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ナイル殺人事件(1978)
名探偵ポワロがエジプトを舞台に名推理を働かせる! アガサ・クリスティ原作のミステリー!
アガサ・クリスティの『ナイルに死す』が原作のミステリー作品で、エジプトを舞台に、名探偵ポワロが謎の連続殺人事件で名推理を働かせる! オールスター・キャストの、これぞクリスティと言える推理映画の傑作!
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COLUMN/コラム2024.03.01
ミステリー・ファンを魅了してきたアガサ・クリスティ映画の軌跡
ミステリーの女王は自作の映画化に後ろ向きだった? アカデミー賞で6部門にノミネートされた『オリエント急行殺人事件』(’74)の大ヒットをきっかけにブームとなったアガサ・クリスティ映画シリーズ。折しも、’50年代半ばから’60年代にかけて、スタジオシステムの崩壊やテレビの普及などの影響で低迷したハリウッド映画界が、ニューシネマの時代を経て往時の勢いと輝きを取り戻しつつあった当時、キラ星の如きオールスター・キャストに贅の限りを尽くした美術セットと衣装、セックスやバイオレンスよりも謎解きのトリックとメロドラマを楽しむ優雅なストーリーなど、まるで黄金期のハリウッド映画を彷彿とさせるようなグラマラスなゴージャス感が、世界中の映画ファンを虜にしたのである。3月のザ・シネマでは「ミステリーな春/アガサ・クリスティ特集」と銘打って、当時のシリーズ作品の中から『ナイル殺人事件』(’78)に『クリスタル殺人事件』(’80)、『地中海殺人事件』(’82)を放送。そこで、今回は同シリーズを中心としたアガサ・クリスティ映画の軌跡を振り返ってみたい。 「ミステリーの女王」として世界中の推理小説に多大な影響を与えたイギリスの推理作家アガサ・クリスティ。なにしろ知名度の高いスター作家ゆえ、その作品は古くから映画化されてきた。最も古い映画化作品は「謎のクイン氏」シリーズ第1弾「クイン氏登場」を原作とするイギリス映画『The Passing of Mr. Quin』(’28・日本未公開)とされているが、最初の重要な作品はフランスの巨匠ルネ・クレールがクリスティの同名小説をハリウッドで映画化した『そして誰もいなくなった』(’45)であろう。 とある島の豪邸に招かれた10名の客人と召使いが、童謡「10人のインディアン」の歌詞になぞらえて次々殺されていくという傑作ミステリー。そもそも原作小説がクリスティの代表作として名高い傑作ゆえ、その映画版も極めて完成度が高かった。その後、イギリスの有名なB級映画プロデューサー、ハリー・アラン・タワーズが原作の映画化権を入手し、『姿なき殺人者』(’65)に『そして誰もいなくなった』(’74)、『アガサ・クリスティ/サファリ殺人事件』(’89)と3度に渡って映画化。中でも、’74年版の『そして誰もいなくなった』は同年公開された『オリエント急行殺人事件』を強く意識し、オリヴァー・リードにリチャード・アッテンボロー、シャルル・アズナヴール、エルケ・ソマーなどヨーロッパ映画界のビッグネームをズラリと揃えたオールスター・キャスト映画だった。 また、『サンセット大通り』(’50)や『お熱いのがお好き』(’59)の巨匠ビリー・ワイルダーが、クリスティの「検察側の証人」を映画化した『情婦』(’57)も評判となり、アカデミー賞で6部門にノミネート。’60年代にはイギリスの名脇役女優マーガレット・ラザフォードが素人探偵ミス・マープルを演じた『ミス・マープル/夜行特急の殺人』(’61)が大ヒットし、以降も3本の続編が作られるほどの人気シリーズとなったものの、しかし「ABC殺人事件」を映画化した『The Alphabet Murders』(’65・日本未公開)を最後にアガサ・クリスティ作品の映画化がしばらく途絶えてしまう。というのも、同作は小説版をコメディへと大胆に改変したのだが、これを見た原作者のクリスティは大いに失望したのである。そもそも、それまでの映画化作品の多くも、彼女にはいろいろと不満ありだったらしい。これ以降、原作「終わりなき夜に生まれつく」をほぼ忠実に映画化した『エンドレス・ナイト』(’71)を唯一の例外として、クリスティは自作の映画化を許可しなくなってしまった。 シリーズは『オリエント急行殺人事件』から始まった 時は移って’70年代初頭。シェイクスピア映画『ロミオとジュリエット』(’68)で有名なプロデューサー・コンビ、ジョン・ブレイボーン卿とリチャード・グッドウィンは、英国ロイヤル・バレエ団が着ぐるみで動物を演じる異色のバレエ映画『ピーター・ラビットと仲間たち』(’71)を大ヒットさせる。同作は共産圏のソヴィエトでも評判となり、グッドウィンはモスクワへ招待されることになった。本人の記憶だと’73年頃のことだという。その際、彼は当時まだ小学生だった娘デイジーを同伴したのだが、モスクワ滞在中に彼女は持参した本をずっと夢中になって読んでいた。それがアガサ・クリスティの小説「オリエント急行の殺人」だったのである。特にこれといってクリスティのファンではなかったというグッドウィンだが、娘に誘発されて自分も読んでみたところハマってしまったのだそうだ。 これは絶対に映画化すべきだと考えたグッドウィンだが、しかしクリスティが自作の映画化をなかなか許可しないという情報も知っていた。そこで一肌脱いだのがビジネス・パートナーのブレイボーン卿である。実はブレイボーン卿の妻パトリシアはヴィクトリア女王の玄孫にしてエリザベス2世の三又従妹、義理の父親ルイス・マウントバッテン伯爵はインド総督も務めた伝説的な海軍元帥で、ブレイボーン卿本人も由緒正しい男爵家の次男坊。さらに、住まいもクリスティのご近所さんだった。その人脈をフル稼働してクリスティの自宅を訪ね、映画化の説得を試みたブレイボーン卿。すると、彼とグッドウィンが『ピーター・ラビットと仲間たち』のプロデューサーだと知ったクリスティは、あの映画と同じくらい原作へ敬意を払ってくれるのであれば…という条件のもとで映画化を許可してくれたのである。 イギリスのEMIとアメリカのパラマウントが予算を半分ずつ提供することになり、監督はハリウッドの名匠シドニー・ルメットに決定。当初、ブレイボーン卿もグッドウィンも英国映画らしい小規模でリアリスティックなミステリー映画を想定していたが、しかしルメットはグラマラスなオールスター映画に仕立てるつもりだった。なにしろ、物語の時代設定はハリウッド黄金期の’30年代半ば。トルコのイスタンブールとフランスのパリを結ぶ豪華絢爛な国際寝台列車・オリエント急行を舞台に、優雅な上流階級の人々が絡んだ殺人事件の謎を名探偵エルキュール・ポワロが解明する。古き良きハリウッド・スタイルを再現するには格好の題材だ。 そのうえ、当時は『大空港』(’69)や『ポセイドン・アドベンチャー』(’72)、『タワーリング・インフェルノ』(’74)など、オールスター・キャストのパニック映画がブームになっていた。なんといっても、スターが雲の上の存在だったハリウッド黄金期の伝説的スターや名バイプレイヤーたちが、まだまだ存命だった時代である。今や名前だけで客を呼べるような映画スターはトム・クルーズくらいになってしまったが、当時のハリウッドにはネームバリューのある新旧映画スターが大勢ひしめき合っていた。オールスター映画の人材には事欠かなかったのである。 ショーン・コネリーやジャクリーン・ビセットといった当時旬のトップスターから、ローレン・バコールにイングリッド・バーグマンなどハリウッド黄金期の大スター、ジョン・ギールグッドにウェンディ・ヒラーなど英国演劇界のレジェンドに、マーティン・バルサムやレイチェル・ロバーツなどの名バイプレイヤーと、総勢14名もの錚々たる役者たちが勢ぞろい。主人公である名探偵ポワロ役には、当時「ローレンス・オリヴィエの後継者」と目されていた天下の名優アルバート・フィニーが起用された。 かくして完成した『オリエント急行殺人事件』は全米の年間興行成績ランキングで11位という大ヒットを記録。先述したようにアカデミー賞で6部門にノミネートされ、イングリッド・バーグマンが助演女優賞に輝いた。原作者のクリスティも出来栄えに大満足。この成功に手応えを感じたブレイボーン卿とグッドウィンは、アガサ・クリスティ映画の第2弾を企画する。それが、’76年のクリスティ死去を挟んだことから完成までに時間のかかったジョン・ギラーミン監督の『ナイル殺人事件』(’78)である。 ロケ地エジプトの灼熱と不便さに悩まされた『ナイル殺人事件』 原作は「エルキュール・ポワロ」シリーズの「ナイルに死す」。今回はエジプトのナイル川を下る豪華客船で大富豪の令嬢リネット(ロイス・チャイルズ)が銃殺され、たまたま友人(デヴィッド・ニーヴン)と乗り合わせた名探偵エルキュール・ポワロ(ピーター・ユスティノフ)が犯人捜しに乗り出したところ、乗客たちの誰もがリネットに対して強い恨みを抱いていたことが判明する。リネットに婚約者(サイモン・マッコンキンデール)を奪われた元親友にミア・ファロー、リネットの宝石を狙うアメリカの大富豪夫人にベティ・デイヴィス、その付添人マギー・スミスは実家がリネットの両親のせいで破産し、自由奔放なロマンス作家アンジェラ・ランズベリーはリネットから誹謗中傷で訴えられ、その大人しい娘オリヴィア・ハッセーはリネットに嫉妬し、筋金入りの社会主義者ジョン・フィンチは特権階級のリネットを蔑み、メイドのジェーン・バーキンはリネットに結婚を反対され、ドイツ人の医師ジャック・ウォーデンはリネットにヤブ医者扱いされ、顧問弁護士ジョージ・ケネディはリネットの資産を使い込んでいた。要は、乗客の全員にリネットを殺す動機があったのだ。 名探偵ポワロ役は、前作のアルバート・フィニーからピーター・ユスティノフへ交代。役柄よりも実年齢がだいぶ若かったフィニーは、ポワロ役を演じるためのメイクが嫌で再登板を断ったとも伝えられるが、いずれにせよ原作のポワロに年齢も体型も近いユスティノフの起用は大正解だったと言えよう。おかげで、ポワロは彼の当たり役となり、以降も映画やドラマで繰り返し演じることになる。脇を固めるキャスト陣も、前作に負けず劣らず豪華!チョイ役にも、サム・ワナメイカーやハリー・アンドリュースなどの名優が顔を出している。 また、今回はエジプトのナイル川や古代遺跡で実際にロケをした観光映画としても見どころが盛りだくさん。豪華客船は1901年に製造された古い蒸気船をカイロで発見し、ボロボロだった床板などを撮影のために修復した。エジプトは気温が高いため、午後のロケ撮影は不可能。1日の撮影を午前中で終えなくてはならないことから、スタート時刻は早朝4時だったという。毎朝一番に現場へ現れ、誰よりも先に準備を終えていたのが、当時69歳だった大女優ベティ・デイヴィス。最年長の彼女がお手本を示したことで、共演者の誰もが遅刻することなく時間を守ったのだそうだ。なお、砂漠のど真ん中では夜間撮影用の照明をたく電源が確保できず、そのため夜間シーンはロンドン郊外のパインウッド・スタジオに豪華客船のセットを組んで撮影。そもそも、当時のエジプトはまだ発展途上国だったことから、例えばロンドンと連絡を取るにしても1日20分のテレックスしか通信手段がないなど、かなり不便なことが多かったようだ。 さらに、本作でアカデミー賞に輝いたアンソニー・パウエルのデザインによるお洒落な衣装も大きな見どころ。舞台が’30年代半ばということで、基本的には当時のファッション・トレンドを基調にしているものの、しかし中高年女性のキャラクターにはそれよりも古い時代のスタイルを採用したという。なぜなら、人間は往々にして人生で最も幸せだったり、最も元気だったりした若い頃の流行に執着してしまうものだから。なので、ベティ・デイヴィスの衣装は1910年代風、アンジェラ・ランズベリーの衣装は1920年代風に仕立てられている。 どれもエレガントで豪華で洗練されたコスチュームばかりだが、中でも特に印象的なのはミア・ファローがエジプトで着ているストライプ柄のノースリーブ・トップス。実はこれ、使い古しの布巾をリメイクしたものだったらしい。華奢な体型のミアに似合うような、’30年代風のゆったりしたパジャマ・トラウザーをデザインしたパウエルは、これに合うようなリゾートスタイルのノースリーブ・トップスを作ろうとするも、しっくりくる生地がどこを探しても見当たらなかったという。仕方なく作業場へ戻ってきたところ、ストーブにぶら下がっている汚れた布巾が目に入った。これはフランシス人アシスタントの母親が持ち込んだ私物で、衣装部スタッフのために作業場で料理を作る際に使っていたらしい。よく見ると、ストライプ柄がパジャマ・トラウザーにピッタリ。そこで、汚れを落とすために何度も何度も繰り返し煮沸したうえで、トップスの生地として使用したのだという。ただし、臭いまで落としきることは出来なかったらしく、何も知らないミアは「誰かニンニクでも食べた?」と首を傾げていたそうだ(笑)。 アメリカでは前作ほど客足が伸びなかったものの、ヨーロッパやアジアでは大ヒットした『ナイル殺人事件』。リチャード・グッドウィンによると、中でも日本の興行成績は良かったという。まあ、「ミステリー・ナイル」という日本独自の主題歌を宣伝に使ったり、地方では同時上映にアニメ『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(’78)をブッキングしたりと、配給会社の戦略が功を奏した面もあったろうが、その一方でちょうど70年代の日本で海外旅行ブームが盛り上がっていたことも、少なからず影響していたのではないかとも思う。依然として庶民にとっては高根の花だった海外旅行だが、しかしそれでも頑張れば手が届くかもしれない夢…くらいには身近になりつつあった時代。テレビドラマ『Gメン’75』の香港ロケやヨーロッパ・ロケが話題となったように、海外観光への興味や関心も高まっていたように記憶している。エジプトの観光映画を兼ねた本作が、そんな日本人の海外旅行熱を刺激したとしてもおかしくはなかろう。 毒のあるブラック・ユーモアも楽しい『クリスタル殺人事件』 この『ナイル殺人事件』のスマッシュヒットを受けて、矢継ぎ早に作られたのが「鏡は横にひび割れて」を映画化した『クリスタル殺人事件』だ。監督は前作のジョン・ギラーミンから007映画で名を上げたガイ・ハミルトンへバトンタッチ。もともと原作本は『オリエント急行殺人事件』のヒットに便乗しようとしたワーナーが映画化を発表していたものの、最終的にジョン・ブレイボーン卿とリチャード・グッドウィンが権利を手に入れたというわけだ。 今回は風光明媚なイギリスの片田舎が舞台。舞台は1953年である。住民の誰もがみんな顔見知りという小さな村で、ハリウッド映画のロケ撮影が行われることとなり、久しぶりに現役復帰する大女優マリーナ(エリザベス・テイラー)を囲んだレセプションパーティで殺人事件が起きる。マリーナの大ファンである地元女性が毒殺されたのだ。ところが、目撃者の証言から毒入りカクテルはもともとマリーナのものだったことが判明。つまり、被害者女性は誤って毒入りカクテルを飲んでしまっただけで、犯人の本来のターゲットはマリーナだった可能性が浮上したのだ。そこで、村でも有名なゴシップ好きで推理好きの老女ミス・マープル(アンジェラ・ランズベリー)が、甥っ子であるロンドン警察の主任警部ダーモット(エドワード・フォックス)と組んで真相の究明に乗り出す。 恐らく、オールスター・キャストの顔ぶれはシリーズ中で本作が最も豪華かもしれない。物語の時代設定が’50年代ということで、往年の大女優マリーナにエリザベス・テイラー、その夫で映画監督のジェイソンにロック・ハドソン、マリーナとは犬猿の仲のライバル女優ローラにキム・ノヴァク、そしてローラの夫でプロデューサーのマーティにトニー・カーティスと、’50年代のハリウッド映画を代表するトップスターが勢ぞろい。当時、テイラー自身もマリーナと同じくキャリアのスランプに陥っており、劇中のセリフでも揶揄される体重の増加や容姿の衰えをいたく気にしていたそうだが、しかしロック・ハドソンとは『ジャイアンツ』(’56)で共演して以来の大親友だし、ミス・マープル役のアンジェラ・ランズベリーとも『緑園の天使』(’44)で姉妹役を演じた仲だし、トニー・カーティスも古い友人。昔からの仲間が一緒ならば心強いということで、3年ぶりの本格的な映画出演となる本作のオファーを引き受けたのだそうだ。 主演のアンジェラ・ランズベリーはクリスティの原作で描かれるミス・マープルを忠実に再現。当初、ランズベリーは3本の映画でミス・マープルを演じる契約をEMIと結んでいたが、しかし残念ながら興行的に不入りだったため彼女のミス・マープルはこれっきりとなってしまった。ただ、後に主演して代表作となったテレビ・シリーズ『ジェシカおばさんの事件簿』(‘84~’96)の主人公ジェシカ・フレッチャーは、明らかに本作のミス・マープル役を下敷きにしており、そういう意味では彼女にとって重要な作品だったと言えよう。そのほか、ジェラルディン・チャップリンにエドワード・フォックスも登場。ガイ・ハミルトンが手掛けた『007/ダイヤモンドは永遠に』(’71)の悪役チャールズ・グレイがマリーナの執事役を演じているのも見逃せない。 そんな本作が過去2作品と決定的に違うのは、毒っ気たっぷりのブラック・ユーモアがふんだんに盛り込まれている点であろう。特にマリーナとローラによる女優同士の嫌味と悪口の応酬はなかなか過激(笑)。「顔の皴で線路が出来る」とか、「目の下のたるみよ、ドリス・デイに飛んでいけ」とか、ビッチ丸出しなセリフの数々に思わず大爆笑だ。ちなみに、ドリス・デイは’50年代にロック・ハドソンと数々のロマンティック・コメディで主演コンビを組んだトップ女優。もちろん、それを大前提としての辛辣な内輪ジョークである。これらのセリフを書いたのは『カンサス・シティの爆弾娘』(’72)や『面影』(’76)の脚本家バリー・サンドラー。本人はオープンリー・ゲイなのだそうだが、なるほど確かにクイアーなユーモアのセンスをしていますな。もともと本作の脚本はジョナサン・ヘイルズが単独で手掛けていたものの、しかし原作に忠実過ぎて面白みがないと感じた製作陣の依頼で、サンドラーがリライトを担当したのだそうだ。 シリーズに終止符を打った『地中海殺人事件』 そして、結果的にシリーズ最終作となったのが『地中海殺人事件』(’82)。やはり前作の不入りで予算が大幅に減ったのか、どうも全体的に出がらし感が否めない。監督はガイ・ハミルトンが続投。脚本は『ナイル殺人事件』のアンソニー・シャファーが再登板し、前作のバリー・サンドラーがノー・クレジットでリライトを手掛けている。前回のエリザベス・テイラーとキム・ノヴァク同様、本作でもダイアナ・リッグとマギー・スミスが女同士のいがみ合いで火花を散らせるが、その毒舌ユーモアたっぷりの際どいセリフを再びサンドラーが担当したのだそうだ。 で、そのマギー・スミスを筆頭に、ピーター・ユスティノフとジェーン・バーキン、コリン・ブレイクリーにデニス・クイリーが2度目のシリーズ出演。まあ、名探偵ポワロ役のユスティノフは仕方ないにせよ、メインキャスト10人中の半分が再登板というのはいかがなもんだろうかとは思う。その他のキャストも、映画界のレジェンドと呼べるのはジェームズ・メイソンくらいか。ダイアナ・リッグは確かに一世を風靡した女優だが基本的にはテレビ・スターだし、シルヴィア・マイルズはニューシネマで頭角を現したアングラ女優だし、ロディ・マクドウォールも名子役出身の性格俳優だしと、オールスター映画を謳うにはちょっとばかり顔ぶれが弱いことは否めない。 とはいえ、芸能界で敵ばかり作って来た大女優がバカンス先のリゾート・ホテルで殺されるというストーリーは、いかにもアガサ・クリスティらしいゴシップ紙感覚の愛憎劇で面白いし、最大の目玉である謎解きのトリックも当然ながら良く出来ているし、なおかつロケ地となったスペインのマヨルカ島の美しい景色も非常に魅力的。『ナイル殺人事件』以来となる、アンソニー・パウエルの手掛けた衣装も、’30年代のファッション・トレンドを鮮やかに再現したノスタルジックで優美なデザインが見目麗しい。筆者が最初に映画館で見たアガサ・クリスティ映画ということもあって、個人的には特に思い入れの強い映画でもある。 しかしながら、この『地中海殺人事件』が大幅な赤字を出してしまったことから、ジョン・ブレイボーン卿とリチャード・グッドウィンのコンビによるアガサ・クリスティ映画シリーズは終了。その後、「無実はさいなむ」をドナルド・サザーランド主演でノワール風に映画化した『ドーバー海峡殺人事件』(’84)、ポワロ役のピーター・ユスティノフを筆頭にオールスター・キャストを揃えた「死との約束」の映画化『死海殺人事件』(’88)、同名小説の三度目の映画化となった『アガサ・クリスティ/サファリ殺人事件』などが登場するも、残念ながらいずれも不発に終わった。『死海殺人事件』はキャストの顔ぶれといいクラシカルな雰囲気といい、いかにもブレイボーン卿&グッドウィンの作品みたいだったが、実際はキャノン・フィルムのメナハム・ゴーランとヨーラム・グローバスが製作した映画だ。 一方、テレビではピーター・ユスティノフが名探偵ポワロを、大女優ヘレン・ヘイズがミス・マープルを演じたテレビ映画シリーズがヒットしたほか、ジョーン・ヒックソン主演の『ミス・マープル』(‘84~’92)、グラナダ・テレビが製作した『アガサ・クリスティー ミス・マープル』(‘04~’13)、デヴィッド・スーシェ主演の『名探偵ポワロ』(‘89~’13)など、本場イギリスでは長年に渡ってアガサ・クリスティ原作のテレドラマが愛され続けている。そうした中、ケネス・ブラナーが名探偵ポワロ役を演じて監督も兼ねたリメイク映画版『オリエント急行殺人事件』(’17)が登場。続編として『ナイル殺人事件』(’22)に『名探偵ポワロ:ベネチアの亡霊』(’23)が作られるなど、好評を博しているのはご存知の通りだ。■ 『ナイル殺人事件(1978)』© 1978 STUDIOCANAL FILMS Ltd『クリスタル殺人事件』© 1980 / STUDIOCANAL Films Ltd『地中海殺人事件』© 1981 Titan Productions
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PROGRAM/放送作品
新・荒野の七人/馬上の決闘
『七人の侍』リメイクから生まれた、人気ウェスタン・アクション『荒野の七人』シリーズ第3弾
『荒野の七人』シリーズ第3弾。クリス役はユル・ブリンナーから『暴力脱獄』でアカデミー助演男優賞を受賞したジョージ・ケネディへとバトンタッチされた。
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COLUMN/コラム2020.06.04
男同士の無邪気な友情を描くニューシネマ的ロードムービー『サンダーボルト』
クリント・イーストウッドとマイケル・チミノの出会い先ごろ90歳の誕生日を迎えたハリウッドの生ける伝説クリント・イーストウッド。テレビ西部劇『ローハイド』(’59~’65)で注目され、イタリアへ出稼ぎ出演した『荒野の用心棒』(’64)で国際的な映画スターとなり、『ダーティハリー』(’71)のハリー・キャラハン刑事役で泣く子も黙るトップスターへと上りつめたイーストウッドだが、さらに俳優のみならず映画監督としても2度のオスカーに輝く巨匠として活躍しているのはご存じの通り。しかし、そんな彼がこれまで、少なくない数の映画監督にデビューのチャンスを与えてきたことは意外に忘れられているかもしれない。『荒野のストレンジャー』(‘73)や『アイガーサンクション』(’75)などでイーストウッドの助監督を務めたジェームズ・ファーゴは『ダーティハリー3』(’76)で、『マンハッタン無宿』(’68)以来イーストウッドのスタントダブルを務めたバディ・ヴァン・ホーンは『ダーティファイター 燃えよ鉄拳』(’80)で、イーストウッド主演作『アルカトラズからの脱出』(’79)の脚本を書いたリチャード・タグルは『タイトロープ』(’84)で、それぞれ監督へと進出している。そんなイーストウッド門下生の中でも最大の出世頭となったのが、『サンダーボルト』(’74)で監督デビューを飾ったマイケル・チミノである。ジョン・ミリアスと共同で書いた『ダーティハリー2』(’73)の脚本がイーストウッドに認められ、本作の監督を任されたと言われているミリアスだが、本人のインタビューによると実は順番が逆だったという。もともとニューヨークの人気CMディレクターとして鳴らし、その実績が買われて大手タレント・エージェント、ウィリアム・モリスと代理人契約を結んだチミノ。そのウィリアム・モリスが当時抱えていたトップ・クライアントの1人がクリント・イーストウッドで、チミノは担当エージェントだったスタン・ケイメンからイーストウッド主演を念頭に置いて脚本を書くよう依頼される。それが、この『サンダーボルト』だったのだ。チミノの脚本を読んでいたく気に入ったイーストウッドは、自身の制作会社マルパソ・カンパニー(現マルパソ・プロダクションズ)で映画化すべく『サンダーボルト』の権利を購入。さらに、ちょうど当時ジョン・ミリアスが『ディリンジャ―』(’73)で監督デビューすることになり、未完成のままとなっていた『ダーティハリー2』の脚本を、イーストウッドはチミノに仕上げさせる。そして、その出来栄えに満足した彼は、当初は自身で監督するつもりだった『サンダーボルト』の演出をチミノに任せることにした…というのが実際のところだったらしい。中年にさしかかった元銀行強盗と天衣無縫な風来坊の若者主人公はかつて新聞を賑わせた銀行強盗サンダーボルト(クリント・イーストウッド)。モンタナ金庫から500万ドルを強奪した彼は、ほとぼりがさめるまで現金を寝かせておくため、田舎町ワルソーの小学校の黒板の裏に500万ドルを隠したものの、仲間たちから持ち逃げしたと誤解され命を狙われていた。とある教会の牧師として身を隠していたサンダーボルトだったが、そこへかつての仲間がやって来る。命からがら逃げだした彼は、たまたま盗んだ車で通りがかった風来坊の若者ライトフット(ジェフ・ブリッジス)と知り合う。お互いに年が離れていながら、なぜか意気投合したサンダーボルトとライトフット。ハイジャックや窃盗を重ねながら、あてどのない旅を続けることになった2人だが、そこへ今度はまた別の追手が現れる。やはりサンダーボルトの強盗仲間だったレッド(ジョージ・ケネディ)とグッディ(ジェフリー・ルイス)だ。いきなり命を狙われて戸惑うライトフットに事情を説明するサンダーボルト。レッドたちの追跡を振り切った2人は、500万ドルを回収すべくワルソーへと向かうが、なんと小学校は新校舎に建て替えられていた。いったい現金はどこへ消えてしまったのか?と途方に暮れる2人。ひとまず、追いついてきたレッドとグッディの誤解を解いたサンダーボルトに、若くて無鉄砲なライトフットが軽い気持ちで提案する。以前に強盗をやって成功したのなら、また同じ方法で強盗をすればいいんじゃね?と。かくして、武器や道具を揃えるためにアルバイトを始め、過去に襲撃したモンタナ金庫を再び襲う計画を立てるサンダーボルト、ライトフット、レッド、そしてグッディの4人だったが…!?ということで、さながら『俺たちに明日はない』(’67)×『突破口!』(’73)といった感じのニューシネマ風ロードムービー。アメリカ北西部の美しくも雄大な自然を背景に、自由気ままなアウトローたちの友情と冒険、そして因果応報のほろ苦い結末を、大らかなユーモアと人情をたっぷり盛り込みながら軽快に描いていく。決してハッピーエンドとは言えないものの、しかしシリアスで悲壮感の漂う『ディア・ハンター』(’78)や『天国の門』(’81)とは一線を画するチミノの爽やかな演出が印象的だ。 果たして2人の絆は友情なのか恋愛なのか?そんな本作について、たびたび話題に上るのがサンダーボルトとライトフットの同性愛的な関係性だ。まあ、この手の「ブロマンス」映画には常について回るトピックではあるのだが、確かに本作の2人の間柄には単なる男同士の友情を超えたような、まるで恋愛にも似たような繋がりがあると言えるだろう。だいたい、出会ってすぐに「俺の友達になってくれ!」とサンダーボルトに猛アタックするライトフットなんて、ドストライクの女子に一目ぼれして舞い上がる思春期の男子そのもの(笑)。そんな若者のプロポーズ(?)に対して「俺たち10歳も年が離れてるんだぜ!?」と切り返すサンダーボルトも、まるで年下の若い女の子に愛を告白されて戸惑う中年のオジサンみたいだ。ちなみに撮影当時のイーストウッドは43歳、ブリッジスは23歳。実際は親子ほど年が離れている。で、そんな2人の間に割って入ろうとして、なにかにつけライトフットを目の敵にするのがレッド。朝鮮戦争時代からの仲間であるサンダーボルトをなぜ殺そうとしたのか?と尋ねるライトフットに、「友達だからだ」と興奮しながら答えるレッドだが、これぞまさしく可愛さ余って憎さ百倍、もはや若い女になびいたダンナへの嫉妬に狂う古女房にしか見えない。実はこれ、イーストウッドを巡るジェフ・ブリッジスVSジョージ・ケネディという三角関係を描いた愛憎ドラマでもあるのだ。また、意外と女性キャラが多く登場する本作だが、しかしそのいずれもが単なる「性処理用のオブジェクト」か「男性を嫌悪するフェミニスト」のどちらかであり、物語の上で重要な役割を果たす女性は1人もいない。もちろん、だからといって本作がミソジニスティックな映画だと言うつもりは毛頭ない。ただ単純に、サンダーボルトもライトフットも常にお互いへの友情が最優先事項というだけ。基本的に女性に対して無関心なのだ。そういえば、若い女を抱いたサンダーボルトなんか、実につまらなそうな顔していたっけ。ライトフットだって口先では女好きのような発言を繰り返すが、しかしその行動を見る限りでは本当に女性に興味があるのかも疑わしい。なるほど、これをクローゼット・ゲイと解釈することも可能ではあるだろう。ただ、ここで個人的な見解を述べさせてもらうと、確かにサンダーボルトとライトフットの絆は友達以上恋人未満とも呼ぶべきプラトニックな愛情の様相を呈しているが、しかしそれは恋愛感情というよりも第二次性徴以前の少年たちによく見られる無邪気な友情のように思える。女子の介在する余地がないのはそのためだし、結婚した夫婦やアツアツな男女カップルを滑稽に描いているのも、恐らくチミノ自身がそうした男同士のピュアな友情にある種のロマンを抱いているからなのではないだろうか。いずれにせよ、本作におけるサンダーボルトとライトフットは大人になりきれない大人、いつまでも自由と冒険を追い求めるトム・ソーヤ―とハックルベリー・フィンであり、これは社会に適合できない孤独な彼らがお互いの存在に救いを見出し、一獲千金の大博打に夢を求める物語なのだと思う。イーストウッドもジェフ・ブリッジスも好演だが、中でも本作で2度目のアカデミー助演男優賞候補になったブリッジスの屈託のない笑顔はとても魅力的だ。最後に、脇を彩る多彩なキャストについて。ライトフットが車で引っ掛ける女性メロディ役のキャサリン・バックは、その後『爆走!デューク』(’79~’85)で人気爆発するテレビ・スター。その友達のグロリア役を演じるジューン・フェアチャイルドは、麻薬中毒で身を持ち崩して一時はホームレスとなり、68歳で亡くなった時は障害者年金でスラム地区の安ホテルに住んでいたという。ライトフットがナンパしようとするバイクの女性カレン・ラムは、ロックバンド、シカゴの中心人物ロバート・ラムの元奥さんで、後にビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンと結婚・離婚を繰り返した人。サンダーボルトがバイトする工場のセクシーな経理係クローディア・リニアは、アイク&ティナ・ターナーのバックコーラス・グループ、アイケットのメンバーだった有名なセション・ボーカリストで、ミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイの恋人だった。ローリング・ストーンズのヒット曲「ブラウン・シュガー」は彼女が元ネタだったとも言われている。■ 『サンダーボルト(1974)』(C) 1974 MALPASO PRODUCTIONS. All Rights Reserved
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PROGRAM/放送作品
サンダーボルト(1974)
アカデミー賞監督マイケル・チミノがイーストウッド主演で描く、デビュー作
後にアカデミー監督賞を獲るマイケル・チミノが、『ダーティハリー2』の脚本を手がけた縁でイーストウッドの目にとまり、監督デビューを果たした本作。70年代イーストウッド・アクションの快作の1本だ。
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PROGRAM/放送作品
(吹)サンダーボルト(1974)【月曜ロードショー版】
アカデミー賞監督マイケル・チミノのデビュー作は、イーストウッド主演のクライム・アクション
後にアカデミー監督賞を獲るマイケル・チミノが、『ダーティハリー2』の脚本を手がけた縁でイーストウッドの目にとまり、監督デビューを果たした本作。70年代イーストウッド・アクションの快作の1本だ。
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PROGRAM/放送作品
アイガー・サンクション
“魔の山”で壮絶な死闘が始まる──クリント・イーストウッド監督・主演のスパイ・アクション
クリント・イーストウッドがスタントマンに頼らず、危険な山岳アクションに自ら挑戦。物語の舞台となるモニュメントバレーやアイガー北壁でロケ撮影を敢行し、本物ならではの迫力とリアリティを醸し出している。
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PROGRAM/放送作品
(吹)アイガー・サンクション【ゴールデン洋画劇場版】
“魔の山”で壮絶な死闘が始まる…クリント・イーストウッド監督・主演のスパイ・アクション
クリント・イーストウッドがスタントマンに頼らず、危険な山岳アクションに自ら挑戦。物語の舞台となるモニュメントバレーやアイガー北壁でロケ撮影を敢行し、本物ならではの迫力とリアリティを醸し出している。
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PROGRAM/放送作品
(吹)アイガー・サンクション
“魔の山”で壮絶な死闘が始まる──クリント・イーストウッド監督・主演のスパイ・アクション
クリント・イーストウッドがスタントマンに頼らず、危険な山岳アクションに自ら挑戦。物語の舞台となるモニュメントバレーやアイガー北壁でロケ撮影を敢行し、本物ならではの迫力とリアリティを醸し出している。
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PROGRAM/放送作品
サンダーボルト
アカデミー賞監督マイケル・チミノのデビュー作は、イーストウッド主演のクライム・アクション
後にアカデミー監督賞を獲るマイケル・チミノが、『ダーティハリー2』の脚本を手がけた縁でイーストウッドの目にとまり、監督デビューを果たした本作。70年代イーストウッド・アクションの快作の1本だ。