バックグラウンドが異なる人間が集まって住んでいるアメリカでは、以心伝心や阿吽の呼吸といった概念は存在しない。すべての意思疎通は会話で行われるのだ。だから映画においても会話の重要性は高く、ホンモノっぽさが求められる。そこで二人の脚本家が実際に会話するように共同で脚本を書くことが多くなるというわけだ。

 もっともそうしたコンビが長続きするケースは少ない。特に個人の感覚に拠るところが大きい”笑い”を扱うコメディ映画の世界ではコンビ解散は日常茶飯事である。長続きしているのは、ジョエルとイーサンのコーエン兄弟やピーターとボビーのファレリー兄弟といった同じDNAを持つ肉親コンビばかりだ。そんな中、赤の他人でありながら20年以上にわたってコンビを組み続けるチームが存在する。ジェイソン・フリードバーグとアーロン・セルツァーである。

 二人が出会ったのは90年代初頭、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の映画クラスでのことだった。せっかく楽しい映画を作るノウハウを学ぶために入学したのに、高尚な芸術論議ばかり戦わされている……そんなクラスの雰囲気にジェイソンとアーロンはそれぞれ孤独に欲求不満を募らせていたという。「俺が撮りたいのは芸術なんかじゃない。コメディ、それもパロディ映画なんだ!」そんな同好の士が出会うまで時間はかからなかった。二人はすぐに”腹心の友”となり、まんが道ならぬパロディ映画道を歩んでいくことを決心したのだった。

 既存のヒット映画の名シーンをパロったギャグを数珠つなぎにしてストーリーを構成する。そんな形式を持ったパロディ映画の歴史は70年代に始まる。創始者はメル・ブルックス。彼は西部劇をパロった『ブレージングサドル』、ホラー映画をパロった『ヤング・フランケンシュタイン』(ともに74年公開。つまり今年はパロディ映画創立40周年なのだ!)の二作で現在に通じる基本パターンを作りあげた。

 このジャンルを更に発展させたのがデヴィッドとジェリーのザッカー兄弟とジム・エイブラハムスによるトリオ“ZAZ”だった。ZAZはパニック映画をパロった『フライング・ハイ』(80年)に始まり、刑事パロディ『裸の銃を持つ男』シリーズ(88〜94年)、マッチョ・アクションをパロった『ホット・ショット』シリーズ(91〜93年)などヒット作を連発した。

 こうした先輩たちに倣ってジェイソンとアーロンは「007」シリーズに注目してパロディ映画の脚本を書き始めた。ある程度出来上がった段階でジェイソンは、テレビ監督を務める父親リック・フリードバーグに助言を仰いだ。すると思わぬ幸運が転がりこんできた。リックはちょうど『裸の銃を持つ男』の主演俳優レスリー・ニールセンとビデオ作品『Bad Golf My Way』 (94年)の仕事をしていたのだ。脚本はレスリーにも気に入られ、リック監督、レスリー主演、ジェイソンとアーロンが脚本を手がけた『スパイ・ハード』(96年)が作られることになった。映画は興行収入2600万ドルのスマッシュヒットを記録した。

 ジェイソンとアーロンは、続いて当時流行していた『スクリーム』(96年)や『ラストサマー』(97年)といったティーン向けホラーのパロディ脚本を書き上げた。これに飛びついてきたのが、他でもない『スクリーム』の製作会社ミラマックスだった。脚本は高額で買い取られ、『ポップ・ガン』(96年)でブラックムービーのパロディ映画に挑戦していた黒人コメディアン、ウェイアンズ兄弟の手で『最終絶叫計画』(00年)として映画化された。製作会社が自らパロディを手がけたことで生じる本物っぽさ、そして主演に抜擢されたアンナ・ファリスのコメディ・センスが炸裂したこの作品は、1億5700万ドルというメガヒットを記録。『最終絶叫計画』シリーズは、翌年にパート2、ウェイアンズ兄弟が降板した後もZAZのデヴィッド・ザッカーの製作&監督でこれまでパート5まで製作されるヒットシリーズとなっている。

 だがこうした作品は、ジェイソンとアーロンに納得がいく出来ではなかったようだ。二人の脚本は映画完成までに他のライターによって変更が加えられていたからだ。「自分たちの構想通りのパロディ映画を作りたい!」二人は脚本買い取りのオファーには頑として応じず、製作と監督も自分達に任せてくれるスタジオが現れるのをひたすら待った。

 06年、ジェイソンとアーロンの努力は報われ、二人はアリソン・ハニガン主演の『最”愛”絶叫計画』(06年)でプロデューサー兼監督デビューを果たす。『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)や『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97年)といったロマンティック・コメディをパロったこの作品は4800万ドルのヒットを記録した。翌年、彼らは『ナルニア国物語』(05年)をベースに『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)から『スネークフライト』(06年)のパロディまで盛り込んだ『鉄板英雄伝説』(07年)を発表。インド系俳優カル・ペンが主演し、『アメリカン・パイ』シリーズ(99〜12年)の熟女ジェニファー・クーリッジや『アリス・イン・ワンダーランド』(10年)の”ハートのジャック”で知られるクリスピン・グローバー(『アリス…』で共演したジョニー・デップの代表作『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック船長のパロディ・キャラをやっていることに注目!)らが脇を固めたこの作品は、最近ヒットした映画だったらジャンルは無関係、それどころか時事ネタやゴシップネタまでブチ込むという二人のスタイルが完成した重要作だ。

 同作以降も、ジェイソンとアーロンは、『300』(07年)をリアルタイムでパロった『ほぼ300 <スリーハンドレッド>』(08年)やパニック映画をネタにした『ディザスター・ムービー! 最'難'絶叫計画』(08年)を製作&監督。10年には「俺たちがやらなきゃ誰がやる!」的な勢いで『トワイライト』サーガ(08〜12年)をネタにした『ほぼトワイライト』をヒットさせている。近年の作品では珍しくネタを『トワイライト』に絞り込んでいるのが印象的だが、ヒロインを取り合うエドワードとジェイコブそれぞれの少女ファンたちが戦ったり、『ハングオーバー』シリーズ(09〜13年)のケン・チョンが意味なくボケ倒していたりするところはいかにも二人の映画らしい。

 笑いを取るためなら下ネタだろうと手段を選ばず、しかもストーリーと無関係にギャグを挟んでいく。そんなジェイソンとアーロンの映画は、評論家から高く評価された試しがない。それどころか”幼稚”、”西洋文明衰退の象徴”、”文化の疫病”とまで批判されている。だがそもそも彼らがパロっているハリウッド映画は文明的で文化的なものなのだろうか? 本来なら子ども向きのスーパーヒーロー映画を何百億円もかけて製作し、時にそれが何百億円の赤字を記録してしまう。そんなハリウッドの現実の方がよっぽどコメディである。”幼稚”なのは当たり前。二人は「王様は裸だ」と囃し立てる子どもなのだから。

 そんな彼らの次回作は、来年公開予定の『Super Fast』。タイトルから想像出来る通り『ワイルド・スピード』シリーズ(01年〜)をネタにしたコメディである。そう、二人のパロディ映画道はまだまだ続く。■

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