写真/studio louise

 今回のレシピは当企画史上最簡単。でもその前に、まずそもそもチリコンカンとは何ぞや!?ですが、これは“豆入りミートソース”と説明するのが、知らない日本人に対しては一番解りやすい。作り方もスパゲティ・ミートソースのミートソースとそうは違わんのですが、ただし、決定的に大違いなのが「チリパウダー」と呼ばれるスパイスが味の決め手となっている点。なんか赤唐辛子の粉末みたいな鬼のような響きですけれど、全く違います。辛くはありません。これのおかげでミートソースとは全然違う味です。

 ウチは貧乏子沢山で子供が多いのですが、入園前の幼児の頃から全員の大好物。子供の味覚は兄弟姉妹間では遺伝しないものらしく各自バラバラで、満場一致で好きな食べ物など滅多に無くて、こっちが好きなものはあっちが嫌い、あっちの好物はこっちが口つけずと、作る親としては「いいから出されたもんは文句言わずに黙って残さず食え!」と毎回叱ってはみるものの、子供相手には詮無きこと。しかしこのチリコンカンは、カレーだとかコロッケだとか並ぶ、例外的な全員の好物です。つまり、お子様向け・万人向けの、割とわっかりやすい味だということ。だから辛くない。少々スパイシーではありますけど。

 かく言う父親のワタクシ当年とって43歳も、小学生の頃に金曜ロードショーで「刑事コロンボ」見ててその存在を知り(コロンボの大好物という設定)、そんなに美味いんだったら喰ってみたい!と子供ながらに思ったものの母親はそんな得体の知れんものは作らず肉ジャガとか作ってる。夢が叶ったのはもちろん、皆さんご存知ウェンディーズで、でした。当時は「ウェンディーズチリ」こそが日本にいて一番容易に食べられるチリコンカンだったのです。そして「この世にこんな美味いものがあるのか!」と感動したのがワタクシとチリコンカンの最初の出会いでした。確か所は@地元ららぽーとTOKYO-BAYじゃなかったかな?80年代後半の話です。そこにウェンディーズが入ってたのです(森永LOVEもあったな)。ちなみに、その頃の初期ららぽーと、当時の東洋一のショッピングモール(日本にはモール自体なくアメリカの匂いがした)の威容は、菊池桃子主演の『テラ戦士Ψ(サイ)BOY』という日本映画に記録されていて、何らかファストフード店も映ったような記憶があるのですが、ウェンディーズだったかな?覚えてないや。もう一度見たい!が、なんと未DVD化で中古VHSがAmazonで¥7,500もするのかよ!?くそ〜邦画じゃなかったらウチの「シネマ解放区」でオレがやるんだけどなぁ!

 まぁそれはいいや。次に「テックス・メックス料理」とは何ぞや!?ですが、単にテキサス&メキシコ料理という意味です。伝統的なメキシコ料理では決してなくて、テキサスでアメリカナイズされた、なんちゃってメキシカンフード。日本の洋食が本場の西洋料理とは似て非なるものであるのと同じ。これが、あんまし上等な食い物じゃないんだ、エンチラーダとかブリトーとか。でも、どんな上等な食い物よりここらへんは美味いっすね!少なくとも個人的にはブッチギリ好みですわ。

 上等な食い物じゃない、というポジションを踏まえた上で、このチリコンカンが登場する前出2本の映画での扱いにご注目いただきたい。

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 まずは、1972年の『ロッキーの英雄・伝説絶ゆる時』。これはVHS含め過去に一度もソフト化されたことがない(はず)掛け値無しのお宝作品で、ワタクシ、映画ライターなかざわひでゆきさんと過去にガッツリ語り合ってもおりますので、詳しくはその対談をご笑覧ください。ここでは簡単にあらすじだけ。

親を亡くし独り山中で暮らすネイティヴ・アメリカンの野生児ブラック・ブルは、文明暮らしに馴染めないまま成長した。彼には荒馬を乗りこなす才能があり、ある日それが老ロデオコーチの目に留まり、引き取られ訓練を積みロデオ乗りとして成功する。この老人はブラック・ブルにとって足を向けては寝られない恩人であり、酒場で絡んできた白人レイシストを殴り倒すなど親身になってくれ、育ての親とも慕う存在なのだが、しかし…

 でもって映画前半、老ロデオコーチの馬場で猛特訓を積み、特訓を終えるとメシの時間で、元選手でケガで引退した住み込みのオッサンが1人おり、そいつが作る絶品チリコンカンを3人でドカ食いする。「どんどん食え、筋肉を付けろ」などと老コーチから主人公は指導されますから、米国版ちゃんこですなこれは。これが、見るっからに美味そうなんです!住み込みのオッサンはレッドホットソースを振りかけて食ってる。ワタクシの場合は緑タバスコと決めていますが。チリコンカン自体は全く辛くないので、辛いもの好きにはホットソースは不可欠です。

 とにかく、どちらかと言うとガテンな感じの食い物なのです。そもそもカウボーイが荒野で野宿しながらダッヂオーブンで作ってたぐらいのものなので。そして、ちゃんこ替わりにロデオライダーが体作り目的で喰うのがこれなので。お上品な食い物では全然ないのです。

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 2本目の映画、1962年の『荒野を歩け』。こちらは隠れた名作なのにウチのチャンネル内でもあまり大々的に宣伝してこなかったので、この場を借りて若干長めに語らせといてください。レシピしばしお待ちを。

 監督は名匠エドワード・ドミトリク(代表作は54年『ケイン号の叛乱』、56年『山』、59年『ワーロック』など)、主演がローレンス・ハーヴェイで、ウチのチャンネル的には超有名作『アラモ』(60年)と超無名作『肉体のすきま風』(61年。でも傑作です!)でおなじみ。実は『ドミノ』(05年)でキーラ・ナイトレイが演じた実在の女賞金稼ぎドミノ・ハーヴェイの父親だったりもします。クールな父娘だぜ!

 さて、時は大恐慌の時代1930年代初頭。主人公ローレンス・ハーヴェイはカウボーイ・デニム・スタイルで上下キメてる流れ者のテキサン(テキサスっ子)。上が明らかに「Lee101J」で、下は「Leeカウボーイ」でしょう。LEVI'Sはこの当時ゴールドラッシュの金鉱掘り坑夫が履くようなダボっとした作業ズボン風シルエットだったのですが、Leeはカウボーイ専用ジーンズとして「Leeカウボーイ」というラインを1924年に発表。今に続く「Leeライダース」の原点です。これが、年々タイトな若々しいシルエットに細まっていき、作業着の実用性よりファッション性に重きを置いていき、それが革命的だったのです。ジージャン「Lee101J」の方もタイトだった。1926年には社会の窓ジッパー化もいち早く成し遂げており、デニム業界の最先端をLeeは走っていました(Leeの歴史)。劇中のローレンス・ハーヴェイはそれを着ているはず。考証的に30年代初頭にしては細すぎるシルエットですが、細身で苦み走ったシャープな二枚目の彼に実にお似合いです。

 で大不況下のイケメン浮浪者ローレンス・ハーヴェイが一夜の野宿の寝床にと空き地の土管にもぐり込もうとすると、先客ジェーン・フォンダが寝てた。彼女は1960年のデビュー作カレッジ・ラブコメ『のっぽ物語』に続いての映画出演ですが、2作目にしていきなりのとんでもないビッチ汚れ役!ニンフォマニアな未成年で、ローレンス・ハーヴェイに迫るものの「愛する女が待ってるから」とフラれ、2人してホーボーとなって無賃乗車したり(ホーボーとは何ぞや!?はこの秋放送の『北国の帝王』を見よ)、或る夜の出来事式色じかけヒッチハイクをしたりして(或る夜の出来事式色じかけヒッチハイクとは何ぞや!?は放送中の『或る夜の出来事』を見よ)、その運命の女がいるはずのニューオリンズを目指します。

 ニューオリンズの手前にて、いよいよチリコンカンが登場。2人は街道沿いのホコリっぽいおんぼろダイナーの前を通りかかり、「いい匂いだ」とローレンス・ハーヴェイが引き寄せられて店に入る。そこの女将が大女優①アン・バクスター。メキシコ系テキサス女性で、ローレンス・ハーヴェイとはテックス・メックス風メニューあれこれのグルメトークで盛り上がってすぐに意気投合。「どれも美味そうだがとにかく今はチリコンカンが喰いたい」と彼はオーダーします。連れのジェーン・フォンダは焼きもちから「まともなアメリカ料理の方がアタイの口には合うね。この料理の名前は一体何語さ?ちゃんとした英語でお書きよ!ここはアメリカだよ!」などとネトウヨのようなヘイトスピーチを吐きちらかす。大女優①アン・バクスターは困った人への大人の対応で受け流すが、ローレンス・ハーヴェイは彼女の人品骨柄の卑しさに愛想を尽かし、2人で会話もなく黙々と不味そうにチリコンカンを喰う羽目に。美味そうに見せるシーンじゃないのとモノクロ映画なのと監督が食に興味ないのかも、とのトリプル理由から、この映画では全然チリコンカンが美味そうには見えず、そもそもどんな食い物か映しもしません。が、チリコンカンがどんなポジションの食い物かは一番よく解る映画です。

 その後、ビッチにもほどがあるジェーン・フォンダと縁を切り、大女優①アン・バクスターの場末ダイナーで肉体労働住み込みバイトをしながらニューオリンズの運命の女の居場所を探し続けるローレンス・ハーヴェイ。アン・バクスター女将に惚れられてしまったりもしますが、ついに運命の女の所在が判った!ということでニューオリンズに行ってみると…運命の女ことキャプシーヌは、大女優②バーバラ・スタンウィックが女楼主として君臨する高級娼館のトップ娼婦として苦界に身を沈めていた…。

 と、ここから先は実際にご覧になっていただくとして、一言で言うと“SEXワーカーと付き合う問題”について描いた映画なのですが、それより皆さん、ジェーン・フォンダにアン・バクスターにキャプシーヌにバーバラ・スタンウィックですよ!凄くないですか!? この映画、DVDはおろかVHS時代含め未ソフト化らしいのですが(多分)、チリコンカンはともかくとしてこのメンツだけでも見るに値します。あとこの大女優4人の中では、個人的にはやっぱジェーン・フォンダっすね!ヒロインのキャプシーヌはさすがに運命の女役だけあり、人間離れして彫刻的に美しく、ウエストもコルセットでもしているように細くて凄いスタイルで、神々しいばかりなんですが、ジェーン・フォンダはムッチムチ!そして若い!バ〜ン!と言うかドスコ〜イ!と言うかドレスからハミ出る勢いの圧倒的な肉体の説得力で、下流でビッチなナチュラル・ボーン・フッカー役に挑んでいます。『コールガール』(71年)の頃よりか一回り太い。ただし、ヘイズコード撤廃前なのでヌードはありません。そちらがお目当の殿方は当チャンネルで絶賛放送中の『バーバレラ』(67年)の方もあわせてご覧ください。

 あとニューオリンズのフレンチクォーターなのかな?の娼館のセットも素敵。インテリアのお手本にしたい。コロニアルな魅力の『プリティ・ベビー』(78年)娼館を越えてますね。

 ちょっと映画の話で長くなりすぎたな。いい加減レシピ紹介を始めます。これ、作るの簡単すぎて、余談で引っ張らないとすぐに記事終わっちゃうから。


【材料(2人分)】

・タマネギ×3/4個
・ニンニク×1片
・牛ひき肉×400g(合挽きでも全然OK)
・トマト缶×1缶
・レッドキドニービーンズ缶×1缶
・クミンシード×小さじ1
・オレガノシード×小さじ1
・コンソメ×1個
・チリパウダー×小さじ2

※以下はお好みで
・スライス・ハラペーニョ
・タバスコ緑
・タマネギ×1/4個
・溶けるチェダーチーズ
・サワークリーム

 

【作り方】

① 鍋にサラダ油(材料外)を引きタマネギ3/4個分みじん切りを中火で炒め(1/4個分みじん切りは取っておく)、しんなりしたらニンニクみじん切りを加え1分。続いて牛ひき肉を投下。赤味がなくなって色が変わるまで炒める。

② トマト缶とレッドキドニービーンズ缶の中身を入れる。そして、具材がヒタヒタになるまで水を足す。空になったトマト缶に水を入れ、その水を空のビーンズ缶に移し、それを鍋に入れると、缶に残留物を残さず鍋に注げてモッタイナイお化けが出ないで済む。

③ クミンシードとオレガノシードをすり鉢で擦って鍋へ。


④ 最後にコンソメ1個とチリパウダーを入れて終了。あとはただ煮込むだけ。30分以上。なお、書き忘れたのではなく本当に塩は一粒も使わないでOK。これだけでちゃんと濃い味がする。


⑤ この状態まで(水分がほとんど無くなり、汁物というよりどちらかと言うとホロホロの固形物に近くなるまで)汁気を飛ばして完成。30分煮込んでも汁気がまだ無くならなかったら、無くなるまで煮込んでください。

 

【実食】

 はぁ〜、こいつを皿いっぱい喰える、この至福ときたら!肉ジャガ喰ってたガキの頃には夢にも思わなかったぜ。ウェンディーズではLサイズでもこのボリュームには満たない。スーパーカップぐらいの容器に入ってますが、足りないよ!こっちはドカ喰いしたいんだよ!『ロッキーの英雄』のアメリカンちゃんこみたいに。

 え〜今回は純然たるお仕事ということで、材料代は経費で落とします。なので牛ひき肉200gパック×2と大奮発しましたが(奮発も何もオレの金じゃないがな)、自腹切る時は全然合挽き300gで作ってます。でもやっぱ牛肉はいいね!ワンランク上な味がする。

 あと各種お好み材料も経費で買ったのですが、このうちマジで必需品なのは、ワタクシにとっては緑タバスコだけ。まぁ本物のスライス・ハラペーニョもあればさらにシャープな辛さになって夏にピッタリに。取りよけておいたタマネギみじん切り1/4個分を、ここで生のままパラパラと振りかけ、ネギっ臭さを加味してもまた良し。まず子供は喰えなくなりますが。

 なお、溶けるチェダーチーズだのサワークリームだのは、それとは逆に、マッタリとクリーミィーかつ濃厚な味になり、シャープな辛さや生タマネギの青臭さとは真逆の、お子様好みな味が加わっていきます。でも、それもまた良し。

 それらを“全部のせ”にするのであれば、よくかき混ぜてから食べてください。

 最後に、普段我が家では、クラフトのマカロニ&チーズも同時に作ります。これはインスタント食品みたいなもので作るのは箱の説明書きに従えば超簡単。カルディとかで売ってます。それを“ライス”に見立て、チリコンカンを“カレールー”のように見立てて上からかけ流し、カレーライスならぬ「チリコンカンマカロニチーズ」として食べています。ここまでやれば立派な一食として分量に不足なし。コーンブレッドというブレッドとは名ばかりの南部の主食スポンジケーキみたいなものとも相性が良く、それも作るのは簡単。さらに言えば分量問題は豆を2缶に増やしても解決できます。とにかく超簡単なので、チリコンカン、映画のお供に一度お試しあれ。■

『ロッキーの英雄・伝説絶ゆる時』© 1972 Twentieth Century Fox Film Corporation. Renewed 2000 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. 『荒野を歩け』© 1962, renewed 1990 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

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