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COLUMN/コラム2022.03.08
“実話”の強みを最大限に生かしたヒーロー物語『エリン・ブロコビッチ』
アメリカ映画の保存・振興を目的とした、「AFI=アメリカン・フィルム・インスティチュート」という機関がある。この「AFI」が1998年から2008年に掛け、「アメリカ映画100年シリーズ」として、「アメリカ映画ベスト100」「映画スターベスト100」など、様々な「ベスト100」を発表した。 その中で、2003年に発表されたのが、「ヒーローと悪役ベスト100」。映画史上に輝く、ヒーローと悪役それぞれ50人(人間とは限らないが…)が選出された。 ヒーローの第1位は、『アラバマ物語』(1962)でグレゴリー・ペックが演じた、人種差別と闘う弁護士、アティカス・フィンチ。続いては、インディ・ジョーンズやジェームズ・ボンド、『カサブランカ』(42)でハンフリー・ボガートが演じたリックなど、錚々たる顔触れが並んでいく。 ヒーローと銘打ちながらも、闘うヒロインたちも、ランクインしている。第6位『羊たちの沈黙』のクラリス・スターリングを筆頭に、『エイリアン』シリーズ(79~ )のリプリー、『ノーマ・レイ』(79)『テルマ&ルイーズ』(91)のヒロインたち、そして第31位に、本作『エリン・ブロコビッチ』(2000)でジュリア・ロバーツが演じた、タイトルロールが挙がる。 エリン・ブロコビッチ、それはクラリスやリプリーと違って、実在の人物。本作は、実話の映画化なのである。 彼女の物語の映画化は、カーラという女性が、カイロプラクティックを受ける時に、施術者から信じがたい話を耳にしたことに始まる。その施術者の友人に、日々の生活費にも困っているような、バツ2で3人の子持ちの女性がいた。そんな彼女が、法律知識はゼロだったにも拘わらず、大企業を相手取った公害訴訟で、数多くの被害者たちのために、莫大な和解金を勝ち取ったというのだ。 カーラはその話を、自分の夫に伝えた。その夫とは、本作を製作することになる、ジャージー・フィルムズの経営者の1人、マイケル・シャンバーグだった。 *** ロサンゼルス郊外の小さな町ヒンクリーに住む、エリン・ブロコビッチは、今まさに窮地に立たされていた。離婚歴2回で、乳呑み児を含む3人の子どもを抱えたシングルマザーの彼女は、貯金が底を突きそうなのに、高卒で何の資格もないため、就職活動もままならない状態。 そんな最中、職探しのドライブ中に、信号無視の車に追突されて、鞭打ちになってしまう。老弁護士のエド・アスリーは、相手が一方的に悪いので、賠償金が取れると請け負うが、法廷でのエリンの暴言などから陪審員の心証が悪かったせいか、びた一文得ることができなかった。 お先真っ暗のエリンは、エドの法律事務所に押し掛け、無理矢理雇用してもらうことに。豊満なバストをはじめ、常にボディラインを強調するような服装の彼女に、同僚たちは良い顔をしなかったが、本人は注意されても言い返し、直そうとはしない。 ファイルの整理という、誰でもできるような仕事を命じられたエリンは、その中の不動産案件の書類に、引っ掛かるものを感じる。地元の大企業PG&E社が、自社工場の近隣住民の土地を買おうとしているのだが、不審に思える点があったのだ。 エリンが独自に調査を始めると、その土地が工場からの排出物に混ざった六価クロムによって、汚染されている疑いが強いことがわかる。そして近隣の住民には、癌など健康被害が続出していることが、明らかになる。 事務所に現れないエリンが、サボっていると誤解して、エドは彼女を解雇する。しかしエリンが探り当てた事実を知ると、最初は及び腰ではあったが、やがて彼女と共に、大企業相手の訴訟に乗り出す。 新たな恋人となった、隣人のジョージの愛にも支えられながら、エリンの熱い戦いが繰り広げられていく…。 *** “六価クロム”は、電気メッキ、酸化剤、金属の洗浄、黄色顔料など、広く使用されている化合物。非常に強い毒性があり、肌に付着すると皮膚炎や腫瘍を起こし、また長期間体内に取り入れると、肝臓障害・貧血・肺がん・大腸がん・胃がんなどの原因になる可能性がある。 日本でも60歳前後ならば、記憶に残っている方が多いだろう。1970年代前半から後半に掛けて、東京・江東区の化学メーカー工場が、“六価クロム”を排出。近隣の土壌が汚染されて、大きな社会問題となった。 PG&E社は、そんな有害物を大量に排出しながら、適切な処理を怠り、長年近隣住民を騙し、隠蔽し続けていたのである。エリンとエドは、634人の住民を原告に立ててPG&E社と戦い、1996年に3億3,300万㌦=約350億円という、全米史上最高額(当時)の和解金を勝ち取った。 一連の顛末を映画化した本作のことを、エリン本人は「実話度98%」と評価する。事実でない残りの2%は、例えば原告となる住民たちが実名ではないことや、エリンが実際には高卒ではなく、カンザス州立大学を卒業しているということなど。いずれにしろそれらの改変は、“実話”である強みを、損なうほどのことではない。 映画化に当たって、スティーヴン・ソダーバーグ監督へのオファーを決めたのは、マイケル・シャンバーグ、ダニー・デヴィートと共に、ジャージー・フィルムズを経営する、ステイシー・シャー。『アウト・オブ・サイト』(98)で組んだ経験から、「…あまりにもドラマティックでおもしろい…」このストーリーを、「地に足のついた現実的な映画にしてくれる」監督は、ソダーバーグしかないと、白羽の矢を立てたのである。 1963年生まれのソダーバーグは、20代中盤に撮った長編第1作『セックスと嘘とビデオテープ』(89)が、カンヌ国際映画祭で最高賞=パルム・ドールを獲るという、華々しいデビューを飾った。しかしその後はスランプに陥り、興行的にも作品の評価的にも、暫しの低迷が続いた。 そんな彼にとって、『アウト・オブ・サイト』は、久々の成功作。そのプロデューサーから依頼された本作の脚本を読んだ時、エリンのストーリーに思わず惹き込まれて、プロジェクトに参加することを決めたという。 それまでこの訴訟についてはまったく知らなかったソダーバーグは、事実のリサーチを進めていく中で、「…不必要に刺激的にしたり、ドラマティックな効果を狙うためだけのシーンがないようにすることが大切だ…」と見極めた。彼を起用した、プロデューサーの狙い通りとなったわけである。 本作の内容を精査すると、大企業側からの妨害や、エリンの強烈なキャラによって起こる軋轢などは、実にサラリと描かれている。こうした題材を映画化するに当たっては、通常は強調されるであろう、そうしたエピソードには主眼を置かず、一直線な“ヒーロー譚”に仕立て上げている。それが本作を成功に導いたと言える。 もちろんそれらは、バッチリとハマったキャスティングによるところも大きい。エリンを演じたジュリア・ロバーツは、本作の10年前に出演した『プリティ・ウーマン』(90)以来、TOPスターの1人として、活躍。30代前半となって、そろそろ大きな“勲章”を手にしたい頃であった。 そんな時に出会った本作に臨むのに、エリン・ブロコビッチ本人に会ったり、取材したりなどは、一切行わなかったという。本人を真似た役作りではなく、自分自身が『エリン・ブロコビッチ』という作品の中で、そのキャラクターを創り上げるというチョイスを行ったわけである。 エリンは実在の人物とはいえ、誰もが顔を知っているような存在というわけではなかったので、このアプローチは成立。結果的に、大成功を収めた。 因みにジュリアがエリン本人と初めて会ったのは、本作の撮影で、ジュリア演じるエリンが、子ども3人を連れて、ダイナーで食事をするシーンだった。このシーンで、エリンがカメオ出演。ウェイトレスを演じている。 自分が演じている本人とセリフのやり取りをするのは、「…とても奇妙な感じで…」戸惑いを覚えていたというジュリア。ふとエリンの胸元のネームプレートを見たら、“ジュリア”と書いてあって、「…もう少しで気が違うかと…」思ったという。 何はともかく、ジュリアは本作が代表作の1本となった。そして念願の、“アカデミー賞主演女優賞”の獲得に至った。 老弁護士エド役のアルバート・フィニーの好演も、ジュリアが栄冠を得るための、大いなるアシストになった。それほどこの作品での、エドとエリンの老若押し引きのコンビネーションは、見事である。 ソダーバーグは、この役を誰が演じるか話し合った時に、真っ先にフィニーの名を挙げた。1960年代からの彼の長いキャリアをリスペクトしていたというソダーバーグの狙いは、ここでも見事に当たったと言える。惜しむらくはフィニーが、アカデミー賞のノミネートから漏れたことである。 さてソダーバーグはこの年2000年は、本作に続いて、麻薬戦争を扱った『トラフィック』が公開されて、こちらも大成功を収めた。アカデミー賞では、『エリン・ブロコビッチ』と『トラフィック』両作で、“アカデミー賞監督賞”にノミネートされるという、62年振り2人目の快挙を成し遂げた。即ち5人の監督賞候補者の内、2人分を彼が占めたということである。 こうなると票が割れて、賞自体を逃すこともありえたが、『トラフィック』の方で、見事に受賞を遂げた。実質的には同年にこの2作があったからこそ、高い評価を得たと言えるだろう。 その後は度々「引退」を匂わせながらも、現代の巨匠の1人として、活躍を続けているのは、多くの方が知る通り。本作がそのステップに向かう、大きな役割を果たしたことは、疑うべくもない。 さて「実話度98%」の本作であったが、エリン・ブロコビッチ本人のその後の人生も、なかなか凄まじい。 本作内ではアーロン・エッカートが演じ、エリンを優しく支える存在として描かれた恋人のジョージは、実際はベビーシッターとしてエリンから報酬を貰っていた上、その後更なる金銭を求めて、彼女を相手に訴訟を起こしている。また本作で描かれる物語以前に別れた夫とも、訴訟沙汰となった。 本作では、育児もそっちのけで大企業との戦いに奔走する母エリンに、子ども達も理解を示す描写が為されている。実際は十代になった子ども達は、ドラッグ漬けになり、その治療で大変な目に遭ったという。 その後も環境活動家として、公害企業との戦いに身を投じているエリンだが、2012年には3度目の離婚となった。 本作で描かれた物語以降も、「事実は小説よりも奇なり」を地で行くエリン・ブロコビッチの人生。また新たに映画化される日が来ても、不思議ではない。■ 『エリン・ブロコビッチ』© 2000 Universal City Studios, Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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NEWS/ニュース2025.06.26
【誰でも応募OK】【8/1(金)都内 舞台挨拶付き上映会】『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』150名様をご招待!
【誰でも応募OK】【8/1(金)都内 舞台挨拶付き上映会】supported by スカパー!『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』150名様をご招待! ◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇ 『ジュラシック・ワールド』シリーズ3部作が【ザ・シネマ新録版】でついにコンプリート!7月21日(月祝)独占テレビ初放送・8月独占コンプリート放送を記念して、『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』を大スクリーンでお披露目! さらに、声優の山寺宏一さん、園崎未恵さん、小野賢章さん、石見舞菜香さん(予定)が登壇し、舞台挨拶及び抽選会・フォトセッションを開催! ◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇ ■開催概要 【出演】山寺宏一、園崎未恵、小野賢章、石見舞菜香(予定) 【上映作品】『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』※シリーズ2作目(2018年公開)の上映です。8月8日公開の劇場最新作ではございませんのでご了承ください。 【公演日時】2025年8月1日(金)開場18:00/開演18:30/開映19:10※上映129分 【劇場】東京都区内・某所※当選した方にのみお知らせいたします。※全席指定 ■抽選受付期間2025年6月26日(木)12:00〜7月13日(日) 23:59※ご応募にはLivePocketの会員登録(無料)が必要です 抽選後、当選者には【参加確認フォーム】をメールでお送りいたします。「参加する」とご回答いただいた方にのみチケットを発券いたしますので、予めご了承ください。 ご応募はこちら> ※LivePocketイベント受付ページへ偏移します ⇩その他の募集枠はこちら⇩ ●Xフォロー&リポストキャンペーン【SNS枠】計10名様(7/6〆)投稿URL:https://x.com/thecinema_ch/status/1938160306045223394応募規約URL:https://www.thecinema.jp/present/1379 ●スカパー!ご加入者様限定ご招待【ワクワクプレゼント枠】計15名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1381【前方席確約!スカパー!新規ご加入者様限定枠】計20名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1382 ●ひかりTVご加入者様限定ご招待【ひかりTV枠】計5名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1380 チケット不正転売禁止法によって、チケットの高額転売等は禁止されています。 ■上演中の注意事項について・イベントの様子をスタッフが撮影し、その際に会場内のお客様が映り込む可能性がございます。また、撮影した映像や写真は、配信、ホームページ、SNS等に使用させていただく可能性がございます。ご了承の上、ご購入下さい。・公演中の録画・撮影・録音は禁止いたします。携帯電話、アラームなどの音の出る電子機器はマナーモードに設定、もしくは電源をお切り下さい。・声を出しての声援はご遠慮ください。・舞台挨拶での応援グッズの使用は可能ですが、鳴り物・光物は禁止いたします。また、応援グッズはご自分の胸の高さより上に掲げることはお控えください。 他のお客様のご迷惑とならない範囲での使用をお願いいたします。・会場内は全席禁煙です。ご喫煙は固くお断りしております。・客席内への、大きなお荷物のお持ち込みはご遠慮ください。・緊急時をのぞいて、開演中の入退場はご遠慮いただきますよう御願い致します。・地震または災害が発生した場合には、主催者の判断により入場者の安全確認を優先し、場合によっては催事を一時中断させていただきます。スタッフの指示に従って、行動をお願い申し上げます。・イベントで発生した事故・盗難等は会場・主催者・出演者は一切責任を負いません。各自で貴重品の管理をお願いいたします。 ■イベント会場への入退場 ※会場は当選した方にのみお知らせいたします。・受付開始・客席開場ともに18時よりご案内いたします。 他の施設および近隣住人の方へのご迷惑ともなりますので、17時45分以降にご来場お願いいたします。17時45分以前にご来場いただいてもお並びいただけません。 敷地外での滞留当の行為は他の施設へのご迷惑になりますので禁止とさせていただきます。 そのような行為を発見した際は、入場をお断りさせていただく場合がございます。・開演5分前にはご着席いただきますよう、ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。開演時間に遅れてしまった場合は一切ご覧いただくことができません。遅れないようお気を付けください。・車いすでご来場のお客様は、当選確定後にご連絡をお願い致します。ご観劇当日、係員がご案内いたします。 【ご連絡先:cinema_info@axn-corp.co.jp】・劇場には駐車場はございませんので、近隣の駐車場または公共交通機関をご利用ください。 ■入り待ち、出待ち行為について・劇場、最寄駅付近における入り待ち、出待ち及び、その他滞留当の行為は他の施設および近隣住人の方へのご迷惑ともなりますので禁止とさせていただきます。そのような行為を発見した際は、スタッフからお声掛けをさせていただく場合がございます。 ■その他注意事項・お手荷物はお預かりできません。劇場外のコインロッカーをご利用ください。・未就学児のご入場はできません。ご了承ください。・出演者都合や天候の影響により、内容等の変更・イベント中止となる場合がございますので予めご了承ください。 中止となった場合、代替公演はございません。 ご応募はこちら> ※LivePocketイベント受付ページへ偏移します ■ザ・シネマ放送情報 『ジュラシック・ワールド』シリーズ3部作【ザ・シネマ新録版】 特設ページ:https://www.thecinema.jp/special/shin-roku/ 《放送作品情報》『(吹)ジュラシック・ワールド【ザ・シネマ新録版】』7/21(月祝)~夕方4時15分独占放送、8/6(水)18:45~独占放送『(吹)ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』7/21(月祝)~夜6時30分独占TV初放送、8/7(木)18:30~独占放送『(吹)ジュラシック・ワールド/新たなる支配者【ザ・シネマ新録版】』 7/21(月祝)~夜9時独占TV初放送、8/8(金)18:00~独占放送 【「ジュラシック・ワールド/復活の大地」公開記念】ジュラシック祭2025夏 特設ページ:https://www.thecinema.jp/special/jurassic/ 放送日:[字][吹] 7/20(日)~7/21(祝・月)【リピート放送】7/22(火)~7/27(日) 2025年は“ジュラシック祭”!スカーレット・ヨハンソンを主演に迎えたシリーズ最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が8/8(金)に公開! (配給:東宝東和)これを記念してザ・シネマでは『ジュラシック』シリーズ全6作を字幕版・吹き替え版で一挙放送いたします!そして「ジュラシック・ワールド」3部作は、吹き替え版を“ザ・シネマ新録版”でお届け!独占TV初放送でお届けする豪華声優陣による“新録版コンプリート”を、この機会にぜひお楽しみください! ⇩その他のキャンペーンはこちら⇩ 『ジュラシック・ワールド』3部作【ザ・シネマ新録版】7月・8月独占コンプリート放送記念プレゼントキャンペーン ●誰でもご応募OK 後日開始予定応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1386 ●ひかりTVご加入者様限定 後日開始予定応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1387 ●スカパー!ご加入者様限定応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1385 『ジュラシック・ワールド』3部作【ザ・シネマ新録版】キーワードを集めよう!放送限定プレゼントキャンペーン応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1389 クイズ!T-レックス伝言ゲーム!Xフォロー&リポストキャンペーン投稿URL:7/11開始予定応募規約URL:https://www.thecinema.jp/present/1388
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NEWS/ニュース2025.06.26
※応募規約※【8/1(金)都内 舞台挨拶付き上映会】『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』Xフォロー&リポストキャンペーン
【8/1(金)都内 舞台挨拶付き上映会】supported by スカパー!『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』 Xフォロー&リポストキャンペーン ◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇ 『ジュラシック・ワールド』シリーズ3部作が【ザ・シネマ新録版】でついにコンプリート!7月21日(月祝)独占テレビ初放送・8月独占コンプリート放送を記念して、『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』を大スクリーンでお披露目! さらに、声優の山寺宏一さん、園崎未恵さん、小野賢章さん、石見舞菜香さん(予定)が登壇し、舞台挨拶及び抽選会・フォトセッションを開催! ◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇ ▼▼応募規約▼▼ ■キャンペーン名【8/1(金)都内 舞台挨拶付き上映会】『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』Xフォロー&リポストキャンペーン ■開催概要 【出演】山寺宏一、園崎未恵、小野賢章、石見舞菜香(予定) 【上映作品】『ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』※シリーズ2作目(2018年公開)の上映です。8月8日公開の劇場最新作ではございませんのでご了承ください。 【公演日時】2025年8月1日(金)開場18:00/開演18:30/開映19:10上映129分 【劇場】東京都区内・某所※当選した方にのみお知らせいたします。※全席指定 ■キャンペーン説明【ザ・シネマ公式X(旧twitter)アカウント(@thecinema_ch)】をフォローし、投稿された【該当ポスト】をキャンペーン期間内にリポストしていただいた方の中から、抽選で10名様をご招待!■キャンペーン期間2025年6月26日(木)18:00〜7月6日(日) 23:59 ●応募条件STEP1:ザ・シネマ公式Xアカウント(@thecinema_ch)をフォロー! STEP2:Xの投稿をリポストザ・シネマ公式X@thecinema_chの該当ポストをリポストしよう!URL:https://x.com/thecinema_ch/status/1938160306045223394STEP3:当選者様へザ・シネマ公式X @thecinema_chよりDMでご連絡キャンペーン終了後に抽選を行い、抽選で当たった10名様にザ・シネマ公式アカウントよりDMでご連絡!【参加フォーム】に「参加する」とご回答いただいた方に招待状をお送りします! ■参加資格・条件・X(旧Twitter)アカウントをお持ちであること。・X(旧Twitter)アカウント「@thecinema_ch」をフォローしていること。※「キャンペーン対象ポスト」をリポストする前に対象のXアカウントをフォローしてください。リポスト後のフォローの場合、当選時のダイレクトメッセージが届かないため、当選権利が無効となります。※13歳以下は保護者の方がご参加ください。※ご参加はX(旧Twitter)からのみとなります。郵送によるご参加は受け付けておりません。※X(旧Twitter)アカウントをお持ちでない方は、X(旧Twitter)サイト(https://twitter.com)にてアカウントを取得してください。※ご参加は、日本国内にお住まいの方に限らせていただきます。※AXN株式会社の社員並びに関係者は応募できません。 ■抽選・当選発表について・ご参加いただいた方の中から、厳正なる抽選の上、当選者を決定いたします。当選者へは、後日X(旧Twitter)のダイレクトメッセージにてご連絡いたします。・ダイレクトメッセージ受信から2日以内にご返答いただけない場合は、当選を辞退されたものとさせていただきます。・当選された方への発送は2025/7/7以降を予定しております。以下の場合、ご参加は無効となりますのでご注意ください。・キャンペーン期間中および当選通知までに対象のX(旧Twitter)アカウントのフォローをはずしている場合・参加リポストを削除されていた場合・アカウントを非公開にされている場合・アカウントを変更されている場合・X(旧Twitter)を退会されていた場合・リポスト内に指定のハッシュタグがない場合※抽選は、ザ・シネマキャンペーン事務局が行います。※当選や抽選の基準についてはお答えできませんのでご了承ください。※同時期に開催されている他のキャンペーンとは重複して当選できない場合があります。※期間中、何回投稿いただても当選はお1人様1回限りになります。 ■上演中の注意事項について・イベントの様子をスタッフが撮影し、その際に会場内のお客様が映り込む可能性がございます。また、撮影した映像や写真は、配信、ホームページ、SNS等に使用させていただく可能性がございます。ご了承の上、ご購入下さい。・公演中の録画・撮影・録音は禁止いたします。携帯電話、アラームなどの音の出る電子機器はマナーモードに設定、もしくは電源をお切り下さい。・声を出しての声援はご遠慮ください。・舞台挨拶での応援グッズの使用は可能ですが、鳴り物・光物は禁止いたします。また、応援グッズはご自分の胸の高さより上に掲げることはお控えください。 他のお客様のご迷惑とならない範囲での使用をお願いいたします。・会場内は全席禁煙です。ご喫煙は固くお断りしております。・客席内への、大きなお荷物のお持ち込みはご遠慮ください。・緊急時をのぞいて、開演中の入退場はご遠慮いただきますよう御願い致します。・地震または災害が発生した場合には、主催者の判断により入場者の安全確認を優先し、場合によっては催事を一時中断させていただきます。スタッフの指示に従って、行動をお願い申し上げます。・イベントで発生した事故・盗難等は会場・主催者・出演者は一切責任を負いません。各自で貴重品の管理をお願いいたします。 ■イベント会場への入退場 ※会場は当選した方にのみお知らせいたします。・受付開始・客席開場ともに18時よりご案内いたします。 他の施設および近隣住人の方へのご迷惑ともなりますので、17時45分以降にご来場お願いいたします。17時45分以前にご来場いただいてもお並びいただけません。 敷地外での滞留当の行為は他の施設へのご迷惑になりますので禁止とさせていただきます。 そのような行為を発見した際は、入場をお断りさせていただく場合がございます。・開演5分前にはご着席いただきますよう、ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。開演時間に遅れてしまった場合は一切ご覧いただくことができません。遅れないようお気を付けください。・車いすでご来場のお客様は、当選確定後にご連絡をお願い致します。ご観劇当日、係員がご案内いたします。 【ご連絡先:cinema_info@axn-corp.co.jp】・劇場には駐車場はございませんので、近隣の駐車場または公共交通機関をご利用ください。 ■入り待ち、出待ち行為について・劇場、最寄駅付近における入り待ち、出待ち及び、その他滞留当の行為は他の施設および近隣住人の方へのご迷惑ともなりますので禁止とさせていただきます。そのような行為を発見した際は、スタッフからお声掛けをさせていただく場合がございます。 ■その他イベント注意事項・お手荷物はお預かりできません。劇場外のコインロッカーをご利用ください。・未就学児のご入場はできません。ご了承ください。・出演者都合や天候の影響により、内容等の変更・イベント中止となる場合がございますので予めご了承ください。 中止となった場合、代替公演はございません。 ■その他の注意事項本キャンペーンに参加される方は、必ず以下をお読みいただき、ご同意の上でご参加ください。ご参加いただいた方は、本規約に同意いただいたものとさせていただきます。・本キャペーンの当選に関して、本キャンペーン運営事務局からご連絡をさせていただく場合がございます。・適切な運用を行うために運営事務局が必要と判断した場合に限り、本キャンペーンの参加条件変更などの対応をとることができるものとさせていただきます。・通信機器、通信回線、X(旧Twitter)のシステム障害、瑕疵等により本キャンペーンの提供が中断もしくは遅延し、または誤送信もしくは欠陥が生じた場合の参加者が被った損害について、AXN株式会社はその責任を負わないものとします。・サイトの利用、利用停止もしくは利用が不能になったことによる損害(X等、各種Webサービスのサーバダウン等による損害も含みます。)について、AXN株式会社はその責任を負わないものとします。・X(旧Twitter)のルールとポリシーに反する不正なアカウント(架空のアカウント取得、他者へのなりすまし、複数のアカウントの所持など)を利用して参加があった場合、運営事務局の判断により当該アカウントからの参加を無効とさせていただく場合がございます。・参加者は、ユーザーアカウント(X ID)を管理する責任を負うものとします。・参加者が、有償無償を問わず、ユーザーアカウント(X ID)を第三者に譲渡・貸与・質入れし、または利用することを禁じます。・当選のご連絡を受けた場合であっても、本規約にご了承頂けない場合や本規約の規定に違反する場合などは、当選を無効とする場合がございます。・キャンペーン内容は予告なく変更させていただく場合がございます。・ 当選の権利の譲渡、他の賞品への変更はできません。・ インターネット接続料及び通信料はお客様のご負担となります。■個人情報の取り扱いについて当選されたお客様からご提供いただいた個人情報は、賞品の発送などに利用します。その他の利用目的については弊社「個人情報の取り扱いについて」の個人情報保護方針に記載しておりますので、こちらからご覧ください。■主催AXN株式会社■運営事務局ザ・シネマ キャンペーン事務局ザ・シネマ カスタマーセンターナビダイヤル:0570-006-543 または 03-6630-6298営業時間:午前10:00~午後8:00(年中無休) ⇩その他の募集枠はこちら⇩ ●誰でもご応募OK【一般枠】計150名様(7/13〆)応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1378※ご応募にはLivePocketの会員登録(無料)が必要です ●スカパー!ご加入者様限定ご招待【ワクワクプレゼント枠】計15名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1381【前方席確約!スカパー!新規ご加入者様限定枠】計20名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1382 ●ひかりTVご加入者様限定ご招待【ひかりTV枠】計5名様(7/13〆) 応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1380 チケット不正転売禁止法によって、チケットの高額転売等は禁止されています。 ■ザ・シネマ放送情報 『ジュラシック・ワールド』シリーズ3部作【ザ・シネマ新録版】 特設ページ:https://www.thecinema.jp/special/shin-roku/ 《放送作品情報》『(吹)ジュラシック・ワールド【ザ・シネマ新録版】』7/21(月祝)~夕方4時15分独占放送、8/6(水)18:45~独占放送『(吹)ジュラシック・ワールド/炎の王国【ザ・シネマ新録版】』7/21(月祝)~夜6時30分独占TV初放送、8/7(木)18:30~独占放送『(吹)ジュラシック・ワールド/新たなる支配者【ザ・シネマ新録版】』 7/21(月祝)~夜9時独占TV初放送、8/8(金)18:00~独占放送 【「ジュラシック・ワールド/復活の大地」公開記念】ジュラシック祭2025夏 特設ページ:https://www.thecinema.jp/special/jurassic/ 放送日:[字][吹] 7/20(日)~7/21(祝・月)【リピート放送】7/22(火)~7/27(日) 2025年は“ジュラシック祭”!スカーレット・ヨハンソンを主演に迎えたシリーズ最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が8/8(金)に公開! (配給:東宝東和)これを記念してザ・シネマでは『ジュラシック』シリーズ全6作を字幕版・吹き替え版で一挙放送いたします!そして「ジュラシック・ワールド」3部作は、吹き替え版を“ザ・シネマ新録版”でお届け!独占TV初放送でお届けする豪華声優陣による“新録版コンプリート”を、この機会にぜひお楽しみください! ⇩その他のキャンペーンはこちら⇩ 『ジュラシック・ワールド』3部作【ザ・シネマ新録版】7月・8月独占コンプリート放送記念プレゼントキャンペーン ●誰でもご応募OK応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1386 ●ひかりTVご加入者様限定応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1387 ●スカパー!ご加入者様限定応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1385 『ジュラシック・ワールド』3部作【ザ・シネマ新録版】キーワードを集めよう!放送限定プレゼントキャンペーン応募URL:https://www.thecinema.jp/present/1389 クイズ!T-レックス伝言ゲーム!Xフォロー&リポストキャンペーン投稿URL:7/11開始予定応募規約URL:https://www.thecinema.jp/present/1388
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COLUMN/コラム2020.07.28
セックスと残酷描写満載で南部の醜い現実を叩きつけようとした“呪われた映画”
今回は『マンディンゴ』(75年)という凄まじい映画を紹介します。マンディンゴとは、南北戦争前のアメリカ南部で、白人たちが最高の黒人奴隷としていた種族というか“血統”です。 これはアメリカ映画史上最も強烈に奴隷制度を描いた映画です。公開当時には大ヒットしたんですが、映画評論家やマスコミから徹底的に叩かれ、DVDも長い間、発売されませんでした。それほど呪われた映画です。 映画は南部ルイジアナ州の“人間牧場”が舞台です。アメリカはずっと黒人奴隷を外国から輸入してたんですが、それが禁止されてから、奴隷をアメリカ国内で取引・売買するようになりました。そこでマクスウェル家の当主ウォーレン(ジェームズ・メイソン) は、黒人奴隷たちを交配して繁殖させ、出来た子供を売ることで莫大な利益を得ています。 また、奴隷の持ち主たちは黒人女性を愛人にしていましたが、彼らの奥さんには隠してませんでした。しかも、 奴隷との間に生まれた子も平気で奴隷 として売っていたんです。 なぜなら、南部の白人たちは、黒人制度を正当化するために“黒人には魂 がない”と信じていました。そうしないと、「すべての人は平等である」と書かれた聖書に反してしまうからです。南部の人は黒人を人間と思っていなかったので、普通の医者ではなく獣医にみせていました。 しかしマックスウェル家の息子ハモンド(ペリー・キング)はそれが間違っていることに気づいていきます。きっかけは 奴隷の黒人女性エレン(ブレンダ・サイクス)を愛したこと。それに、マ ンディンゴの若者、ミード(ケン・ノートン)と友情を結んだからなんです。しかし、白人の妻(スーザン・ジョージ) がミードの子を妊娠して......。 原作はベストセラーでした。でもハリウッドではだれも映画化しようとせず、イタリアの大プロデューサー、デ ィノ・デ・ラウレンティスが製作しま した。彼は製作するときに“仮想敵” を掲げていました。『風と共に去りぬ』(39年)です。南部の奴隷農園をロマンチックに美化した名作映画に、醜い現実を叩きつけようとしたのです。 この番組では巨匠たちの“黒歴史” 映画を積極的に紹介してるんですが、本作もその1本。監督はリチャード・ フライシャー。『海底二万哩』(54年)、『ドリトル先生不思議な旅』(67年)、『トラ・トラ・トラ!』(70年) などを作ってきた天才職人です。彼は、「今までの南部映画はヌルすぎる。俺はこの映画で真実を全部ぶちまける」と考え、セックスと残酷描写満載の『マンディンゴ』を撮り、世界中で大当たりしました。 でも、「アメリカの恥部をさらした」 と言われ、『マンディンゴ』は長い間、「なかったこと」にされてきましたが、 90年代、あのクエンティン・タラン ティーノが「『マンディンゴ』は傑作 だ!」と言ったことでDVDが発売され、再評価されました。 そしてタランティーノが『マンディンゴ』へのオマージュとして撮ったのが『ジャンゴ繋がれざる者』です。 というわけで南部の真実を描きすぎて呪われた傑作『マンディンゴ』、御覧ください! (談/町山智浩) MORE★INFO.●原作の『マンディンゴ』(1957年/河出書房)は、本国で450万部を超えるベストセラーで、1961年には舞台劇化もされている。農園から名前を取った原作の“ファルコンハースト”シリーズは全部で15作もある。●父ウォーレン役は最初チャールトン・ヘストンにオファーされたが断られ、英国人俳優ジェームズ・メイソンが演じた。彼は後年、「扶養手当を支払う ために映画に出ただけだ」とインタビューで語っている。●息子ハモンド役は、オファーされたボーとジェフのブリッジス兄弟、ティモシー・ボトムズ、ジャン・マイケル・ヴィンセントらに次々と断られ、ペリー・キングに。●シルヴェスター・スタローンがエキストラ出演している。●映画から15年後を描いた続編に『ドラム』(76年/監:スティーヴ・カーヴァー)がある。 (C) 1974 STUDIOCANAL
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COLUMN/コラム2020.05.06
失われたアメリカの原風景を映し出すニューシネマ的ウエスタン『夕陽の群盗』
ベトナム反戦の時代が生み出した青春群像劇アカデミー賞作品賞候補になったアメリカン・ニューシネマの傑作『俺たちに明日はない』(’67)の脚本家コンビ、ロバート・ベントンとデヴィッド・ニューマンが脚本を手掛け、ベントン自らが初めて演出も兼任した西部劇である。南北戦争時に徴兵逃れをした若者が、たまたま知り合った同世代のアウトローたちと自由を求めて西を目指して旅するものの、愚かな大人たちの作り上げた弱肉強食の醜い社会が彼らの夢と希望を打ち砕いていく。まさしくベトナム反戦の時代が生み出した、極めてニューシネマ的な青春群像劇。ハリウッドの伝統的な娯楽映画としての古式ゆかしい西部劇に対し、モンテ・ヘルマンの『銃撃』(’66)やサム・ペキンパーの『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(’73)のように、開拓時代のアメリカを舞台にしつつ映像もテーマも現代的で、同時代のカウンターカルチャーを如実に映し出した西部劇のことを「アシッド・ウエスタン」と呼ぶが、この『夕陽の群盗』もそのひとつだと言えよう。舞台は南北戦争真っ只中の1863年。当時の北軍で3番目に人口規模の大きかったオハイオ州だが、しかし中西部に位置する地理的な条件から、北部諸州の中でも特に軍隊や物資の供給において重要な役割を果たし、徴兵された住民の数も総勢で32万人と、人口比率でいうと北軍では最も多かった。そのため、まだ年端も行かぬ若者まで戦場に送り出されていたのである。敬虔なメソジスト派信者であるディクソン家にも召集がかかるものの、しかし既に長男が志願して戦死しているため、両親はたった一人だけ残された次男ドリュー(バリー・ブラウン)まで兵隊に取られてはたまらないと、現金100ドルと長男の遺品である懐中時計、そして家族写真をドリューに手渡して西へ逃がすことにする。かくして、たった一人で逃亡の旅へ出ることになったドリュー。必ずや西部で財を成して両親の愛情に報いるんだという大志を抱く彼は、まずはミズーリ州のセント・ジョーゼフへと到着する。アメリカ連合国を形成した南部州と同じく奴隷州だったミズーリは、辛うじて合衆国側に留まりこそしたものの、しかし北部寄りの州議会と南部寄りの市民感情が拮抗した、いわばグレーゾーン的な地域であったため、逃避行の中継地点としては好都合だったのだろう。ここから駅馬車に乗って西へ向かうつもりだったドリューだが、しかし道端で声をかけてきた同世代の若者ジェイク(ジェフ・ブリッジス)に殴られ現金を奪われてしまう。ホームレスの少年たちを集めて窃盗グループを組織していたジェイク。メンバーは兵役逃れのロニー(ジョン・サヴェージ)とジム・ボブ(デイモン・コファー)のローガン兄弟、臆病者のアーサー(ジェリー・ハウザー)、そしてまだ11歳の生意気盛りボーグ(ジョシュア・ヒル・ルイス)と、ジェイクを含めて5人だ。いっぱしの無法者を気取っている彼らだが、しかし親切な女性を騙して財布をすったり、小さな子供たちを脅して小遣いを奪ったりと、やっていることはなんともチンケ。所詮はまだまだ半人前のお子様集団である。さて、たいした度胸はなくとも悪知恵だけは働くジェイクは、仲間の盗んだ財布を持ち主のもとへ届けて報酬を得ようとするのだが、しかしそこで偶然居合わせたドリューに見つかってしまう。盗んだ金を返せ!と執拗に迫るドリューに根負けするジェイク。そのガッツを見込んだ彼は、ドリューを仲間に引き入れて一緒に西部を目指すことになる。信心深くて生真面目なドリューと、いい加減で不真面目なジェイク。まるで水と油の2人はたびたび対立するものの、しかしやがて互いに友人として認め合う仲になっていく。ところが、少年たちが足を踏み入れた雄大な草原の広がる開拓地は、軍人崩れの極悪人ビッグ・ジョン(デヴィッド・ハドルストン)率いる正真正銘のならず者どもが略奪と殺人を繰り返す危険極まりない世界。新天地でのチャンスを求めて意気揚々と冒険の旅へ出た彼らだったが、その行く手には戦争と弱肉強食の論理によって荒廃した「自由の国」アメリカの残酷な現実が立ちはだかり、根は善良で無邪気な悪ガキたちは嫌がおうにも大人へと成長せざるを得なくなる…。 ロバート・ベントン監督の祖国愛が垣間見えるというわけで、アンチヒーロー的なアウトローたちを主人公にしているという点で『俺たちに明日はない』と共通するものがある作品だが、しかし初心で純粋なティーンエージャーの視点から、美化されたアメリカ的フロンティア精神の偽善を暴き出し、その殺伐とした醜い社会の有り様をベトナム戦争に揺れる現代アメリカのメタファーとして描くという趣向は、リチャード・フライシャー監督の『スパイクス・ギャング』に近いかもしれない。また、どことなく少年版『ミネソタ大強盗団』(’72)とも言うべき味わいと魅力も感じられ、いずれにしてもこの時代に作られるべくして作られた映画と言えるだろう。と同時に、本作は失われたアメリカの原風景に対する郷愁のようなものが全編に溢れ、それがまた無垢な少年時代に終わりを告げる若者たちの物語に豊かな情感を与えている。そこには、ベトナム戦争の時代に終止符を打つこととなった、古き良きアメリカに対するベントン監督自身の憧憬のようなものが感じられることだろう。後の『プレイス・イン・ザ・ハート』(’84)もそうだが、ベントン監督は厳しくも豊かなアメリカの大自然と、そこで強く逞しく生きる人々の日常を活写することが非常に上手い。なにしろテキサスの田舎に生まれた生粋の南部人。幼い頃から女手一つで子供たちを育てた祖母の苦労話を聞いて育った彼にとって、アメリカの大地に根を下ろして生きてきた名もなき庶民への想いを結実させたのが『プレイス・イン・ザ・ハート』だったと聞いているが、本作にもそんなベントン監督の純粋なる祖国愛(あえて愛国心という言葉は使いたくない)の片鱗が垣間見える。アカデミー賞作品賞に輝く『クレイマー・クレイマー』(’79)が大ヒットしたおかげで、都会的な映画監督というイメージが定着しているように思うが、しかし彼の映画作家としての本質はこの『夕陽の群盗』や『プレイス・イン・ザ・ハート』にこそあるのではないだろうか。主人公の一本気な若者ドリューを演じるのは、ピーター・ボグダノヴィッチの『デイジー・ミラー』(’74)にも主演したバリー・ブラウン。その相棒ジェイクには、やはりボグダノヴィッチの『ラスト・ショー』(’71)で注目されたばかりのジェフ・ブリッジスが起用されている。この、教養があって聡明だがナイーブで世事に疎いドリューと、教養がなくて愚かだが世渡り上手でズル賢いジェイクの、お互いの欠点を補い合うようにして育まれていく友情がまた微笑ましい。その後、ブリッジスはスター街道を驀進していくわけだが、その一方で複雑な家庭で育ったことからメンタルに問題を抱えていたというブラウンは、’78年に27歳という若さで自殺を遂げている。彼の2つ下の妹である女優マリリン・ブラウンも後に投身自殺してしまった。ドリューとジェイクの窃盗仲間で印象深いのは、やはりなんといっても若き日のジョン・サヴェージであろう。斜に構えたニヒルな顔つきに、どこかまだ少年っぽさを残した初々しさが魅力で、当時23歳だったが10代でも十分に通用する。また、『おもいでの夏』(’71)のオシー役で知られるジェリー・ハウザーが、臆病者で用心深い少年アーサーを演じているのも要注目だ。さらに、ならず者集団のボス、ビッグ・ジョーを『ブレージングサドル』(’74)や『軍用列車』(’75)の巨漢俳優デヴィッド・ハドルストンが演じるほか、その手下役にジェフリー・ルイスやエド・ローターといった’70年代ハリウッドのクセモノ俳優たちが揃っているのも嬉しい。冷酷非情なまでに正義の人である保安官には、往年のB級西部劇スターだったジム・デイヴィス。彼らのことを決して分かりやすい悪人や偽善者としては描かず、生存競争の激しい世の中で心の荒んでしまった、ある種の犠牲者として描いていることも本作の良心的な点だと言えよう。ちなみに、ハドルストンは後にコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキー』(’98)で、ジェフ・ブリッジスふんする主人公と名前を混同される大富豪ビッグ・リボウスキーを演じていた。■ 『夕陽の群盗』TM, ® & © 2020 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2025.03.06
現代の巨匠イーストウッドが、実在の英雄を通して捉えた“イラク戦争”『アメリカン・スナイパー』
クリス・カイル、1974年生まれのテキサス州出身。8歳の時に、初めての銃を父親からプレゼントされて、ハンティングを行った。 カウボーイに憧れて育ち、ロデオに勤しんだが、やがて軍入りを希望。ケニアとタンザニアのアメリカ大使館が、国際テロ組織アルカーイダが関与する自爆テロで攻撃されるなど、祖国が外敵から攻撃されていることに触発されて、アメリカ海軍の特殊部隊“ネイビー・シールズ”を志願した。 2003年にイラク戦争が始まると、09年に除隊するまで4回、イラクへ派遣された。そこでは主に“スナイパ-”として活躍し、166人の敵を射殺。これは米軍の公式記録として、最多と言われる。 味方からは「レジェンド〜伝説の狙撃手」と賞賛されたカイルは、イラクの反政府武装勢力からは、「ラマディの悪魔」と恐れられ憎悪された。そしてその首には、賞金が掛けられた。 4度ものイラク行きは、カイルの心身を蝕み、精神科医からPTSDの診断を受けた。カイルは民間軍事支援会社を起こし、それと同時に、自分と同じような境遇に居る帰還兵たちのサポートに取り組んだ。彼らを救うことが、自分自身の癒やしにもなると考えたのである。 兵士は銃に愛着があるため、それがセラピーになる場合がある。カイルは帰還兵に同行して牧場に行き、射撃を行ったり、話を聞いたりした…。 こうした歩みをカイル本人が、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリスと共に著した“自伝”は、2012年に出版。100万部を超えるベストセラーとなった。 脚本家のジェイソン・ホールは、カイルの人生に注目。2010年にテキサス州へと訪ねた。 その後カイルと話し合いながら、脚本の執筆を進めた。彼が自伝を書いているのも、そのプロセスで知ったが、結果的にそれが原作にもなった。 ホールは、俳優のブラッドリー・クーパーに、映画化話を持ち込む。クーパーは、『ハングオーバー』シリーズ(2009〜13)でブレイク。『世界にひとつのプレイブック』(12)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、まさに“旬“を迎えていた。 クーパーはこの企画の権利を、ワーナー・ブラザースと共に購入。映画化のプロジェクトがスタートした。 当初はクーパーの初監督作として検討されたが、いきなりこの題材では、荷が重い。続いて『世界にひとつのプレイブック』や『アメリカン・ハッスル』(13)でクーパーと組んだデヴィッド・O・ラッセルが候補になるが、これも実現しなかった。 その後、スティーブン・スピルバーグが監督することとなった。当初積極的にこの企画に取り組んだスピルバーグだったが、シナリオ作りが難航すると、降板。 そこで登場するのが、現代ハリウッドの巨匠クリント・イーストウッド!一説には、スピルバーグが後任を依頼するため連絡を取ったという話があるが、イーストウッド本人は、「おれはスピルバーグの後始末屋と思われているけど、それは偶然だ」などと発言しているので、真偽のほどは不明である。 イーストウッドによると、依頼が来た時は他の映画の撮影中。仕事とは関係なく、本作の原作を読んでいるところだった。 カイルは父親から、「人間には三種類ある。羊と狼と番犬だ。お前は番犬になれ」と言われて、育った。そのため、羊のような人々を狼から守ることこそ、自分の使命だと考えていた。 それが延いては、家族と一緒にいたいという気持ちと、戦友を助けたいという気持ちの板挟みになっていく。この葛藤はドラマチックで、映画になると、イーストウッドは思った。 まずは「脚本を読ませてくれ」と返答。その際依頼者から、プロデューサーと主演を兼ねるクーパーが、「ぜひクリントに監督をお願いしたい」と言ってると聞いて、話が決まったという。 クーパーは幼少の頃から、いつか仕事をしてみたいと思っていた俳優が、2人いた。それは、ロバート・デ・ニーロとクリント・イーストウッドだった。 デ・ニーロとの共演は、『世界にひとつのプレイブック』で実現した。イーストウッドについては、『父親たちの星条旗』(06)以降、いつも彼の監督作のオーディションに応募してきた。本作で遂に、夢が叶うこととなったのである。 こうして、本作にとってはクーパー曰く、「完璧な監督」を得ることとなった。実は、この物語の主人公であるクリス・カイル自身も、もし映画化するなら、「イーストウッドに監督してもらいたい」と、希望していたという。 イーストウッドが監督に決まった頃、ジェイソン・ホールは脚本を一旦完成。クーパーら製作陣に、渡した。 その翌日=2013年2月2日、クリス・カイルが、殺害された。犯人は、イラク派遣でPTSDとなった、元兵士の男。カイルは男の母親から頼まれて、救いの手を差し伸べた。ところが、セラピーとして連れ出した射撃練習場で、その男に銃撃され、命を落としてしまったのである。 クーパーもイーストウッドも、まだカイルと、会っていなかった。対面する機会は、永遠に失われた。 脚本に加え、製作総指揮も務めることになっていたジェイソン・ホールは、葬儀後にカイルの妻タヤと、何時間も電話で話をした。タヤは言った。「もし映画を作るなら、正しく作ってほしい」 イーストウッドが監督に就いたことと、この衝撃的な事件が重なって、映画化の方向性は決まり、脚本は変更となった。焦点となるのは、PTSD。戦場で次々と人を殺している内に、カイルが壊れていく姿が、描かれることとなった。 イラクへの派遣で、カイルの最初の標的となるのは、自爆テロをしようとした、母親とその幼い息子。原作のカイルは、母親の方だけを射殺するが、実際は母子ともに、撃っていた。 原作に書かなかったのは、子どもを殺すのは、読者に理解されないだろうと、カイルが考えたからだった。しかしイーストウッドは、それではダメだと、本作で子どもを狙撃する描写を入れた。 後にカイルには、再び子どもに照準を合わさなければならない局面が訪れる。その際、イラク人たちを「野蛮人」と呼び、狙撃を繰り返してきたような男にも、激しい内的葛藤が起こる。そして彼が、実はトラウマを抱えていたことが、詳らかになる。 もう一つ、原作との大きな相違点として挙げられるのが、敵方の凄腕スナイパー、ムスタファ。原作では一行程度しか出てこない存在だったが、イーストウッドは彼を、カイルのライバルに設定。その上で、その妻子まで登場させる。 即ち、ムスタファもカイルと同様に、「仲間を守るために戦う父親」ということである。この辺り、太平洋戦争に於ける激戦“硫黄島の戦い”を題材に、アメリカ兵たちの物語『父親たちの星条旗』(06)と、それを迎え撃つ日本兵たちを描いた『硫黄島からの手紙』(06)を続けて監督した、イーストウッドならではの演出と言えるだろう。 ブラッドリー・クーパーは、カイルになり切るために、肉体改造を行った。クーパーとカイルは、ほぼ同じ身長・年齢で、靴のサイズまで同じだったが、クーパーが84㌔ほどだったのに対し、筋肉質のクリスは105㌔と、体重が大きく違ったのである。 そのためクーパーは、成人男性が1日に必要なカロリーの約4倍である、8,000キロカロリーを毎日摂取。1日5食に加え、エネルギー補給のために、パワーバーやサプリメント飲料などを取り入れる生活を送った。 筋肉質に仕上げるため、数か月の間は、朝5時に起床して、約4時間のトレーニングを実施。それで20㌔近くの増量に成功した。 撮影に入っても、体重を落とさないための努力が続く。いつも手にチョコバーを握り、食べ物を口に押し込んだり、シェイクを飲んだり。撮影最終日にクーパーが、「助かった、これでもう食べなくて済む!」と呟くのを、イーストウッドは耳にしたという。 役作りは、もちろん増量だけではない。“ネイビー・シールズ”と共に、本物さながらの家宅捜査や、実弾での訓練などを行った。細かい部分では、クリス・カイルが実際に聴いていた音楽のプレイリストをかけ、常時リスニングしていたという。 こうした粉骨砕身の努力が実り、クーパーのカイルは、その家族や友人らが驚くほど、“激似”に仕上がった。 カイルの妻タヤ役に決まったのは、シエラ・ミラー。イーストウッド作品は、撮影前の練習期間がほとんどなくて、リハーサルもしない。クーパーは撮影までに、タヤ役のシエナ・ミラーとスカイプで何度か話して、夕食を1度一緒に食べた。その時彼女は妊娠していたが、それが2人の絆を深めることにも繋がったという。 クーパーとミラーはタヤ本人から、夫が戦地に居た時に2人の間で交わしたEメールをすべて見せてもらった。ミラーは目を通すと思わず、口に出してしまった。「すごい、あなたは彼のことを本当に愛していたのね」 これにより、カイル夫妻のリアルな夫婦関係を演じるためのベースができた。そのため撮影が終わって数週間、ミラーは役から抜け出すのに、本当に悲しい気持ちになってしまったという。 撮影は、2014年3月から初夏に掛けて行われた。戦争で荒廃したイラクでの撮影は難しかったため、代わりのロケ地となったのは、モロッコ。クーパーはじめ“ネイビー・シールズ”を演じる面々は、アメリカ国内で撮影して毎日自宅に帰るよりも、共に過ごす時間がずっと長くなったため、本物の“戦友”のようになったという。 その他のシーンは、カリフォルニアのオープンセットやスタジオを利用して、撮影された。 イラクの戦場に居るカイルと、テキサスに居るタヤが電話で会話するシーン。クーパーとミラーはお互いの演技のために、電話を通じて本当に喋っていた。 妊娠しているタヤが病院から出て来て、携帯電話でカイルに、「男の子よ」と言った後のシーンは、ミラーにとっては、それまでの俳優人生の中で、最も「大変だった」。喜びを伝える電話の向こう側から、銃声が響き渡る。それは愛する夫が、死の危険に曝されているということ…。 脚本のジェイソン・ホールの言う、「兵士の妻や家族たちにとって、戦争とは、リビングルームでの体験だった」ということが、最も象徴的に表わされたシーンだった。 因みにミラーが、演技する時に複雑に考えすぎていると、イーストウッドは、「ただ言ってみればいい」とだけ、彼女に囁いた。ミラーにとっては、「最高のレッスン」になったという。 脚本には、カイルが運命の日に、銃弾に倒れてしまうシーンも存在した。しかし遺族にとってはあまりにもショッキングな出来事であるため、最終的にカットされることになった。 完成した本作を観て、カイルの妻タヤは、「…私の夫を生き返らせてくれた。私は、夫と2時間半を過ごした」と、泣きながら感想を述べた。 本作はアメリカでは、賞レースに参加するため、2014年12月25日に限定公開。明けて15年1月16日に拡大公開となった。 世界興収で5億4,742万ドルを超えるメガヒットとなり、イーストウッド監督作品史上、最大の興行収入を上げた。 その内容を巡っては、保守派とリベラル派との間で「戦争賛美か否か」の大論争が起こった。イラク戦争を正当化しようとする映画だという批判に対してイーストウッドは、「個人的に私はイラク戦争には賛成できなかった」と、以前からの主張を繰り返した。 そして「これは戦争を賛美する映画ではない。むしろ終わりのない戦争に多くの人が従事しいのちすら失う姿を描いているという意味では、反戦映画とも言える」と発言している。 この作品のエンドクレジットでは、クリス・カイルの実際の葬儀の模様を映し出した後、後半部分はまったくの“無音”になる。そこにイーストウッドの、“イラク戦争”そして出征した“兵士たち”への想いが、滲み出ている。■ 『アメリカン・スナイパー』© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and Ratpac-Dune Entertainment LLC
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COLUMN/コラム2021.01.04
すべてのホラー映画の原点 『悪魔のいけにえ』のホントに怖い顛末
1974年10月1日、アメリカ・テキサス州オースティンのドライブインシアターと映画館で、無名のスタッフ・キャストによる、1本の低予算B級映画が公開された。 その時関係者は誰ひとりとして、予想だにしなかったであろう。その作品が半世紀近く経った2020年代になっても、「ホラー映画のマスターピース」として語り継がれるようになることなど。“芸術性”が高く評価されて、MoMA=ニューヨーク近代美術館にマスターフィルムが永久保存されるという栄誉にも浴した、その作品のタイトルは、“TEXAS CHAINSAW MASSACRE(テキサス自動ノコギリ大虐殺)”。翌75年2月1日に日本でも公開された、本作『悪魔のいけにえ』である。 冒頭、上部にスクロールしていくスーパーで、5人の若者の身に、残酷な運命が待ち受けていることが予告される。続いて「1973年8月18日」と、真夏の出来事であることを示すスーパーが浮かび上がって、物語のスタートである。 テキサスの田舎町で、墓が掘り起こされては、遺体の一部が盗み去られるという事件が頻発する。若い女性サリーと、その兄で車椅子のフランクリンは、祖父の墓が被害に遭ってないかを確認しにやって来た。ワゴン車での旅の同行者は、サリーの恋人ジェリー、友人のカークとその恋人パム。 5人は墓の無事を確認すると、かつてサリーとフランクリンが暮らした、祖父の家へと向かう。しかしその途中に乗せたヒッチハイカーの男によって、彼ら彼女らの行く先に、暗雲が垂れ込め始める。 その男は、ナイフでいきなり自分の掌を傷つけた上、フランクリンに切りつける。そして車を飛び降りると、自らの血で車体に目印のようなものを付けるのだった。 男を追い払い、気を取り直した5人は、ガソリンスタンドへ寄るも、ガソリンは切れていて、夜まで届かないという。仕方なく一行は、今は廃屋のようになっている祖父の家へと向かった。 そこからカークとパムのカップルは、近くの小川で水遊びをしようと出掛ける。その時、一軒の家が目に入る。 ガソリンを分けてもらおうと、彼らが訪れたその家で出くわしたのは、人面から剥いだ皮で作ったマスクをした大男“レザーフェイス”。チェーンソーを振り回して人間を解体する彼と、その家族は皆、シリアルキラーの人肉食ファミリーであった…。 そこからは、ラストのあまりにも有名な“チェンソーダンス”に至るまで、若者たちは次々と絶叫と共に、血祭りに上げられていく。マスクを付けた殺人鬼による、若者大虐殺の展開など、今どきのホラーを見慣れた観客にしてみれば、既視感満載かも知れない。 しかしそれは、当たり前の話だ。『悪魔のいけにえ』こそが、そのすべての始まり、原点の作品だからである。70年代後半以降、ほとんどのホラー映画は、本作の影響下にあると言っても、過言ではない。「『悪魔のいけにえ』のように、宇宙を舞台にした恐怖に支配された映画を作りたい」これはあの『エイリアン』第1作(79)の製作前に、脚本を担当したダン・オバノンが、リドリー・スコット監督に本作を見せて、語った言葉である。 ここで多くの方々の誤解を、解いておこう。本作は首チョンパや内臓ドロドロなど、人体損壊のゴア描写が炸裂するような、いわゆる“スプラッタ映画”では、まったくない。直接的に皮膚に刃物を刺して人を殺すシーンなどは、1カットもないのである。血飛沫が上がるのは、犠牲者が車椅子に乗ったまま、チェンソーで切り刻まれてしまうシーンぐらい。実はTVでも放送出来るように、直接的な残酷描写は、避けて作られている。 それでいながら、いやそれだからこそ、“レザーフェイス”が初めて登場するシーンに代表されるように、予期せぬ突発的な暴力が、我々に大きなダメージを与える。また、ギリギリまで描いて、後は観客の想像に委ねるという手法が、脳内の補完によって、実際に描かれたもの以上に、強烈な印象を残すのである。それが延いては、「とにかく怖かった~」という記憶になっていく。“レザーフェイス”の妙な人間臭さも、実に効果的だ。次から次へと、来訪者=犠牲者が訪れることに泡を喰ったり、ヘマをやらかして、家族に罵倒されたりする描写などがある。『13日の金曜日』のジェイソンや、『エルム街の悪夢』のフレディのような超然とした存在よりも、人間臭い殺人鬼が行う大量殺戮の方が、よりリアルで怖いものかも知れない。 16mmフィルムによる撮影でもたらされた、粒子が粗くザラザラした画面や、BGMは一切使用せず、効果音のみという音響演出も、まるで殺人現場のドキュメンタリーを見ているかのような錯覚を、観客にもたらす。もっとも16mmを使用したのは、単に予算上の問題だったというが、結果的には怪我の功名である。 さて、本作が撮影されたのは、73年の夏。監督のトビー・フーパー(1943~2017)は、まだ30代に突入したばかりだった。 テキサス州オースティンで生まれ育ち、幼い頃からの映画好きだった彼は、テキサス大学在学中には、短編映画や記録映画を手掛けている。その後処女作『Eggshells』(69)が、映画コンテストなどで高く評価されるも、興行的には不発に終わった。 そこでフーパーは、考えた。低予算でも製作し易い、“ホラー映画”で勝負を掛けようと。参考にしたのは、墓を暴いて女性の死体を掘り返しては、それを材料にランプシェードやブレスレットなど作っていた、殺人者エド・ゲインの実話や、監督自身が子どもの頃に親戚から聞いた、怖い噂話など。脚本家のジャック・ヘンケルとの共作で、シナリオは完成した。 経験の浅い映画学生をスタッフに雇い、キャストには、地元の無名俳優を起用。そしていざ、クランク・インとあいなった。 ロケ中心で撮影された本作の撮影現場は、執拗に俳優を追い込むものとなった。リアリティーを追求し、本物の刃物を使ったために、ケガ人が出たり、予算不足から、俳優の顔に直に接着剤を塗って、特殊メイクが行われたり。血糊は口に含んだものを、俳優にぶっ掛けたという。 本作のヒロインで、いわゆる“ラスト・ガール”、最後まで生き延びるサリーを演じたのは、マリリン・バーンズ。役柄とはいえ、固い箒で殴られたり、雑巾を口に押し込められたり、とにかく悲惨な目に遭った。 ガンナー・ハンセン演じる“レザーフェイス”に、チェンソーを振り回されながら追いかけられるシーンでは、監督から「後ろから切られるかもしれないぞ」と、声を掛けられたため、「本当に殺されるかも知れない」と、恐怖に駆られて、本気で走って逃げたという。彼女の臨場感溢れる“絶叫”は、作り物ではなかったのだ。 ロケ地である夏場のテキサスは、外気が40度に上り、照明を当てれば50度以上の暑さとなる。物語上は1日の話である本作だが、撮影は1カ月近く続いた。その間、俳優たちはずっと同じ衣装を、着続けねばならなかった。途中からは、汗臭さを通り越した異臭を放つようになった。 クライマックスで描かれる、殺人一家の食卓シーンは、猛暑の中で閉め切って撮影されたため、卓上の肉料理は、すべて腐っていたという。そんな中での撮影は、カットが掛かる度に、誰かが吐きに行くという惨状を呈した。 こんなことが、本物の動物の死体を大量に解体して作られた、インテリアが散乱する中で行われたわけである。素人主体の現場故に、撮影予定や台本が場当たり的に変更されていく混乱と相まって、撮影途中でスタッフが次々と逃げ出した。 因みにインテリアのみならず、殺人一家の一軒家を作り込んだ、プロダクションデザイナーのロバート・バーンズは、“レザーフェイス”の人面マスクも作成。マスクは3タイプ作られたが、“レザーフェイス”は、局面によってマスクを替えるという設定で、クライマックスの食卓シーンでは、チークを入れるなど化粧を施した分、逆におぞましさが募るマスクで登場する。 さて狂気の撮影が終わって、先に記したような編集と音入れ作業に、フーパーは1年以上を掛けて、『悪魔のいけにえ』は完成。しかし大手配給から怪奇物の名門まで、様々な映画会社に持ち込んで観てもらっても、芳しい評価は得られず、公開のメドはなかなか立たなかった。 本作をようやく引き受けてくれたのは、ニューヨークの独立系配給会社。フーパーはじめ関係者は、ほっと胸を撫で下ろした。 そしてはじめに記した通り、フーパーの地元、テキサス州オースティンで公開されると、ストレートなタイトルと「実話の映画化」という、大ウソの誇大広告が功を奏して、劇場には長蛇の列が。多くの観客が、軽い気持ちで週末のスクリーンに臨んだが、観終わると良くも悪くも打ちのめされ、賛否両論が沸き起こった。 そして上映は、全米各地へと拡大。やがてメジャー製作の大作映画と伍して、ヒットチャートに名を連ねるようになった。“ホラー”への挑戦という、新人監督フーパーの賭けは、大勝利に終わった。…と言いたいところだが、そうは問屋が卸さなかった。 本作の配給を託した独立系配給会社は、実はマフィアが経営する、フロント企業。フーパーたちが要求する、利益の配分に全く応じようとしないという、ある意味映画の内容以上に、怖い顛末が待っていたのである。■ 『悪魔のいけにえ』© MCMLXXIV BY VORTEX, INC.
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COLUMN/コラム2024.04.30
鬼才クライヴ・バーカーが生んだカルトホラー映画の傑作『ヘルレイザー』シリーズの魅力を紐解く!
そもそも『ヘルレイザー』シリーズとは? 謎のパズルボックス「ルマルシャンの箱」を解くと地獄へ通じる門が開き、セノバイト(魔道士)と呼ばれる世にも恐ろしい魔界の使者たちが出現、好奇心で彼らを召喚した人間は地獄へと引きずり込まれ、肉体的な快楽と苦痛を極限まで追究するための実験台にされてしまう。そんな一種独特の都市伝説的な怪奇幻想の世界を描き、以降も数々の続編やリブート版が作られるほどの人気シリーズとなったのが、あのスティーブン・キングとも並び称されるイギリスのホラー小説家にして舞台演出家、劇作家、イラストレーターにコミック・アーティスト、ビジュアル・アーティストなど、マルチな肩書を持つ鬼才クライヴ・バーカーが監督したホラー映画『ヘル・レイザー』(’87)である。 原作は’86年に出版されたダーク・ハーヴェスト社のホラー・アンソロジー「Night Visions」第3集にバーカーが寄稿した小説「ヘルバウンド・ハート」(’88年に単独でペーパーバック化)。『13日の金曜日』(’80)の大ヒットに端を発する空前のホラー映画ブームに沸いた’80年代、その牽引役となったのは殺人鬼がティーン男女を血祭りに挙げるスラッシャー映画と生ける屍が人間を食い殺すゾンビ映画だが、しかし’80年代半ばにもなるとどちらも供給過多で飽和状態に陥ってしまう。そのタイミングで登場したのが本作だった。 古典的なゴシックホラーとアングラなパンク&ニューウェーヴを融合したエッジーな世界観、ボディピアシングやボディサスペンションなどのSM的なフェティシズムを取り込んだ過激なスプラッター描写。当時量産されていたスラッシャー映画やゾンビ映画と一線を画す独創性こそが成功の秘訣だったように思う。中でも、身体改造とボンデージの魅力を兼ね備えたセノバイトたちの変態チックなキャラ造形(バーカー自身がデザイン)はインパクト強烈。そのリーダー格であるピンヘッドはシリーズの実質的な看板スターとして、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディや『13日の金曜日』シリーズのジェイソン、『悪魔のいけにえ』シリーズのレザーフェイスなどと並ぶホラー・アイコンとなった。 今のところ合計で11本を数える『ヘル・レイザー』シリーズだが、5月のザ・シネマでは初期の1作目~4作目までを一挙放送。そこで、今回は該当する4作品を中心にシリーズの見どころを振り返ってみたい。 『ヘル・レイザー』(1987) 物語の始まりは北アフリカのモロッコ。快楽主義者のフランク・コットン(ショーン・チャップマン)は、究極の快楽世界への扉を開くと言われる伝説のパズルボックス「ルマルシャンの箱」を手に入れ、実家へ持ち帰ってパズルを解いたところ、地獄から現れたセノバイト(魔導士)たちによって八つ裂きにされる。彼らにとって究極の快楽とは究極の苦痛でもあるのだ。 それから数年後、フランクの兄ラリー(アンドリュー・ロビンソン)が妻ジュリア(クレア・ヒギンズ)を連れて実家へ戻って来る。屋根裏部屋には消息を絶ったフランクの私物がそのままになっていた。漂うフランクの残り香に身悶えるジュリア。実は彼女とフランクはかつて不倫の関係にあり、ジュリアは今もなお彼の肉体を忘れられないでいたのだ。すると引っ越し作業中にラリーが手を汚してしまい、屋根裏部屋の床に零れた血液からフランクが復活してしまう。ジュリアの目の前に現れたのは、まだ完全体ではない「再生途中」のフランク。元の姿へ戻るためには生贄が必要だ。そう言われたジュリアは、ラリーの留守中に行きずりの男性を家へ連れ込んでは殺害し、フランクは犠牲者たちの精気を吸収していく。 一方、ラリーと前妻の娘カースティ(アシュレイ・ローレンス)はジュリアの怪しげな行動に気付き、屋根裏部屋で何が行われているのか確認しようとしたところ、世にも醜悪な姿の叔父フランクと遭遇。驚いた彼女はパズルボックスを奪って逃げるも途中で気を失ってしまう。病院で意識を取り戻したカースティは、好奇心に駆られてパズルボックスを解いたところ、ピンヘッド(ダグ・ブラッドレイ)をリーダーとするセノバイトたちが地獄より出現。フランクが地獄から逃げたことを知ったピンヘッドは、カースティを使って彼を再び地獄へ引き戻そうとするのだが…? これが長編劇映画デビューだったクライヴ・バーカー監督。それまで2本の短編映画を撮った経験しかなかったバーカーだが、しかし脚本に携わった自著の映画化『アンダーワールド』(’85)や『ロウヘッド・レックス』(’86)の出来栄えに不満足だったことから、自分自身の手で演出まで手掛けることにしたというわけだ。もともとヴァージン・レコード傘下のヴァージン・フィルムが出資を検討したが最終的に手を引き、アメリカのB級映画専門会社ニューワールド・ピクチャーズが全額出資することに。ラリー役に『ダーティハリー』(’71)の殺人鬼スコルピオ役で有名なアンディ・ロビンソン、その娘カースティ役に新人アシュレイ・ローレンスと、メインキャストにアメリカ人が起用されたのはアメリカ資本が入っているため。さらにアメリカ市場で売りやすくするべく、ニューワールド幹部の指示で一部イギリス人キャストのセリフをアメリカ人俳優が吹き替え、舞台設定もイギリスなのかアメリカなのかをあえて曖昧(撮影地はロンドン)にしている。 飽くなき欲望に取り憑かれた男女による、世にも残酷で醜悪なラブストーリー。見ているだけで痛そうな生々しい残酷シーンの不快感も然ることながら、この人間の嫌な部分をまざまざと見せつけられるような後味の悪さは、いわゆるハリウッド製ホラーと一線を画す英国ホラーらしい点であろう。そう、実のところ本作におけるメイン・ヴィランはジュリアとフランクであり、あくまでもピンヘッドやセノバイトたちは彼らに審判を下す存在、いわば「地獄の判事」とも呼ぶべきサブキャラに過ぎなかったりする。そもそも、この1作目ではまだ「ピンヘッド」という呼称すら使われていない。どうやら、少なくとも本作の製作時においては、バーカー監督も製作陣もピンヘッドがフレディやジェイソンに匹敵するほどの人気キャラになるとは想像もしていなかったようだ。 そのピンヘッド役を演じたのが、バーカー監督の高校時代の後輩で演劇部の仲間、彼が主催した前衛劇団「ザ・ドッグ・カンパニー」にも参加した盟友ダグ・ブラッドレー。頭部全体に待ち針を刺した異様な見た目のインパクトも然ることながら、舞台俳優ならではの発声法を活かした独特の喋り方やクールで知的な立ち振る舞いなど、その他大勢のホラーモンスターと一線を画すピンヘッドのカッコ良さは、間違いなくブラッドレーの役作りと芝居に負う部分が大きい。恐らく、演者が彼でなければピンヘッドもこれほどの人気キャラにはなっていなかったろう。当初、バーカー監督からピンヘッド役か引っ越し業者役のどちらかを選んでいいと言われたというブラッドレー。これが映画初出演だった彼は、「素顔のはっきりと分かる役柄の方が、あの映画のあの役をやっていたと証明しやすいため、自分のキャリアにとってプラスになるのではないか」と考え、一度は引っ越し業者役を選ぼうとしたらしい。いやあ、最終的に考え直してくれて良かった! 『ヘルレイザー2』(’88) 前作の予想を上回るスマッシュヒットを受け、矢継ぎ早に作られたシリーズ第2弾。日本語タイトルはこれ以降「・(ナカポツ)」が消えて「ヘルレイザー」となる。そもそもアメリカ側の出資元ニューワールド・ピクチャーズは1作目の仕上がりに大変満足したそうで、実は劇場公開前のタイミングで既に続編のゴーサインが出ていたらしい。ただし、当時のクライヴ・バーカーはちょうど『ミディアン』の製作に取り掛かったばかりで手が離せず、その代役として白羽の矢が立てられたマイケル・マクダウェルも健康問題などで降板せざるを得なくなったため、1作目の編集にノークレジットで参加した元ニューワールド・ピクチャーズ重役のトニー・ランデルが監督に抜擢される。また、脚本はバーカーと劇団時代からの友人であるピーター・アトキンスが担当。当時、売れないバンドのリードボーカリストだったアトキンスは、さすがに30代にもなって芽が出ないのは厳しいだろうと音楽のキャリアに見切りをつけ、これを機に映画脚本家へ転向することとなった。 時は1920年代。パズルボックス「ルマルシャンの箱」を手に入れた英国軍人エリオット・スペンサー大尉(ダグ・ブラッドレー)は、箱のパズルを解いたばかりに地獄へと引きずり込まれ、セノバイト(魔道士)のリーダー、ピンヘッドとなる。 そして現在。地獄から甦った叔父フランクと継母ジュリアに最愛の父ラリーを殺されたカースティ(アシュレイ・ローレンス)は、邪悪なフランクとジュリアに復讐を果たしたものの、しかしトラウマを抱えて精神病院へ収容されていた。担当医のチャナード医師(ケネス・クラナム)と助手カイル(ウィリアム・ホープ)に事の次第を説明し、恐るべきパズルボックスやセノバイトの存在に警鐘を鳴らすカースティ。いくら説明しても信じてもらえないことに苛立つ彼女は、せめてジュリアが死んだベッドのマットレスだけは処分して欲しいと訴える。死に場所の屋根裏部屋で甦った叔父フランクのように、ジュリアもそこから復活する可能性があるからだ。 ところが、実はこのチャナード医師、長いこと「ルマルシャンの箱」を研究してきた危険人物だった。カースティの話にヒントを得た彼は、問題のマットレスを病院のオフィスへ持ち込み、そこへ患者の血を垂らしたところ地獄からジュリア(クレア・ヒギンズ)が復活。たまたまその様子を目撃したカイルは、カースティの話が本当だったことに気付いて彼女を病室から逃がす。父親ラリーが地獄に囚われていると信じ、なんとかして救い出す方法を考えるカースティ。一方、ジュリアの復活に手を貸したチャナード医師は、パズルの才能がある精神病患者の少女ティファニー(イモジェン・ブアマン)を使って「ルマルシャンの箱」を解き、長年の夢だった地獄へと足を踏み入れる。その後を追って地獄入りし、父親を探し求めるカースティ。そこは、聖書に出てくる魔物リバイアサンが支配する迷宮のような異世界だった…! ということで、地獄から甦った魔性の女ジュリアが、魔物リバイアサンの手先として大暴れするという完全に「ジュリア推し」のシリーズ第2弾。実際、ストーリー原案と製作総指揮に関わったクライヴ・バーカーは、悪女ジュリアをシリーズの顔にするつもりだったらしい。ところが、そんな思惑とは裏腹にファンが熱狂したのはピンヘッドとセノバイト軍団。そのうえ、ジュリア役のクレア・ヒギンズが3作目への出演オファーを断ったため、ピンヘッドを看板に据えたシリーズの方向性が固まったのである。 そのピンヘッドやセノバイトたちが、実はもともと人間だったことが明かされる本作。1作目の段階では「裏設定」としてスタッフやキャストに共有されていたそうだが、今回はきっちりとストーリーに組み込まれている。そのうえで本作は、地獄とはいったいどのような空間でどういう仕組みになっているのか、どうやって人間がセノバイトへと生まれ変わるのかなど、シリーズの背景となるベーシックな世界観を掘り下げていく。そのぶん、前作で見られた背徳的かつ変態的なアングラ感はだいぶ薄れたようにも感じる。恐らく、そこは評価の分かれ目かもしれない。 『ヘルレイザー3』(‘92) 前作『ヘルレイザー2』を上回る大ヒットを記録し、いわばシリーズの人気を決定づけた第3弾。しかしその一方で、ファンの間では激しく賛否の分かれる作品でもある。恐らくその最大の理由は、初めて舞台設定をアメリカのニューヨークと明確にし、実際にイギリスではなくアメリカ(ロケ地はノース・カロライナとロサンゼルス)で撮影を行ったことで、映画全体がすっかりアメリカンな雰囲気になったことであろう。しかも監督はアンソニー・ヒコックスである。前2作と著しく毛色の違う映画になったのも無理はない。 『電撃脱走 地獄のターゲット』(’72)や『ブラニガン』(’75)で知られる娯楽職人ダグラス・ヒコックス監督と、『アラビアのロレンス』(’62)でアカデミー賞に輝く伝説的な映画編集技師アン・V・コーツを両親に持つ映画界のサラブレッド、アンソニー・ヒコックス。少年時代よりハマー・ホラーを熱愛する根っからのホラー映画マニアで、そのオタクっぷりを遺憾なく発揮した『ワックス・ワーク』(’88)シリーズや『サンダウン』(’91)は筆者も大好きなのだが、しかしスタジオシステムが健在だった時代の古き良きクラシック映画の伝統を踏襲した彼の王道的な作風は、パンク&ニューウェーヴの時代の申し子であるクライヴ・バーカーのエクスペリメンタルでアナーキーな感性とは対極にあると言えよう。どちらも同じイギリス人とはいえ、持ち味はまるで違うのだ。しかもヒコックス監督によると、本作のオファーを受けた際にプロデューサーのローレンス・モートーフから、「カルト映画的なイメージを捨てたい、思いっきりメインストリーム映画にして欲しい」と指示されたという。その結果、前2作とは一線を画す極めてハリウッド的なB級ホラー映画に仕上がったのだ。 プレイボーイの若き実業家J・P・モンロー(ケヴィン・バーンハルト)は、ふと立ち寄った画廊で奇妙な彫刻の施された柱に魅了されて衝動買いし、自身が経営する流行りのナイトクラブ「ボイラー・ルーム」のプライベートスペースに飾る。だがそれは、前作のラストでピンヘッド(ダグ・ブラッドレー)とパズルボックスを封印した魔界の柱だった。それからほどなくして、テレビの新米レポーター、ジョーイ(テリー・ファレル)は病院の緊急救命室を取材していたところ、怪我で担ぎ込まれた若者が怪現象によって惨死する現場を目撃してしまう。付き添いの女性テリー(ポーラ・マーシャル)によると、ナイトクラブ「ボイラー・ルーム」にある奇妙な柱から出現したパズルボックスが事件に関係しているらしい。そのテリーと一緒に奇妙な柱の出所を調べ始めたジョーイは、やがて一本のビデオテープを発見する。そこに映されていたのは、パズルボックスとセノバイトの危険性を訴える女性カースティ(アシュレイ・ローレンス)の姿だった。 その頃、いつものようにクラブの女性客と適当にセックスを楽しんで追い返そうとしたモンロー。すると、柱から飛び出した鎖が女性客を惨殺し、封印されていたピンヘッドが覚醒する。外の世界へ出るためには更なる生贄が必要だ。そこで、モンローは強大な権力と引き換えに、ピンヘッドのため生贄を捧げることを約束する。一方、徐々にパズルボックスの謎を解き明かして来たジョーイの夢の中に、ピンヘッドの前世であるエリオット・スペンサー大尉(ダグ・ブラッドレー)が出現。実は前作でチャナード医師に倒されたピンヘッドは、その際に善(=スペンサー大尉)と悪(=ピンヘッド)が完全に分離していたのだ。自らがセノバイト(魔道士)となるまでの複雑な過去を明かしたスペンサー大尉は、今や純然たる悪と化したピンヘッドの暴走を阻止すべく力を貸して欲しいとジョーイに告げる…。 冒頭の手術室で看護師が器具を並べるシーンはデヴィッド・クローネンバーグの『戦慄の絆』(’88)、怪我をした若者が病院へ担ぎ込まれるシーンはエイドリアン・ラインの『ジェイコブス・ラダー』(’90)、ジョーイが自宅の窓ガラスを通り抜けて異世界へ迷い込むシーンはジャン・コクトーの『詩人の血』(’30)に『オルフェ』(‘50)といった具合に、全編に渡って大好きな映画へのオマージュが散りばめられているのはヒコックス監督らしいところ。ダリオ・アルジェントの『サスペリア』(’77)へのオマージュの元ネタが、よりによってジェシカ・ハーパーがウド・キアーを訪ねるシーンなのは、さすがにマニアック過ぎてニヤリとさせられる。さらに、ナイトクラブでの虐殺シーンをはじめとして、過激なスプラッター描写は前2作以上にてんこ盛り。CDJセノバイトにカメラマン・セノバイトなど、ややコミカル寄りな新キャラの造形は少々悪乗りし過ぎという気もするが、それもまたヒコックス監督一流の「サービス精神」の為せる業と言えよう。間違いなく、シリーズ中で最もエンタメ性の高い作品だ。 ちなみに、製作会社との意見の相違からメイン撮影に一切ノータッチだったクライヴ・バーカーだが、しかしプロモーション戦略の上で原作者のお墨付きが欲しいプロデューサー陣に懇願され、製作総指揮として追加撮影およびポスプロの段階から関わったらしい。一方、前作に続いて脚本を書いたバーカーの盟友アトキンスはヒコックス監督とすっかり意気投合し、俳優としてもナイトクラブ「ボイラー・ルーム」のバーテン役&有刺鉄線セノバイト役で出演。また、これ以降『ヘルレイザー』シリーズの製作は、ミラマックス傘下のディメンション・フィルムズが担当することになる。 『ヘルレイザー4』(’96) 監督を手掛けた大物特殊メイクマン、ケヴィン・イェーガーが編集を巡る争いで降板したことから、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』や『FRINGE/フリンジ』などのテレビシリーズで知られるジョー・チャペルが追加撮影を行い、最終的にアラン・スミシー名義で公開されたという曰く付きのシリーズ第4弾である。 映画はいきなり2127年の近未来から始まる。自らが設計した宇宙ステーション「ミノス」を占拠した科学者ポール・マーチャント博士(ブルース・ラムゼイ)は、ロボットアームで慎重にパズルボックスを解いてピンヘッド(ダグ・ブラッドレー)を召喚する。それにはある目的があったのだが、しかしそこへ武装した特殊部隊が突入。身柄を拘束されたマーチャント博士は、パズルボックス「ルマルシャンの箱」と自身の家系の忌まわしい歴史について語り始める。 時は遡って1796年のフランスはパリ。マーチャント博士の先祖に当たる玩具職人フィリップ・ルマルシャン(ブルース・ラムゼイ)は、快楽主義者の不良貴族デ・リール公爵(ミッキー・コットレル)の依頼でパズルボックス「ルマルシャンの箱」を製作する。ところが、邪悪なデ・リール公爵は道で拾った貧しい女性アンジェリーク(ヴァレンティナ・ヴァルガス)を生贄にし、「ルマルシャンの箱」を介して地獄の門を開こうとしていた。その様子をたまたま目撃したフィリップは深く後悔し、逆に地獄の門を封じるためのパズルボックスを新たに作ろうとするものの失敗。そのためルマルシャン家は末代まで呪われることとなる。 再び時は移って1996年、アメリカへ移住したルマルシャン家の子孫ジョン・マーチャント(ブルース・ラムゼイ)は建築デザイナーとして大成し、ニューヨークのマンハッタンに「ルマルシャンの箱」をモチーフにした超高層ビルを建てる。彼は秘かに全ての地獄の門を閉じるためのパズルボックスを研究開発していたのだが、そんな彼の前にセノバイトと化したアンジェリークが現れ、召喚したピンヘッドと共にジョンを亡き者にしようと画策。しかし、お互いに信念の相違からピンヘッドとアンジェリークは敵対していく…。 過去・現在・未来と3つの時間軸を跨いで、パズルボックス「ルマルシャンの箱」を作った一族の数奇な運命を描いた大河ドラマ的なエピックストーリー。クラシカルなコスチュームプレイやスペース・オペラ的なサイエンス・フィクションの要素を兼ね備えたプロットは実に贅沢だが、しかしその割にコンパクトでチープな仕上がりなのは、脚本はおろか粗筋すら読まずにゴーサインを出したミラマックス幹部が、後からスケールの大きさに気付いて予算を出し惜しみしたせいだと言われている。 それでもなお、パズルボックスのルーツが解き明かされる中世編はロマンティックな怪奇幻想の香りが漂って秀逸だし、前作のクライマックスで登場した高層ビルの正体が判明する現代編も面白い。恐らく、宇宙ステーションを舞台にした近未来編は、もっとスケールの大きな話になるはずだったのだろう。そう考えると、予算との兼ね合いでクライヴ・バーカーの初期構想を破棄せねばならなかったことが惜しまれる。 その後の『ヘルレイザー』シリーズ 興行成績はまずまずの結果を残したものの、しかし批評的には大惨敗だった『ヘルレイザー4』。これを最後に生みの親クライヴ・バーカーも手を引いてしまうのだが、しかし製作会社ディメンション・フィルムズにとって『ヘルレイザー』シリーズは依然として金の生る木だったため、これ以降もビデオスルー作品として順調に継続していくこととなる。最後にその変遷をザッと辿ってみよう。 21世紀を迎えて早々に作られた『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』(’00)は、連続殺人事件を追う汚職警官の心の闇にピンヘッドが付けこむネオノワール風ホラー。これがまるで、『ジェイコブス・ラダー』×『ロスト・ハイウェイ』と呼ぶべきシュール&ダークな仕上がりで、間違いなくシリーズ屈指の傑作となった。監督は『フッテージ』(‘12)や『ブラック・フォン』(’22)などの小品ホラーで高く評価され、マーベルの『ドクター・ストレンジ』(’16)も手掛けたスコット・デリクソン。これがデビュー作だったが、当時からその才能は抜きん出ていた。 続く『ヘルレイザー/リターン・オブ・ナイトメア』(’02)ではアシュレイ・ローレンス演じるカースティが久々に復活。’02年にルーマニアで同時撮影された『ヘルレイザー/ワールド・オブ・ペイン』(’05)と『ヘルレイザー/ヘルワールド』(’05)は、前者ではルマルシャン家の子孫の率いるカルト集団がセノバイトを支配しようとし、後者ではゲーム版『ヘルレイザー』に熱中する若者たちが次々とピンヘッドに殺されていくメタ設定を採用するなど、どちらも創意工夫を凝らしているものの、残念ながら成功しているとは言えなかった。ちなみに、『ヘルレイザー/ヘルワールド』には無名時代のキャサリン・ウィニックと、撮影当時まだ19歳の初々しいヘンリー・カヴィルが出ている。 その後、6年ぶりに『ヘルレイザー:レベレーション』(’11)が登場するのだが、しかしこれがなんとも酷かった!いよいよダグ・ブラッドレーがピンヘッド役を降板し、新たにステファン・スミス・コリンズという俳優を起用、特殊メイクのデザインも一新されたのだが、残念ながらダグ・ブラッドレー版ピンヘッドのオーラもカリスマ性も皆無。そのうえ、メキシコへヤンチャしに行った不良坊ちゃんコンビがうっかりピンヘッドを召喚してしまうというストーリーもダメダメで、明らかにシリーズ最低の出来栄え。続く『ヘルレイザー:ジャッジメント』(’18)は、『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』に倣ったネオノワール・スタイルの犯罪サスペンス・ホラーで、『バートン・フィンク』や『セブン』を彷彿とさせる作風は悪くなかったが、いかんせん安っぽすぎた。 そして、満を持して発表された1作目のリブート版…というよりも原作「ヘルバウンド・ハート」の再映画化が、ディメンション・フィルムズから新たに20世紀スタジオへ権利が移って制作された『ヘル・レイザー』(’22)。といっても、ストーリーは原作とも1作目とも大きく違っている。ピンヘッドも男性から女性へ。セノバイトたちのデザインも刷新された。どうしても「誰か」に「何か」に依存してしまうリハビリ中の薬物中毒患者と、あらゆる悪徳と快楽に溺れてもなお満足できない大富豪を主人公に、人間の弱さと強さ、善と悪、理性と欲望の葛藤を描くストーリーは、『ダークナイト』三部作のデヴィッド・S・ゴイヤーも脚本原案に携わっているだけあって良質な仕上がり。同じデヴィッド・ブルックナー監督で続編も企画されているそうなので、期待して待ちたい。■ 『ヘル・レイザー』『ヘルレイザー2』『ヘルレイザー3』© 2019 VINE LSE INTERNATIONAL IV, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.『ヘルレイザー4』© 2021 VINE LSE INTERNATIONAL IV, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2023.05.08
韓国の民主主義と映画の“力”。『1987、ある闘いの真実』
チャン・ジュナン監督が、本作『1987、ある闘いの真実』(2017)に取り掛かったのは、2015年の冬だった。 時の最高権力者は、朴槿恵(パク・クネ)。韓国初の女性大統領である彼女は、1963年から79年まで16年間に渡って軍事独裁政権を率いた父、朴正煕(パク・チョンヒ)に倣ったかのような、反動的な強権政治家であった。そしてその矛先は、映画界にも向けられた。 朴政権下で作成された、「政府の政策に協力的ではない文化人」のブラックリストには、パク・チャヌク監督やキム・ジウン監督、俳優のソン・ガンホやキム・ヘスなどの一流どころが載せられた。それは暗に、「こいつらを干せ」と、政権が指示しているということだった。 保守政権にとって好ましくない題材を扱った作品は、攻撃対象となった。例を挙げれば、かつて進歩派政権を率いた、故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の弁護士時代を、ソン・ガンホが演じた『弁護人』(13)。高い評価を受けて大ヒットしたものの、監督のヤン・ソクウは、公開後多くの脅迫電話を受け、一時期中国に身を隠さざるを得なくなった。 そんな最中に、韓国の歴史を大きく変えた、「1987年の民主化運動」を映画化するなど、虎の尾を踏む行為。チャン監督も躊躇し、逡巡したという。 最終的に監督を動かしたのは、2つの想いだった。ひとつは、この「民主化運動」こそが、韓国の民主主義の歴史に大きく刻まれるべきものなのに、それまであまり語られてこなかったことへのもどかしさ。 もうひとつは、チャン監督に子どもができて、父親になった時に抱いた、こんな気持ち。「自分は次の世代にどんな話を伝えるべきなのか」「世の中に対して何を残すことができるのか」。 チャン監督は、「民主化運動」のデモで斃れた大学生、イ・ハニョルの記念館を訪問。展示品の中には、警察が放った催涙弾の直撃を、ハニョルが受けた際に履いていた、スニーカーの片方があった。監督はそれを見て、本作を作る決意を遂に固めた。ご覧になればわかるが、このスニーカーは、本作を象る重要なモチーフとなっている。 事実に基づいた作品は、生存する関係者への取材を行って、シナリオを作成していくのが、定石である。しかし朴槿恵政権下では、そうしたことが外部に漏れた場合、映画化の妨げになる可能性が高い。そのため生存者へのインタビューなどは諦め、新聞など文字情報を中心に、極秘裏にリサーチを進めることとなった。 それでもこんな時勢の中で、政府に睨まれるのを覚悟で、出演してくれる俳優は居るのか?十分な製作費を、調達できるのか?不安は、尽きることがなかった。 しかし天が、このプロジェクトに味方した。2016年10月末、朴大統領とその友人である崔順実(チェ・スンシル)を中心とした、様々な政治的疑惑が発覚。いわゆる“崔順実ゲート事件”によって、風向きが大きく変わる。政権に抗議する民衆によって、各地で大規模な“ろうそく集会”が開かれ、朴政権は次第に追い詰められていく。 その頃から本作のプロジェクトには、投資のオファーが多く寄せられるようになった。こうして製作が軌道に乗ったのと対照的に、翌2017年3月、朴槿恵は大統領職を罷免され、遂には逮捕に至る。 韓国には、1980年代後半頃の都市の姿が、ほとんど残されていない。しかし巨額の製作費の調達に成功した本作では、大規模なオープンセットを組むことで、この問題を解消。まさに奇跡的なタイミングで、製作することが出来たのである。 ***** 1987年、「ソウル五輪」の開催を翌年に控えた韓国では、直接選挙での大統領選出など、“民主化”を求める学生や労働者などを中心に、各地でデモが行われていた。それに対し大統領の全斗煥(チョン・ドファン)は、強圧的な態度で抑え込もうとする。 そんな中、ソウル大の学生パク・ジョンチョルが、警官の拷問で死亡する事件が起こる。元は脱北者で“民主化勢力”を「アカ」と憎悪する、治安本部のパク所長(演:キム・ユンソク)は、当時の韓国では一般的でなかった火葬で、証拠となる遺体を隠滅した上、「取調中に机を叩いたら心臓マヒを起こした」などと虚偽発表。この局面を切り抜けようとする。 しかし、ソウル地検公安部のチェ検事(ハ・ジョンウ)は、拷問死を疑って早々の火葬を阻む。司法解剖は行われたものの、チェ検事は政権からの圧力で、職を解かれる。 チェは秘かに、解剖の検案書を新聞社に提供。学生の死因がスクープされ、デモは一段と激しさを増す。同時に政権側の弾圧も、日々強まっていく。 刑務所の看守ハン・ビョンヨン(演:ユ・ヘジン)は、“民主化勢力”を支援。逮捕されて獄中に居るメンバーと、指名手配中の運動家キム・ジョンナム(演:ソル・ギョング)との連絡係を務めていた。 そんな彼の姪ヨニ(キム・テリ)は、政治に関心がなく、「デモをしても何も変わらない」と考える女子大生。しかし同じ大学で運動に励むイ・ハニョル(演:カン・ドンウォン)と出会い、彼の誘いであるビデオを見て、衝撃を受ける。それは全斗煥が権力を掌握する過程で民衆の虐殺を行った、1980年の「光州事件」を映したものだった。 折しも叔父のビョンヨンが逮捕され、ヨニの意識も大きく変わっていく…。 ***** 1987年当時、日本の大学生だった私は、韓国での“学生運動”の報道に日々接して、いっぱしの興味は持っていたつもりだった。しかしいま振り返れば、「一昔前の日本の“全共闘”みたいだな~」というボヤけた感想しか持ってなかったように思う。 それを30年後、こんな苛烈且つ劇的な“エポック”として見せられ、大きく感情を揺り動かされるとは!それと同時に、現在の韓国映画の“力”というものを、改めて思い知らされた。リアルタイムで時の権力に抗うかのような内容を、“オールスター・キャスト”で映画化するという行為に、深く感銘を受けたのである。 本作の製作が軌道に乗ったのは、朴槿恵政権に崩壊の兆しが見えた頃からと、先に記した。しかしそれ以前の段階で、チャン・ジュナン監督のプロジェクトに賛意を示し、出演の意志を示したスター達が居た。 まずは、カン・ドンウォン。『カメリア』(10)で組んで以来の飲み仲間だったチャン監督が脚本を見せると、「これは作るべき映画だ」と、イ・ハニョルの役を演じることを、自ら志願したという。 チャン監督の前作『ファイ 悪魔に育てられた少年』(13)の主演だったキム・ユンソクも、いち早く出演を決めた1人。『ファイ』に続いて「また悪役か」と、ユンソクは冗談ぽく不満を言いながら、脱北者から方言を習うなど熱心に役作りを行った。また実在のパク所長に似せるため、前髪の生え際をあげ、顎下にマウスピースを入れたりなどの工夫を行った。 カン・ドンウォン、キム・ユンソクという2人を早々に得たことが、キャスティングに弾みをつけた。そして、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、ソル・ギョングといった、韓国を代表する、実力派のスターたちの出演が次々と決まっていく。 主要な登場人物の中ではただ一人、実在のモデルが居ないヨニ役を演じたのは、キム・テリ。チャン監督は、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』(16)を観て、彼女の演技の上手さに注目。実際に会ってみて、「ヨニにぴったり」と、オファーを行った。 実は劇中でヨニを目覚めさせるきっかけとなる出来事には、監督自身の1987年の経験が投影されている。当時韓国南西部・全州の高校生だった監督は、ある日友人から、「学校の近くで珍しいビデオの上映会がある…」と誘われた。そこで上映されたのは、丸腰の市民が、軍の銃弾によって次々と倒れていく映像だった。 これは、その7年前の「光州事件」の現場で、ドイツ人記者が捉えたもの。その取材の経緯は、奇しくも本作と同年公開となった、『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17)で描かれているが、17歳のチャン・ジュナンにとって、とにかくショッキングな映像体験だった。 チャン監督は、混乱した。自分の住む街からほど近い光州で、そんな悲劇が起こっていたのを、知らなかったことに。そして大人たちが、その事実を一切語らないことに。 この“混乱”が本作では、ヨニの感情の動きとして再現されているわけである。 監督は当時、大学生による大規模なデモをよく目にしていた。時には警察が放った催涙ガスの煙が、授業中の高校の教室に、入ってくることもあったという。 そんなタイミングで、道徳の時間に討論が行われた。「デモは悪いことだ」という方向に導かれる中で、チャン監督は勇気を振り絞って、“大学生がデモをするのには理由があるのではないか”と疑問を投げ掛けた。その瞬間彼は、教師に睨みつけられるのを感じた。 1987年のこれらの経験が、本作を実現する“種”になったのかも知れない。監督は、そう述懐している。 本作で描かれた「1987年の民主化運動」によって、韓国の民衆は、傷つきながらも“民主主義”という果実を得た。それが巡り巡って2017年、文化をも弾圧する朴槿恵の腐敗政権は、新たに立ち上がった民衆によって打倒される。 機を同じくして、一時危ぶまれた本作の製作が実現に至ったわけだが、公開後、「1987年の民主化運動」に参加した女性が、娘と共に本作を鑑賞した話が、監督の元に伝わってきた。映画が終わった後、娘は涙を流しながら、「お母さん、ありがとう」と、母を抱きしめたという。 また、こんなレビューも寄せられた。「朴槿恵政権がなぜ文化界を統制しようとしたのか、この映画を見てわかりました。それは映画が与える力がいかに大きいかということを感じたからです」。『1987、ある闘いの真実』は、まさにこうした“力”を持った作品なのである。■ 『1987、ある闘いの真実』© 2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2024.09.30
「すべて本当にあったこと」を描いた、ロマン・ポランスキー畢生の傑作は今…。『戦場のピアニスト』
実話ベースの本作『戦場のピアニスト』(2002)の原作本に、ロマン・ポランスキーが出会ったのは、1999年のこと。パリで監督作『ナインスゲート』がプレミア上映された際に、友人から渡されたのである。 一読したポランスキーは、長年待ち望んだものに出会った気持ちになった…。 ***** 1939年9月、ポーランドの著名な若手ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンはいつものように、首都ワルシャワのラジオ局でショパンを演奏していた。しかしその日、ヒトラー率いるナチス・ドイツが、ポーランドに侵攻。シュピルマンの人生は、大きく変転する。 老父母や弟妹など、家族と暮らしていたシュピルマン。ユダヤ系だったため、街を占領したドイツ軍の弾圧対象となる。 ナチスがポーランド各地に作ったユダヤ人ゲットーへの移住が命じられ、住み慣れた我が家から強制退去。移った先では、ドイツ兵による“人間狩り”や“虐殺”が横行する。 42年8月、ゲットーのユダヤ人たちの多くが、強制収容所に送られることになった。しかし列車へ乗り込まされる直前、シュピルマンは、ユダヤ系ながらナチスの手先となった友人から、家族と引き剥がされ、この場を去るように促される。 家族で唯一人、収容所行きを免れたシュピルマンは、ゲットーに戻り、肉体労働に従事。このままではいつか命を落とすと考え、脱出を決行する。 ナチスに抵抗する、旧知の人々らの協力を得て、隠れ家を移りながら、命を繋ぐ。 44年、ワルシャワ蜂起が始まり、戦場となった街が、灰燼と帰していく。そんな中で必死に生き延びようとする、シュピルマンの逃走が続く…。 ***** 33年パリで生まれたポランスキーは、3歳の時に、家族でポーランドに移り住んだ。青年時代にウッチ映画大学で監督を志し、やがて長編第1作『水の中のナイフ』(62)で、国際的な評価を得る。 その後は海外へ。イギリスで、『反撥』(65)『袋小路』(66)『吸血鬼』(67)を成功させると、ハリウッドに渡って『ローズマリーの赤ちゃん』(68)を監督。更に声価を高めた。 しかし69年、妊娠中だったポランスキーの若妻シャロン・テートが、カルト集団に惨殺されるという悲劇に見舞われる。強いショックを受けた彼は、一時ヨーロッパへと移るが、『チャイナタウン』(74)の監督依頼を受けて、アメリカに戻る。 ところが77年、ポランスキーは13歳の少女を強姦するという事件を起こし、アメリカ国外へと逃亡。以降は主にフランスをベースに、監督作品を発表し続けている。 紆余曲折ある彼の監督人生の中で、ずっと胸に抱いていたこと。それは、いつかポーランドの「痛ましい時代の出来事を映画化したい」という思いだった。 ユダヤ系であるポランスキーは、ナチスの占領下で過ごした少年時代に、ゲットーでの過酷な暮らしを経験。その後両親と共に、強制収容所へ送られそうになる。寸前に、父の手で逃がされた彼は、終戦を迎えるまで、幾つもの預け先を転々とすることになった。 戦後になって、父とは再会。しかし母は、収容所で虐殺されていた…。 自分が経験した、そんな時代に起こった事々を作品にしたい。しかしながら、自伝的な内容にはしたくない…。 ポランスキーは、スティーヴン・スピルバーグから、『シンドラーのリスト』の監督オファーを受けながら、断っている。その舞台となるクスクフのゲットーが、実際に自分が暮らした地であり、描かれることが、自身の体験にあまりにも近かったためだ。「ふさわしい素材」を得て、「映画監督として、しっかりとした」ヴィジョンを持って臨まねばならない。そう心に秘めて待ち続けたポランスキーが、60代後半になって遂に出会ったのが、ウワディスワフ・シュピルマンの回想録である、「戦場のピアニスト」だったのだ! ポランスキー曰く、シュピルマンの体験と自分の間に、「ほどよい距離があった」。自分の住んでいた街とは舞台が違い、自分が知っている人間は、誰1人登場しない。それでいながら、「自分の知る事柄が書かれていた」。自らの体験を活かしつつも、客観的な視点で物語を紡ぐのに、これほど相応しいと思える原作はなかったのである。 シュピルマンの著書は、「ぞっとさせられる反面、その文章には前向きなところもあり、希望が満ちていた」。また、「加害者=ナチス/被害者=ユダヤ人」という単純な図式に陥ることなく、シュピルマンの命を救うのが、同胞から恐れられていた裏切り者のユダヤ人だったり、ナチスの将校だったりする。ナチスにも善人が存在し、ユダヤ人にも憎むべき者がいたという、原作の公平な視点にも、いたく感心したのだった。 ポランスキーは、戦後はポーランド音楽界の重鎮として後半生を送っていたシュピルマン本人と面会。映画化を正式に決めた。残念ながらその翌2000年、製作の準備中に、シュピルマンは88年の生涯を閉じたのだが…。 ポランスキーが、ポーランドで映画を撮るのは、『水の中のナイフ』以来、40年振り。資金はヨーロッパから出ており、アメリカの俳優は使わないという条件だった。 それでいながらセリフは英語とするため、ロンドンでオーディションを行うことになった。1,400人もの応募があったが、ポランスキーはその中からは、“シュピルマン”を見つけることはできなかった。 結局ポランスキーが白羽の矢を立てたのは、アメリカ人俳優。1973年生まれで、まだ20代後半。ニューヨーク・ブルックリン育ちのエイドリアン・ブロディだった。 シュピルマンに、風貌が似ていたわけではない。しかしポランスキーはブロディの出演作を数本観て、「彼こそ“戦場のピアニスト”」と思ったのだという。ポランスキーが「思い描いていた通りの人物になりきることのできる」俳優として、ブロディは選ばれたのである。 アメリカ人のブロディを起用するため、スポンサーを説得するのには、1カ月を要した。その上で、製作費の減額を余儀なくされた。 そこまでポランスキーが執心したブロディは、本作以前にスパイク・リーやケン・ローチなどの監督作品で主要な役を演じながらも、まだまだ新進俳優の身。ポランスキーの心意気に応え、戦時に大切なものをことごとく失ったシュピルマンになり切るため、住んでいたアパートや車、携帯電話など、すべてを手放して、単身ヨーロッパへと渡った。 ブロディの父は、ポーランド系ユダヤ人で、ホロコーストで家族を失った身。母は少女時代、ハンガリー動乱によって、アメリカに逃れてきた難民だった。ブロディ家では子どもの頃から、戦争のことやナチスの残虐さが、いつも話題になっていた。 クランク・インまでの準備期間は、6週間。部屋に籠りきりで行ったのは、まずはピアノの練習。少年時代にピアノを習った経験が役立ったものの、毎日4時間ものレッスンを受けた。 同時に進められたのが、ダイエット。摂取するものが細かく指示されて、体重を10数㌔落とした。撮影中に遊びに来たブロディのガールフレンドが、彼を抱き上げてベッドに運べるほど、瘦身になったという。 他には、ヴォイストレーニングや方言の練習、演技のリハーサルが繰り返される毎日を送った。 本作でもう一方の“主役”と言えるのが、1939年から45年に掛けての、ワルシャワの市街。しかしゲットーの在った地をはじめ、ほとんどの場所は戦後に再建されており、撮影に使えるような場所は、ほとんど残っていなかった。 そのためポランスキーは、広範なリサーチと自分自身の記憶を頼りに、美術のアラン・スタルスキと共に、ワルシャワとベルリン周辺で、数ヶ月のロケハンを敢行。本作の100を超える場面に必要な撮影地を、探し回った。 最終的には、ベルリンの撮影所の敷地内に、ワルシャワの街並みを建造。また、同じくベルリンに在った、旧ソ連兵舎を全面的に取り壊して、広大な廃墟を作り上げた。これは、全市の80%が壊滅したと言われるワルシャワ蜂起の、すさまじい戦禍を再現したものだった。 本作の撮影は、この廃墟が雪に覆われたシーンからスタートした。ブロディ演じるシュピルマンが、壁を上って、その向こう側に行くと、どこまでも荒涼たる光景が広がっている。「これが自分の住む街だったら」と思うと、ブロディは自然に涙がこぼれたという。 ワルシャワでは、屋内・屋外ロケを敢行。様々なシーンの撮影を行った。 ロケ地探しで至極役立った、ポランスキーの記憶力。ナチの軍服や兵士たちの歩き方、ゴミ箱の大きさに至るまで、当時の再現に、大いに寄与した。記憶でカバーできない部分は、終戦直後の46年に書かれた、シュピルマンの原作に頼った。 戦時のワルシャワで起こった様々な事件を再現するためには、多くのリサーチが行われた。クランク・イン前には、歴史家やゲットーの生存者の話を聞き、スタッフには、ワルシャワ・ゲットーについてのドキュメンタリーを何本も観てもらった。 ポランスキーは本作に、当時彼自身が体験したことも、織り込んだ。その一つが、シュピルマンが、収容所に送られていく家族からひとり引き離されるシーン。 原作ではシュピルマンは、その場から走って逃げたと記している。しかしポランスキーは、歩いて去るように、変更した。 これはポランスキーがゲットーを脱出した際に、ドイツ兵に見つかった経験が元になっている。そのドイツ兵はみじろぎひとつせずに、「走らない方がいい」とだけ、ポランスキーに言った。走るとかえって、注意を引いてしまうからである。 そんなことも含めて、本作で描かれているのは、「すべて本当にあったこと」だった。 撮影は、2001年2月9日から半年間に及んだ。その期間中、ポランスキーは当時の辛かった思い出の“フラッシュバック”に、度々襲われることになる。しかし撮影前のリサーチ段階での苦痛のほうが大きかったため、憔悴するには至らなかった。 本作のクライマックス。シュピルマンが隠れ家とした場所でナチスの将校に見つかり、ピアニストであることを証明するためピアノを演奏する、4分以上に及ぶシーンがある。 こちらはドイツのポツダムに在る、住宅街の古い屋敷でのロケーション撮影。画面から伝わってくる通りの寒さの中で、カメラが回された。 スタッフが皆、分厚いコートを来ている中で、ブロディは着たきりのスーツだけ。しかし監督は画作りのため、すべての窓を開け放しにした。ブロディは死ぬほどの寒さの中で、演技をしなければならなかった。 このシーンに登場する、トーマス・クレッチマンが演じるドイツ国防軍将校の名は、ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉。シュピルマンを連行することなく、隠れ家の彼に食事や外套を提供して、サバイバルを手助けする。 本作で詳しく描かれることはなかったが、実在したこの大尉は、ナチスの方針に疑問を抱き、迫害に遭ったユダヤ人らを、実は60人以上も救っている。シュピルマンを助けたのは、偶然や気まぐれではなかったのである。 不運にも彼はワルシャワから撤退中に、ソ連軍の捕虜となった。そしてシベリアなどの捕虜収容所に、長く拘置されることになる。 シュピルマンは戦後、自分を助けてくれたドイツ人将校を救おうと、手を尽して行方を捜索。収容所に居ることがわかると、当時はソ連の衛星国家だった、ポーランドの政界に解放を働きかけた。しかしホーゼンフェルトが自由の身になることはなく、52年に心臓病のため57歳で獄死してしまう…。 さて6ヶ月間、本作に打ち込んだエイドリアン・ブロディは、シュピルマンの“孤立感”を体感しようと試み、飢えをも経験する中で、感じ方や考え方に変化が生じた。そのため撮影が終わってから、何と1年近くも、鬱状態から抜け出せなかった。 一方でブロディは、本作に出たことによって、俳優としての自分がやりたいことが何なのか、はっきりと自覚することができたという。 ちなみにブロディがレッスンを経て、楽譜を見ずにピアノを弾けたようになったことを、ピアノ教師が絶賛。この後も続けるように勧められたが、本作が撮了するとモチベーションを保てず、やめてしまったという。 監督のポランスキー、主演のブロディが報われたのは、まずは2002年5月の「カンヌ国際映画祭」。そのコンペ上映で15分間のスタンディング・オヴェーションを得て、最高賞のパルムドールに輝いた。そして翌03年3月には「アカデミー賞」で、ポランスキーに“監督賞”、ブロディに“主演男優賞”が贈られた。 それまでは、“鬼才”という呼称こそがしっくりくる感があったポランスキー。件の事情で国外逃亡中の身だったため、オスカー授与の場に立つことはなかったが、本作『戦場のピアニスト』によって、紛うことなき“巨匠”の地位を得たのである。 しかしそれから歳月を経て、90を超えたポランスキー、そして本作への評価も、今や安泰とは言えない。 2017年に大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる数多くの性加害が告発されて以降、大きな高まりを見せた#MeToo運動。その文脈の中では、少女を強姦してアメリカ国外へ逃亡したポランスキーの、“巨匠”としての地位も、揺るがざるを得ない。 ポランスキーに性的虐待を加えられたと告発する者は、他にもいる。アカデミー賞受賞後、彼のアメリカ入国を認めさせようという機運が一時高まったが、もはや取り沙汰されることはない。 そして現在、イスラエルが、ガザ地区で戦争を続けている。 ナチスに母を、カルト集団に妻子を奪われた“被害者"である一方、レイプで女性の人生を狂わせた“加害者”であるポランスキー。 ナチスのジェノサイドの犠牲者であるユダヤ民族が作った国家イスラエルは、国際的な批判の高まりを無視して、パレスチナの民への攻撃を行っている。『戦場のピアニスト』は、製作から20年以上経った今観ても、衝撃的且つ感動的な作品である。ポランスキーが意図した通り、「ナチス=悪/ユダヤ=善」という単純な図式を回避したからこその素晴らしさがある。 しかしながら、2024年の今日。そんな作品だからこそ、複雑な気持ちを抱きながら観ざるを得なくなってしまったのも、紛れもない事実である。■ 『戦場のピアニスト』© 2002 / STUDIOCANAL - Heritage Films - Studio Babelsberg - Runteam Ltd