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ギャング映画とフィルム・ノワールの融合、コーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』

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 技といえば『ミラーズ・クロッシング』の技も切れる。コーエン兄弟だもの、当たり前じゃないか、という意見もあるだろうが、この映画の底には「ギャング映画とフィルム・ノワールを足して割ったら、どんな味になるのか」という難問が設けられている。
 これは一種のギャンブルだ。先ほども述べたが、30年代のギャング映画と40年代のフィルム・ノワールとではジャンルが異なる。描かれる時代も、登場人物の姿も、語り口も、ヴィジュアル・スタイルも、同じではないのだ。

 ところがコーエン兄弟は、ギャング映画に出てきそうな人物をつぎつぎと登場させながら、フィルム・ノワールのヴィジュアル・スタイルや語り口を踏襲する。舞台は1929年の東部の町(名前は伏せられている)。出てくるのは、アイルランド系の政治家(アルバート・フィニー)、イタリア系のギャング(ジョン・ポリート)、そしてユダヤ系のギャング(ジョン・タトゥーロ)。映画の序盤、森のなかで黒い帽子が舞う場面や、登場人物の関係が極端に錯綜して見えるあたりは、あきらかにノワール寄りの描写か。

 すると、不思議な味わいが醸し出される。主な登場人物はギャングだし、ふたつの勢力が町の権力争いをする筋立てはダシル・ハメットの小説を想起させるのだが、コーエン兄弟はむしろ変人たちの描写に力を割く。実際の話、ジョン・ポリートやジョン・タトゥーロ、さらにはノミ屋のミンク(スティーヴ・ブシェミ)の姿などは、見ていて実に楽しい。世間を舐め切った雰囲気といい、図太いブラックユーモアの発露といい、犯罪映画というよりも奇人たちのショーケースといった趣を呈している。

 いいかえるなら、『ミラーズ・クロッシング』はギャング映画の衣をかぶったコーエン兄弟の遊園地だ。もちろん、自意識は強い。撮影を進めながら、彼らはこれが「どういう種類の」映画であるかを強く意識しつづけていたにちがいない。そこをどう取るか。 私は20年前、この映画の自意識過剰にやや反発した記憶があるが、いまは楽しんで見ることができる。衣裳や美術は見事なものだし、『ダニー・ボーイ』が朗々と流れるなかの銃撃戦などは、いつ見ても眼と耳を奪われる。

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