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COLUMN/コラム2024.03.08
ディカプリオが惹かれた「謎の大富豪」。若きハワード・ヒューズの20年を描く。『アビエイター』
「謎の大富豪」。 1976年、ハワード・ヒューズ70歳での訃報に直に触れたことのある者は、こんなフレーズを、やたらと耳にした記憶があるかと思う。 1958年の公式インタビューを最後に、亡くなるまでの20年近くは、マスコミから姿を隠し、ラスベガスのホテルに独居。立退きを迫られると、そのホテルごと買収して、ほとんど外出せずに暮らし続けたという。 遺された総資産が360億㌦にも上り、「謎の大富豪」のフレーズがあまりにも立ち過ぎた故、私などは彼の業績や実績を、かなり後年までほとんど知らなかった。“発明家”“飛行家”そして“映画製作者”として名を馳せたという事実を。 190cmと高長身で、ハリウッドスター並みの容貌。ひとつの人生で何人分もの体験をして、多くのことを成し遂げたヒューズには、「20世紀で最高に寛大な金持ち」「身勝手な人」など、正反対の評価が付いて回る。 そんなヒューズの人生に、魅せられた男がいた。レオナルド・ディカプリオだ。 1974年生まれの彼は、『ギルバート・グレイプ』(1993)で、19歳にしてアカデミー賞助演男優賞の候補となり、『タイタニック』(97)で、押しも押されぬ若手のTOPスターとなる。 彼がヒューズに興味を持ったのは、10代の頃。この「謎の大富豪」を、正面切って描いた伝記映画は、長く存在しなかった。そしてディカプリオは、20代の8年間、ヒューズの人生を映画化するプロジェクトに心血を注いだのである。 ヒューズは、“飛行機”と“映画”と“女性”に、同じような情熱で関わったという。ディカプリオはその伝記を何冊も読み、様々な書き手が、各々違う見方で彼について書いているのを発見。一言では言い表せない複雑な人間だからこそ、こんなにも惹かれるのだと、得心した。そこに俳優としてのやりがいを強く感じると同時に、自分とヒューズの共通点が、「完璧への執着」であることを見出したという。 ディカプリオは、製作会社「アピアン・ウェイ」を設立。その第1作としてこの企画を取り上げ、自らは製作総指揮と主演を務めることにした。 タイトルは、“飛行家”という意味の“アビエイター”に。そして監督は、マーティン・スコセッシに決まる。 スコセッシとディカプリオは、前作『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)に続く顔合わせ。…と言うよりも、本作『アビエイター』(2004)は今日に於いては、『キラー・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)まで6作に及ぶ名コンビの、2作目という位置付けになるのだろうか? しかしスコセッシの起用は、当初はディカプリオの頭にはなく、スコセッシ自身も、“ハワード・ヒューズ”という題材には、まったく興味がなかったという…。 ***** 1920年代。ヒューズは父から受けた莫大な遺産を元手に、夢のひとつ“映画製作”を開始。念願の企画だった航空アクション映画『地獄の天使』製作で、本物の戦闘機を買い集め、自ら空中スタントをこなし、ついには監督まで務めることとなった。この作品は、2年近く掛けてようやくクランクアップ。しかしトーキー映画第1作『ジャズ・シンガー』を観たヒューズは、サイレント映画だった『地獄の天使』を、全編音声入りで撮り直すことを決めた。 史上空前の莫大な予算を掛けて3年がかりで完成した『地獄の天使』は大ヒット。しかし大赤字に終わる。 ヒューズはもう一つの夢だった、“航空事業”に着手。会社を立ち上げ、世界一速い飛行機の開発を始めた。 女性と次々と浮名を流していたヒューズは、新進女優のキャサリン・ヘプバーンと恋に落ちる。2人は真剣だったが、やがてズレが生じ、破局が訪れる。 以前から潔癖症の傾向があったヒューズの病みは深まり、強迫神経症の症状が顕著となる。一時は服を着ることも水に触れることも出来ず、全裸のまま暮らし、他人との接触や外出を、恐怖と感じるようになった…。 その後ヒューズは、大手航空会社「TWA=トランス・ワールド航空」のオーナーとなる。第二次大戦開始後には、政府からの資金を受けて、世界最大の輸送機の開発を進める。同時に偵察機を開発し、自らテスト飛行を行うが、墜落事故で瀕死の重傷を負う。 復帰後の彼を襲ったのは、開発が遅れていた輸送機に関し、公費の不正使用を疑うFBIの強制捜査だった。公聴会でライバル企業の息が掛かった上院議員と対決することとなったヒューズは、精神状態が著しく悪化。試写室に全裸で引き籠もって、絶体絶命のピンチを迎えた。 元恋人の女優エヴァ・ガードナーのサポートで、ヒューズは公聴会に何とか出席する。果して彼は、この難局を乗り切れるのか!? ***** 構想から実現までの8年間、ディカプリオはヒューズの伝記をはじめ、関係する本や資料を読み漁った。更には録音テープを聴き、古い映画を何本も鑑賞。その上で、ヒューズと交際していた女優も含め、彼を直接知る人々に会うなど、「ハワード・ヒューズとして」生活するところから、役作りを始めた。 ヒューズ流の、向こう見ずな“飛行術”を学んだのも、その一環。ヒューズが悩まされていた、異常な潔癖症の実際を知るためには、この病気に詳しい医者を訪ね、症状を詳しくリサーチした。“映画化”まで時間が掛かった分、ディカプリオは十分な準備ができたとも言える。 監督は、『ヒート』(95)や『インサイダー』(99)のマイケル・マンに依頼。そのマンを通じて脚本は、『グラディエーター』(2000)や『ラスト サムライ』(03)のジョン・ローガンにオファーした。 ディカプリオとマンは、ヒューズの全生涯を追ったり、狂気に侵された晩年を描いたりするのではなく、彼の若い頃に焦点を当てることにした。奇行で有名な「謎の大富豪」ではなく、“航空機”と“ハリウッド”の両方の世界で大活躍する、過激なほどの想像力と先見性を兼ね揃えた、精力的で若々しい“英雄”としての、ハワード・ヒューズである。 物語の核には、大きな2つの出来事を、据えることを決めた。それは、ヒューが20代後半に挑んだ、『地獄の天使』製作、そして1940年代、ヒューズ率いる「TWA」が、国際航空会社大手として出現した絶頂期である。本作は、「いくつかの出来事を凝縮させたり、順序を変えたり、登場人物を組み合わせたりしつつも、出来るだけ真実に近いもの」を作り出す試みだった。 そんなヒューズの20年間に焦点を当てた物語の幕を引くのは、“1947年”。ヒューズにとっては「晩年の第一歩目」とも言うべき年だったと、マンが決めたのである。 しかしマンは中途で、本作に関して監督はせず、製作に専念することとなった。では誰が、監督に適任か? 本作の脚本を、スコセッシに読むよう薦めたのは、彼のエージェント。誰が関わっている企画かは、一切隠してのことだった。実はこのエージェントは、当のディカプリオの担当も、兼ねていた スコセッシはちょうど、『ギャング・オブ・ニューヨーク』の編集で忙しかった頃。しかし渡された脚本に目を通すと、あっという間に、頁をめくるのに夢中になったという。 スコセッシがそれまでヒューズに興味を持たなかったのは、「奇人変人の類かと思っていた」という、お定まりの理由だった。そんな彼が脚本を読んで最も興味深いと思ったのは、「すごくハンサムで活力に満ちた頭の切れる若者が、自分自身の欠点に苦しむ男になった」という部分だった。 スコセッシは、監督兼プロデューサーとして渾身の力を籠めた、『ギャング・オブ・ニューヨーク』の次に手掛ける作品は、彼のフィルモグラフィーで言えば、『ハスラー2』(86)や『ケープ・フィアー』(91)のような作品と考えていた。即ち、自分が出した企画ではなく、監督として依頼された、雇われ仕事である。 そんなタイミングで、本作の企画が持ち込まれた。スコセッシは、「ハリウッドの20年代、30年代、40年代、まさにアメリカン・ドリームの一部だった頃を再現できるという魅力」に抗えず、受けることを決めた。 スコセッシは、監督に決まると、ローガン、ディカプリオと3人で、ストーリーの微調整を行った。数多くの女性と浮名を流したヒューズだが、その内の2つの恋を、最も重要だったものとしてピックアップすることに決めたのである。 それはキャサリン・ヘップバーン(1907~2003)、エヴァ・ガードナー(1922~90)という、2人のハリウッド女優との恋愛。実在の2人を演じるは、2人のケイト。ケイト・ブランシェットとケイト・ベッキンセールである。 その中でも本作で印象深いのは、ブランシェット演じる、キャサリン・ヘップバーン。ヘップバーンとヒューズには、多くの共通点があり、共に凄い野心家であったことが描かれている。 奇しくも“ケイト”という愛称だったキャサリン・ヘップバーン役を、ケイト・ブランシェットにオファーすることが決まったのは、「ゴールデン・グローブ賞」の授賞式だったという。その席でブランシェットを見たスコセッシの妻が、彼に耳打ちした。「ほら、あなたのキャサリン・ヘップバーンが見つかったじゃない」。スコセッシも、「その通りだ!」と答えたという。 オファーを受けたブランシェットは、「…正直言ってマーティン・スコセッシが監督でなかったら、こんなことやってみようとは思わなかった」という。それはそうだろう。キャサリン・ヘップバーンは、アカデミー賞主演女優賞を史上最多の4度受賞し、誰からも尊敬されている大女優。しかもこの作品の製作が本格化した頃は、存命であった。 ブランシェットは、役を外見ではなく、エネルギーの部分から自分のものにしていった。具体的には、ヘップバーンの声をよく聞いた。人がどう呼吸するかは、その人の考え方を表現する大切な要素だからである。 スコセッシ流のサポートは、シネフィルの彼らしく、“映画上映”だった。ブランシェットの移動場所に合わせて、ヘップバーンの昔の主演作=1930年代の作品を、大きなスクリーンに映し出すよう、計らったのだった。 余談になるがヘップバーンは、血液の循環が良くなるという、冷水のシャワーを浴びる習慣があった。そこでブランシェットも役作りとして、冷たいシャワーを浴びることにした。しかしこれは続かず、すぐに温水に切り替えたそうである。 1920年代から40年代という時代を再現するのに力を発揮したのは、衣裳や美術、撮影といったスタッフ陣。衣裳デザインのサンディ・パウエルは、最高に洗練された当時の豪華ファッションを再現した他、ヒューズの着こなしの変化を表現した。 撮影監督のロバート・リチャードソンは、ナイトクラブなどの実物大のセットを組む、美術のダンテ・フェレッティと、綿密に打合せ。また飛行シーンの視覚効果チームとも話し合って、色合いやカメラワークなどの同調も行った。 リチャードソン、フェレッティ、パウエルの3人は、スコセッシの相方とも言うべき、編集のセルマ・スクーンメーカーと共に、アカデミー賞が贈呈されるという形で、報われた。2004年度のアカデミー賞では本作に、その年最多の5部門が贈られたのだ。 しかし当然のように狙っていた、作品賞や監督賞、主演男優賞は、ノミネート止まり。この年度のアカデミー賞を制したのは、4部門の受賞ながら、作品賞、監督賞などに輝いた、クリント・イーストウッド監督・主演の『ミリオンダラー・ベイビー』だった。 5度目のノミネートにして、またも受賞できなかった“監督賞”のオスカーを、スコセッシが手にするのは、6度目の正直。2006年の『ディパーテッド』。 一方ディカプリオが主演男優賞を手にしたのは、本作から10年以上経った2015年の『レヴェナント: 蘇えりし者』。主演・助演合わせて、奇しくもスコセッシと同じ、6度目でのノミネートでの受賞となった。 本作に於いて、ある意味最もチャレンジャーで、しかも大勝利を収めたのは、ケイト・ブランシェットだったと言えよう。ほとんどの人が実物を知らないハワード・ヒューズと違って、誰もが知っていた稀代の名優キャサリン・ヘップバーンを演じて、初めてのオスカー=アカデミー賞助演女優賞を手にしたのだから。■ 『アビエイター』© 2004 IMF. 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COLUMN/コラム2023.06.21
デップとディカプリオ、美しき兄弟“黄金の瞬間”を名匠ハルストレムが紡ぐ『ギルバート・グレイプ』
スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム(1946年~ )は、70年代中盤に監督デビュー。ワールドワイドな人気を博した、自国の音楽グループABBAのコンサートを追ったセミドキュメンタリー『アバ/ザ・ムービー』(77)でヒットを飛ばしたが、より大きな注目を集めたのは、1985年製作の『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』だった。 1950年代後半を舞台に、母の結核が悪化したために田舎の親戚に預けられた、12歳の少年の1年を描く。主人公を悲劇的な境遇に置きながらも、その成長をユーモラスにスケッチしたこの作品の人気は、自国に止まらなかった。 当時「アメリカで最もヒットした外国語映画」となり、ゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞を受賞。またアカデミー賞でも、監督賞と脚本賞にノミネートされ、ハルストレムがハリウッドに招かれるきっかけとなった。 アメリカでの第1作『ワンス・アラウンド』(90/日本未公開)を経て、ハルストレムが取り組んだのが。本作『ギルバート・グレイプ』(93)である。 ハルストレムがプロデューサーに、「やっと見つけたよ」と伝えたという、この物語。「悲劇と喜劇がうまくミックスされていて楽しいけれど、どこか悲しい」まさに彼の求めていたものだった。 ピーター・ヘッジスによる原作小説が書店に並んで数日後に、ハルストレムは「映画化」のオファーを行った。そしてそれまで戯曲を中心に書いてきたヘッジスに、本作に関して、「絶対に脚本も書くべきだ」と勧めたのだという。原作の「…楽しいけれど、どこか悲しい」感じを、大切にしたかったのだろう。 ***** アイオワ州エンドーラ。人口1,000人ほどのスモールタウンに、24歳のギルバート・グレイプは暮らしていた。 大型スーパー進出の影響で客が来なくなった食料品店に勤務する彼の家族は、母と妹2人、そして末弟のアーニー。母は17年前に夫が自殺して以来引きこもりとなり、気付くと体重が250㌔を超え、この7年間は一歩も外出していない。 知的障害を抱えたアーニーは、生まれた時に10歳まで生きないと言われたが、間もなく18歳となる。時々町の給水塔に上っては、警察から注意されるのが、家族にとっては悩みの種となっていた。 エンドーラはシーズンになると、トレーラーを駆る多くの旅行者が通り掛かる。そのほとんどが素通りしていく中で、車が故障したために足止めを喰らったのが、祖母と旅をしているベッキーだった。 街の保険会社の社長夫人と不倫の仲だったギルバートだが、アーニーに対して偏見なく接するベッキーに、出会った時から心惹かれる。しかし車が直れば、彼女は居なくなってしまう…。 問題だらけの家族を棄てて、旅立つことなど決してできない。自分は「どこへも行けない」と思うギルバート。 そんな日々の苛立ちが爆発し、ある時アーニーの無邪気なふるまいに、つい手を上げてしまう。そのショックで家を飛び出したギルバートは、エンドーラから出て行こうとするのだが…。 ***** 典型的なアメリカのスモールタウンであるエンドーラは、架空の街。撮影はテキサス州のオースティンで、3ヶ月に渡って行われた。 主演のギルバート役に決まったのは、ジョニー・デップ。1990年に『クライ・ベイビー』で映画初主演を果たし、同年の『シザーハンズ』で大ヒットを飛ばして、スターの仲間入り。『アリゾナ・ドリーム』『妹の恋人』に続く主演作として本作を選んだのは、ハルストレムの監督作ということが、大きかった。 デップはフロリダの南東にある、小さな町ミラマーで育った。デップの両親は、幼い頃に離婚。彼は憔悴する母親を気遣って、父親から送られてくる小切手を、受け取りに行っていた。 そんな彼にとって、母親と知的障害の弟の面倒を見るギルバートは、自分に近く、役作りは楽だったという。 デップはギルバート役について、こんな風に解釈していた。環境のせいで夢見ることをあきらめてきたが、心の奥に何かを秘めている。何もかも投げ捨てて、そこから逃れ、新しい人生を始めたいという強い思いを持ちながらも、いつの日からか自分を殺すようになっていった。その歪みによって、ある時に愛と献身は怒りと罪悪感に変わって、遂には自分自身を見失ってしまう…。 ギルバートと重なる部分が多かったことが、撮影中逆にデップを苦しめることになる。当時彼が抱えていた、私的な問題と相まって…。 ギルバートと恋に落ちるベッキー役には、ジュリエット・ルイス。ハルストレムは、マーティン・スコセッシ監督の『ケープ・フィアー』(91)で彼女を観た時から、いつか仕事をしたいと考えていた。そしてルイスも、「監督がラッセ・ハルストレムなら…」と、オファーを快諾した。 アーニー役に選ばれたのは、レオナルド・ディカプリオ。14歳から子役の活動を始めたディカプリオは、本作に先立つ『ボーイズ・ライフ』(93)に、ロバート・デ・ニーロ直々の指名を受けて出演。その演技が高く評価された。 ハルストレムはアーニー役に関しては、「実はあまりルックスがいいとは言えない役者を探していたんだ」と語っている。ところがオーディションに集まった役者の中で、ピンと来たのが、ディカプリオだった。 ディカプリオはそのオーディションで、「一週間で役作りする」と宣言。アーニーと同じようなハンディキャップを持った人々と数日間一緒に過ごし、彼らの雰囲気を摑んだ。更に本を読んだり、ビデオを撮って仕種などを研究した。その上で、自分の想像をミックス。顔の表情を作るため、口に特製のマウスピースを入れて、アーニー役を作り上げた。 ハルストレムはそもそも、「俳優の創造力を助けるのが監督の仕事」という考え方の持ち主。ディカプリオのやることをいちいち気に入って、自由にやらせたという。 ハルストレム言うところの「知的な天才」ディカプリオは、カメラが回ってない時でも、アーニー役が抜けず、木に上ったり水をかけたりして、スタッフを困らせた。あまりにハイになり過ぎて、ハルストレムに嘔吐物をかけてしまったこともあったという。 そんな彼と兄役のデップの関係は、ディカプリオ曰く「…優しくて、僕のことをいつも笑わせてくれた」。実年齢では11歳上のデップと、本当の兄弟のような関係が築けたという。 劇中でアーニーは、嫌なことがあると、顔をクシャとさせる。その表情が気に入ったデップは、ギャラを払っては、ディカプリオに腐った卵やソーセージの酢漬け、朽ちた蜂の巣などの匂いを嗅がせては、その演技をさせるという遊びを行った。ギャラの合計は、500ドルほどに達したという。 因みに撮影中は、共演者とはあまりフレンドシップを結んだりはしないというジュリエット・ルイスだったが、彼女は『ケープ・フィアー』で、ディカプリオは『ボーイズ・ライフ』で、それぞれロバート・デ・ニーロの洗礼を浴びた同士。ディカプリオには、「あんたは私の男版よ」と、親しみを示したという。 奇しくもジュリエット・ルイスが、『ケープ・フィアー』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされてブレイクを果したのと同様、ディカプリオは本作でオスカーの助演男優賞候補となり、大注目の存在となっていく。 ディカプリオが本作の中で、「特別に好き」というのが、母役のダーレン・ケイツとのシーン。主演のデップも、ケイツの演技と人柄には、深く感動を覚えたという。 実際に250㌔を超える身体の持ち主であるケイツは、本作が初めての演技だった。92年に出演したTVのトーク番組で、“肥満を苦にしての外出恐怖症”で5年間家から出なかった経験を語ったのを、原作&脚本のピーター・ヘッジスに見出されての抜擢だった。 彼女が出演をOKしたのは、肥満の人々がどれだけの偏見や残酷な眼差しにさらされているかを、伝えたいという考えから。「この映画で人々がより寛大になってくれれば嬉しい」と語る彼女の勇気に、デップは感銘を受けたのだった。 さてそんなデップは、義歯を入れて、長髪をさえない赤に染めて、ギルバート役に挑んだ。先に記した通り、「まともじゃない家族とその面倒を見るギルバート」のジレンマに痛いほど共感できたのが一因となって、撮影中は鬱状態。眠らず食事を摂らず、ひらすら酒を飲み煙草を吸い続けていた。またこの頃は、ドラッグに最もハマっていた時期だったという。 デップの問題は、役への共感だけではなかった。長く恋愛関係にあった女優のウィノナ・ライダーとの仲が、ちょうど暗礁に乗り上げた頃だった。 そんなこんながあって、デップ個人にとっては、「…無意識のうちに自分を追い込んでいたのかもしれない…」本作の撮影現場は、決して楽しいものではなかった。作品が完成して公開されても、その後ずっと本作を観ることができなかったほどに。 そんな中でもハルストレムは、デップの心の拠りどころになった。デップはスウェーデン語を教えてくれと、せがんだという。 ハルストレムもデップに対しては、絶対的な信頼感を示した。「目で演技する若者で、その演技たるやとても繊細だから私が口を出す必要は全然ない」と考えて。 そうは言っても、やっぱり監督は監督である。ハルストレムは、ロケ地から役者の演技まで、確固たるイメージを持っていたため、何度もリテイクを重ねることもあった。「50テイク撮っても、使えるのはせいぜい2、3テイク目までだよ」と、デップが愚痴をこぼしたこともある。 そんな2人だったが、7年後に『ショコラ』(2000)で再び組んでいる。デップにとっては意外なオファーだったというが、ハルストレムにとってデップは、やはり得難い俳優だったということだろう。 ハルストレムは言う。「監督業の醍醐味は、カメラの前で何かを作り出すその瞬間生まれると思う。予想もしていなかったことがパッと起こり、真実に近いものができる。その黄金の瞬間がつぎつぎに生まれてくるのを見るとき、監督になって本当に良かった、と思う…」『ギルバート・グレイプ』は、まさにそんな瞬間が結実した作品である。若き日のデップやディカプリオの“美しさ”も楽しみながら、皆様もその目で確かめていただきたい。■ 『ギルバート・グレイプ』© 1993 DORSET SQUARE FILM PRODUCTION AND DISTRIBUTION KFT / TM & Copyright © MCMXCIII by PARAMOUNT PICTURES CORPORATION All Rights Reserved
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NEWS/ニュース2019.08.27
8/26(月)よりタランティーノ監督の解説付き番組を独占放送!タランティーノ&ディカプリオ初2ショット来日!「世紀のクーデターと思う!」
今夜、8/26(月)よりクエンティン・タランティーノ監督の解説付き番組をザ・シネマで独占放送!番組情報はこちら視聴するにはこちら クエンティン・タランティーノ監督とレオナルド・ディカプリオが8月26日、東京都内で開催された映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(8月30日公開)の来日記者会見に出席されました。タランティーノ&ディカプリオが揃っての来日は初となります!またプロデューサーのシャノン・マッキントッシュも登壇しました。最初の挨拶でタランティーノが妻の妊娠への祝福に受けて喜びを語り和やかに会見がスタート。ザ・シネマではQ&Aで記者会見をご紹介します!今夜の放送前にぜひ、ご覧ください。 Q:「なぜ、デカプリオ&ブラピをキャスティングしたのか?」 A:タランティーノ「二人がこのキャラクターたちにぴったりだったから。自分が選んだというより彼らがぼくを選んでくれたと思うんです。選んでくれたのはラッキーだったし、沢山送られてくる企画書の中からきっとぼくの脚本が上の方にあったのだと思うし、内容にも個人的にもこのキャスティングができたのが世紀のクーデターと思う!」 Q:「どのように準備したか?」 A:デカプリオ「たくさんの往年の俳優さんたちをリサーチして参考にした。監督はシネフィルで、ものすごい知識の宝庫だから、いろんな作品や俳優を紹介されたよ。ある意味、この映画は、ハリウッド映画界を祝福する作品でもあると思う。このリサーチは素晴らしい経験になった」と、語った。 (※そして、、デカプリオ!シャノンさんに質問ありますか?と記者へ促す紳士ぷりを発揮!!) Q:「撮影でのエピソードは?」 A:シャノン「タランティーノの作品は本当にマジカルなものがあります!まさにファミリー。非常に多くのインスピレーションを受けるのです。撮影の準備など映画の撮影がないときはタランティーノの歴史の授業がはじまっていろんなことを学べるわけです。誰よりも映画をしっていますから。彼のスタッフは他の映画を断ってでも彼の作品に参加したい。喜びとありますし彼の仕事ぶりをみて感じたのは喜びと素晴らしさです!」「テイクを取った後に、タランティーノがOKを出すけどもう一回とるときになぜとながら、全員で「だってみんな映画つくりがすきなんだ!」というのがお決まり。本心で言っている」と貴重なエピソードを披露。 Q、皆さんの身の回りに起こった奇跡はなんですか? A、タランティーノ:「仕事からではなく一人のアーティストして映画を9本の映画が作ることができて、日本にきても自分がだれだか知られていて、ビデオストアで働いていた自分をふりかえると一人のアーティストして自分のみちのりを前にすすむという形で物語と幸運だし、このことを絶対わすれないでいる」 デカプリオ:「ぼくはLAで育ちました。この業界を知っているのでどれだけ俳優でいるのが大変なことがわかります。世界中からこの夢をもってハリウッドにきます。中々夢をかなえられないのが現状だと思うのです。ラッキーにも子供のころからハリウッドにいて学校がおわってオーデションを受けにいく生活ができたんだ、今、仕事があり決定権や選択肢があるのは俳優として奇跡だと思います!日々感謝しています」 シャノン:「大好きな業界で大好きな仕事ができる、そしてこの生活に耐えてくれる夫がいて二人の息子がいることが奇跡だと思います!」 映画作成には沢山のリサーチをした語るタランティーノ。本作の8月30日の公開まえに今夜からスタートする番組を予習にぜひお楽しみください。 <映画> 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』8月30日(金)全国公開 <番組情報> ■8/26(月)放送!タランティーノ監督のコメント到着! 「新作の舞台となった60年代の名作の数々を紹介します。一緒にたのしみましょう!わたしの新作はまもなく公開です。ぜひ、劇場で」★『イージー・ライダー』(※コメント抜粋)「ほぼあらゆる点において、1960年代の映画の最も偉大な例かもしれない」★『…YOU…』 (※コメント抜粋)「大好きな作品!エリオット・グールドの大ファンなんだ!彼の最高傑作の1つだと思うよ。(監督の)リチャード・ラッシュは反体制側の描き方が見事だと思う。」★『ボブ&キャロル&テッド&アリス』(※コメント抜粋)「監督のポール・マザースキーは70年代のコメディー監督の中でも大好きな監督!1969年だからこそ撮れた作品だと思う。“What The World Needs Now Is Love” を歌っちゃうほどお気に入り!」続きは放送で!!!! ■ 「タランティーノ監督が選び語る映画たち!(前解説・後解説付き8作品)」と、ディカプリオ&ブラピ主演2作品も放送! この解説付きの8作品を観ることで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の理解度が深まります!映画の予習にもぜひ、お楽しみください。 <タランティーノ監督が選び語る!映画たち:放送日> ◎8月26日(月)『イージー・ライダー』23:00~/ 『草原の野獣』深夜01:00~ ◎8月27日(火)『サイレンサー第4弾/破壊部隊』23:00~/ 『 …YOU… 』深夜01:00~ ◎8月28日(水)『 (吹)手錠の男』23:00~/ 『ハマーヘッド』深夜00:30~ ◎8月29日(木)『ボブ&キャロル&テッド&アリス』23:00~/ 『サボテンの花』深夜01:00~ 番組情報はこちら視聴するにはこちらシネ女ちゃんはこちら
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COLUMN/コラム2016.10.13
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2016年11月】キャロル
80年代~ウォール街でウルフ(狼)と呼ばれた実在の人物ジョーダン・ベルフォートの回顧録『ウォール街狂乱日記』を映画化。若くして巨万の富を築いた証券マンの栄光と転落をレオナルド・ディカプリオ&マーティン・スコセッシ監督が5度目のタッグで描く。あらすじはというと・・・学歴もコネもない22歳の青年ジョーダン・ベルフォートは、お金持ちになりたい!という夢を抱きウォール街で株式ブローカーとして働き出します。ところが働き始めてすぐに「ブラックマンデー」と呼ばれる大恐慌が起きて会社は倒産。そこでジョーダンは仲間を集めて証券会社を設立し、巧みな話術を活かしたセールストークと詐欺まがいの株取引で大金を稼ぐようになります。会社を大企業に成長させて自らも億万長者となったジョーダンは、ドラッグとセックスまみれの豪遊生活に明け暮れる・・・。結局、派手にいろいろやりすぎて警察から目を付けられ、投資詐欺で逮捕され服役するのですが・・・その顛末を描いたお話です。(ちなみに出所した彼は、自伝(この映画の原作)を書いたり、セールストークの講演会とか開いたりして現在も大儲けしているそうです。さっすが~!なのか?!)本作は、まぁ、つまるところ酒を浴びまくりドラッグをキメまくり人を騙しまくってカネを儲けまくるという、よくぞ映像にしたものだと思うほど、とにかくクレイジーな映画なのです。(っていうかこれが実話だってことに驚愕!!)それに加えてディカプリオが、ロウソク垂らしてアヒアヒする全裸SMプレイで完全ドMになったり、ドラッグが効き過ぎて涎ダラダラ状態で床を這いつくばったり・・・レオ様ってば、これはいくらなんでもやりすぎでしょ(それほどアカデミー賞欲しいのね?)・・・と思わずにはいられない史上最大級の崩れっぷりが、本当に、スゴイ。そしてこのクレイジーすぎる暴れっぷりラリっぷりは、実在のジョーダン・ベルフォート本人から「実際はこうだった」とアドバイスをもらって再現したもので、本当にぜーんぶ実際に起こった話だっていうんだから、驚きを通り超して呆れてしまいます!!とにかく百聞は一見にしかず。マーティン・スコセッシ監督が「彼は何でも出来る」と絶賛した、レオナルド・ディカプリオの超スゴ演技を11月のザ・シネマで是非ご覧ください!! COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2016.04.10
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2016年4月】キャロル
南北戦争直前のアメリカ南部。黒人奴隷のジャンゴは、賞金稼ぎシュルツの助けで奴隷から解放され、二人で組み金を稼ぐようになる。やがてジャンゴの生き別れた妻が冷酷な大農園主キャンディに売られたことを突き止め、妻を救い出すため二人は身分を偽りキャンディの屋敷に乗り込む・・・というお話。 いや~、ジャンゴの銃さばきがマージでカッコイイ。西部劇の醍醐味である勧善懲悪が実に明快に描かれており、最後の銃撃シーンの爽快感ったらありゃしません。 一方で、これまでのアメリカ映画では決して描かれなかった奴隷虐待がリアルに描かれます。卵を割ってしまっただけなのに皮膚がえぐられ骨が見えるまでムチで打ったり。逃亡未遂の奴隷を犬に食わせて殺したり。奴隷同士を死ぬまで戦わせたり。全裸で灼熱の中に一週間も放置したり。・・・アメリカでは200年もの間、毎日がこうだったのかと思うと身震いさえしてきます。 深みをもたらしているのは間違いなく本役でアカデミー賞助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツですが、極めつけはやはりレオナルド・ディカプリオ。圧倒的な存在感で、彼が醸しだす陽気さと無邪気さが、あの異様な緊張感と残酷さを一層際立たせているのです。 アイ・ラブ・西部劇!マカロニ・ウエスタンへの溢れんばかりの愛を詰め込み、痛快すぎる勧善懲悪作品でありながら、差別社会に対する超本気の怒りをミックスさせた、まるで新ジャンルといえる未体験エンタテインメントに仕上げているのはタランティーノ監督の手腕ならでは。 ジャンゴ~ジャンゴ~~♪のメロディと、爽快感と、不快感がミックスされて延々と頭の中に残る、何とも強烈なエンタメ作品です。未見の方は是非!そして2度目、3度目の方も是非、4月のザ・シネマでご堪能下さい! © 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.11.28
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】うず潮
『ギャング・オブ・ニューヨーク』でコンビを組んだマーティン・スコセッシ×レオナルド・ディカプリオが再びタッグ!実在した大富豪ハワード・ヒューズの波乱の半生を、スケール満点で描いた伝記大作。 主演のハワード・ヒューズ役のディカプリオは憑依ぶりを発揮し、その存在感はさすがの一言。そして、ヒューズの恋人オスカー女優キャサリン・ヘプバーン役にはケイト・ブランシェット。若きヘプバーンを豪快でどこか可愛らしい彼女を見事に演じきり、アカデミー賞助演女優賞を見事獲得。さらに本作は1920~30年代の車や航空機、ファッションなどその時代を感じられ、ヒューズが製作した映画『地獄の天使』に登場する戦闘機バトルを再現したシーンは迫力満点。 ヒューズは映画の他に航空事業にも乗り出すのですが、軍事用に開発した巨大輸送機の飛行シーンは男子なら、是非見てほしいシーン。ロマンを感じます!この映画を見たあとは、ハワード・ヒューズについてもっと知りたくなりますよー。是非見たあとにググってみてくだい! ザ・シネマでは、こんな飛行機野郎たちが登場する映画を【男たちの大航空時代】と題して特集放送!本作のほか『レッド・バロン』『トラ・トラ・トラ・』を放送します!こちらもお楽しみに! ©2004 IMF. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2013.03.23
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年4月】招きネコ
ちょうど、この作品の編成を決めた1月に、「レオは映画に疲れて俳優業は無期休業、社会貢献活動に専念するという」報道がありました。アカデミー賞にノミネートさえされなかったことにガッカリしての発言では?と話題に。元々、20代そこそこから環境保護などへの具体的活動で知られる彼なので別に唐突ではありませんがビックリ。俳優としての近年の充実ぶりからとてももったいない。本作も,たぶん取り扱っているテーマ、ストーリーがいかにも彼らしく、レオが自ら選び、全力で取り組んでいることがわかる力作です。タイトルになっている「ブラッド・ダイヤモンド」=血のダイヤモンドとは、アフリカ、シエラレオネ共和国の内戦下で紛争の資金調達のため不法に取引されるダイヤモンド、いわゆる紛争ダイヤモンドのことで、映画は、内戦での殺戮、難民、少年兵、血に染まったダイヤモンドで巨万の富を手にするシンジゲートなど、我々にとっては遠い国の、生々しい現実をモチーフにしています。レオは人間らしい心を取り戻していくダイヤ密売人を好演しアカデミー賞候補に。たくさんの映画を見てきましたが、アパルトヘイトや、パレスチナ問題、北アイルランド紛争など、複雑な歴史や、あまり知られていない国際問題など、映画で知った、映画で興味を持ったことが何度もありました。この作品は私にとってそんな1本。レオには、映画にはそんな力があること、彼にはそれができることを思い出してもらい、ぜひ映画界に戻ってきてもらいたい。 TM & © Warner Bros. Entertainment Inc