ご無沙汰しております。懐かし系の吹き替えをお手伝いしております飯森です。ワタクシ、団塊ジュニア世代で、『いちご白書』といったら親の世代の映画。しかし、個人的に90年代の大学時代に60年代末のカウンター・カルチャーにかぶれていたことがありまして、今を去ること20年以上前に、目を輝かせてレンタルVHSで見たものです。1回だけね。

 ソフト化されてたら絶対に買っていたでしょう。でも未DVD化。なのでザ・シネマの激レア担当だった頃に、仕事にかこつけて自分のために買った作品です。もっとも、あまりにも超有名作なので「ずっと見たかった」、「懐かしい」という人は、ワタクシだけでなくめちゃくちゃいると思いますが。

 1970年の映画で、舞台は学園紛争まっただ中の某大学。政治にはあまり関心なかった男子大学生が、可愛い女学生が講堂占拠デモ隊の中にいるのを見かけそれに釣られて学生運動に参加し、ちょっと学園祭の準備のような非日常の楽しさ(『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』的な)もただよう青春の日々を謳歌する中で、次第に政治意識が芽生えてくる。やがて、大学当局は学生デモ隊を強制排除することに。講堂内に催涙ガスが撒かれると同時に、ガスマスクを着けた警官隊がキャンパスに突入し学生たちを警棒で滅多打ちに…

 と、いうお話で、この時代やこの作品に特段の興味がなくても、「うっわ〜何これ!? まんま今の香港じゃん!」と、誰もが間違いなく感じる、変な形でタイムリーすぎる映画になっちゃっており(俺が買った2年前は、2年後がまさかこんな未来になっていようとは…)、今こそ必見なのです!

 さて、今回は、素材(放送するテープのマスター素材のこと。それのコピーを作って放送している)が届くのに時間がかかったので、20年以上ぶりに旧レンタルVHSをまずゲットして試写し、後から皆様にもお届けする放送用素材が届いたのでそっちも見てみたのですが、

 バージョンが違うじゃねえか!

 VHS版では映画中盤で、ちょっとエッチなシーンが出てきます。占拠している講堂のコピー室は学生デモ隊男女のヤリ部屋と化しており、よくカップルがしけ込んでいるのですが、主人公は知らないセクシー女から呼び出され、「やろう❤」と誘われ、やられちゃう、というシーン。そこが、放送用HD素材には丸ごとない。

エロいおねえさん。カットされちゃって今回の放送版には登場しません。残念!

 2台のモニターで同時再生し見比べてみると、他に、気づかないような細かいところもチョコチョコ違う。

 これは、今回の放送素材が、もともとどこかの国(本国?)のTV放映用としてテレシネされたHDマスターで、それが旧VHSのSDマスターテープと別バージョンだから、との回答を、映画会社からいただきました。「TV放映用にエロはまずい」という忖度が働いたのでしょうか?エッチなおねえさん、お口を大きく開けてパックンチョ、みたいなことを積極的にしてくるので、現代の感覚でもかなりエッチすぎる。それが理由か?

 しかしザ・シネマの方で映画をカットすることはなくて、もらったものがカット版であればノーカット版を再度要求するんですが、カット版しかありませんと言われてしまったら仕方がない。今回はそのパターンです。

 旧VHSは1時間49分で、これはIMDbに書かれている「Runtime:109 min」という情報と一致します。が、TV放映用HDは1時間42分と、7分短くされちゃった。

 また、今回のTV用HD版はビスタサイズですが、この映画は元が4:3のスタンダードサイズで(とIMDbに書いてある)、旧VHS版もそうでした。その上下をカットして横長にし、擬似的ワイドにしたもので、オリジナルや旧VHS版に比べて絵の情報量がむしろ減っているという問題も。

 ということで、本当は、4:3スタンダードでフル尺が1時間49分の、HDとか4Kの素材があれば、それがオリジナルに一番近いバージョンになるようですが、無いんだから仕方ない、今回はこの別バージョンHD素材で放送します。

左がオリジナル4:3で右がワイド風に見せかけるため上下をカットしたもの。なんでもかんでもワイドが良いとは限らない。が今回は右で放送。

 さらに12月は、「厳選!吹き替えシネマ」として、昭和51年1月8日木曜洋画劇場放映の富山敬による吹き替え版もお届けすることにし、これはワタクシにとっても初見でしたが、こっちはさらにこまごまと編集が違っています。無い絵が追加されているとか、あった絵が無くなっているとか。エロシーンがごっそり抜かれてるというのはカット理由として解りやすいですが、普通の雑観ショットとか、どうでもいいところがほんのちょっとだけ、しかも大量に別編集になっているのは、理由が解らない。どなたか知りませんか?

 この昭和51年の吹き替え版、87分50秒だったのですが、40年以上前のボっケボケのテープにはあったがHD素材には存在しない映像が、合計1分36秒分あり(それも、ほんの1カットとかこまごまとした映像)、その部分はきれいなHD映像が存在しないため再現が不可能で、泣く泣くカットとなりました。不幸中の幸いはセリフのあるシーンではなかったこと。富山敬さん以下のセリフは一切カットしておりません。

 以上、ちょっと技術的なことばかり書いて退屈だったでしょうが、後世の歴史家のためにどこかにちゃんと経緯を残しておくべきかと思いまして。

 とにかく、2019年の今の、香港・チリ・バルセロナの状況と、異常にダブって見えてしまう、あまりにもタイムリーすぎる映画『いちご白書』。それ自体が未DVD化の激レア作なのでHD字幕版も必見ですが、さらに昭和51年のスーパー激レア音源をHD映像に乗せて蘇らせるってんですから、これはマストで視聴して「なんだこれは、まるっきし香港じゃないか」とみんなで驚くべきでしょう。

 この映画を気に入った、という人には、原作の日記文学『いちご白書』の方もお薦めします。原作者ジェームズ・クネン君は映画のモデルになったコロンビア大学の学園紛争に参加し、リーダーではないのですが当時マスコミによく登場して学生運動側の意見をメディアで語ったりと、今の香港で言うならジョシュア・ウォン君っぽいポジション。映画版にもカメオ出演しています。

子門真人、じゃなかった、「コロンビア大のジョシュア・ウォン」こと原作者のジェームズ・クネン君。

 原作は日記体でつづられていて、その断片が映画本編に使われていたりするのですが、まったく違った表現物で、原作は原作で良いんです。警察から催涙ガスを浴びせられたり警棒でボコボコにされたりする二十歳前後のデモ参加者側が、何を考え革命をしているのか、若者らしいみずみずしい感性で言語化されており、今の時代を考える上で何かの役に立つかもしれません。

 この映画については、他でも何ヶ所かでワタクシ紹介してるんですよね。長すぎ80分の音声解説、というか映画ライターのなかざわひでゆきさんと対談した「男たちのシネマ愛」が、YouTubeに上がっています。このブログ記事では映画の内容についてはあまり言及しませんでしたが、そっちの80分音声の方で思い残すことなく喋り倒しておりますので、何かしながらついでに聴いていただけましたら幸甚。そこでは、この時代を知る上で絶対に理解しておかないとダメなベトナム戦争について、特に力を入れて語らせていただきました。

 あと、ふきカエル大作戦!!の連載では、『…you…』についても書いています。『…you…』と『いちご白書』はコンビのようなそっくりな映画なのでセットでウチでは放送してきました。『…you…』はもうザ・シネマでの放送は終わっちゃいましたが、そちらも、あわせてご笑読いただければ幸いです。我が人生五指に入る傑作吹き替え、石田太郎エリオット・グールド大演説を、テキストで再現しました(ウチでの放送見れた方はラッキーでしたね。これはお宝モンですよ?あと、タランティーノによる解説番組ってのも放送しましたんで、あっちも永久保存版です)。

 ああそうそう、ついでながら、まるっきし関係ない話だけど、『求婚専科』も吹き替え版やりますんで、そちらもお楽しみに。■

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