「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても見たかった激レア映画を買い付けてきました」特集で、ワタクシが激烈に推薦しております『暗い日曜日』。DVD絶版で鑑賞しづらい作品なのですが、これを買い付けてきてHDでザ・シネマでは放送します。

 「暗い日曜日」という自殺ソング、これは実際にある曲なんですが、それに着想を得た物語です。この作品はサイトの解説もワタクシ自分で書きましたんで、まんまコピペしてきます。

「今もブダペストにあるレストラン、サボー。戦前、ユダヤ系の支配人サボーは父娘ほど歳の離れたウェイトレスのイロナと愛し合い、幸せな日々を送っていた。新たに雇ったピアニストのアンドラーシュにイロナが惚れたので、サボーは奪い合うより男2人で彼女をシェアする大人の関係を提案。だがその関係は次第にアンドラーシュの心を蝕み、ナチの脅威が迫ってハンガリーも右傾化し、社会が狂ってくる中、彼は、ある曲を作ってしまう。」

 という物語でして、ザ・シネマ10周年記念対談の方ではさらに踏み込んだトークをしておりますんで、よろしければそちらも覗きに来てください。

 さて、劇中でレストランのオーナーである主人公サボーさんが、ドイツから来た観光客のハンスに「ルラード」という料理の作り方について説明するくだりがあります。ハンスは「ビーフロール」と呼んでルラードをいたく気に入っているので、奴が非常に凹んでいる時に、親切なサボーさんは秘密のレシピを教えてやるのです。

「まず柔らかいヒレ肉を薄くスライスしてたたいておく。鍋にバターを溶かし、いい香りがしてきたらニンニクを入れる。丸ごとね。バターにニンニクの香りがついたら肉を入れてソテーする。中身は覚えているかい?ハンガリーのハムとチーズだ。薄くスライスしておく。だから一口切って食べると、舌に3つの味が広がる。その3つの全く違った味が、ふた口めで1つに溶け合うというわけだ」

 ぐぬぅ!実に美味そうですなぁ!! 食えるもんなら食ってみたいが、日本でこれを食わせてくれるレストランがそうそう在る気がしない…。東京にはハンガリー・レストランが何件かありますが、本日(4/30)はゴールデン・ウィーク初日ってことで、こんな日には時間をかけて、ヘタの横好きで手ずから作ってみるとしましょうか。映画を見て美味そうな食い物を知り、そいつを食す、作る、ってのもまた、映画マニアの大いなる愉しみの1つなのであります。ではありませんか?俺だけか?

 このルラード、日本ではマイナーすぎるんで、レシピが全然見つかりません。「ルラード(Roulade)」自体は「巻いた物」って意味らしいので、ネットで検索するとチキンのやつとかいろいろと見つかるんですが(ロールケーキもRouladeと呼ばれてるようで、ヒットしちゃう)、上記のサボーさんの言っているようなルラード、ハンスが言う「ビーフロール」みたいなハンガリー料理のレシピが、これが容易に見つからないんだなぁ。なので、今回は海外のサイトを何カ所か参考にしました。特にパクリ元にしたのがココのブログ。

 このメインぱくり元に加え、他のサイトと、サボーさんの前出のセリフと、あと本編映像を一時停止して何度も何度も観察する、ということで、劇中に近いルラードの再現を試みております。以下、当コーナー初となる、レシピです。

【材料(男のデタラメ料理なので分量は超適当)】
ニンニク
レモン
赤いパプリカ
ほうれん草のベイビーリーフ
生マッシュルーム
エシャロット
イタリアン・パセリ
牛ヒレステーキ肉
マンガリッツァ・ハム
ハヴァティ・チーズ
パルメザン・チーズ
生クリーム
ニョッキ
白ワイン
バルサミコ酢
チキン・スープ・ストック
ディジョン・マスタード

【作り方】
①まずマリネ液を作っておく。大きめのタッパーにレモン1個を絞り、バルサミコ同量を加え、そこに細かく刻んだニンニクを入れ、混ぜる。

②牛ヒレステーキ肉をラップで包んで、ミートハンマーで均一に薄くなるまで叩く。できれば形よく長方形に整えたい。塩と挽きたての黒胡椒で両面をシーズニングする。

③マリネ液に肉を漬け込む。少なくとも30分、できれば数時間、ニンニク風味の強さがお好みならば一晩、冷蔵庫に置いて両面をよくマリネする。

④焼きナスと同じ要領で“焼きパプリカ”を作る。アルミホイルで二重に包んだレッド・パプリカを、ガスコンロに直に置いて直火で20分間焼く。5分おきにトングで少しずつ回転させていく。20分たったらホイルをめくり、真っ黒に炭化した皮を丁寧に剥がしていき(これが骨が折れる)、ヘタと種を取り除く。これを細切りにし、後で使う具材として横に取り置いておく。

⑤十分にマリネされた肉をまな板に広げ、たっぷりのディジョン・マスタードを裏側(具を乗せる面)全面に塗る。

⑥肉の上に具を乗せていく。ほうれん草のベイビーリーフ、マンガリッツァ・ハム、パプリカ細切り(最後の飾り用に少し残しておく)、ハヴァティ・チーズの順に。ヘリは2〜3cmほど具を乗せずに空けておく。最後にパルメザンをチーズおろしでふりかける。

⑦肉をきつく巻いていく。こぼれた具も拾って肉巻きの中に押し込もう。まな板の上に閉じ目を下にして置き、ほつれないようタコ糸でしっかりと縛る。

⑧オーヴン対応の中鍋を中火で熱し、大きなバターひとかたまりとオリーブ・オイル同量を入れ、バターが溶けて鍋に油がよく回ったら、潰したニンニク1かけを入れて香りを十分に引き出す。

⑨その鍋に肉巻きを投入し、時おり回転させて全面に色がつき渡ったら、鍋ごと230℃に予熱したオーヴンに入れて20分間熱する。それと⑩で作るニョッキ用の湯をここらで大鍋で沸かし始めること。20分たったらオーヴンから鍋を出し、肉巻きを取り出してアルミホイルで包んでおき、ソースを作る間の10〜15分間冷ましておく(冷まさないと切り分けられない)。

⑩その10〜15分間にソースを作り、ニョッキも茹でる。ニョッキは出来合いのものをパッケージの指示通りに茹でるだけ。ソースは、ソースパンでバターを溶かし、マッシュルームとエシャロットをソテーする。マッシュルームから水分が流れ出し、その水気が飛んで色が茶色くなりクタっとなってきたら、白ワイン1/4カップとチキン・スープ・ストック1/4カップを加え、分量が半分に減るまで煮詰めていく。最後に生クリーム1/4カップを加えてトロミが出るまでかき混ぜ、塩胡椒で味を整える。これでだいたい15分。

⑪盛り付け。肉巻きのタコ糸を外して切り分ける。皿の真ん中にまずマッシュルーム・ソースを広げ、切り分けた肉巻きを置き、周囲に付け合わせのニョッキを盛り付けて、最後に彩りを加えるため、ニョッキの上にイタリアン・パセリを、肉巻きの上には残しておいたレッド・パプリカを飾る。

 完成!実食!! こ、これはマジでシャレになってないですぞ!美味い!そして、食ったことのない味だ!まず、ニンニクを合計2カケも使ってますが、香りの主役は完全に焼きパプリカに持ってかれてる。口にするとパンチの効いたスモーキーフレーバーと、あの焼きナス的ビター感がまず広がります。次いで、レモン汁とバルサミコでマリネした牛肉の酸味の爽快サッパリ感が満ちていき、結構バターを使いまくってるにも関わらず意外としつこくはない。そして、マッシュルーム・クリームソースがこのワイルドな焼きパプリカの香りと攻撃的な酸味をマイルドにまとめ上げる、という絶妙な具合。こいつはイケる!

 と手前味噌ばかり言うのもさすがに恥ずかしいので、NEXTに活かすため、今回の反省点も記しておきましょう。まず、牛ヒレステーキ肉がウチの近所の肉屋に無かったので、実は今回は肩ロース肉を用いてる。安上がりに済んだけど、そりゃヒレよりかは多少硬い。ヒレ使っていれば、ナイフがスッと入るような柔らかさになったかもしれず、上品感がかなり増したでしょう。でも、それは大した問題ではない。次に、「ほうれん草のベイビーリーフ」なんて物は見たことも聞いたこともないので、冷蔵庫のサニーレタスで代用しました。さりとてこれも、だからといって大した問題ではない。

 一番大きな問題は、ハヴァティ・チーズとマンガリッツァ・ハムです。この2つはTHE輸入食材!という感じなので値も張りました。ほぼ2000円近くがこれだけにかかってるんですが、費用対効果が薄すぎて、ハッキリ言って不経済。まずチーズ。元のレシピで2つ使えと指示されているうち、今回ハヴァティ・チーズが手に入らずパルメザン一種類だけでチャレンジしたんですが、焼き色を付けている時とその後のオーヴンで熱を入れる過程で、液状化したチーズが肉巻きからすっかり流れ出てしまうので、意味ねー!チーズの風味や、あのピザのような糸を引く感じが今回ほとんどありませんでした。

 それとマンガリッツァですが、これもそんな生ハムみたいなものを内側に巻き込んだのでは、熱が入る過程で溶けて無くなっちゃって、食っていてどこにハム状のものがあるのか、サッパリわからないぐらいでした。

 劇中のセリフでサボーさんは「舌に3つの味が広がる」と言っていました。チーズとハムと、そして牛肉のことですが、そのうちの2つがほとんど消えて無くなっちゃってるというのは、美味い不味いとは別の話として、失敗といえば大失敗でしょう!

 これを踏また上で、次に作る時には、まずチーズはハヴァティか、少なくとも「とろけるチーズ」的なものは必須で具材に加えるようにします。パルメザンだけでは不十分です。そしてハムは、マンガリッツァのような生ハム系ではなくて、ボンレスハムなどの熱が加わっても牛肉にも負けない食感がしっかりと残りそうなタイプのものを選ぶことにします。

 にしても、一回目で失敗して、捲土重来を誓い、次回、雪辱戦!というのも、映画マニアのオッサンののん気な食道楽としては、なかなかに楽しみなものなのです。「おっ、あの時、軽く失敗したレシピに、今週末あたりもう一回トライしてみよう」ってスケジュールが土日の欄に書き加わるのは、毎日にちょっとした充実をもたらしてくれますぞ。■

LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED