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ギャング映画の金字塔、コッポラの『ゴッドファーザー』

  • ゴッドファーザー[デジタル・リストア版]
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 ギャング映画は、その後も滅びなかった。当然だろう。資本主義と多民族国家とアメリカン・ドリームがあるかぎり、犯罪と裏社会と悪の繁栄は絶えることがない。

 ギャング映画復活の先鞭をつけたのは、『俺たちに明日はない』(1967)だった。が、本格的な復活を告げたのは、やはり『ゴッドファーザー』(1972)だろう。あれはゴージャスなギャング映画だった。芳醇なグランヴァン。味わいが深く、香りの高い傑作だった。

 ご承知のとおり、『ゴッドファーザー』はコルレオーネ一家の物語である。一家とは、血縁でつながれたファミリーを指すと同時に、「血の掟」で結ばれたギャングの集団も意味する。家族の愛憎。組織に対する忠誠。貧困から這い上がって富と権力を手にする移民の物語。この重層性が、『ゴッドファーザー』の特質だった。

 しかも、監督のフランシス・フォード・コッポラは一貫して「インサイド・アウド」の視点を採用する。つまり、家族や組織を外から観察するのではなく、彼らの内部に入り込み、身体の内側から皮膚を切り裂く作法。これは功を奏した。どの描写にも血が通い、体温が感じられる。多くの観客を魅惑し、不滅の傑作として映画史に輝いたのも、この作法あればこそだ。 『ゴッドファーザー』が描いた時代は、1940年代中盤以降の約10年間である。中心を貫くのは父ヴィト・コルレオーネ(マーロン・ブランド)と息子マイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)をつなぐ太い線だが、ふたりの周辺に錯綜する複数の線も実に興味深い。

 たとえば、血の気が多く、思慮の浅い長男ソニー(ジェームズ・カーン)の暴発が眼を惹く。コルレオーネ家の養子であり、お抱え弁護士でもあるトム(ロバート・デュヴァル)の冷静さも見逃せない。あるいは、汚れ仕事を請け負うクレメンザ(リチャード・カステラーノ)やテシオ(エイブ・ヴィゴダ)の渋い横顔がある。コルレオーネ家に敵対するソロッツォ(アル・レッティエーリ)やマクラスキー警部(スターリング・ヘイドン)の狡猾と悪辣も忘れられない。

 要するに『ゴッドファーザー』は「男たちの見本市」だ。肉が濃くて、一筋縄では行かない男たちが、「血の帝国」を築き上げ、さらにそれを継承していくとはどういうことか。戦慄を覚えずには見られない「粛清」のシークエンスも含めて、この映画には脳髄にからみつく名場面があまりにも多い。

『ゴッドファーザー』が爆発的にヒットすると、続篇製作の声は当然のようにあがった。が、コッポラは燃え尽き症候群にかかっていた。長く険しい道のりを踏破して、あんなに凄い映画を30歳そこそこで撮り上げた彼が疲れ切っていたとしても、だれも責められはしない。

 それでもパラマウント社は、72年7月に続篇の製作を発表した。コッポラも、結局は受けた。基本給が50万ドルで、あとは配給収入の13%が彼の取り分になる。当たれば、莫大な利益だ。

 しかし、問題は映画の中身だった。ありきたりの続篇を撮る気は、コッポラにはなかった。時代は1950年代後半に移っているが、「その後のコルレオーネ一家」を時系列に沿って描くだけでは芸がない。そこでコッポラは、大胆にも「2階建ての時間」を導入する。
 74年に公開された『ゴッドファーザーPARTⅡ』の地上には、マイケルが絶大な権力をつかんでいく50年代後半が置かれた。地下には、ヴィトがアメリカへ流れてきた直後の20世紀初頭が配置された。つまりコッポラは、1本の映画のなかに「血の帝国」の夜明けとたそがれの両方を積み込もうとしたのだ。権力をつかむにつれ、どんどん冷酷で閉鎖的になっていくマイケルの姿。激しい復讐心と新鮮な野心に衝き動かされて上昇していくヴィトの姿。両者が重ね焼きされて、移民の物語は痛烈なギャング映画と化した。さらには20世紀アメリカの裏面史を彫り上げた壮大なサーガに変身した。

 これは稀有な例だ。しかもこの映画は、演技や美術や撮影や音楽が素晴らしい。わけても眼を奪うのは、1作目に続いてマイケルを演じたアル・パチーノの鋭い集中力と、変幻自在なカメレオン体質を見せつけるロバート・デ・ニーロの対照的な演技だ。続篇としてこれだけ成功した映画は、そうそうないのではないか。

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