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PROGRAM/放送作品
Mr.&Mrs. スミス
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが暗殺者夫婦を演じた、痛快アクション・コメディ
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー。ハリウッドを代表するスターが、暗殺者夫婦を演じたアクション・コメディ。監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマンが務めている。
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COLUMN/コラム2021.02.01
リドリー・スコットのもうひとつのエポックメーキング『テルマ&ルイーズ』
齢80を越えても、精力的に作品を撮り続けている、リドリー・スコット監督。20数本に及ぶ、そのフィルモグラフィーを眺めると、SF、刑事アクション、クライム・サスペンスから歴史大作、戦争映画、人間ドラマまで、実に多彩なジャンルを手掛けていることに、改めて驚かされる。 そんな中でも“映画史”に残る作品と言えば、監督第2作・第3作の『エイリアン』(1979)『ブレードランナー』(82)あたりを挙げる者が、やはり多いのだろうか? 両作が、その後のSF映画の歴史を塗り替えたことに異議を唱える者は、まずはいまい。 私はリドリーの監督作品の中で、この2本に匹敵する、エポックメーキングとなった作品として、本作『テルマ&ルイーズ』(91)を挙げたい。歳月を経ても、この作品は色褪せるどころか、その歴史的意義は、年々高まる一方のように思える。 アメリカ中西部アーカンソー州に住む、専業主婦のテルマ(演: ジーナ・デイヴィス)と、ダイナーのウェイトレスで独身のルイーズ(演:スーザン・サランドン)は、親友同士。ある週末、十代の頃から夫に縛られる生活を送ってきたテルマを誘い出し、ルイーズが自慢の66年型サンダーバードを駆って、ドライブ旅行へと出掛けた。 テルマは、どうせ許してくれないと、傲慢な夫に黙っての旅立ち。その際に、以前夫から護身用にと渡された拳銃を、無造作にルイーズに預けた。 目的地への途中、食事に寄ったカントリーバーで、解放感から、店のマネージャーの男とのダンスに興じたテルマは、悪酔いして涼みに店外へ。そこでマネージャーから、レイプされそうになる。間一髪、ルイーズが男の首筋に拳銃を突きつけ、テルマは泣きじゃくりながらも、難を逃れた。 その場を去ろうとした彼女たちだったが、男は悔し紛れに、「俺のをしゃぶりな!」などと、卑猥な罵声を2人に浴びせる。その瞬間、ルイーズの“何か”がキレた。彼女は拳銃の引き金を引き、銃弾を浴びた男は、そのまま息絶えた。 楽しい筈の週末のちょっとした旅は、一転。逃亡の旅へと、変わる。 国境を越えて「メキシコに逃げる」と、決意したルイーズだったが、優柔不断なテルマは、揺れ動く。しかしやがて彼女も、自分を守ってくれた親友と行動を共にすることを、決意した。 地元の警察からFBIまで、州を越えて捜査の網が広がっていく。そして、生まれ育ってきた社会の理不尽な規範に長年縛られてきた女2人は、大胆不敵なアウトローへと、変貌を遂げていく。テルマ&ルイーズの、明日をも知れない逃避行の行方は? 封切り時に、まだ20代後半だった私は、本作鑑賞前、今ひとつピンと来ていなかった。あのリドリー・スコットの最新作が、アメリカ中西部を舞台にした、女性2人が主人公の“ロードムービー”であることに。 当時の私にとってリドリー・スコットと言えば、多感な十代の頃に出会った『エイリアン』であり、『ブレードランナー』だった。それに付け加えるならば、本作の前の監督作品で、大々的に日本ロケを行った、『ブラックレイン』(89)だったのである。 そしていざ本作を観ると、アメリカで“フェミニズム映画”として論争になった理由が、理解できたような気がした。当時の私は自分のことを、“フェミニズム”寄りな人間だと思っていた。“男性優位”な社会の中で、多くの女性が一方ならぬ苦労をしていることを認識しており、「女性の気持ちがわかっている」つもりだった。 そうした意味で本作の意義を見出しながらも、少なからぬ違和感が残った。そもそも、酒に酔って男にスキを見せたから、テルマはレイプされそうになったのではないか?彼女に、責任はないのか? また逃避行の旅の途中、2人のサンダーバードに遭遇しては、性的なからかいを仕掛けてくる、大型トレーラーの男性運転手への処断も、「?」だった。物語の終盤近く、2人は何度目かの遭遇をした彼を下車させて、警告する。しかし態度を改めないため、怒った2人は、彼のトレーラーに銃弾を撃ち込んで、爆発炎上させてしまう。 セクハラを受けたといっても、言葉の問題に過ぎないじゃないか。いくら何でも「やり過ぎだ」と、当時の私には感じられた。 しかし後々、自分も家庭を持って齢を重ねていく内に、女性にとっての“ガラスの天井”が思った以上に厚く、己もそんな中で、“男性優位”の社会に安住してきたことに思い至った。若造の自分が、「女性の気持ちがわかっている」などと、傲慢な気持ちを抱いてことを思い返しては、恥じ入るようにもなった。 そうなると、テルマとルイーズの取った行動に対する考えも、変わってくる。本作に於いては2人の行いが、実に納得がいくように描かれているのである。 2人が逃避行を余儀なくされるに至る、レイプ未遂の一件。酒場でいかに意気投合しようとも、合意のない女性を、無理矢理に性欲のハケ口にするなど、論外である。そしてこの加害者にして被害者となる男は、これまでもこんな卑劣な手口で、数多の女性たちに被害を及ぼしてきたことを窺わせる。 また2人の逃走劇が進む内に明らかになるのだが、ルイーズは若き日に、レイプの犠牲になっていた。そしてその時、警察などの対応に絶望して、故郷のテキサスを離れたのである。「殺害」したのは、確かにやり過ぎだろう。しかしそうした彼女の痛ましい過去が、たまたま手にしていた拳銃の引き金を引かせてしまったのだ。 続いて、運転中のテルマとルイーズにセクハラ嫌がらせを行った、トレーラー運転手の問題。2人は野卑なこの男に、「アンタの妻や娘、姉妹が同じことされたら、どう思う?」と、はっきり問い質している。しかし運転手は、そう言われたことを屁とも思わない態度を取ってみせる。これでは“映画”的には、トレーラーを爆破されても、致し方あるまい。 レイプ未遂犯、トレーラーの運転手からテルマの夫、そして若き日の“ブラピ”が演じる強盗の青年まで、本作に登場する男どものほとんどが、女性を下に見て、彼女たちから搾取することを恥じない者たちだ。例外のように、マイケル・マドセン演じるルイーズの恋人が優しさを見せるが、彼も彼女が自分の前から消えそうになるまでは、結婚を申し込めなかった。自分本位な部分が、拭えない男性である。 追っ手の側には、終始彼女たちに同情的な姿勢を見せる、ハル警部(演:ハーベイ・カイテル)が登場する。しかし彼も彼女たちの救いとなる力は、残念ながら持ち得ない。 こうして監督と俳優の共犯関係が出来上がり、見事な演技を見せたジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドン。その年度のアカデミー賞で、共に主演女優賞にWノミネートされた。 すでに『偶然の旅行者』(88)で助演女優賞の受賞経験があるデイヴィスも、『アトランティックシティ』(80)以来のノミネートとなったサランドンも、この時は残念ながら、オスカーを手にすることはなかった。同一作品から2人の候補が出たことによって、票が割れたのと、この年は『羊たちの沈黙』(91)のジョディ・フォスターという、強力なライバルがいたのである。 以前より社会問題に対しての意識が高かったサランドンとデイヴィスだが、本作以降その政治的発言や行動が、益々注目されるようになった。そんな中で、サランドンが遂にオスカーを掌中に収めたのは、4年後のこと。当時の彼女のパートナーであったティム・ロビンスが監督を務め、死刑制度に対する疑義を打ち出した、社会派の作品『デッドマン・ウォーキング』(95)での主演女優賞受賞だったのは、至極納得がいく。『テルマ&ルイーズ』は、娯楽性を大いに湛えながらも、観る者を試す“リトマス試験紙”の役割をも果たす。リドリー・スコットは“コメディ”として演出したともいうが、やはり凡百の監督では、ここまでの作品には、仕上げられなかっただろう。 そんなリドリー・スコット監督こそ、まさに現代の“巨匠”の名にふさわしい。■
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PROGRAM/放送作品
(吹)Mr.&Mrs. スミス
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが暗殺者夫婦を演じた、痛快アクション・コメディ
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー。ハリウッドを代表するスターが、暗殺者夫婦を演じたアクション・コメディ。監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマンが務めている。
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NEWS/ニュース2019.08.27
8/26(月)よりタランティーノ監督の解説付き番組を独占放送!タランティーノ&ディカプリオ初2ショット来日!「世紀のクーデターと思う!」
今夜、8/26(月)よりクエンティン・タランティーノ監督の解説付き番組をザ・シネマで独占放送!番組情報はこちら視聴するにはこちら クエンティン・タランティーノ監督とレオナルド・ディカプリオが8月26日、東京都内で開催された映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(8月30日公開)の来日記者会見に出席されました。タランティーノ&ディカプリオが揃っての来日は初となります!またプロデューサーのシャノン・マッキントッシュも登壇しました。最初の挨拶でタランティーノが妻の妊娠への祝福に受けて喜びを語り和やかに会見がスタート。ザ・シネマではQ&Aで記者会見をご紹介します!今夜の放送前にぜひ、ご覧ください。 Q:「なぜ、デカプリオ&ブラピをキャスティングしたのか?」 A:タランティーノ「二人がこのキャラクターたちにぴったりだったから。自分が選んだというより彼らがぼくを選んでくれたと思うんです。選んでくれたのはラッキーだったし、沢山送られてくる企画書の中からきっとぼくの脚本が上の方にあったのだと思うし、内容にも個人的にもこのキャスティングができたのが世紀のクーデターと思う!」 Q:「どのように準備したか?」 A:デカプリオ「たくさんの往年の俳優さんたちをリサーチして参考にした。監督はシネフィルで、ものすごい知識の宝庫だから、いろんな作品や俳優を紹介されたよ。ある意味、この映画は、ハリウッド映画界を祝福する作品でもあると思う。このリサーチは素晴らしい経験になった」と、語った。 (※そして、、デカプリオ!シャノンさんに質問ありますか?と記者へ促す紳士ぷりを発揮!!) Q:「撮影でのエピソードは?」 A:シャノン「タランティーノの作品は本当にマジカルなものがあります!まさにファミリー。非常に多くのインスピレーションを受けるのです。撮影の準備など映画の撮影がないときはタランティーノの歴史の授業がはじまっていろんなことを学べるわけです。誰よりも映画をしっていますから。彼のスタッフは他の映画を断ってでも彼の作品に参加したい。喜びとありますし彼の仕事ぶりをみて感じたのは喜びと素晴らしさです!」「テイクを取った後に、タランティーノがOKを出すけどもう一回とるときになぜとながら、全員で「だってみんな映画つくりがすきなんだ!」というのがお決まり。本心で言っている」と貴重なエピソードを披露。 Q、皆さんの身の回りに起こった奇跡はなんですか? A、タランティーノ:「仕事からではなく一人のアーティストして映画を9本の映画が作ることができて、日本にきても自分がだれだか知られていて、ビデオストアで働いていた自分をふりかえると一人のアーティストして自分のみちのりを前にすすむという形で物語と幸運だし、このことを絶対わすれないでいる」 デカプリオ:「ぼくはLAで育ちました。この業界を知っているのでどれだけ俳優でいるのが大変なことがわかります。世界中からこの夢をもってハリウッドにきます。中々夢をかなえられないのが現状だと思うのです。ラッキーにも子供のころからハリウッドにいて学校がおわってオーデションを受けにいく生活ができたんだ、今、仕事があり決定権や選択肢があるのは俳優として奇跡だと思います!日々感謝しています」 シャノン:「大好きな業界で大好きな仕事ができる、そしてこの生活に耐えてくれる夫がいて二人の息子がいることが奇跡だと思います!」 映画作成には沢山のリサーチをした語るタランティーノ。本作の8月30日の公開まえに今夜からスタートする番組を予習にぜひお楽しみください。 <映画> 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』8月30日(金)全国公開 <番組情報> ■8/26(月)放送!タランティーノ監督のコメント到着! 「新作の舞台となった60年代の名作の数々を紹介します。一緒にたのしみましょう!わたしの新作はまもなく公開です。ぜひ、劇場で」★『イージー・ライダー』(※コメント抜粋)「ほぼあらゆる点において、1960年代の映画の最も偉大な例かもしれない」★『…YOU…』 (※コメント抜粋)「大好きな作品!エリオット・グールドの大ファンなんだ!彼の最高傑作の1つだと思うよ。(監督の)リチャード・ラッシュは反体制側の描き方が見事だと思う。」★『ボブ&キャロル&テッド&アリス』(※コメント抜粋)「監督のポール・マザースキーは70年代のコメディー監督の中でも大好きな監督!1969年だからこそ撮れた作品だと思う。“What The World Needs Now Is Love” を歌っちゃうほどお気に入り!」続きは放送で!!!! ■ 「タランティーノ監督が選び語る映画たち!(前解説・後解説付き8作品)」と、ディカプリオ&ブラピ主演2作品も放送! この解説付きの8作品を観ることで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の理解度が深まります!映画の予習にもぜひ、お楽しみください。 <タランティーノ監督が選び語る!映画たち:放送日> ◎8月26日(月)『イージー・ライダー』23:00~/ 『草原の野獣』深夜01:00~ ◎8月27日(火)『サイレンサー第4弾/破壊部隊』23:00~/ 『 …YOU… 』深夜01:00~ ◎8月28日(水)『 (吹)手錠の男』23:00~/ 『ハマーヘッド』深夜00:30~ ◎8月29日(木)『ボブ&キャロル&テッド&アリス』23:00~/ 『サボテンの花』深夜01:00~ 番組情報はこちら視聴するにはこちらシネ女ちゃんはこちら
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PROGRAM/放送作品
カリフォルニア(1993)
[PG-12相当]連続殺人の研究のため憧れの地「カリフォルニア」への旅に同乗してきたのは本物の殺人鬼
ブラッド・ピット主演作。「60セカンズ」のドミニク・セナ監督が描くバイオレンスロードムービー。
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COLUMN/コラム2019.03.27
さながらアントニオーニかゴダールか、ハリウッドスターの監督作という色眼鏡を外して見て欲しい佳作
舞台は’70年代初頭の南フランス、地中海に面した入江の高級ホテル。シボレーのコンバーチブルに乗ったアメリカ人の中年夫婦が到着する。夫ローランド(ブラッド・ピット)は創作に行き詰まったアル中の流行作家、妻ヴァネッサ(アンジェリーナ・ジョリー)は情緒不安定で不愛想な元ダンサー。会話の節々に愛情の片鱗が垣間見える2人だが、しかし夫婦仲は冷え切っているも同然だ。不器用ながらも関係の修復を試みるローランド。一方のヴァネッサは、彼が自分の体に指一本触れることも許さない。 かくして、夫は午前中からバーに入り浸って酒をあおり、妻はホテルの部屋に閉じこもってバルコニーから入江を眺めて過ごす。だが、そんなある日、隣の部屋にハネムーンの若い新婚夫婦フランソワ(メルヴィル・プポー)とリア(メラニー・ロラン)がチェックインしたことから、ローランドとヴァネッサの関係に奇妙な変化が生じる…。 当時、交際9年目で正式に結婚したばかりだったハリウッド最強のパワーカップル、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが、2人の出会いとなった大ヒット作『Mr. & Mrs.スミス』(’05)以来2度目の共演ということで話題を呼んだ『白い帽子の女』(’15)。しかも、妻アンジーが監督と脚本を手掛け、夫婦揃ってプロデュースにも名を連ねるという夢のブランジェリーナ・プロジェクトだ。当然、配給会社ユニバーサルは興行的な成功を期待したはずだが、しかし結果はまさかの大赤字。批評家からもこき下ろされてしまった。さらに追い打ちをかけるかの如く、本作の公開から約1年後にブラピとアンジーは離婚。ある意味、呪われた一本となってしまったのである。 オープニングとエンディングでカーラジオから流れてくる、ショパンをモチーフにしたジェーン・バーキンの名曲「ジェーンB.~わたしという女」の気だるい歌声とメロディが、ミケランジェロ・アントニオーニさながらの退廃的なアンニュイ・ムードを漂わせる本作。それはまるで、’60~’70年代初頭のヨーロッパ映画のような趣きだ。ビジュアルのイメージはジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』(’63)、作家とその妻のすれ違いを描くストーリーはアントニオーニの『夜』(’61)を彷彿とさせる。 さらに、ある理由で精神を病んでしまった妻が次第に壊れていく様子は、アメリカン・インディーズ映画の父ジョン・カサヴェネテスの『こわれゆく女』(’74)をも連想させるだろう。実際、カサヴェテスを崇拝するブラピとアンジーは、夫婦二人三脚で映画を作り続けたカサヴェテスとジーナ・ローランズを、自分たち夫婦関係のロールモデルとしていた。いずれにせよ、これは完全にアートシアター向きの小ぢんまりとした芸術映画。なるほど、ブランジェリーナ夫婦を目当てに映画館へ足を運んだミーハーな観客が、なんじゃこりゃ!?と戸惑ってそっぽを向いてしまったとしても全く不思議ではない。初めから需要と供給が噛み合っていないのだ。 そもそも映画監督としてのアンジェリーナ・ジョリーは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材にした長編処女作『最愛の大地』(’11)から、一貫して「非ハリウッド」の姿勢を貫いてきたと言えよう。太平洋戦争で日本軍捕虜となった米兵の実話を描いた『不屈の男 アンブロークン』(’14)は、そのストーリーこそ米国大衆好みの戦争英雄譚だったが、しかしあえてハリウッド映画的なヒロイズムを排除することによって、熱心な人権活動家という側面を持つアンジーらしい人道主義的な視点を備えた反戦映画として仕上がった。 クメール・ルージュ時代のカンボジアの混沌と恐怖を、家族とともに集団農場送りとなった少女の視点から見つめた最新作『最初に父が殺された』(’17)に至っては、もちろんカンボジアとの合作だからという理由もあるが、全編に渡ってカンボジア人キャストがカンボジア語で演じるという徹底ぶり。日常の延長線上にあるジェノサイドの不条理を丹念に描くリアリズムにも説得力がある。この一般受けをものともしないアンジーの映画作りへの取り組みは、ハリウッド屈指の高額ギャラを稼ぐ大女優なればこその余裕かもしれないが、それでもなおその我が道を行く作家性には強く関心を寄せずにはいられない。 振り返って、この『白い帽子の女』で描かれるのは、人間誰しもが人生で一度は向き合うことになるであろう「喪失感」だ。’07年に最愛の母親を卵巣腫瘍で亡くしたアンジーは、どうしようもなく深い喪失感から抜け出ることの出来ない時期が続いたという。彼女の母親は元女優ミシェリーヌ・ベルトラン。夫ジョン・ヴォイトの浮気が原因で離婚したミシェリーヌは、女優としての夢を諦めて息子ジェームズと娘アンジーの子育てに人生を捧げた。10代の頃にイジメが原因で鬱状態に陥り、自傷行為やドラッグに溺れた経験を持つアンジーは、そんなどん底の時期を支えてくれた母親に対して、人一倍の強い愛情と絆を感じていたのである。苦労の連続だった母親がなぜ56歳という若さで逝かねばならなかったのか。そのやり場のない悲しみと憤りが、ある出来事が原因で深い喪失感を抱えた主人公ローランドとヴァネッサの夫婦関係に、さらに言えば妻ヴァネッサの不安定な心理状態に投影されていると言えるだろう。 そんな2人がホテルの隣室に宿泊する若い新婚夫婦と親しくなるわけだが、ここからストーリーは思いがけない方向へと展開していく。幸せの絶頂にある若夫婦の寝室を、ローランドとヴァネッサは壁の穴からこっそりと覗き見するのだ。かつては私たちもあんな風に愛し合っていた。いけないことだと重々承知しつつ、壁穴の向こうの光景から目を逸らすことの出来ないヴァネッサ。その行為を当初は咎めたローランドだが、しかしやがて共犯関係へと転じる。あらゆることに無関心・無気力だった妻が、久しぶりに見せる強い好奇心。そこに、彼は夫婦関係改善の手がかりを感じ取ったのだ。 実際、この「共通の趣味」をきっかけにローランドとヴァネッサは、お互いにかつての愛情を取り戻していくかのように見える。しかし、ことはそれほど単純ではなかった。やがてヴァネッサの若夫婦に寄せる関心は度を越えた執着へと変わり、やがて彼女の心に潜む深い喪失感が詳らかになっていく。明るい兆しのように思えたヴァネッサの変化は、実のところギリギリで持ちこたえていた彼女の精神がバランスを失った瞬間、つまり崩壊の序曲のようなものだったのだ。 監督アンジェリーナ・ジョリーの視線は、まるで作り手である彼女自身が主人公たちと一緒になって手探りで答えを見つけ出そうとするかの如く、壊れかけた夫婦の苦悩と葛藤、そして再生までの道程をどこまでも丹念に見つめていく。これは、彼女のほかの作品でも同様だ。『最愛の大地』にしろ、『不屈の男 アンブロークン』にしろ、『最初に父が殺された』にしろ、戦争や内乱といったドラマチックなシチュエーションよりも、その渦中に置かれた人々の心理や感情の変化と成長を細やかにくみ取ろうとする。それゆえに、どうしても彼女の作品は長尺になってしまうのだが、しかし同時にそれが醍醐味でもあるのだ。 一方で、ほかの作品では空撮によるロングショットを多用することで、被写体と一定の距離感を保とうとするアンジーだが、ここではいつもと違って全体的に寄りの画が多く、本作が彼女にとって極めてパーソナルなテーマを扱った映画であることがよく分かる。よくよく考えれば、恋愛映画というジャンル自体が映像作家アンジェリーナ・ジョリーにとっては異質。そういう意味でも、とても興味深い作品だと思う。 もちろん、古いヨーロッパ映画の雰囲気をどこまでもリアルに再現した映像の美しさも素晴らしい。母ミシェリーヌがこの時代のヨーロッパ映画が大好きで、アンジー自身も少なからぬ影響を受けたらしい。撮影監督はミヒャエル・ハネケとのコラボレーションンで有名なクリスティアン・ベルガー。照明の代わりに自然光を反射鏡で使った独特の風合いが、時代の空気を見事なくらいに蘇らせている。タイプライターやルイヴィトンの旅行鞄など、ヴィンテージな小道具の使い方も洒落ている。 オープニングとエンディングを飾るジェーン・バーキンを筆頭に、フランス・ギャルやシャンタル・ゴヤのようなイエイエアイドルから、シャルル・トレネやシャルル・アズナヴールのような王道シャンソンまで、全編に散りばめられた懐メロ・フレンチポップスの数々もレトロな情緒を演出する。まるで、あの時代に本当に迷い込んでしまったような感覚が心地いい。『ベティ・ブルー』(’86)や『カミーユ・クローデル』(’88)の作曲家ガブリエル・ヤレドによる音楽スコアも甘美でノスタルジックだ。ちなみに、劇中で使用される楽曲の大半は’60年代のものだが、しかしイエイエを卒業したシェイラの’74年のヒット曲「Tu Es Le Soleil」や、やはり元イエイエアイドルのジャクリーヌ・タイエブが’79年にリリースした「Petite Fille Amour」が含まれているので、選曲の時代考証はわりとざっくりしているようだ。 とりあえず、ハリウッドのメガスター、アンジェリーナ・ジョリーの監督作という色眼鏡を外して見て頂きたい佳作。当時アメリカの批評で、「所詮は意識高い系セレブの自己満足映画」という論調が多かったのもそのせいだろう。結局、我々は人生の光も影もありのままに受け入れるしかない、痛みも悲しみも人生の一部として付き合っていくしかない。そんな風に感じさせる穏やかで静かな幕引きがとても好きだ。■ 参考資料:「『白い帽子の女』メイキング」(‘15年制作・ビデオ作品)/『偉大なるミューズ:ジーナ・ローランズ』(‘15年制作・ビデオ作品)/「Angelina Jolie on 'By the Sea', Her Wedding and the Sony Hack」(‘15年インタビュー記事・Harper’s Bazaar掲載)/「By the Sea DGA Q&A with Angelina Jolie Pitt and Marc Levin」(‘15年全米監督協会制作・ビデオ作品)
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PROGRAM/放送作品
マネーボール
常識破りの理論を武器に金持ち球団と戦った異端児がいた。ブラッド・ピット主演のサクセスストーリー
革新的なマネーボール理論でメジャーリーグの弱小球団を常勝チームに変えた、実在するゼネラルマネージャーの奮闘を映画化。勝利に貪欲で気性の激しい熱血漢を、プロデューサーも兼任したブラッド・ピットが好演。
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COLUMN/コラム2017.12.10
名匠トニー・スコットの本領発揮、痛快なスパイ映画の傑作『スパイ・ゲーム』を吹替えでもいかが?~12月字幕+吹替え3バージョン
カリフォルニア州ロサンゼルスにある460mの吊り橋、ヴィンセント・トーマス橋。ロサンゼルス港とサンペドロ地区を結ぶ最高高所は56mというこの橋からの眺めは、カリフォルニアらしいビーチ風景ではなく、港湾工業地帯の無機質なものとなっている。 2012年8月19日、この殺風景な橋から老齢の男性が飛び降り自殺を図った。老人の名はアンソニー・デビッド・スコット。『エイリアン』『ブレードランナー』などで知られるリドリー・スコット監督の実弟で、トニー・スコットという名前で世界的な大ヒットを連発した名監督だ。 トニーは1944年6月21日、3人兄弟の末っ子としてイングランドで生まれた。ロンドン王立美術大学を卒業したトニーは、画家として活動しつつBBCでドキュメンタリーを撮りたいと考えていたが、長兄のリドリーの薦めで劇映画監督を志す。リドリーの設立したCM制作会社RSA(リドリー・スコット・アソシエーツ)でCMの監督としてその実力を認められたトニーは、1983年に小説『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』にインスパイアされて、同じ吸血鬼映画である『ハンガー』で長編映画監督としてデビューを飾る。カトリーヌ・ドヌーヴ、デヴィッド・ボウイ、スーザン・サランドンという豪華スターが揃った『ハンガー』はカルト的な人気を誇る作品となったが、興行的には成功とは言い難い結果となってしまった。 再びCM業界へと戻ったトニーのもとに、2人の男が訪れる。『ハンガー』を評価したドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーだ。既存のハリウッド映画に飽き飽きしていたシンプソンとブラッカイマーは、まったく新しい映画を作れる監督を探していた。白羽の矢が立ったトニーは『トップガン』を監督。1981年に開局して大ムーブメントを巻き起こしていたMTVに倣い、映画をサントラのプロモーションビデオのように撮る斬新さと、細かなカット割りによる緊張感溢れるドッグファイトシーンが好評を博した。さらに主演のトム・クルーズは、本作によって世界的な大スターへの階段を駆け上がり、映画のサントラは爆発的な大ヒット。フライトジャケットのMA-1やレイバンのサングラスを着用したフォロワーが世界中に溢れるなど、これまでの映画とは異なるビジネス展開が発生するエポックメイキングな作品となった。 『トップガン』の大ヒットによって一役スター監督となったトニーだったが、その後の作品で『トップガン』を超える社会現象を巻き起こすような作品があったかというと微妙だ。シンプソンとブラッカイマーの出世作の続編『ビバリーヒルズ・コップ2』は前作を超えるヒットとはならなかったし、上り調子だったケビン・コスナーを主演に迎えた『リベンジ』も興行的には失敗となった。再びトム・クルーズとタッグを組んだ『デイズ・オブ・サンダー』はヒットしたものの、続くブルース・ウィリスの『ラスト・ボーイスカウト』は壊滅的な興行収入となってしまったのだ。 しかし『トゥルー・ロマンス』では痛快なバイオレンス・ラブ・ロマンスとして非情に高い評価を獲得し、盟友デンゼル・ワシントンと初タッグを組んだ『クリムゾン・タイド』は緊迫感溢れる潜水艦映画として大ヒットを記録した。ロバート・デ・ニーロとウェズリー・スナイプスが共演したストーカーサスペンスの『ザ・ファン』は奮わなかったが、『インデペンデンス・デイ』や『メン・イン・ブラック』で面白黒人枠でスターになったウィル・スミスをシリアスな役に挑戦した『エネミー・オブ・アメリカ』は興行的にも批評的にも成功を収め、再び売れっ子監督に返り咲いたトニーが2001年に監督したのが、この『スパイ・ゲーム』となる。 1991年。伝説のCIA工作員であるネイサン・ミュアー(ロバート・レッドフォード)は、この日をもってCIAを円満退職することとなっていた。しかし早朝から長年の友人であるCIA香港支局長のダンカン(デヴィッド・ヘミングス)からの電話で起こされることに。ダンカンからの情報は、ミュアーの愛弟子の工作員であるトム・ビジョップ(ブラッド・ピット)が、中国の蘇州刑務所での作戦中に拘束されたというものであった。しかもビジョップは中国で行われる別の作戦を途中離脱して、許可なく蘇州刑務所に潜入していたのだった。しかも折り悪く米中通商会談の直前ということもあり、アメリカ政府はビジョップ見殺しもやむなしの方向に流れていた。 CIA内では、何故ビジョップが職場放棄をしてまで蘇州刑務所に潜入したかを確認するため、ミュアーの上司であるフォルジャー(ラリー・ブリッグマン)とチャールズ・ハーカー(スティーヴン・ディレイン)らがミュアーを呼び出し、彼が知るビジョップの実像のヒアリングを開始する。そこでミュアーはビジョップと初めて出会ったベトナム戦争末期の暗殺作戦の話を語り始める。それはミュアーとビジョップの師弟関係と、CIA内でも誰も知らなかった様々な新事実が浮かび上がる15年に渡る長大な物語であった。そしてミュアーは決別していた愛弟子ビジョップを救うべく、ヒアリングの休憩時間の間をぬって、長年の工作員生活で培った手練手管を使っての救出作戦を策謀する。しかしビジョップ処刑までのタイムリミットはすでに20時間を切っていた……。 本作はロバート・レッドフォードとブラッド・ピットという新旧超絶ハンサム俳優の共演で話題となった映画なのだが、ただのハンサム俳優ではない二人の演技力が極限まで引き出された作品と言える。二人が演じたミュアーとビジョップの師弟関係の描き方が見事で、物語が進むにつれて二人の絆と確執が観る者の共感を呼ぶものとなっている。レッドフォードにとっては、僅かなチャンスを決して逃さないプロフェッショナリズムに徹しながらも熱い感情を内に秘めるミュアー役は、キャリアの後半の中でも傑出したキャラクターとなっている。筆者はこの作品から遡ること25年前に出演した『コンドル』でレッドフォードが演じた若きCIAエージェントのその後の姿がミュアーであると勝手に想像して楽しんだりしている。もちろんトンパチで生意気な天才エージェントのビジョップを演じたピットも素晴らしい。 トニーの演出も冴えまくり、トニーお得意の激しいカットの切り替えが過去と現在が入り混じる展開の中で効果を発揮。スパイアクションでありながら発生する激しい銃撃戦や、予想外の度を超えた大爆発も実にトニー映画らしい。また綿密に張られた伏線が、クライマックスで一気に回収される痛快な展開と、感動的でありながら決してしみったれた形で終わらない爽やかなラストは必見の作品となっている。 さて、本作はVHSやDVDなどのメディアに収録されたバージョンとテレビ東京の木曜ロードショーで放映されたバージョン、そしてフジテレビのプレミアステージで放映されたバージョンの3つのバージョンの日本語吹替え版が存在している。メディアバージョンはレッドフォード役と言えばこの人、野沢那智が担当し、ピット役は定番の山寺宏一が担当。そしてテレ東バージョンではテレ東・テレ朝のピット役の定番声優・森川智之と、レッドフォード役には広川太一郎が担当したりなんかしちゃったりしている。フジテレビバージョンのピット役は、日テレ・フジ版のブラピ定番声優の堀内賢雄が担当し、レッドフォード役には磯部勉という意外なキャスティングがされているのだが、これがまた望外にハマっている(広川版に近い感じ)。 何と今回はザ・シネマでこの3バージョンがすべて放送されるので、それぞれのバージョンを聴き比べて、名人たちの吹替えの妙を楽しんで頂きたい(筆者は原語版も含めて、テレ東版が一番のお気に入りです)。■
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PROGRAM/放送作品
トロイ(2004)
[PG-12]神話エンタテインメント!ギリシャ最強の戦士アキレスを演じたB・ピットが雄々しく美しい
古代ギリシアの昔から語り継がれる壮大な叙事詩を、最先端映像技術とブラッド・ピット、オーランド・ブルーム、エリック・バナら美しき男たちの肉体美により、圧倒的迫力で蘇らせたアクション歴史巨編。
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COLUMN/コラム2012.08.03
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年8月】山田
唯一無二の作品作りで映画ファンを魅了するタランティーノ。そんな彼が撮った「戦争映画」は破格の面白さである。公開当時行われた、上映開始後1時間以内に退席した観客に鑑賞料を返却する「面白さタランかったら全額返金しバスターズ」キャンペーンに乗っかった人は一人もいないのでは?分かる人にはたまらないオマージュの数々。相変わらずの暴力描写から、お得意の無駄話(今作は少なめ)。また、モリコーネからビリー・プレストン、デビッド・ボウイまで、相変わらずのミックステープ的選曲の素晴らしさ。この夏のザ・シネマでは、そんな彼の作品、『レザボアドッグス』も『パルプ・フィクション』も『フォー・ルームス』も『ジャッキー・ブラウン』もあわせて放送!題して“タランティーノ祭”! (C) 2009 UNIVERSAL STUDIOS