今回紹介するのは『三人の女性への招待状』(67年)というアメリカ映画です。日本では現在、観ることができなくなっている作品ですね。

 監督はジョセフ・L・マンキウィッツ。彼は『三人の妻への手紙』(49年)で、アカデミー賞の監督&脚色賞をW受賞し、翌年の『イヴの総て』(50年)で
も監督&脚色賞をW受賞。2年間に4つのオスカーを獲った記録を持っている名監督です。

『三人の妻への手紙』という映画は、3人の奥さんに「私はこれからあなたの旦那と駆け落ちする」という手紙が届くんですが、どの旦那なのかわからない……という、不思議なミステリーでした。

 今回の『三人の女性への招待状』は、イタリアはヴェネツィアから始まります。主演はレックス・ハリソン。『マイ・フェア・レディ』(64年)のヒギンズ教授役や、『ドリトル先生不思議な旅』(67年)のドリトル先生で日本でもお馴染みですね。彼が演じるM r.フォックスという男は億万長者で、自分だけのために、劇場を借り切って芝居をやらせるような大金持ちです。

 その演目はシェイクスピアと同時代の劇作家ベン・ジョンソンの『ヴォルポーネ』という芝居なんですが、それを観たフォックスはタチの悪いイタズラを思いつきます。自分が病気でもうすぐ死ぬと嘘を言って、遺産を誰に分けたいか考えるから来てくれという招待状を、過去に付き合った3人の女性に書くんです。そ
して、この3人が、遺産目当てどんな醜い争いをするか、自分にどんなおべっかを使うのかを見てやろうというわけです。

 その芝居の手伝いとしてフォックスは、アメリカ人の俳優を雇います。これを演じるのはクリフ・ロバートソン。「アルジャーノンに花束を」を映画化した『まごころを君に』(68年)で主人公を演じたことで有名ですね。

 招待される3人の女性は、まず、イーディ・アダムス。マリリン・モンローみたいな、当時のセクシー女優です。2人目は、ヨーロッパの貴族と結婚したフランス人。キャプシーヌが演じています。冷たい感じの美貌の人ですね。3人目はスーザン・ヘイワードが演じる、アメリカの田舎のお金持ちシェリダン夫人。ヘイワードは『私は死にたくない』(58年)という映画で死刑囚に扮して高く評価された演技派ですが、ここでは完全にお笑い演技をしています。

 そして、そのシェリダン夫人の付き人にマギー・スミス。TVシリーズの『ダウントン・アビー』の年老いた伯爵夫人として日本でも非常に親しまれている女優さんですが、若い頃はこんなにかわいかったんですよ。

 こんな芸達者で濃いキャラクターたちが1カ所に集まって、遺産相続をめぐってどんなコメディを演じるのか?と思って観ていると、この映画、あさっての方向へ話が行きますから! 登場人物のキャラクターもどんどん覆されていくんです。どんでん返しはジョセフ・L・マンキウィッツ監督の得意技ですから。いったいどこに着地するのか、お楽しみに!■

(談/町山智浩)

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●原作は邦訳もあるトーマス・スターリングの『一日の悪』。これを『Mr. Fox of Venice』として戯曲化したフレデリック・ノットの台本を監督が映画用脚本化。それにベン・ジョンソンの1605年の戯曲「ヴォルポーネ」を加えたもの。『三人の妻への手紙』(49年)に似てはいるがリメイクではない。
●メリル・マッギル役は当初アン・バンクロフトにオファーされたが、彼女が舞台出演と重なったため、イーディ・アダムスに変更になった。
●撮影当初からの撮影監督ピエロ・ポルタルピをクビにして、ジャンニ・ディ・ヴェナンツォに変えたが、撮影半ばで肝炎により死去(わずか45歳)、弟子でカメラ・オペレーターのパスクァリーノ・デ・サンティスが引き継いだが、クレジットは辞退した。

 

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