飯森:さて、ここからはざっくばらんにと申しますか、最終回ですので洋画チャンネルに今後要望することなどを忌憚なく提言としてお聞かせいただければ。もしかすると、あれは出来ない、これも出来ないという話になっちゃうかもしれませんが(笑)。

なかざわ:逆に、今の一般視聴者が洋画チャンネルに求めているものって何でしょうかね? 僕なんか完全にマニアなので少数意見にしかならないと思うんですが。

飯森:よく視聴率って問題になりますよね。恐らく、多くの方が視聴率というものに対してあまり良いイメージを持っていないと思うんですけど。どんなにいい映画を放送しても、視聴率が低いということは見られていないということであり、求められていないということを意味します。逆に、視聴率が取れているというのはニーズが満たされている証拠ですよね。だから、視聴率狙いというのは決して悪いことではない。ただ、視聴率を取れる映画というとほぼ決まっていて、うちの場合ですとアクション映画だけなんですよ。せいぜい遡って’70年代くらいまでの。圧倒的に数字を持っているのはジェイソン・ステイサム(注79)とスティーブン・セガール(注80)の二強。あとはスタローンとかシュワルツェネッガーですね。そういうものさえ放送していれば視聴率は取れてしまいます。チャンネルの収入は視聴率にかかっている部分もかなり大きいので、収益を上げようとするとそういう映画は欠かせない。でも同時に、本当にそれが視聴者が求めているものなの?満足してもらえてるのか?という疑問も頭をもたげてくるわけです。

なかざわ:もっと潜在的なポテンシャルのあるターゲット層もいるかもしれませんよ?

飯森:僕もステイサムはヘアスタイルを真似るぐらいリスペクトしてますから(笑)、ステイサム映画やセガール映画を低級とか低俗とか思う気持ちは微塵もない。むしろ、そういうことを言っては娯楽映画を見下す映画ブルジョワたちには反感を覚えるぐらいで、いつか革命起こして打倒してやるぞと思っている闘争的映画プロレタリアなんですが(笑)、それでもステイサム映画などの視聴率が取れる映画イコールみんなが本当に愛している映画、というわけではないんじゃないの!?とも疑っているんです。おそらく、ステイサムは“安心感”じゃないですかね。美味い店を開拓するのは、不味いリスクもあるし何より億劫ですけど、いつも行くファミレス全国チェーンのメニューなら、どれ頼んでも大ハズレはないだろ、的な発想。


ザ・シネマ編成 飯森盛良
「あなたのハートには、何が残りましたか? それではみなさん、また会いましょうね、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。」

なかざわ暇つぶしに丁度いいということもある。ザ・シネマさんだと中高年の男性視聴者が多いですよね? だいたい人間ってみんなそうだと思うんですが、年を取ってくると小難しい映画は見たくなくなるんですよ。ただでさえ日常や社会の煩わしさに追われて、仕事だなんだと1日疲れきって家に帰ってテレビをつけたとき、さらに疲れるような映画は御免被りたいと思ってしまう。

飯森:良いこと仰った!それこそが善良なる勤労映画プロレタリアートの心情です!僕も商売柄なかなか本音をカミングアウトしづらいんですが、ここだけの話「勘弁してくれよ…難解なアートフィルムなんて見たくねえよ!」というのが、公人としてでなく私人としての偽らざる本心です(笑)。それに比べたらステイサムは本当に一億倍好きですよ。そういうレベルの奴がやっているチャンネルなんだということで、逆に信頼していただきたい(笑)。

なかざわ:年をとるとそれこそステイサムやセガールのように、勧善懲悪でドンパチがあって、綺麗なオネエちゃんが出てきて、大して実のある中身ではないかもしれないけど、楽しく1時間半ないし2時間を過ごせました。あー面白かった!という映画を求めるようになっていきますよね。

飯森:高校・大学の頃は小難しい映画を見てめんどくさい議論を人に吹っ掛けるのがオシャレで知的でカッコイイと思っていましたし、映画ファンの端くれとして退屈でも我慢して勉強する義務があるとも思っていましたけど、今はとてもじゃないけどそんな余裕はない。あれは良くも悪くも“若さ”でしたね。今や僕はまごうかたなき中年のオッサンですから、ひたすらエンターテインメントを希求切望してやまない。しがない疲れたサラリーマンのこの俺のことを腹の底から楽しませてくれ!と。でも、エンターテインメントだからといって必ずしもステイサムである必要はないんじゃないかとも思ったりもします。様々な選択肢を用意していかねばとは思っています。

なかざわ:視聴率という分かりやすい数字だけを拠り所にして、偏ったジャンルの映画ばかりを提供していくと、どんどんと尻すぼみになっていくと思いますよ。結果的に自分で自分の首を絞めることになってしまう。チャンネルの将来的な展望を考えても、多種多様な選択肢を提示していくことは必要不可欠だと思います。

飯森:まさにそれが深夜帯に放送している「シネマ解放区」(注81)です。未ソフト化映画とか激レア映画とか、いろいろと提供することで尻すぼみを回避しようと努力していて、そこの枠で映画好きな方々とのコミュニケーションはちゃんと取れていると思うんですよ。「ザ・キープ」(注82)をやるといえば大喜びしてくれる人はいますし、野沢那智版「ゴッドファーザー」三部作(注83)も反響が大きかった。でも、そこまで映画が大好きで詳しいわけじゃない、という視聴者の方が、実は圧倒的多数なんです。コア層というのは文字どおりコアですからね、決してマスじゃない。そうしたマス層にザ・シネマを便利に使ってもらおうとすると、現状どうしてもステイサムやセガールだらけになっちゃう。こうした悩みは、どこのチャンネルも抱えていると思いますよ。実に難しい!

なかざわ:まさにジレンマですね。理想としては、そういう方々にも幅広い選択肢を認知してもらえればいいんでしょうけど。 


注79:1967年生まれ。イギリスの俳優。代表作は「トランスポーター」(’02)シリーズ、「アドレナリン」(’06)、「エクスペンダブルズ」(’10)シリーズなど。
注80:1952年生まれ。アメリカの俳優。日本で武道を学んだ親日家としても知られる。代表作は「刑事ニコ/法の死角」(’88)、「沈黙の戦艦」(’92)、「暴走特急」(’95)など。主演作の多くに「沈黙の~」という邦題が付けられる。
注81:激レアなお宝映画や懐かしの日本語吹き替え、エロティック映画などを放送するザ・シネマの平日深夜枠。
注82:1983年制作。アメリカ映画。東欧の古城に幽閉された悪霊をナチス軍が解放してしまう。熱烈なファンの多い作品だが、現在はソフト化などされていない。完成版に不満を持つマイケル・マン監督の意向だとされる。
注83:ニューヨークのマフィア、コルレオーネ・ファミリーの軌跡を描くフランシス・フォード・コッポラ監督作品。「ゴッドファーザー」(’72)、「ゴッドファーザー PARTⅡ」(’74)、「ゴッドファーザー PARTⅢ」(’90)の3本が作られた。声優の野沢那智がアル・パチーノの声を担当した日本語吹替えバージョンが人気。


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