そもそも、ハリウッドのメジャーカンパニーはシリーズ映画のプリクエルかリブートしか作ってないのだ!と言ったら叱られるだろうか?

 それはさて置き、そんな知名度優先のハリウッドでも、年に数本、スター不在のシリーズ映画ではないオリジナル作品が細々と製作され、それなりの評価を得ている。『ファミリー・ウィークエンド』はまさにそんな1作だ。配給元としてクレジットされているBedford Falls Companyの過去作を調べてみら、ジェイク・ギレンホールとアン・ハサウェイがバイアグラの営業マンと若年性アルツハイマーを患う女性との恋を描いた『ラブ&ドラッグ』(10)にヒットした。なるほど、さもありなん。『ファミリー~』も頑張り屋の女子高生が両親を拘束するという危ない設定から、観客を一気に想定外の領域へと誘う異色コメディに仕上がっている。こんなチャレンジングな企画にGOサインを出せるのはインデペンデント系ならでは。全米公開から2年以上が経過した現時点で、日本での劇場公開もソフトのリリースもされてないので、映画好きにとってはお得感満載だ。

 舞台は雪深いアメリカ、ミシガン。ある冬の朝、郊外に建つ瀟洒な豪邸で目覚めた主人公のエミリーが、家族の目に付きそうな場所に高校の縄跳びコンテストまで時間が迫っていることを記したメモを貼り付けている。なぜなら、今の家族は全員バラバラで、自分がコンテストで優勝しようがしまいが知ったこっちゃないことをエミリーは知っているから。案の定、見事優勝を勝ち取り、州大会へとコマを進めたエミリーを祝福する家族の姿は会場にはなかった。そこで、エミリーは一計を案じる。こうなったら、パパとママを睡眠薬で眠らせてから拘束し、もう一度夫婦とは、親とは、家族とはどうあるべきかを自らレクチャーしようと!?勿論、一歩間違えば、否、確実に罪に問われることを承知の上で。

 果たして、エミリーの"両親拘束計画"は再び家族をひとつに束ねることになるだろうか?という、大方の道筋はインデペンデント系とは言えハリウッド映画の王道を外さないのだが、製作、監督、脚本各々の担当者がTVドラマに精通しているせいか、とにかくキャラクターの描き方が巧い。まず、今や立派なスポーツとしてギネスにも登録されているスピード縄跳び(1分間に何回飛べるかを競う)に熱中しているエミリーは、映画の冒頭から一点を見つめて小刻みに縄を飛び越える姿に象徴されるように、とにかく一所懸命で一途。家族を再生させるためなら命すら捨てそうな勢いでストーリーも牽引して、終始スピード感に溢れたメインキャラだ。そんなエミリーに負けず劣らず、問題の家族も曲者揃い。パパのダンカンはここ数年絵らしい絵を描いてない落ち目の画家で放任&自由主義者、ママのサマンサはそんな夫に脇目もくれず家にも堂々と仕事を持ち込むワーカホリックな広告ウーマン、兄のジェイソンは映像アーティストの自称、ゲイ、妹のルシンダは常に『タクシー・ドライバー』(76)でジョディ・フォスターが演じた少女娼婦を模している映画かぶれ、弟のミッキーは動物オタク、と言った具合に。

 しかし、キャラクターは風変わりなまま放置されると意味をなさない。まるで拡散したまま元に戻るようには思えになった彼らが、歌好きのお祖母ちゃん、GGの提案で片手に縫いぐるみを持ってリビングに集まり、拘束されたままの両親を囲んで、縫いぐるみを介してそれぞれの胸の内を吐露し合った時、丸い輪を形成し始める。実はみんな、バラバラな家族の中で何とか自分の居場所を見つけ、藻掻いていたことが露わになる。そう、エミリーの無謀な計画は無駄ではなかったのだ。

 そんな家族再生ドラマとしての側面に加えて、本作にはもう一つ重要なテーマがある。ギネス級とは言えマイナーなスピード縄跳びにはまっているエミリーも、未だフラワーチルドレンなパパも、仕事に飢えているママも、ゲイを装った映像作家の兄も映画や動物にぞっこんの弟妹たちも、全員イカれているけれど、夢中になれるものがあるステキな面々。そこには、たとえ世間一般の倫理を逸脱していようとも、常識<情熱、調和<個性という作り手の強い思いが込められている。

 エミリー役のオレーシャ・ルーリンが、そんなメッセージ配達人として終始輝きまくる。ディズニー・チャンネルのTVムービー『ハイスクール・ミュージカル2』(07)と『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』(08)で、おたくな文化系ピアニスト、ケルシー・ニールセン役でブレイクスルーしたロシア人女優だ。『HSM』で当初は全然イケてなかったケルシーが、やがて、自分の才能に目覚めて俄然輝き始めるプロセスを巧みに演じた彼女。本作でも、エミリーが元気印の裏側に隠していた母親の愛情に対する飢餓感を、涙ながらに訴える場面で繊細な演技を見せてくれる。実はオレーシャ、エミリーの年齢設定である16歳より実年齢が8歳も年上の24歳。それは撮影当時の2011年時点で、現在は29歳なのだが、愛くるしい表情と155センチのトランジスタグラマーなホディは、今でも女子高生役が可能なレベル。ロシア生まれのオレーシャは小学校低学年でアメリカに移住し、家計を助けるために下着メーカー、ヴィクトリア・シークレットでバイトしながら演劇学校に通ったという、リアルライフもエミリー並みの頑張り屋さんだ。プレイステーション初の連続ドラマとして注目される『パワーズ』(15)や、かつての人気ドラマのリメイク『ナイトシフト 真夜中の救命医』(15)にも出演しているので、チェックしてみてはいかがだろうか。

 母親のサマンサを演じるクリスティン・チェノウェスは『きみはいい人 チャーリー・ブラウン』(99)でブロードウェー・ミュージカル2作目にしてトニー賞をかっさらっい、エミー賞も受賞済みの実力派。今年の第69回トニー賞授賞式でアラン・カミングとコンビでMCを務めたのをご記憶の演劇ファンもいらっしゃるはずだ。さらに、父親のダンカンを演じるのが1980年代に青春スターとして羽ばたいたマシューン・モディーンなのも配役の妙。未だに彷徨を続けているダンカンとモディーン本人が微妙に重なるからだ。お楽しみは映画オタクの妹、ルシンダ役のジョーイ・キングではないだろうか。劇中で『タクシー・ドライバー』や『レザボア・ドッグス』(92)の世界に浸りきる演技派ぶりには脱帽だが、彼女、これまでも『ホワイト・ハウス・ダウン』(12)で大活躍するチャニング・テイタムの娘役とか、『オズはじまりの戦い』(12)の陶器の少女役とか、話題作で場面を浚いまくりの16歳。以上、魅惑の配役にも注目し甲斐のあるアメリカ発マイナー映画の力作を、この機会に是非!■

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