『フリービーとビーン/大乱戦』は、元祖『リーサル・ウェポン』(87年)のバディ・ムービーです。サンフランシスコを舞台に、ジェームズ・カーン扮する荒くれ刑事のフリービーと、アラン・アーキンが演じるあんまりやる気のない、家庭のほうが大事な中年刑事のビーンがケンカしながら事件を解決していくアクションコメディです。こういう凸凹刑事ものっていっぱいありそうで、実はこの『フリービーとビーン』の前にはなかったんですね。この映画の前は、刑事のバディものといえば、この番組で紹介した『ロールスロイスに銀の銃』(70年)くらいしかなかったんですね。
まず、この映画、とにかくカーチェイスが凄まじい。この数年前に『ブリット』(68年)で刑事に扮したスティーヴ・マックイーンがサンフランシスコで凄まじいスピードのカーチェイスを見せて、ハリウッドで刑事アクションのブームが起こりました。でも、この『フリービーとビーン』はスピードよりも数で勝負なんです。もう70台以上の車をスクラップにします。つまり『ブルース・ブラザース』(80年)の元祖なんですよ。
しかも、その撮り方がえぐい。例えば白いバンが高いところから落ちてグシャッとつぶれるところで、わずか2メートルくらい離れたところに人がいるんですよ。その人のすぐ横にバーンって落ちるんです、車が。危ねぇだろ(笑)!! 当時、コンピュータ・グラフィックスとかないですから、本当にそれをやってるんですよ。
それだけじゃない。『フリービーとビーン』はとんでもない暴力刑事です。カーチェイスや銃撃戦に周囲の一般人を平気で巻き込んで行きます。チアリーダーを車ではね飛ばし、普通の人のアパートの寝室に車で突っ込み、看護婦を間違って撃ってしまいます。それどころか、トイレに追い詰めた敵に二丁拳銃で何十発もの弾丸を撃ち込んで文字通り蜂の巣にします。ふざけながら。そんな残酷シーンをギャグとして演出してるんですよ!
監督はリチャード・ラッシュ。ハリウッドの異端の人で、独立プロデューサー、ロジャー・コーマンの下で、暴走族もの『爆走!ヘルズ・エンジェルス』(67年)を作り、学生運動を描いた『…YOU…』(70年)で注目された、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けた、左翼、反体制、ヒッピー系の監督です。
その反権力の人がなぜ、国家権力による暴力をジョークとして撮影したのか。ラッシュ監督自身がインタビューで答えているんですけど、当時のベトナム戦争であるとか、刑事映画ブームであるとかの、映画や現実にあふれているバイオレンスそのものを茶化したかったというんですよ。「観客は笑いながら、笑っているうちに、自分が笑っていることにゾッとする」そういう映画を撮りたかったと。ところが当時はこの実験は強烈すぎた。流れ弾で看護婦さんが血だらけになるのを観て笑えないですよ。
ただ、80年代に入ると、ジョエル・シルバー製作のアクション映画が暴力で笑わせる映画を作り始めます。『48時間』(82年)、『ダイ・ハード』(88)、そして『リーサル・ウェポン』ですね。で、そこからクエンティン・タランティーノが『パルプ・フィクション』(94年)で人の脳みそを吹き飛ばしてギャグ扱いするわけですが。『フリービーとビーン』は早過ぎたんです。タランティーノも『フリービーとビーン』に影響されたと言っています。
観ていて非常に困る映画ですが、それは、作り手の狙い通りです。これは観客のモラルに対する挑戦ですから。ある程度覚悟をしてご覧ください。俺に苦情を言わないでくださいね。作ったのは俺じゃないからね(笑)! ということで、今では考えられない、とんでもない映画ですよ!■
(談/町山智浩)
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●脚本は当初、コメディ要素のない“バディ・ムービー”だったのだが、スタッフと主演の2人が協議してアクション・コメディとなった。だが監督は、カーチェイスばかりに重点を置いていたため、主演の2人は「撮影をボイコットするぞ」と監督を脅したという。
●主人公の刑事たちが使う車は、1972年型の白いフォード・カスタム500の警察車用インターセプター・セダン。スタントに使われたのは、廃棄された警察車両が1ダース以上。これはそのまま『ダーティハリー2』(73年)にも使われている。
●同時期に撮影されていた『破壊!』(74年)との競合を避けるため公開時期を74年の春からクリスマスに変更した。
●主演2人が続投し、監督にアーキンを迎えた正式な続編の企画があったという。
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