検索結果
-
PROGRAM/放送作品
X エックス(2022)
[R15+]史上最高齢の殺人鬼夫婦が若者たちを襲う!70年代の名作にオマージュを捧げた新感覚ホラー
『サスペリア』の新鋭女優ミア・ゴスが、気鋭の映画スタジオ「A24」のホラー映画で初主演。ポルノ映画全盛期の1970年代の空気感を、『悪魔のいけにえ』など当時のホラー映画へのオマージュと共に描いている。
-
COLUMN/コラム2019.07.14
過ぎ去り行く開拓時代、大西部の田舎町に情け容赦ない正義の銃声がこだまする
イギリス出身の映画監督マイケル・ウィナーの本格的なハリウッド進出作である。オリヴァー・リードやチャールズ・ブロンソンとのコンビで次々とヒットを放ち、中でもブロンソンが主演したヴィジランテ映画の金字塔『狼よさらば』(’74)の大ヒットで名を上げたウィナー。キャノン・フィルムと組んだ’80年代以降の失速ぶりが目立ってしまったせいか、なにかにつけ「B級映画監督」のレッテルを貼られがちな人だが、しかしある時期までのマイケル・ウィナーは紛れもない鬼才だった。 ロンドンの裕福な家庭の一人っ子として何不自由なく育ったお坊ちゃん(ギャンブル中毒の母親には悩まされたようだが)。14歳にして新聞に芸能ゴシップの連載コラムを持つという早熟な少年で、映画ジャーナリストを経て短編映画を監督するようになる。転機となったのは、クリフ・リチャードやマーティ・ワイルドと並ぶアイドル・ロック歌手ビリー・フューリーが主演したロック・ミュージカル『Play It Cool』(’62・日本未公開)。これが初めて商業的成功を収めたことから、当時まだ26歳だったウィナーは、英国映画界の新世代監督として売れっ子になる。そして、英米合作の戦争映画『脱走山脈』(’69)がアメリカでもヒット。ユナイテッド・アーティスツから声がかかったウィナーが、満を持してのハリウッド進出第一弾として選んだプロジェクトが、自身にとって初の西部劇『追跡者』(’71)だったのである。 舞台は19世紀末のニューメキシコ州。サバスという町から牛を運んだカウボーイたちが、その帰り道に途中の町バノックで酒に酔って暴れ、拳銃の流れ弾を受けた老人が死亡する。それからしばらく後、サバスの保安官ジャレド・マドックス(バート・ランカスター)が、犯人の一人コーマンの死体を持参してサバスへ到着。地元の保安官コットン・ライアン(ロバート・ライアン)に、残りの6人の引き渡しを求めるが、しかしライアンはそれを「不可能」だとして断る。 というのも、6人のうち1人はサバスの名士ヴィンセント・ブロンソン(リー・J・コッブ)。残りの5人は彼の子分たちだ。鉄道も石炭もない町サバスの住人たちは、ブロンソンが経営する牧場に依存して生活している。つまり、彼は町の実質的な支配者。ここではブロンソンこそが法律であり、保安官ライアンとて彼には手を出せないのだ。 しかし、「法を欺くものは絶対に許さない」が信念のマドックスは引き下がらない。当初、ブロンソンは慰謝料を支払うことで解決しようとするが、しかし清廉潔白なマドックスは取引に応じる相手ではなかった。「ならばマドックスを殺してしまおう」と考える血気盛んなカウボーイたち。だが、苦労して手に入れた土地や財産を失いたくないブロンソンは平和的な妥協策を模索し、かつては名うてのガンマンだったライアンもマドックスが彼らの敵う相手ではないと忠告する。 とはいえ、マドックスの執拗な追及に苛立つカウボーイたち。追い詰められた彼らは、無謀にもマドックスとの決闘に挑み、一人また一人と銃弾に倒れていく。夫を見逃して欲しいと嘆願するかつての恋人ローラ(シェリー・ノース)、迷惑だから町を出て行けと迫る住民たち。しかし、妥協することも罪を見逃すことも良しとしないマドックスは、彼らの要求を頑として受け付けず、ただひたすらに職務を全うしていく…。 主人公マドックスの体現するものとは? 『チャトズ・ランド』(’72)のチャトのごとく己の信念を決して曲げず、『メカニック』(’72)のビショップのごとくプロとしての美学を徹底して貫き、『狼よさらば』のポール・カージーのごとく執念深いマドックスは、紛うことなきマイケル・ウィナー映画のヒーローだ。彼の行動原理はただ一つ、法執行官としての責任を最後まで果たすこと。カウボーイたちにはそれぞれ、逮捕されては困るような生活の事情がある。そもそも、彼らは故意に老人を殺したわけではなく、マドックスが来るまでその事実すら知らなかった。情状酌量の余地もあるように思えるが、しかし頑固一徹なマドックスには通用しない。なぜなら、それは裁判官や弁護士が考えるべきことで、保安官の役割ではないからだ。 そこまで彼が己の職務と法律順守にこだわる背景には、たとえ僅かな違法行為でも見逃してしまえば、社会の秩序がそこから崩壊してしまうという危機感がある。確かに、カウボーイたちは根っからの悪人ではない。それは彼らのボスであるブロンソンも同様で、少なくとも町の人々にとっては良き独裁者だ。しかし、保安官として罪を犯した者を捕らえるのはマドックスにとって当然であり、そこに個人のしがらみや感情が介在してはいけない。ましてや、うちの旦那だけは見逃してとか、よその町で起きた犯罪なんてうちには関係ないとか、法律よりも町の利益の方が重要だなどという理屈は、彼に言わせれば言語道断であろう。 一見したところ、融通の利かない非情な男に見えるマドックスだが、しかし法律における正義とは本来そうあるべきもののようにも思える。特に、「今だけ・金だけ・自分だけ」などと揶揄され、忖度や捏造や改竄が平然とまかり通る昨今の某国では、彼のような人物こそが必要とされている気がしてならない。 と同時に、本作は時代の岐路に立たされた者たちのドラマでもある。マドックスがホテルの宿帳に記した日付によると、本作の時代設定は1887年。無法者たちが荒野を駆け抜け、開拓民が自分たちのルールで未開の地を切り拓いた時代も、もはや過去のものとなりつつあった頃だ。着実に近づいてくる近代化の足音。その象徴が、国家の定めた法の番人マドックスだと言えよう。 そして、かつてネイティブ・アメリカンを殺戮して土地を奪い、その戦いの過程で大切な家族を失ったブロンソンも、名うてのガンマンとして勇名を轟かせたライアンも、その事実を否応なしに受け止めている。暴力のまかり通る野蛮な時代は、もうそろそろおしまいだと。いや、むしろあんな時代はもう沢山だとすら考えている。しかし、フロンティア精神への憧憬が抜けきらないカウボーイたちは、まるで時代の変化に抗うかのごとくマドックスに挑み、そして無残にも命を散らしていくのだ。 必ずしも好人物とは呼べないアンチヒーロー的な主人公、あえて観客の神経を逆撫でする無慈悲なバイオレンス、そして世の中を斜めから見つめたシニカルな世界観。その後の『スコルピオ』(‘73)や『シンジケート』(’73)などを彷彿とさせる、いかにも当時のマイケル・ウィナーらしい作品だ。常連組ジェラルド・ウィルソンの手掛けた脚本の出来栄えも素晴らしい。撮影監督のロバート・ペインターも、ウィナー監督とは『脱走山脈』以来の付き合い。やはり、気心の知れた仲間とのコラボレーションは大切だ。徹底してリアリティを追求したウィナー監督は、劇中に出てくる小道具にも本物のアンティークを使用。石油ランプひとつを取っても、同時代に使われた実物を、わざわざイギリスからスタッフに運ばせたという。 鬼才マイケル・ウィナーのもとに集ったクセモノ俳優たち しかし、なによりも賞賛すべきは、バート・ランカスターにロバート・ライアン、リー・J・コッブという、ハリウッドでもクセモノ中のクセモノと呼ぶべきベテラン西部劇俳優たちを起用し、彼らから最高レベルの演技を引き出したことであろう。なんといったって、オリヴァー・リードにチャールズ・ブロンソン、オーソン・ウェルズ、マーロン・ブランドといった、気難しくて扱いづらいことで有名な大物スターたちを、ことごとく手懐ける(?)ことに成功したウィナー監督。ランカスターとは撮影中に何度も衝突し、胸ぐらを掴まれ「殺してやる」とまで脅されたらしいが、結果的には彼の当たり役のひとつに数えられるほどの名演がフィルムに刻まれ、2年後の『スコルピオ』でも再びタッグを組むこととなった。その秘訣をウィナー監督は、「そもそも私は根っからのファンで、彼らのことを怖れたりしなかったから」と語っている。 脇役の顔ぶれも見事なくらい充実している。アルバート・サルミにロバート・デュヴァル、ジョゼフ・ワイズマン、J・D・キャノン、ラルフ・ウェイト、ジョン・マクギヴァーなどなど、映画ファンならば思わず唸ってしまうような名優ばかりだ。これが映画デビューだったリチャード・ジョーダンは、同年の『追撃のバラード』(’71)でもランカスターと再共演し、ウィナー監督の西部劇第2弾『チャトズ・ランド』にも出演。当時は下賤なレッドネックの若者といった風情だったが、いつしか都会的でスマートな悪役を得意とするようになる。ブロンソンの息子ジェイソン役のジョン・ベックは、『ローラーボール』(’75)や『真夜中の向こう側』(’77)など、一時期は二枚目タフガイ俳優として活躍した。 そして、マドックスの元恋人ローラを演じるシェリー・ノースである。もともと第二のマリリン・モンローとして、20世紀フォックスが売り出したグラマー女優だったが、脇に回るようになってから俄然本領を発揮するようになった。中でも彼女を重宝したのがドン・シーゲル監督。『刑事マディガン』(’68)の場末のクラブ歌手を筆頭に、『突破口!』(’73)の胡散臭い女性カメラマン、『ラスト・シューティスト』(’76)のジョン・ウェインの元恋人など、酸いも甘いもかみ分けた年増の姐御を演じさせたら天下一品だった。 本作でも、かつて若い頃は相当な美人だったであろう、しかし今ではすっかり生活に疲れ果てた女性として、なんとも味わい深い雰囲気を醸し出す。20年ぶりに再会したマドックスに、忘れかけていた情愛の念を掻き立てられるものの、かといって臆病者で卑怯者だけど憎めない夫を見捨てることも躊躇われる。クライマックスのどうしようもないやるせなさは、彼女の存在があってこそ際立っていると言えよう。これぞ傍役の鏡である。
-
PROGRAM/放送作品
バニシング・ポイント(1971)
[PG12]時速200kmでハイウェイを爆走!アメリカン・ニューシネマを代表する名作カーアクション
サンフランシスコへ車で向かう男が賭けに乗り、時速200kmの猛スピードで警察と繰り広げるカーチェイスが圧巻。当時の社会に対する怒りや反発が投影され、アメリカン・ニューシネマの傑作として名高い。
-
COLUMN/コラム2015.03.04
【未DVD化・ネタバレ】滅多に観られない1970年代のよく出来たシチュエーションコメディ〜『ニューヨーク一獲千金』
1970年代に一斉を風靡した、『ゴッドファーザー』(1972年)『ゴッドファーザー PART II』(1974年)のジェームズ・カーンと、『ロング・グッドバイ』(1973年)のエリオット・グールドの主演作だ。監督は、本作ののちにベット・ミドラー主演の『ローズ』(1979年)、ヘンリー・フォンダ&キャサリン・ヘプバーン主演の『黄昏』(1981年)、ベット・ミドラー&ジェームズ・カーン主演の『フォー・ザ・ボーイズ』(1991年)を撮る名匠マーク・ライデルだ。 サウンドトラックがすばらしい出来で、『ロッキー』のタイア・シャイアの旦那さん、デヴィッド・シャイアが担当。撮影監督はアメリカン・ニューシネマを代表するカメラマン、『イージー・ライダー』(1969年)や『ペーパー・ムーン』(1973年)や『未知との遭遇』(1977年)のラズロ・コヴァクスだ。脚本がよく練られていて、『マホガニー物語』(1975年)のジョン・バイラムと、『フリービーとビーン/大乱戦』(1974年)のロバート・カウフマンだ。 主人公は2人の売れないヴォードヴィリアン、ハリー(ジェームズ・カーン)とウォルター(エリオット・グールド)で、1892年、マサチューセッツ州のコンコード刑務所に2人が護送されてきた。そこで、金庫破りの名人アダム・ワース(マイクル・ケイン)の奴隷同然の召使いにさせられる。ワースは豪華な特別室におさまり、刑務所長、看守を顎で使っている。彼は腹心のチャトワースが持って来たマサチューセッツ州ローウェルの銀行になる金庫の青写真をカーテンの裏に貼って研究を始める。 その頃ニューヨークの左系新聞の記者リサ・チェストナット(ダイアン・キートン)が刑務所の取材に訪れた。ハリーはこっそり青写真をリサの助手のカメラで撮ったのだが、マグネシウムの火がカーテンに引火して銀行の見取り図の青写真は燃えてしまった。怒ったワースは看守に命じて2人を石材場の重労働に追いやる。ハリーがその石切場からニトログリセリンを持ち出し、2人は刑務所の門を破って逃走する。 ニューヨークに着き、その新聞社で青写真を撮ったネガを入手。だが、出所してきた強盗のプロ、ワースに見つかって見取り図は取り上げられる。 現像した写真を前に、リサはワースに対抗して金庫破りをすることになる。ただし金は社会正義のために使うことを提案する。その計画にスタッフも賛成し、一同はローウェルに向かって、銀行の上の部屋からトンネルを掘り始める。ところが隣の部屋へ銀行の頭取ルーファス・クリスプ(チャールズ・ダーニング)が女を連れこんでいた。頭取がいてはトンネルが掘れないので、リサは頭取に巧みに近寄り翌日の夜、2人でオペレッタを見に行く。そのオペレッタの主演がワースの恋人グロリア・フォンテーン(レスリー・アン・ウォーレン)なのに気が付いたリサが楽屋を探ると、やはりワース一味がいた。 彼らは劇場の地下室から銀行までトンネルを掘り、次の日のショーが終ったら金庫破りを決行する計画だと判明する。 リサたちは何とか先手を打って、劇場に忍びこみ、ショーの途中に金庫を開けようとする。だが、なかなか金庫は開かず、ショーは終りそうになる。ヴォードヴィリアンのハリーとウォルターが衣裳をつけて舞台に加わる。オペレッタは、めちゃくちゃになるがそれまで退屈であくびを噛み殺していた観客に大いに受ける。 見事に大金を盗み出したリサ、ハリー、ウォルターらはニューヨークに戻った。そこで彼らと再会したワースは、いさぎよく敗北を認めるのだった。 コーエン兄弟の監督作品『オー!ブラザー』にも通じる、すこぶる軽快な強奪ものである。銀行強盗をゲーム感覚で描いた犯罪アクションで、キャストの顔ぶれだけでもおもしろさは約束されている。何よりも楽しいのは、『探偵<スルース>』(1972年)のマイクル・ケイン、『狼たちの午後』(1975年)のチャールズ・ダーニング、『アニー・ホール』(1977年)のダイアン・キートン、『チューズ・ミー』(1982年)のレスリー・アン・ウォーレン、『イナゴの日』(1975年)のデニス・デューガン、『ロッキー』(1976年)のバート・ヤングら、1970年代を彩った「名脇役たち」が多数出演していること。ソニー・コルレオーネでトップ俳優となった能天気なジェームズ・カーンが、若かりし頃のダイアン・キートンに手助けされるというお楽しみもある。 ある意味で、サクセスストーリーだと解釈できる。そのギャグが緻密に計算されてシチュエーションコメディなので、何回観ても飽きないのだ。 本作は1988年ぐらいにビデオソフトになったが、シネマスコープサイズの作品をTVサイズにトリミングしたため、大団円の最高におもしろいシーンが左端で起こっていてカットされるという憂き目にあっている。その意味で、今回の放送はもしかしたら、これがマトモなかたちで観られる最後かもしれず、1970年代のコメディ映画ファンにとって、これほど喜ばしいものはない。■ © 1976, renewed 2004 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
-
PROGRAM/放送作品
世界で一番美しい少年
『ベニスに死す』の美少年がたどった波乱の生涯──ビョルン・アンドレセンの実像に迫るドキュメンタリー
ルキノ・ヴィスコンティ監督作『ベニスに死す』の美少年役に15歳で抜擢されたビョルン・アンドレセン。同作のオーディション風景や映画撮影の舞台裏を彼自ら語り、栄光と破滅が交錯する生涯を振り返っていく。
-
COLUMN/コラム2014.12.04
【未DVD化】思い出の2大アイドル競演映画は、舞台裏もおもしろネタ満載!?〜DVD未発売『リトル・ダーリング』
ストーリーを改めて精査する前に、2人がロケで合流するまでのプロセスと撮影中のきな臭いエピソードを、やはり紹介しないわけにはいかない。 まず、テイタムはこの映画に出演する前の1973年、父親のライアン・オニールと共演した『ペーパー・ムーン』で史上最年少の10歳でアカデミー助演女優賞を受賞後、『がんばれ!ベアーズ』(76)の豪腕ピッチャー役で名実共にトップアイドルの座をゲット。そして、同じ役を彼女と奪い合ったのが、何と奇遇にもクリスティ・マクニコルだった。『リトル・ダーリング』が公開された当時、ファンの間でまことしやかに囁かれた噂話がある。それは、当初、劇中で不良少女ぶりを炸裂させるエンジェル役をオファーされたテイタムが、ミスキャストを承知でお嬢様のフェリス役をチョイスしたという"わがまま伝説"。クリスティが映画女優としては一歩先を行くテイタムの希望を渋々受け容れたことは想定でき、その後、しばらくこの噂話は事実として語り継がれることになる。 ところが、事実はその反対だったという説もある。映画サイトのIMDbによると、映画が公開された1980年3月発売の芸能誌"ピープル"が、フェリス役を最初にオファーされたのはクリスティの方で、彼女がそれを断り、あえてエンジェル役を選択したことを伝えているのだ。理由として挙げられているのは、当時、クリスティは高視聴率ドラマ『ファミリー 愛の肖像』(76〜80)にレギュラー出演して高い認知度を誇っていたからというもの。オスカー女優か?TVのアイドルか?それは現役最高峰の演技派女優、メリル・ストリープと、TVのトークショーで天文学的なギャラを稼いだオプラ・ウィンフリーの比較論にまで繋がる、アメリカ・ショービズ界の永遠のテーマかも知れない。 とりあえず『リトル・ダーリング』が無事にクランクインしてからも、テイタムとクリスティの間には色々あったようだ。エンジェルは物語の最初から最後までタバコを吹かし続けるのだが、それまでタバコを吸ったことがなかったクリスティ(当時17歳)にタバコの味を教えたのはテイタム(当時16歳。何しろ彼女は9歳で出演した『ペーパー・ムーン』ですでにチェーンスモーカー役を演じているのだ。アカデミー協会、倫理的にどうなの!?) で、以来、クリスティは私生活でもタバコを手放せない体になってしまったとか。 しかし、撮影中、派手に問題を起こしたのはクリスティの方で、ロケの合間には退屈しのぎに車を飛ばしてカーブを曲がりきれず、ロケ地、ジョージア州マディソン郡の草むらにドーナツ状の跡をつけて警察沙汰にもなっている。その際、クリスティの実母が『ドラッグをやってなかっただけまし』と言い放ったことや、テイタムとクリスティが宣伝用にツーショット写真を撮る際、位置取りで揉めたという話も記録に残っている。どれもこれもゴシップ好きには堪えられない美味しい話ばかりだ。 映画自体も単純にアイドル映画としてカテゴライズすることは憚られる、けっこう意味を持った作品に仕上がっている。物語の舞台は各地から女子たちが集まってくるひと夏のサマーキャンプ。キャンプ場に向かう車中に、母子家庭で育った下町生まれのエンジェルと、対照的に山の手育ちのお嬢様、フェリスがいる。2人は共に15歳。偶然バスで隣り合わせになった時からソリが合わず、何かとぶつかり合う2人がどちらも処女であることがバレると、すでに14歳でセックスを知ったと豪語するおませな少女、シンダーが突如悪巧みを思い付く。エンジェルとフェリス、どちらが先に処女を捨てるか?全員で賭けをしようというのだ。その辺には特に興味津々の少女たちが思わず手を挙げたのは言うまでもない。そこから、ライバル2人の"ロスト・ヴァージン作戦"がスタートする。 1980年代当時も今も、男子の童貞喪失ものは枚挙に暇がない。1950年代のフロリダでセックスのことしか頭にない男子高校生の行状を描く『ポーキーズ』(81)やタイトルもずばり『初体験/リッジモント・ハイ』(82)、また、プロムを童貞喪失のタイムリミットに設定した男子の焦りを綴る『アメリカン・バイ』(99)、そして、物悲しくも可笑しい『40歳の童貞男』(05)まで、まるで、映画史に"童貞喪失映画"というジャンルが確立されているかのようだ。実は確立されていたりして。逆に、女子のヴァージン喪失映画は極めて稀だ。そこに、『リトル・ダーリング』は果敢にも挑戦している。 エンジェルが湖の反対側でキャンプを張るイケメン男子のランディ(これが映画デビューして2作目のマット・ディロン)に狙いを定め、その目的を隠すことなくアプローチする一方で、フェリスはお嬢様転じて肉食系と化し、キャンプ場の体育コーチ、キャラハンに体当たりをかます。その間、女子グループはエンジェルが運転するスクールバスでキャンプ場を抜け出し、公衆男子トイレに潜入して自動販売機からコンドームを大量に入手。勿論、目的はエンジェルとフェリスの"その時"のためだ。また、彼女たちは湖の向こう側で全裸になって泳ぐ男子の体を望遠鏡で視姦したりもする。それらの行動は童貞喪失映画ではお馴染みの光景。その逆バージョンを、このようにあっけらかんと、まして、1980年にやってしまっていることの意味は、フェミニズム的観点から鑑みても特筆すべきではないだろうか。 そして、エンジェルとフェリスは処女を捨てられたのか、どうか。物語の着地点は、大人になることを急いではいけない。また、同時に、セックスには必然性、つまり愛が伴わなくてはいけない。その2点に尽きる。これは、かつて乱発された童貞喪失映画がスルーしてきた、ヒロイン映画独特の普遍的で大人びた結論と言わざるを得ない。 最後に、『リトル・ダーリング』がDVD未リリース作品としても貴重であることを付け加えておこう。と言うのも、オリジナルの映画にはお馴染みのヒットソングが何曲かフィーチャーされているのだが、ハリウッドでは珍しく版権の処理過程に問題があったらしく、作品がビデオカセットとレーザーディスク化された際、それらの曲は削除され、各々の場面にマッチする他の適当な音楽に差し替えられたという。カットされたのは、スーパートランプの"スクール"、ジョン・レノンの"オー・マイ・ラブ"、そして、エンドロールにかかるベラミー・ブラザーズの"レッツ・ユア・ラブ・フロウ"の3曲。つまり、今回ザ・シネマ解放区ではオリジナルの名曲入り『リトル・ダーリング』が幸運にも鑑賞できるというわけだ!!■
-
PROGRAM/放送作品
江南ブルース
[R15+]韓国の若手実力派イ・ミンホが映画初主演!裏社会をのし上がる若者の運命を描く犯罪アクション
韓国版『花より男子』で注目を集めた若手俳優イ・ミンホが映画初主演を果たした犯罪アクション。持ち味のロマンティックな王子様キャラを封印し、野心あふれるワイルドなアウトローを激しいアクションとともに熱演。
-
COLUMN/コラム2014.09.04
あまりにも短すぎたキャリア絶頂期が過ぎ去った後、孤高の鬼才ウィリアム・フリードキンが放った刹那的な輝き〜『L.A.大捜査線/狼たちの街』、『ジェイド』
1960年代半ばにドキュメンタリーからフィクションの世界へと転身し、『誕生パーティー』(69)、『真夜中のパーティー』(70)という舞台劇に基づく異色作2本を発表。続いて『ダーティハリー』(71)と双璧を成すポリス・アクションの最高峰『フレンチ・コネクション』(71)で作品賞、監督賞を含むアカデミー賞5部門を制し、その2年後にはオカルト・ホラーの歴史的な金字塔『エクソシスト』(73)を発表して空前の社会現象を巻き起こした。 ところがフリードキンの時代は長く続かなかった。『エクソシスト』の後は『恐怖の報酬』(77)、『ブリンクス』(78)、『クルージング』(79)といった意欲作を世に送り出したものの興行的にパッとせず、あれよあれよという間に威光が衰えたフリードキンは、同世代のフランシス・フォード・コッポラ、ひと世代下のスティーヴン・スピルバーグらに追い抜かれ、置き去りにされてしまう。器用な職人監督にはなりきれず、なおかつ常人には理解しがたいこだわりを内に秘めたこのフィルムメーカーは、1980年代以降もメガホンを執り続け、トミー・リー・ジョーンズと組んだ軍事サスペンス『英雄の条件』(00)、筆者が愛してやまないナイフ・アクションの快作『ハンテッド』(03)、マシュー・マコノヒー主演の異色ノワール『キラー・スナイパー』(11)などで健在ぶりを示すが、その合間には数多くの失敗作を手がけている。 巨匠と呼ぶにはあまりにもキャリアの絶頂期が短かったフリーンドキンだが、このたびザ・シネマで放映される『L.A.大捜査線/狼たちの街』(85)は、彼が全盛時のパワーを取り戻したかのような刹那的輝きに満ちた力作である。物語は連邦捜査官のチャンスが、偽札製造のプロに定年退職寸前の相棒を殺害されるところから始まる。怒りの弔い合戦を決意したチャンスは、経験の浅い新たな相棒ジョンとともに犯人エリックを追い、執念深い捜査を繰り広げていく。 陽光眩いアメリカ西海岸が舞台とあって、フリードキン流の泥臭いドキュメンタリー・タッチが全開だった『フレンチ・コネクション』とはヴィジュアルのルックがまったく異なっている。とことんドライで、そこはかとなく「マイアミ・バイス」風のスタイリッシュ感をまとった映像を手がけたのは、この前年にヴェンダースの『パリ、テキサス』(84)とアレックス・コックスの『レポマン』(84)、翌年にジャームッシュの『ダウン・バイ・ロー』(86)に携わった撮影監督ロビー・ミューラー。砂漠などのロケーションが鮮烈な印象を残すこの映画は、やがてフリードキン作品らしく思いもよらない方向へと屈折し、法を遵守する立場のはずの主人公の凄まじい暴走を描いていく。 そのハイライトは、憎きエリックをあぶり出すための偽札作りの手付金の調達を上司に却下されたチャンスが、相棒をむりやり従わせて誘拐強盗を犯す場面だ。何とか5万ドルの入手に成功したものの、犯罪組織に追われる身となったチャンスとジョンは、車に飛び乗って逃走を図る。ところが逃げても逃げても敵がわき出してくるため、チャンスの車は行き当たりばったりで水路や線路を突っ走った揚げ句、高速道路を猛スピードで逆走し、一般市民の対向車を山のようにクラッシュさせていく。囮捜査の資金調達をめぐるプロット上のささいなエピソードをはてしなく肥大化させ、映画史上希に見る異様なカー・アクション・シークエンスを実現させたフリードキンの型破りな剛腕! 『フレンチ・コネクション』や『ハンテッド』にも色濃く見られたチェース・シーンへのただならぬ執着に圧倒され、唖然としつつも理屈を超えた感動を覚えずにいられない。 この怒濤のカー・チェイスに加え、エリック役の若きウィレム・デフォーのカリスマ性も見逃せない。序盤、エリックが砂漠の工場でひとり黙々と偽札製造を行うシークエンスは、まるで至高の芸術作品の創造に没頭するアーティストを連想させる。エレガントな狂気と神出鬼没の狡猾さを兼ね備えた出色の悪役を体現したデフォーは、これが出世作となって『プラトーン』(86)、『最後の誘惑』(88)、『ミシシッピー・バーニング』(88)といった話題作に相次いでキャスティングされることになる。エリックの運び屋に扮したジョン・タトゥーロの助演も要チェックである。 初見の方のために物語の行く末は伏せておくが、チャンスとエリックがついに直接相まみえるクライマックスには異常な展開が待ち受けている。法の裁きや復讐、偽札による金儲けといった思惑を超え、奇妙なまでに曲がりくねって行き着く男たちの壮絶な運命は、驚くほど呆気ないがゆえに極めてフリードキン的だ。おまけに、これほど登場人物が顔面に被弾する銃撃シーンの多い映画は珍しい。北野武監督のデビュー作『その男、凶暴につき』(89)に影響を与えたとも言われ、実際いくつかの共通点が見られる本作は、あらゆる点において何かが確実に狂っている映画なのである。 そしてザ・シネマにお目見えする、もう1本のフリードキン作品『ジェイド』(95)も紹介しておきたい。ある大富豪がアフリカ製の斧で惨殺されるという奇怪な猟奇事件が発生し、検事補コレリの調査によって“ジェイド(淫婦)”の異名を持つ井正体不明の美女の存在が浮かび上がる。カリフォルニア州知事のセックス・スキャンダルにも絡んでいる“ジェイド”とは何者なのか。ジョー・エスターハスが脚本を担当している点からも、『氷の微笑』(92)の二匹目のドジョウを狙ったことが明らかなエロティック・サスペンスである。 ところが男と男の因縁を描かせると天下一品のフリードキンに、男と女の淫らな秘密をめぐるこの企画を委ねるのは少々筋違いであった。いろんな出来事がめまぐるしく起こるので退屈はしないが、フリードキン的な濃厚さは乏しく、ストーリー上必要不可欠な官能性もいまひとつ。にもかかわらず本作には、“チェイス狂”フリードキンの本領発揮たるカー・アクションが盛り込まれている。主人公コレリの車が何者かにブレーキを破壊され、サンフランシスコの坂道を転がり落ちるシーン。さらに証人を殺害した運転手不明の車を追跡し、大勢のアジア系市民によるパレードでにぎわうチャイナタウンに乱入するシークエンス。もはや本筋のミステリー劇そっちのけで繰り広げられるこれらのカー・チェイスは、『L.A.大捜査線~』と同じく名スタント・コーディネーター、バディ・リー・フッカーとのコラボレーションによるものだ。また本作はジョン・ダール監督の傑作『甘い毒』(94)とともに、セクシー女優リンダ・フィオレンティーノの艶めかしい魅力が拝める代表作でもある。 ふと思えば『L.A.大捜査線~』のウィリアム・L・ピーターセン、『ジェイド』のデヴィッド・カルーソといういささか影の薄い主演男優ふたりは、それぞれのちに「CSI:科学捜査班」のギル・グリッソム、「CSI:マイアミ」のホレイショ・ケインという当たり役で名を馳せることになる。奇人とも暴君とも呼ばれる孤高の鬼才フリードキンは、ピーターセンやカルーソにどれほど現場で無茶な要求を突きつけ、彼らのキャリアにいかなる影響を与えたのか。そんな想像を思い巡らせながら鑑賞するのも一興かもしれない。■ COPYRIGHT © 2014 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
-
PROGRAM/放送作品
キリング・フィールド
[PG-12]国籍を超えた友情が内乱下カンボジアで紡がれる──。戦乱の凄まじさに息を呑む反戦ドラマ
ピューリッツァー賞に輝いた新聞記者の体験記を映画化。演技初体験のカンボジア人ハイン・S・ニョールが、戦乱の実体験に基づいた迫真の演技でアカデミー助演男優賞を受賞。他にアカデミー撮影賞・編集賞も受賞。
-
PROGRAM/放送作品
ボヘミアン・ラプソディ
伝説的バンド・クイーンの栄光と知られざる苦悩が明かされる!名曲の数々に乗せて描く感動の音楽伝記ドラマ
エイズで早逝したリードボーカルのフレディ・マーキュリーを軸に、伝説的バンド・クイーンの栄光と苦闘を映画化。ライヴ・エイドの再現シーンは必見。アカデミー賞で主演男優賞(ラミ・マレック)ほか4部門受賞。