フランク・クレイマーことジャンフランコ・パロリーニ監督が生み出した、カルトなマカロニ・ウエスタン・シリーズ「サバタ三部作」の第一弾『西部悪人伝』(’69)。サバタと言えば、ジャンゴやリンゴ、サルタナなどと並ぶマカロニ西部劇の人気ヒーローだが、その原型は同じくパロリーニ監督が生みの親となった西部の流れ者サルタナだった。

 

もともとアルベルト・カルドーネ監督の『砂塵に血を吐け』(’67)に登場する悪役だったサルタナ(ジャンニ・ガルコ)を、全身黒づくめのニヒルで洒落たアンチヒーローとして主人公に据えた、サルタナ・シリーズの1作目『Se incontri Sartana prega per la tua morte(サルタナに会ったら己の死を祈れ)』(’68・日本未公開)。この作品を手掛けたパロリーニ監督は、それまでマカロニ・ウエスタンの定番だった「復讐とバイオレンス」のペシミスティックな要素を徹底的に排除し、スパイ映画ばりのアップテンポで軽妙洒脱なアクション・エンターテインメントとして仕上げ、’70年代初頭にブームとなるコメディ・ウエスタンの先陣を切ったのである。

 

ところが、2作目以降はアンソニー・アスコットことジュリアーノ・カルニメオが演出を担当。シリーズ降板を余儀なくされたパロリーニ監督が、ならば自分の手で新たなマカロニ・ヒーローを作ってやろうじゃないか!…と意気込んだかどうかは定かでないものの、とにかくサルタナのキャラクターをそのままパクる…いえ、継承するような形で誕生させたのが、同じように全身黒づくめのニヒルな洒落者、どこからともなく現れては欲深い悪人どもをてんてこ舞いさせ、首尾よくちゃっかりと大金を奪って去っていく正体不明のガンマン、サバタだったというわけだ。

 

舞台は西部の町ドハティ。まるで旋風のようにふらりと現れた謎のガンマン、サバタ(リー・ヴァン・クリーフ)が、酒場でチンピラ、スリム(スパルタコ・コンヴェルシ)のいかさま賭博を見抜いてやり込めていると、無法者集団による大胆な銀行強盗事件が発生する。なんと、軍の資金10万ドルを含む預金がゴッソリと盗まれたのだ。すると、すぐさま先回りしたサバタが犯人グループを皆殺しにし、現金を積んだ荷馬車と共に町へ戻ってくる。歓喜に沸く町の人々。これを見てすっかりサバタを気に入った町一番のホラ吹き男カリンチャ(ペドロ・サンチェス)は、神出鬼没の相棒インディオ(ニック・ジョーダン)と共にサバタの仲間となる。

 

一方、銀行強盗事件の解決に内心穏やかでないのは、町の有力者ステンゲル(フランコ・レッセル)とファーガソン(アンソニー・グラッドウェル)、そしてオハラ判事(ジャンニ・リッツォ)の3人だ。実は彼らこそが犯人グループの黒幕。鉄道の線路が敷かれる近隣一体の土地を買い占めるため、銀行強盗を働いてその資金を集めようとしていたのだ。しかし、殺された実行犯の身元が分かれば、いずれ自分たちに軍の捜査の手が及ぶことは免れない。そこで、リーダー格のステンゲルは、強盗計画に加わった関係者全員を一人残らず抹殺し、証拠隠滅を図るよう部下たちに指示する。

 

これにいち早く気付いたサバタは、カリンチャたちの協力で証拠となる馬車を奪い取り、それをネタにしてステンゲル一味を脅迫。金よこさねえとあんたらの悪だくみバラしちゃうよ~と(笑)。慌てたステンゲルは、その要求を聞き入れるふりをしつつ、サバタを亡き者にするため次々と刺客を送り込むものの、しかしいずれも片っ端から難なく撃退されてしまい、そのたびにサバタからの要求金額は跳ね上がっていく。ニヤニヤと意地悪そうな笑顔を浮かべるサバタ、困り果ててオロオロする腹黒オジサンたち。いやあ、自業自得とはまさにこのことですな。

 

そこでステンゲル一味が目を付けたのは、酒場女ジェーン(リンダ・ヴェラス)のヒモをしている、さすらいのバンジョー弾きバンジョー(ウィリアム・バーガー)。実はこの男、バンジョー(楽器の方ね)にライフルを仕込んだ凄腕のガンマンで、過去にサバタとは因縁のある相手だった。しかも、5人の殺し屋を一瞬にして成敗してしまうような猛者。こいつなら、さすがのサバタも太刀打ちできまいと踏んだステンゲルたちだったが…!?

やっぱりサバタと言えばリー・ヴァン・クリーフ!

ということで、サルタナ映画で打ち出した荒唐無稽なコミカル路線をそのままに、トリッキーなガジェット満載、ピリッと毒の利いた大人のユーモア満載、アクロバティックなアクションも満載のノリノリなエンタメ作品に仕上げたパロリーニ監督。なにしろ、007ブームに便乗した西独産スパイ映画「コミッサールX」シリーズの『エメラルドの牙』(’65)や『キス!キス!キル!キル!』(’66)などをヒットさせた人だし、『戦場のガンマン』(’68)なんて戦争映画も蓋を開けたら戦場を舞台にしたジェームズ・ボンド映画みたいな感じだったので、恐らくもともとこの手の軽いノリが持ち味なのだろう。まさに水を得た魚のごとし。

 

マカロニ・ファン要注目なのが、やはり劇中に出てくる武器の数々だろう。リムの内側にウィンチェスター製ライフルを仕込み、ネックの先から銃弾を連射するバンジョーはもちろん、上下左右4連なうえにグリップ部分からも弾が3発出る7連発デリンジャー銃(こちらはサバタがご愛用)など、いかしたガジェットたちにもニンマリさせられる。ジュリアーノ・カルニメオ版「サルタナ」シリーズほど荒唐無稽ではない、適度なさじ加減が「サバタ」シリーズの特徴。いずれにせよ、こういう「なんちゃってね!」的なお遊びは素直に楽しい。

 

もちろん、サバタ役を演じるリー・ヴァン・クリーフのニヒルなダンディズムと、渋い大人の男の色気も最高!しかも、悪知恵に長けた悪人たちの、さらに上を行く狡猾なワルときたもんだからたまりません。町の権力を牛耳る極悪非道なオッサンたちが、手も足も出ずに慌てふためく姿を、ニヤニヤと眺めながらジワリジワリと追い詰めていくサバタのドSっぷりがまた痛快。一般的にはセルジオ・レオーネ監督のドル箱三部作が有名なヴァン・クリーフだが、なかなかどうして、こちらのサバタ三部作も負けていない。いや、むしろこちらこそが代表作と推したいほどのはまり役である。なぜか第2弾『大西部無頼列伝』(’71)ではユル・ブリンナーにサバタ役がバトンタッチされ、これはこれで面白いんだけど、なんかちょっと違うんだよねと思っていたら、第3弾『西部決闘史』(’72)では無事にリー・ヴァン・クリーフが復活。やっぱり、サバタの粋でいなせでお茶目なワル親父っぷりは、ヴァン・クリーフじゃなければ十分に発揮されないのだ。

 

なお、サバタのライバル、バンジョーを演じているのは、パロリーニ監督の「サルタナ」映画で悪役を演じたマカロニ・ウエスタンの名物俳優ウィリアム・バーガー。『地獄のバスターズ』(’78)でフランス人女性ニコルを演じたデブラ・バーガー、ロリコン映画『小さな唇』(’74)に主演したカティア・バーガーはどちらも彼の娘だ。悪党トリオのボス、ステンゲル役のフランコ・レッセルは、’60年代イタリア産スパイ映画には欠かせない顔だった悪役俳優。オハラ判事役のジャンニ・リッツォも、数々のマカロニ西部劇や史劇映画で小心者の卑怯な小悪党を演じた俳優だ。そうそう、イタリア産B級娯楽映画の名物俳優アラン・コリンズことルチアーノ・ピゴッツィが、サバタを殺すために送り込まれた偽牧師役で顔を出しているのも見逃せない。

 

しかし、やはり「サバタ」シリーズの名物といえば、大ぼら吹きで単細胞で超テキトーだけど、どうにも憎めない熊さんみたいな髭面男カリンチャをコミカルに演じているスペイン俳優ペドロ・サンチェスことイグナチオ・スパッラ。フェルナンド・サンチョと並ぶマカロニ西部劇きってのコメディ・リリーフで、「サバタ」シリーズでも役名を変えながら全作に出演している。その相棒インディオ役のニック・ジョーダンは、本名をアルド・カンティというイタリア人で、もともとはスタントマンだったものの、ルックスの良さと抜群の身体能力を買われて、数々の史劇映画やマカロニ西部劇で活躍した人だ。どうやらマフィアと関りがあったらしく、48歳の若さで怪死を遂げている。

 

そして、本作を語る上で外せないのが、音楽スコアを担当した作曲家マルチェロ・ジョンビーニの存在であろう。サバタとバンジョーのそれぞれにテーマ曲を設け、ストーリー展開に合わせてそれらを巧みに使い分けていくメソッドは、一連のセルジオ・レオーネ監督作品でエンニオ・モリコーネが用いた手法と全く一緒だが、しかしポップでグルーヴィーなノリの良さはモリコーネと明らかに一線を画する。中でも、ウルトラ・キャッチーなサバタのテーマは、まるでベンチャーズみたい。このワクワクするような高揚感は絶品だ。

 

なお、ジャンゴやサルタナなどと同様、「サバタ」も本家のヒットに便乗した非公式作品が幾つも作られている。正式なシリーズは本作『西部悪人伝』(’69)と『大西部無頼列伝』(’71)、そして『西部決闘史』(’72)の3本のみ。ほかにも、ブラッド・ハリス主演の『Wanted Sabata(指名手配犯サバタ)』(‘70・日本未公開)やアンソニー・ステファン主演の『Arriva Sabata!(サバタが来た!)』(‘70・日本未公開)などのサバタ映画が作られているものの、いずれもパチものなのでご注意を(笑)。■

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