットを記録しており、パート3の製作が早々と決定している。 こうした才人揃いの出演者の中でも最も観客の目を引いたのは、一番ヨゴレなメーガンを演じたメリッサ・マッカーシーだろう。それまでも『ギルモア・ガールズ』(00?07年)や『サマンサ Who?』(07?09年)といったテレビ・コメディの脇役として知られていたものの、まさか洗面室のシンクに跨って、苦痛に顔を歪めて便意と戦う!なんてギャグをやってのける人だとは誰も思わなかったはず。本作における爆発的な演技によってアカデミー助演女優賞にノミネートされた彼女は、特別出演したアパトー監督作『40歳からの家族ケーカク』(12年)や『ハングオーバー!!! 最後の反省会』(13年)でもシーンを一気にさらう怪演を披露。また当初は男の設定で脚本が書かれていたにも関わらず「男同士じゃありきたりだ」とのジェイソン・ベイトマンのアイディアによって、急遽彼の相棒役を務めることになったダブル主演作『泥棒は幸せのはじまり』(13年)は大ヒット。彼女が映画館に客を呼べるスターであることを証明した。 こうしたメリッサのスター化に伴って、監督ポール・フェイグとのコンビがレギュラー化した。サンドラ・ブロックと組んだ刑事コメディ『デンジャラス・バディ』(13年)、ジェイソン・ステイサムやジュード・ロウといった大スターを従えて主演を張ったスパイ・コメディ『SPY』(15年)は連続大ヒットを記録。後者ではローズ・バーンとのリユニオンを果たしている。 こうした作品によって一躍コメディ界のヒットメイカーとなったフェイグのもとに『ゴーストバスターズ』リメイク版の監督がオファーされたのは昨年のことだ。ビル・マーレイやダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスといった80年代を代表する才能が集結していた傑作コメディを現代に蘇らせるには、一体どんなメンツが必要なのだろうか? 考えた末にポール・フェイグが声をかけた相手はクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、そしてレベル・ウィルソンだった。ちなみに他のキャストは「サタデー・ナイト・ライブ」の現レギュラーであるケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズ、セシリー・ストロングといった面々。そう、全員女性なのだ。 このキャスティングはハリウッド中に大きな話題と物議を呼んだ。しかしフェイグは「面白いコメディアンを集めたら、たまたま女性ばかりだっただけだよ」と全く気にしていないようだ。映画は現在撮影中で来年夏に公開予定である。フェイグは決して奇をてらったわけではなく、このキャスティングに圧倒的な自信を持っているはず。それは、この『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』を観れば明らかだろう。 Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.10.30
バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!
ニューヨーク。リッチで美人のレーガンはある日、高校時代の同級生ベッキーから衝撃的な告白を受ける。「あたしプロポーズされたの!」 高校時代は学園の女王として君臨していた自分が、ボーイフレンドから結婚の話が一向に出てこなくてイライラしているというのに、なんでデブでブタ顔の彼女が先に結婚するの? 激しい動揺と傷ついたプライドを隠しながら、ベッキーのブライズメイズ(花嫁介添人)の代表として式の準備を進めるレーガンのもとに、かつての女王グループ仲間であるジェナとケイティが駆けつけた。 過去の栄光とうってかわって今では冴えない毎日を送る彼女たちは、結婚式前夜のバチェロレッテ・パーティー(独身さよならパーティ)で鬱憤が爆発。調子に乗りすぎてベッキーのウェディングドレスをビリビリに破ってしまう。はたしてレーガンたちは朝までにドレスを修理することが出来るのだろうか? 試練と狂乱の一夜が始まった! 『バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!』は女子の、女子による、女子のためのブラック・コメディである。原作である戯曲を書いたのは女性劇作家のレスリー・ヘッドランド。1981年生まれの彼女はティッシュ・スクール(ニューヨーク大学の芸術科)卒業後にワインスタイン・カンパニーの総帥ハーヴェイ・ワインスタインのアシスタントをしながら、キリスト教の「七つの大罪」をモチーフにしたコメディ戯曲を次々とオフ・ブロードウェイで上演。『バチェロレッテ』は「暴食」をモチーフにしたシリーズの一編だったが、コメディ界のスーパースター、ウィル・フェレルと彼の相棒の映画監督アダム・マッケイの目にとまって映画化が決定。ふたりのプロデュースのもと、ヘッドランドはいきなり映画監督兼脚本家としてデビューすることになったのだった。 セックス、ドラッグ何でもありのギャグと、プライドとトラウマが交錯するダイアローグの面白さは、さすがフェレルとマッケイが認めたクオリティ。かつ女子にしか書けない細やかさに満ちている。初演出でありながらカット割りが上手いことにも驚かされる。観客に見せるべきものが何なのかを本能的に掴んでいるのだろう。ヘッドランドは、今夏にやはりフェレルとマッケイのプロデュースで、ジェイソン・セダイキスとアリソン・ブリーが主演した監督第二作『Sleeping with Other People』の公開が決まっており、その活動には今後も要チェックだ。 舞台版では自ら出演もしていたヘッドランドだが、『バチェロレッテ』の映画化に際しては同世代の女優たちに演技を委ねている。そのキャスティングが絶妙だ。 まずメイン・キャラであるレーガンを演じているのはキルスティン・ダンスト。彼女の出演が決まった時点で、本作の成功は約束されたといっていい。というのも、キルスティンは、ティーンムービーに出演していた十代の頃、学園女王役を当たり役にしていたからだ。 ざっと思い出してみるだけでも、ジョー・ダンテのカルト作『スモール・ソルジャーズ』(99)、ウォーターゲート事件の裏側を描いた『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(99)、ソフィア・コッポラの長編デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)、そして大ヒットしたチアリーディング・スポ根モノ『チアーズ!』(00)といった作品で彼女は学園女王を演じている。サム・ライミが監督した『スパイダーマン』三部作(02?07)で彼女が主人公のピーターにとって憧れの存在であるメアリー・ジェーンを演じていたのは、すでに学園女王のパブリック・イメージを得ていたからだ。 こうした作品でキルスティンが扮していた学園女王は、オタクやボンクラにも優しい女神のような性格だったけど、『バチェロレッテ』の彼女は正反対。あんなスウィートだった子がアラサーになったら、ささくれだった性格の女子に変貌してしまっているのだから、キルスティンを昔から知る観客はそのギャップに笑うしかない。そして笑うと同時に、時間の残酷な経過を否応なしに確認させられるのだ。こんな役を敢えて受けて立ったキルスティンの度量の大きさには拍手するしかない。 三人の中では一番普通人に近いジェナを演じているのがリジー・キャプランという配役にもうなずいてしまう。ジェームズ・フランコ、セス・ローゲン、ジェイソン・シーゲルといった未来のスター俳優を輩出した伝説的なテレビ学園ドラマ『フリークス学園』(99?00)でデビューを飾った彼女が初めて注目されたのは、やはり学園コメディの『ミーン・ガールズ』(04)だった。 そこでのリジーは、リンジー・ローハン扮する主人公の友人役で登場。アフリカから転校してきた何も知らないリンジーに学園女王軍団(演じているのは当時全く無名だったレイチェル・マクアダムスとアマンダ・セイフライド!)の打倒を吹き込むクセモノを快演していた。 その後、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)や『トゥルーブラッド』(08)といった作品に出演した彼女は本作をステップに、実在した性科学のパイオニアたちを描いた実録ドラマ『Masters of Sex』(13?)でブレイク。コメディでありながら国際問題を巻き起こした問題作『The Intereview』(14)ではフランコやローゲンとリユニオンを果たしている。 三人組の中で最もイッちゃっているケイティを演じているのは、オーストラリア出身のアイラ・フィッシャーだ。『ウエディング・クラッシャーズ』(05)での奔放な上院議員令嬢や、『お買いもの中毒な私!』(09)でのショッピング依存症の女子といった特殊なキャラほどイキイキする彼女は、実生活ではサーシャ・バロン=コーエン夫人である。なるほどコメディ・センスがハンパないわけだ。本作後も『華麗なるギャツビー』(13)や『グランド・イリュージョン』(13)などでその特異なセンスを見せつけている。 そんな美女トリオを出し抜いて最初に結婚するベッキーを演じているのが、レベル・ウィルソンであることにも注目したい。フィッシャーと同じくオーストラリア出身の彼女は、コメディエンヌとして母国で人気を獲得したあとにハリウッドに進出。その第一作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン 』 (11)でクリステン・ウィグ扮する主人公のルームメイト役を好演して注目され、本作への出演となった。 決して美人とはいえず、体格のハンディ(?)を抱えながらも、ポジティブ思考と積極性を武器に、お高く止まった三人よりも男に不自由していないように見える彼女が演じているからこそ、ベティはこれほど血の通ったキャラクターにはなったのだと思う。レベルはこの作品での肉食キャラを本作以降も貫き通して、『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』 (13)や『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』 (14)で活躍。先日、自慢の喉を聴かせた大ヒット作『ピッチ・パーフェクト』(12)がようやく日本公開されたばかりだ。現在アメリカで大ヒット中の続編『Pitch Perfect 2』 (15)も年末には日本公開が予定されており、今後もスクリーンで暴れまくる彼女の姿を楽しめそうだ。 つい最近までは「男優と比べて女優は悲惨な目に遭っても笑えないからコメディには向いていない」なんてことが語られてきた。でもそれが真っ赤な嘘であることが『バチェロレッテ』を観れば分かるはず。紛うことない美女たちがバカをやりまくり、悲惨な一夜を体験する本作は、そういう意味ではコメディの新しい地平を切り開いた作品なのだ。 ©2012 Strategic Motion Ventures LLC
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COLUMN/コラム2015.10.27
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】うず潮
ジャン=リュック・ゴダールなど巨匠たちが監督した6話形式のちょいエロ・オムニバス。原始・中世・近代・未来の時代ごとに生きる娼婦たちの姿を、コミカルに描いたクスッと笑える1本。ジャンヌ・モローやラクエル・ウェルチなど豪華女優陣のキュートな演技にも引き込まれ、時代時代合わせて登場するオシャレな衣装や小物も見どころです!男女問わず、ぜひ見てほしい作品です。 オープニングを飾る第1話は、原始時代を舞台にブロンドのミシェール・メルシェがラムちゃんばりの衣装で男を誘惑。第2話は、ローマ時代。エルザ・マルティネリがセクシーで豪華なドレスで夫の皇帝シーザーを健気に誘惑。第3話は、フランス中世時代。ジャンヌ・モローが強気な娼婦役に。セクシーなドレスに加え、男女の騙し合いも見どころ。第4話は、産業革命時代。ラクエル・ウェルチがグラマラスな体と恋の駆け引きで玉の輿を狙う娼婦役で男を虜に。第5話は、1960年代。ナディア・グレイが車で流す娼婦役に。60年代のファッションや当時の車のデザインがキュート!第6話は、監督・脚本にジャン=リュック・ゴダール。当時妻だったアンナ・カリーナを起用し、近未来の不思議な愛のカタチを描く。 ザ・シネマでは、世界のアートフィルムやカルト・ムービーを紹介するレギュラー枠【シネマ・ソムリエ】で本作を放送中! © 1967 Gaumont (France, Rizzoli Film (Italie), Riato Film Preben Philipsen GmbH (Allemagne)
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COLUMN/コラム2015.10.27
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】おふとん
サミュエル・L・ジャクソン演じる孤独なブルース・マンのラズとクリスティナ・リッチ演じるSEX依存症の少女レイ。身も心も傷だらけのレイを救うためラズがとった手段は、鎖と監禁だった。 『バッファロー'66』で魅せた、突然冴えない中年男のところにやってきて、がっつりハートをつかむ少女役のリッチが再び!9年越しでも、その小悪魔っぷりは健在です。『モンスター』でもシャーリーズ・セロンを夢中にさせていましたね。 ちなみに『ブラック・スネーク・モーン』とは「黒い蛇のうめき声」という意味。うめき方すら知らない傷を負った人々はどうやって救済されていくのか。救済とはなにか。うなるブルースの音色も心地よい。 COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.10.17
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】にしこ
南部の田舎町。産業もさびれていて街の男性はほとんど鉄道員という汗臭~い街で下宿屋の娘アルバは男たちのマドンナ的存在。しかし、鉄道員たちにちやほやされても、資産家の熟年男性から高価なプレゼントをされてもどこか冷めているアルバ。そんな時、ニューオリンズからオーウェンという都会的な男がやってくる。彼は鉄道会社がやとったリストラ査定人で、町の男たちと違い、アルバに対してそっけない。ちやほやされる事に慣れているアルバは彼の態度に怒り心頭ながらもやはり心惹かれていき… という始まりなのですが、この物語、2人の恋を阻む障害がありまして。メロドラマですから。 ①良い生活をしたいがために、アルバを金持ちと結婚させたがっているアルバ母。②こんな町で終わってたまるか!という上昇志向を持ちならがらも、町を出たことがない為になかなか行動できないアルバのふわふわ感。③どんな状況だってちやほやされたい!というアルバの悲しい女の性。 こう並べると「アルバ、だめな子!」という感じですが、演じるナタリー・ウッドのコケティッシュさが炸裂!!男性だったら「自分のものにしたい!」という征服欲を感じるタイプです。どハマり役です。 対するアルバが恋するオーウェンを演じる、ロバート・レッドフォード。『明日に向って撃て!』の数年前に出演した本作が初の主演級の役との事ですが、超魅力的なナタリー・ウッドが想いを寄せる相手として完璧な王子様っぷり。 美男美女のが悲恋を演じるなんてこんなに観ていて楽しいものはありません。おまけ的になってしまいますが、ナタリー・ウッドの衣装がとってもオシャレで、さびれた町とアルバというキャラクターとのちぐはぐ感を印象づけています。 タイトルは『雨のニューオリンズ』ですが、ほとんどニューオリンズは出てきません。あしからず。 COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.10.14
【DVD/BD未発売】ゴールドの輝きを放つ埋もれた至宝 オシャレな痛快娯楽活劇〜『黄金の眼』〜
時は、今を遡ること約半世紀前、当時まだ東西冷戦時代さなかの1960年代半ば。 『007/ドクター・ノオ』(62)を皮切りに、御存知、映画『007』シリーズが始まり、世界的に大ヒットしたのを受けて、『電撃フリント』2部作(66/67)や『サイレンサー』シリーズ(66-68)など、ダンディなスパイとセクシーな美女たちが敵味方相乱れて対峙し、華麗にして荒唐無稽な冒険とアヴァンチュールを繰り広げる同種の軽妙な娯楽スパイ映画が続々と登場。TVドラマの世界でも、「0011ナポレオン・ソロ」シリーズ(64-68)、「スパイ大作戦」シリーズ(66-73)など、数多くの模倣・類似作が作られて、60年代のポップで華やかなエンターテインメント文化は、世界中で大いに活況を呈することになる。 「スパイ大作戦」は、いまや周知の通り、トム・クルーズ製作・主演の大ヒット映画『ミッション:インポッシブル』シリーズ(96-)として現代に蘇ったわけだが、そのオリジナルTV版の誕生に、『007』シリーズと並んで大きな影響を与えたのが、こちらはスパイではなく、泥棒一味による大胆不敵な強奪計画の行く末を愉快に綴った映画『トプカピ』(64)。そして、これに続いて、イタリア製の『黄金の七人』(65)や、オードリー・ヘップバーン主演の『おしゃれ泥棒』(66)など、上質の娯楽犯罪喜劇映画も次々と生み出された。 さらには、お馴染みの人気アメコミ・ヒーロー「バットマン」も、実写版TVドラマ・シリーズ(66-68)として全米のお茶の間に復活。フランスからは、往年の人気大衆小説をもとに、覆面の怪盗主人公が『ファントマ』映画3部作 (64-67)で蘇り、さらには、イギリスの新聞連載漫画を原作に、異才ジョゼフ・ロージーが、キャンプ趣味満載の奇妙奇天烈な女スパイ映画『唇からナイフ』(66)を発表するのも、まさにこの頃。 そして、奇しくも日本ではあのモンキー・パンチ原作のお馴染みの人気漫画「ルパン三世」の雑誌連載が始まった1967年、イタリアから、同国の人気コミックを映画化した新たな魅惑作が登場する。それが、今回ここに紹介する痛快娯楽活劇『黄金の眼』(67)だ。 ■イタリア映画界が生んだマエストロ、マリオ・バーヴァの世界へようこそ 『黄金の眼』の監督を手がけたのは、本来“イタリアン・ホラーの父”として名高いマリオ・バーヴァ(1914-80)。遅咲きの長編劇映画監督デビュー作『血ぬられた墓標』(60)で世界的ヒットを飛ばして、イタリア映画界に一躍ホラー映画ブームを巻き起こした彼は、以後も耽美的なゴシック・ホラーの傑作を次々と放つ一方、時代に先駆けて“ジャッロ”と呼ばれる猟奇サスペンスものやスラッシャー映画も手がけて、ホラー映画の新たな地平を切り拓いたマエストロ。独特の様式美に満ちた彼の映像世界に魅せられる映画人たちは数多く、『呪いの館』(66)が、オムニバス映画『世にも怪奇な物語』(68)の中でフェデリコ・フェリーニ監督が演出を手がけた一挿話に、また、SFホラーの『バンパイアの惑星』(65)がリドリー・スコット監督の『エイリアン』(79)に多大な影響を与えたほか、マーティン・スコセッシやティム・バートン、ジョン・カーペンター、そして日本の黒沢清といった錚々たる映画作家たちが、バーヴァ映画の熱烈なファンであることを公言している。 その時々の映画界の流行り廃りに応じて、時には史劇やマカロニ・ウェスタンなど、他ジャンルの作品も手がけることもあったバーヴァ監督にとって、本作は結局、娯楽犯罪活劇に挑む最初で最後の機会となったが、冒頭で列挙したような、同時代のさまざまなエンターテインメント作品のエッセンスを巧みにすくい取って混ぜ合わせつつ、そこに彼ならではの創意工夫に富んだ演出と、卓越したヴィジュアル・センス、そして、一見しただけではなかなか気付かない、さりげないトリック撮影を随所に効果的に盛り込み、誰もが理屈抜きに面白く楽しめて、至福のひと時を味わえること請け合いの、極上の会心作に仕立てている。 『黄金の眼』の物語の内容はいたって単純明快で、神出鬼没の覆面の怪盗ディアボリックが、何とか彼をふん捕まえようと躍起になる警部や大臣ら、お偉方たちの涙ぐましい努力を嘲笑うかのように、高価な宝飾品や金塊を獲物と付け狙っては、大胆不敵にして奇想天外な犯罪計画を次々と立案実行していくというもの。首尾よくことが運んだ際に、ジョン・フィリップ・ロー演じるディアボリックが、してやったりとばかり、ムハハハハ~と上げる高笑いが何とも小気味よく、それを耳にする我々の方まで、ついニヤリと頬が緩んでしまう。単純で強烈なエレキサウンドの印象的なギターリフをはじめ、瞑想的なシタールの音色や、甘い吐息にも似た独特の女声コーラスなど、イタリアが生んだもうひとりの偉大なマエストロたるエンニオ・モリコーネが多彩に奏でる本作の映画音楽も、いつもながら素晴らしい。 そしてまた、主人公のディアボリックが、恋人にして仕事の相棒でもあるセクシーなブロンド美女のエヴァと、時あるごとに甘美で心ときめく愛の戯れを交わす様子を、何とも悩ましい衣裳や小道具、斬新で奇抜なセット、そして絶妙な構図とカメラワークの巧みな連携プレーで、どこまでも遊び心いっぱいに妖艶に描いてみせるバーヴァ監督の演出も、心憎いほどオシャレでエレガントだ(エヴァをセクシーでキュートな魅力満点に演じるオーストリア出身の女優、マリサ・メルの美しい容姿も忘れ難く、とりわけ物語の終盤、彼女の立ち姿を下から仰ぎ見るようにして捉えるショットは、最高にグルーヴィー! ちなみに、エヴァとディアボリックの2人がガラス張りの浴室でシャワーを浴びる場面、そして、無数の高額紙幣で埋め尽くされた回転ベッド上で裸になって抱き合う2人、という本作のオツな名場面は、オタク趣味全開のロマン・コッポラの長編劇映画監督デビュー作『CQ』(2001)の中でも再現されているほか、ジョン・フィリップ・ローその人も、同作に特別出演している)。 ■黄金の眼を持つ男、バーヴァの映像マジックの舞台裏 さらには、あのバットマンの秘密基地よろしく、ディアボリックが地中の洞窟に作り上げた秘密の隠れ家のレトロフューチャーなセット・デザインも実に見事で、本作の大きな見どころの一つといえるが、実はこれは、現実のものでもミニチュアのセットでもなく、実写で人物を映した背景にマットペイントで合成を施して作り上げたもの、と聞いて、さらに驚く人もきっと大勢いるに違いない。 実はバーヴァの父親は、初期のイタリア映画産業において撮影監督、そして特殊効果のパイオニアとして活躍した人物。当初は画家志望だったバーヴァ自身も、やがて映画界に進み、父親直伝の指導の下、特殊効果を活かした撮影トリックや、多彩な色を使った照明法などにも幅広く通じた有能な撮影監督として長年映画作りの現場に関わり、独自のヴィジュアル・センスにより一層磨きをかけるという過去の蓄積があった。 そんなバーヴァ監督だけに、ちょっとしたトリックを使った特殊撮影は、すっかりお手の物。先に例に挙げたディアボリックの秘密の隠れ家の全景だけでなく、ゴツゴツと地肌の露出したその背景や、海辺に聳え立つ古城など、ほかにもバーヴァは本作の随所に、巧みなマット合成や多重露出、疑似夜景など、さまざまな撮影トリックを駆使して、映画魔術師ぶりを遺憾なく発揮している(前時代的でいかにも作り物めいて見えるスクリーン・プロセスは、今日の映画ファンの目からするとちょっと御愛嬌だが、そこがかえって、原作の平面的なコミックの世界に近づけているようにも見える)。映画の中盤、獲物と狙う高価なネックレスを盗み出すべく、古城の内部に忍び入ったディアボリックが、監視カメラのモニター画面をポラロイド写真に巧みにすり替えて、警察の目をまんまと欺くという一場面が登場するが、このときのディボリックは、世界屈指のバーヴァ映画マニア、ティム・ルーカスがいち早く指摘した通り、まさにバーヴァ監督その人の似姿にほかならないと言えるだろう。 ちなみに本作は、イタリアの大物映画プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスの製作のもとに作られたもので、バーヴァ監督に与えられた当初の製作予算は300万ドルと、それまで長年、それよりはるかに低予算での映画作りに慣れていた彼にとっては、桁違いの大金。ところがバーヴァは、結局、わずか40万ドルの製作費で映画を見事完成させてしまったという。それにすっかり感激したプロデューサーが、では残りの予算で次はぜひ続編を、と意気込んだのに対し、バーヴァ監督の方は、大作を引き受けると同時に重い責任を背負い込まされるのはもう御免、と断ってしまったのが、今となっては何とも惜しまれるところだ。 ■やっぱ『バーバレラ』より、バーヴァでしょ なお、デ・ラウレンティスは本作に続いて、フランスのエロティックなSFファンタジー・コミックを映画化した『バーバレラ』(68)を製作・発表。同作の監督ロジェ・ヴァディムの当時の愛妻ジェーン・フォンダが、いきなり冒頭で、何とも奇妙な無重力ストリップを披露するのが評判を呼び、キッチュな珍品としてカルト的人気を集めることになる。今回、いちおう参考のために、筆者も数十年ぶりに『バーバレラ』を見直したが、煩悩に苦しむガキの時分ならばいざ知らず、全篇ひたすらおバカな可愛い子チャンぶったカマトト演技を披露するジェーン・フォンダと、ヴァディム監督の平板で凡庸な演出に早々に飽き飽きして、すっかり退屈・閉口したことを、ここに謹んで報告しておきたい。 それにひきかえ、この『黄金の眼』は、何度見返してもやはり面白い。もうかれこれ約半世紀前に作られた映画だが、今日、『007』や『ミッション:インポッシブル』といったお馴染みの人気映画シリーズの近年の諸作品と並べて見ても、一向に遜色がないどころか、かえってこちらの方が小粒でもキラリと光って素晴らしいと思う、筆者のような変わり種の映画ファンも、案外多そうな気がする。冒頭の方では、本作の誕生にそれなりに寄与したであろう先行作品の名前をざっと列挙したが、それとは逆に、その後、本作の影響を何がしか受けて作られたエンターテインメント作品も、きっと数多くあるに違いない。 例えば、『007/サンダーボール作戦』(65)で鮮烈な悪役演技を披露したアドルフォ・チェリが、本作でも似たような犯罪組織のボス役で登場し、ディアボリックと因縁の対決を繰り広げることになるが、上空の飛行機から2人が飛び降りて相争う本作の場面が、『007』シリーズに再びフィードバックされて、あの『007/ムーンレイカー』(79)の冒頭のよりダイナミックなスカイダイビングの場面に繋がったのかもしれない。 あるいは、『ミッション:インポッシブル』シリーズの第4作『ゴースト・プロトコル』(2011)の中で、トム・クルーズがドバイの超高層ビルの壁面をよじのぼる例の場面。最初はてっきり、これは「スパイダーマン」が発想源だろうと思ったのだが、もしかすると、本作でディアボリックが古城の壁面をよじ登る場面が影響を与えている可能性もなくはない。ちなみに、アメリカの人気ヒップホップ・グループ、ビースティ・ボーイズが1998年に発表した「Body Movin’」という曲のミュージック・ビデオは、この場面を中心にした『黄金の眼』のパロディとなっている。 はたしてお互いに直接的な影響関係があったかどうか、本家本元は一体どちらか、といったマニアックな話は、いったん始めるとなかなかキリがないし、これ以上下手に立ち入ると、とんだ藪蛇にもなりかねないので、とりあえずここらで筆者も話を切り上げ、話の続きは皆さんにお任せすることにしよう。それでは、かつて日本でも劇場公開はされたものの、その後我が国ではなぜか長い間、DVDやブルーレイ化されることはおろか、ビデオソフト化されることもなく今日まできてしまった、この埋もれた逸品をどうか存分にお楽しみあれ!■ COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. 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