写真/studio louise
このところ放送しておりますウルトラ激レア映画『スモール・タウン・イン・テキサス』、お楽しみいただけてますでしょうか?
多くの方にとって、まったく聞いたこともない謎の映画ですよね?なので「よく分かんないや」と見逃してません?ナメたらいかんぜよ!これはウチでの放送が本邦初公開となっているはずの、1976年の映画で、ソフトにも何にもなったことがなく(のはず)、この機会を逃すと次に機会がめぐってくるかどうか不明なため、とりあえずは見ておくべきかと。
あらすじを作品情報からコピペします。
地元高校フットボールの元スター選手ポークは、ムショを出所した足で酔っ払いから拳銃を借り、ボロ車を蜂の巣にして喜ぶ。自分を逮捕した保安官に出会えば「お礼参りを覚悟しとけ!」と脅す。その保安官、ポークの子の母親である若いシングルマザーに横恋慕しており、女を盗られたと酒場で聞いたポークは逆上して彼女の家に向かう。後日、保安官は議員立候補者の警護を任命されるが、選挙運動の会場にポークが姿を現し絡み始め…。
というお話でして、ウチでは「ニューシネマ風味の効いた典型的70’sアクション」とも謳っております。
それと、これについて映画ライターのなかざわひでゆきさんと1時間ばかり熱く語り倒した「男たちのシネマ愛」というトーク音声番組もYouTubeの方に上げております。通勤・通学、運転のお供として、お時間ある時に是非!(俺は町山さんのTBSラジオのやつとかは毎週末クッキングパパしてる最中に聴いてる)
舞台はテキサスのド田舎で、あまり法治が確立されてないような、“フロンティアの正義”が1976年になってもまだ罷り通っているような保守的お土地柄。ここでムショ帰りのポークvs保安官の“漢の対決”が繰り広げられます。2人が奪い合うのが、ポークの元カノで保安官の今カノであるスーザン・ジョージなのです!この作品、彼女の出演作ということで中身もよく知らずに買ったのですが、フタを開けてみるとあまり出番は無く、彼女にしては露出度も低めで、そこは期待外れだったんですが、
①漢の対決モノとして普通に手に汗握る佳作だった
②ニューシネマ風味も美味だった(内容的には単純明快アクションなんですがね)
③70'sファッションもオールドスクールアメカジ系で超カッコ良かった
そして
④スタントがヤバかった!ひと死にが出なかったのが奇跡なレベル!!
という、予期せぬ見所のいっぱい詰まった、結構な拾い物でした。
それと、出てくる奴出てくる奴がどいつもこいつも、いわゆる「レッドネック」という愛すべき田舎者の皆さんでして、それもまた大いに魅力的なのです。田舎の低所得白人労働者階級のことで、白人で肉体労働だから首が日焼けしちゃうんで「レッドネック」と呼ばれている。今だと典型的なトランプさんの支持層ですな。テキサスは南部で、キリスト教保守層が多く暮らすバイブル・ベルトにも一応含まれます(テキサスが西の端に当たる。州の人口比ではカトリック系の方が多い。これはカトリックのメキシコ系移民(ってか元メキシコ領だし)が多いからで、生粋の「レッドネック」の方達は、非カトリックの、全力でガチなキリスト教保守のはず)。
最近だとトランプさんを熱狂的に支持してる人たちなのかぁ…銃も好きなのかぁ…レイプだろうがなんだろうが中絶は絶対認めないって言ってるのかぁ…ゲイは地獄に落ちるって言ってるのかぁ…、う~ん、Let’s be キングスマン!日本とはかな~り価値観が違うんじゃなかろかと想像され、日本人としては最近のレッドネックの方達のご乱行には若干引き気味でもある訳ですが、そしてアメリカ本国では“ダサい田舎者”扱いされてんだろなぁとも思うのですが…(ってかWikiにモロにそう書かれちゃってるしね。失礼だろコレ!)。
いやいやいやいや!90年代アメカジ・ブームの洗礼を受けた世代の目から見ると、レッドネックこそが見た目的には一番カッコいいアメリカ人ですから!思想信条はともかくとして。
NYとかLAとかで着飾ってるオシャレ気取りの奴らなんて「ケっ」って感じですよ。あんなもんは日本人でもやろうと思ったら簡単にできるんだ。ストリート・ファッションのぶっとんでる感なら原宿だって負けちゃいない、ってか逆に勝ってるし。
アメリカ人にしか真似できないラフ&タフなカッコ良さに憧れるんだよ、俺たちの世代は。そしてそれは何かと問われれば、レッドネック・カジュアルっしょやっぱ!略して「レッカジ」?「レネカジ」?
そして、そんな南部レッドネックの皆さんの定番ご当地グルメ、っていうか元々は黒人奴隷たちの食べ物で、黒人にとっての「ソウル(魂の)フード」でもある2品というのが、この映画の中で台詞でだけ登場しますんで、今回はそのレシピをやります。
どういうシーンでその2つの話が出てくるかというと、劇中、ポークと保安官の抗争が勃発し、保安官はポークとド派手なチェイスを演じた挙句に逃げられてしまい、映画中盤で、ポークの居場所をポークのダチの自動車整備工(この人は黒人ではなくレッドネックの人)を締め上げ聞き出そうとする展開になります。
ダチ公が働くガレージに来た保安官。そこには美麗な赤の1939年型シボレー・マスターDXが停めてある。そこでおそらく彼が時間かけコツコツとフルレストアしオールペンした、その時点で40年ほど昔の戦前のクラシック・カーであります。そのほとんど文化財級の車のボンネットとヘッドライトを、角材でベっコンベコンのバリんバリんに叩き壊してダチ公をビビり上がらせる保安官。「ポークの共犯者としてお前もパクってブタ箱送りにしたろか!?」と脅します。
しかし直後、急に笑顔になり猫なで声で「俺が何をするか教えよう。前のヘッドライトとへこんだ部分を直して、お前を家に送る。お前はママと食事を楽しむ。豆とコーンブレッドのな。(ここで声のトーンを落とし凄んで)で、ポークの居場所は?」と、ひとり“グッド・コップ/バッド・コップ”尋問を始めるのです。
この翻訳、字幕ですから字数の関係で端折られてます。以下ちょっと余談。字幕は1秒4文字とだいたい決まっていて、その字数制限を大幅にフライングすると客が読みきる前に次の字幕に移っちゃうという最悪の事態(もはや放送事故)になります。だから字幕翻訳のテクニックは要約のテクニックも問われ、要約するにはボキャブラが豊富じゃないと言葉の選択肢が少ないと無理なので、英語力だけでなく逆に日本語の国語力・語彙力も高い偏差値で求められる、という、高度プロフェッショナルなお仕事が字幕翻訳なのです。ここらへんの話は、“字幕の女王”こと最高権威・戸田奈津子先生によるこの講義が大変わかりやすい(ってことで、そんな大人の事情も知らずに女王をディスる無知蒙昧なローカルの星人みたいな輩を見つけたら、「バカこくな」「誤訳じゃないかもだ」「おっちねプッシー野郎」などと、やんわり意味不明に諭してやるとともに、直訳気味で長すぎる下手クソな字幕を見つけ時には「♪やややケッタイな 誰を呼ぼう ナッチを!」と、女神召喚の歌をみんなで歌おうではありませんか!「ナッチを!」のところで是非ご唱和を)。
閑話休題。先ほどの“グッド・コップ/バッド・コップ”台詞ですが、字数制限なしで訳すと、
「で、ウチに帰らせてやっからよ、おめえはママと一緒によ、デっケぇ鉢いっぱいのブラック・アイド・ピーズだとか、温けえコーン・ブレッドの二、三切れでも食ってろよ、な?…で(キリッ)ポークはどこなんだ?」
ってな感じになります。ブラック・アイド・ピーズ山盛りのデっカいボウルを豊満な母ちゃんがキッチンから捧げ持って来てダイニングテーブルに置きに来るという、ポポラマーマ的お袋さん像、あるいはレッドネック版ハウスシチュー的ほっこり世界観を描写しながら、「白状すれば家に帰らせてやる。何事も無かったようにポポラマーマと一緒にハウスシチュー感にひたれるぞ」と脅す、きわめて高等な心理戦術、テキサス版カツ丼尋問法ですな、これは。
ではブラック・アイド・ピーズとはなんぞや?さらにはコーン・ブレッドとはなんぞや?ですが、まずブラック・アイド・ピーズってのは豆の煮込み料理です。ブラック・アイド・ピーは日本語で「ささげ」または直訳で「黒目豆」と訳され、文字通りセンターに黒目があって可愛い、アズキぐらいのサイズの豆です。この煮込み料理、味はいたって素朴。タバスコなどの各種ソースをテーブルに取り揃えておいて、後から各自でお好みの味付けをする、家族全員が同じ味付けで食べるのではない、というのが個人主義・自由主義の米国リバタリアン流“食卓の情景”だと言われているので、我が家でもそうしてます。カブれてますから自分。
一方のコーン・ブレッドとはなんぞや?というと、実はブレッドでもなんでもありません。コーン粉(超アメリカ大陸らしい食材!)と小麦粉をベイキングソーダで膨らませただけの“なんちゃってパン”的なものです。コーン粉の挽き加減にもよりますが、キツネ色のトップ面はジャリっと砂を噛む食感(を大幅に気持ちよくしたもの。砂糖を噛む感とでも言おうか)があり、中はしっとりスポンジケーキ状。で基本、甘い!ブレッドと呼ぶには甘すぎる、というしろものです。ま、位置付けとしてはパン代わりではありますけどな。
どちらとも、黒人奴隷の食文化にルーツを持つソウルフード(黒人のソウルフルな食べ物)で、我らがレッドネック達もよく食べてる、という、あまり豪華なディナーって感じはしない、むしろちょっと貧乏なイメージの食べ物なんですが、美味いんですわ、こういうのこそが!ってかミシュラン何個星とかヌーベルキュイジーヌとかまるっきし興味ないんでね。そういうのはLAとかNYのオシャレ気取りの連中に任せて、レッドネックに憧れるアメカジ世代は、この下流フーズこそを食すべし!
それでは、いってみましょうか。
【ブラック・アイド・ピーズの材料(2人分)】
・ブラック・アイド・ピー×1カップ
※日本では滅多に売ってません。ワタクシは我が心のふるさとアメ横に月一で軍モノ×食材をアメ横買い出し紀行に行く際、切らしてたら「豆のダイマス」にて買い求めてます。ネット通販もあり。
・玉ねぎ×
・吊るしベーコン×半本
・チキンコンソメの素
・ベイリーフ×1枚
・ケイジャン・シーズニングMIX×大さじ1
・ガーリック・パウダー×小さじ1
※以下はお好みで
・タバスコ(チポートレイ)
【ブラック・アイド・ピーズの作り方】
① 節分の豆を歳の数だけポリポリと食う時に「あんま得意な味じゃないかなぁ…ちょっとエグいかも」と感じる人(俺だ!)は、豆を前夜のうちに水煮にすることをお奨めします。これでエグい節分風味は消えます。水煮缶があればもっといいのだけれど…。豆のエグみが苦手な人には豆類は水煮缶の方が断然お奨めです。
② 鍋に水煮した豆を入れ、それがヒタヒタになるぐらい水で浸したら、そこにタマネギみじん切り、ベイリーフ、チキンコンソメの素、ケイジャン・シーズニングMIX、ガーリック・パウダーを全部ブチ込んでただ中火で煮込むだけ。汁気がほぼほぼ無くなるまで。1時間ってとこか?
③ 伊藤ハムとか日本ハムの「吊るしベーコン」という50cmぐらいある商品を使いたい。が、この日、近所のスーパーで売ってなかった!仕方なく急遽そこらのブロックベーコンに燻製をかけて急場をしのぐ。有れば是非「吊るしベーコン」で。燻香と厚みある食感が不可欠だから。よくある普通の紙みたいなぺらっぺらのスライスベーコンはNG。で、この写真ぐらいに切って弱火で脂を引き出します(呼び水としてちょっとサラダ油かけること。じゃないとフライパンに焦げ付いちゃう)。
④ 脂が出て、小一時間たって鍋の方の汁気もだいぶ無くなってきたら、脂ごとベーコンを鍋に投入し、混ぜて、塩(材料外)で味を整え、完成!食べる際はお好みでタバスコを。ベーコンの燻香にマッチするタバスコ・チポートレイ(燻製タバスコ)が相性よろし。
【続いて、コーン・ブレッドの材料(4人分)】
・コーンミール×1カップ
※コーンミールは、どことは言いませんがオシャレ輸入食材屋とかで買うと小さなパックに入ったものでも結構します。が、アメ横とかの中華食材屋だと、おんなじ物でもっと大きいやつが驚くほど安く袋売りしてたりする!これは横浜中華街にある「中國超級市場」というお店でヨコハマ買い出し紀行中に買ったもの。
・強力粉×1カップ
・ベーキング・パウダー×小さじ2
・砂糖×大さじ4(ヤベ写真撮り忘れた!)
・塩×小さじ1(ヤベ写真撮り忘れた!)
以上が粉類。
・玉子×1(ヤベ写真撮り忘れた!)
・サラダ油×大さじ1(ヤベ写真撮り忘れた!)
・牛乳×1カップ
※写真なくてもわかりますよね?普通の砂糖と塩と玉子とサラダ油ですよ。家にあるでしょ?
【コーン・ブレッドの作り方】
① 全粉類をふるいに入れてボウルにふるい入れる。
② 真ん中に玉子を割り入れる。
③ 牛乳入れる。サラダ油大さじ1も入れる。
④ 混ぜる。
⑤ 焼き型にサラダ油(分量外)をまんべんなく塗る。
⑥ 生地を流し込み、200℃に余熱したオーブンで20分以上焼く。焼き上がったと思ったらナイフ等をブッ刺し、中心部の生地が生焼けじゃなければOK。ってことで超簡単!ほとんどホットケーキ級にちょろいぜ!なお保安官が脅迫の中で「温けえコーン・ブレッド」と言っていた通り、焼きたてのうちにお召し上がりを。冷めると台無しです。
【実食】
うん、ブラック・アイド・ピーズ、地味に旨えな!たいそう素朴な味わいでして、わりと似た系統の、前回やったチリコンカンというテックス・メックス料理(あれもテキサスの食いもんだったな)みたく派手な、子供好きのする、ミートソースみたいな分っかりやすい味ではありません。豆×塩ですから超素朴。ワタクシのレシピは南部といってもおそらくテキサスより右側の州(ディープ・サウス地方)に住んでいそうな黒人オバチャンのレシピを参考にしているため、ケイジャン・シーズニングMIXも材料に入ってますので、多少は味が付いてますが、それでも素朴。真のテキサン(テキサスっ子)ならケイジャン風(ルイジアナ風)にはしないはずなので、ケイジャン・シーズニングMIXは入れず味付けは本当に塩だけで、もっと極限までシンプルなはず。さすがに味気なさそうなのでワタクシはケイジャン味にしてますが。あとのもう一味はお好みのタバスコでプラス、ってことですな。タバスコってのは本来こういう使い方をするために開発された南部の調味料ですからね。素朴な南部料理に一味パンチを効かせるためのもので、ピザとかスパゲティにかけるのは日本の独自解釈らしいです。
あとコーン・ブレッドね。これは逆に、味が派手やな~!ってか甘いよ!ってことでウチの子供たちは全員好きなんですが、大人的にはビックリするぐらい甘い。もう、ほとんどケーキの域。ケーキならいいけど“ブレッド”と詐称してオカズと一緒に主食で食うにしちゃ、これ、甘すぎだろ!? これはいかがなものかと、一度ためしに分量の半分しか砂糖を使わなかったことがあるのですが、そうすると妙に不味くなっちゃうのだから不思議なものです。まぁ、南部の人は紅茶に砂糖を尋常じゃない量入れて「美味い美味い」と喜んでガブ飲みするそうなので、やっぱり、日本とはかな~り価値観違うのでは!?とも重ねて感じる次第なのですが、そこが異国情緒を感じさせる良いところでもあるんですな。LAやNYとはやっぱ違う。そういやコカ・コーラも南部の飲み物で、あれって確かに南部料理とは相性抜群なんですけど、聞くところによると1缶に角砂糖にして10個分ぐらい入ってるんでしょ?相当な甘いもの好きですな、南部の皆さんは。
そろそろ〆ましょうか。南部の黒人や南米各国の人たちの間では、黒目豆は正月の縁起物となっており、米南部でも正月にブラック・アイド・ピーズを喰う習慣があるそうですから、今の時期、特にトライしたいレシピ、食べるべき料理なのです。おせちや雑煮をやめて、あえてブラック・アイド・ピーズで初春を迎えるという、骨の髄までカブれきった年越しなど、いかがでしょうか。■
© 1976 ORION PICTURES CORPORATION.. All Rights Reserved