海へ行くつもりじゃなかったら、エリック・ロメールを観よう。

LETTERS ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
海へ行くつもりじゃなかったら、エリック・ロメールを観よう。

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  1. エリック・ロメールの季節
  2. 一貫した作風
  3. 短編小説のような感覚
  4. 男女の恋愛を描く名手

海辺のポーリーヌ


※本記事は、ザ・シネマホームページ2020年3月16日掲載コラムの転載です。

エリック・ロメールの季節

 ゴダールやトリュフォーやカラックスが好きでもロメールを観ていない人、いますよね?男女の恋模様をウィットに富んだ会話と、鮮やかな色彩で描き続けた映画作家、エリック・ロメール。自然光を多用した少人数のロケという一貫したスタイルで、軽やかな人間ドラマを撮り続けた彼の作品群には、春から夏の季節が良く似合う。何も特別なことは起きないのに、何故だかキラキラしていて瑞々しい、不思議な“ロメール風味”とは―。

飛行士の妻

一貫した作風

ザ・シネマメンバーズでお届けする「喜劇と格言劇シリーズ+3」の9作品は、いずれもロメールが60才を過ぎてから監督した作品であり、ヌーベル・ヴァーグというムーブメントから実に20年も経過しているにもかかわらず、ロメールは、初期のころと変わらない軽やかさで順調に次々と映画を撮っていたことに気づいて驚く。

 今や60才を過ぎたロックアーティストが珍しくなくなった世の中だが、キャリアの後期におよんでも一連の作品に、ここまでエバーグリーンな輝きを持ち続けられる作家は、あまりいないのではないだろうか。登場する女性の服装や小物まで含めた可愛らしさ、画面に周到に配置される赤の色、木洩れ日のきらめき、そしてヴァカンス!何度でも観たくなるのがロメールの魅力。

友だちの恋人

短編小説のような感覚

 エリック・ロメールの作品は、よく“会話劇”と言われる。たしかに少し哲学的なニュアンスを含んだセリフが時々あるかもしれないが、心配無用。アート系作品でたまにある、「わかったふりしてドキドキ」みたいなことにはなりません。セリフを注意深く追う必要はないし、読み解く必要もない。

 ストーリーはいたってシンプルで、そこに見えていること以上の意味はない。短編小説のような味わいなのだが、ヘミングウェイの短編のように、“書いてあることは氷山の一角”ということを意識しなくていい。他のヌーベル・ヴァーグの作家のように、「映画史」からの引用もほぼ無いといっていいから、構えたりせずに躊躇なく観よう。

 「そこで起きていることを写す。」ということを徹底して演出し、撮られた作品は、難しいことを考えず、カフェで、ベッドで、リビングで、ちょっと短編集を手に取って小一時間過ごすように触れてみて欲しい。ロメール作品を見る快楽は、そういうところにある。

緑の光線

男女の恋愛を描く名手

 街中やカフェ、深夜のレストラン、海辺の別荘で過ごす複数の男女。そこで繰り広げられる、ちょっとした嫉妬や誤解から生まれるストーリーのゆるやかな起伏。それを眺めているうちに、少し滑稽にも思えてきてしまう観客の心理。あるいは、狙いすましたようにやってくる偶然によって、時に感動し、時にやるせなく見守る。これはまるで、今どきの恋愛リアリティショーの原型のようだ。と言ったら言い過ぎだろうか。

パリのランデブー

 嫌味や雑味のないリアリティで、人物や音や光、空気をそのまま切り取った、コンパクトでチャーミングなエリック・ロメールの作品群をザ・シネマメンバーズで、好きな時、好きな場所で楽しもう。

『海辺のポーリーヌ』©1983 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.『飛行士の妻』©1981 LES FILMS DU LOSANGE.
『緑の光線』©1985 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.『友だちの恋人』©1986 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.『パリのランデブー』©1995 LA C.E.R.

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この記事のライター

ザ・シネマメンバーズ 榎本  豊
ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
レトロスペクティブ:エリック・ロメールを皮切りにした2020年4月のザ・シネマメンバーズのリニューアルローンチから、ザ・シネマメンバーズにおける作品選定、キュレーションを担当。動画やチラシその他、宣伝物のクリエイティブなども手掛ける。

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