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PROGRAM/放送作品
マッチスティック・メン
詐欺師と少女のめぐり逢い。監督リドリー・スコット×主演ニコラス・ケイジのクライム・コメディ
製作総指揮ロバート・ゼメキス、監督リドリー・スコット、主演ニコラス・ケイジという豪華スタッフ・キャストのクライム・コメディ。14歳の娘を演じたアリソン・ローマン、製作時の実年齢二十歳過ぎという事実にもびっくり!
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COLUMN/コラム2016.01.27
男たちのシネマ愛③愛すべき、ボロフチック監督作品(5)
飯森:本当にこれこそボロフチック監督の実力が遺憾なく発揮された作品だということで、もうちょっと注目されても良かったんじゃないかなと思っているのが「罪物語」なんです。 なかざわ:日本では’81年の劇場公開ですが、実は「邪淫の館・獣人」と同じ’75年に作られている。日本へ輸入されるのがかなり遅かったんですね。 飯森:これがまた、格調高い大河メロドラマみたいな作品なんですよ。今回、うちでこれを放送できるのはとても良かったと思います。あらゆるエロがショーケース的に詰まった「インモラル物語」、当時の大スターを招いてフランスらしい雰囲気を醸し出した「夜明けのマルジュ」、そして重厚な文芸大作と呼ぶべき「罪物語」。ボロフチック監督の多様な作家性を象徴する3つの作品が揃ったわけです。 なかざわ:これは母国ポーランドに戻って撮った映画ですよね。当時のポーランドは共産圏だったので、性的な描写がけっこう問題視されたとも聞いていますが。 飯森:ただね、当時のキネ旬の映画評には「ポルノ解禁度が日本よりずっと進んでいるポーランド(後略)」って書かれているんですよ。 なかざわ:そう言われると確かに、アンジェイ・ワイダ監督【注61】の映画でもけっこう過激なエロ描写があったりしますもんね。 飯森:僕は大学時代に東ヨーロッパを専攻したんですが、助教授の研究室にエロ本が置いてあったんですよ。ベルリンの壁の崩壊前にハンガリーで買ってきたと言っていましたが、ヘアも女性器も丸出しでした。旧東側ブロックというと、各国がそれぞれ共産党の一党独裁体制で、ソ連の指示を仰いでえらく怖い社会だった、表現の自由なんてカケラすらあるわけがない、という印象を持つかもしれませんが、必ずしもそんなことはなかった。特に中央ヨーロッパ。具体的にいうと、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーの3カ国ですけれど。かつて政治的に東側陣営に属していた、地理的には中欧国ですね。ここはもともと文化先進地域だったんですよ。神聖ローマ帝国【注62】が栄えて、ハプスブルグ家【注63】が君臨して、モーツァルト【注64】が訪れて。例えば、モーツァルトのオペラというのは当然ウィーンで初演されましたが、代表作の中にはプラハで初演されたものもある。それはチェコの話ですけど、ポーランドだってショパン【注65】を生んでますし。もともとポーランドはハプスブルグではないですがヨーロッパの超大国だったし、政治的に開けた、進んだ国だった。だから、その後の歴史で国を分割されたり、ナチスに荒らされたり、解放だと称してやって来た共産軍によってソ連の衛星国に落とされちゃったりしても、そう簡単に先進国だった頃の栄光は消えない。「罪物語」を見ると、そういうことがよく分かります。 なかざわ:確かに、’80年代初頭だったと思うんですけれど、うちの父親がポーランドのワルシャワに出張で行って、街の様子などを撮影してきた写真を見せてもらったことがあるんですけれど、街頭のキオスクで普通にポルノ雑誌を売っているんですよ。中には、ゲイ雑誌なのか分かりませんが、全裸の男性が表紙になっているものもあったりして。もちろんモロ出しですよ。ソ連とは大違いだなと思った記憶があります。 飯森:旧ソ連といいますかロシアは、歴史上、先進国になった経験があんましないんですよね。帝政ロシア【注66】後期にやっとたどり着けたプーシキンとかトルストイとかチャイコフスキーといったせっかくの輝かしい文化的な豊穣も、革命によって自分でぶち壊しちゃったし。まして政治的先進性からはずっと縁遠いまま。せっかくの革命も、ツァーリズムがぐるっと回ってスターリニズムになっちゃったという、悪い冗談のような事態になってしまった。 なかざわ:そもそもロシアという国自体、他のヨーロッパ諸国に比べると歴史が浅いですしね。もともとは未開地ですから。 飯森:帝政ロシア時代の皇帝ツァーリというのも、東ローマ皇帝の後継者を自任しているけど、どっちかって言うと蒙古の皇帝ハーンに似ているという。白人の顔をしているのに、なんともアジアの専制主義【注67】的な政治制度を導入しちゃっている不思議なヨーロッパの国。そもそもヨーロッパなのかどうかも疑問なんですけれど。そんな国が革命によってソビエト連邦を形成して、ちょっとヨーロッパのメインストリームとは違う近代史を歩んできちゃっているから、考え方も独特なんですよね。その前の中世にはずっとモンゴル帝国の奴隷だったし。その点、ポーランドやハンガリーやチェコはヨーロッパの王道の近代史を歩んできたから、ロシアと同じように弾圧したり禁止したりはできない文化的な素地がある。「罪物語」では、そんなポーランドがプロイセン王国【注68】とオーストリア帝国【注69】、そしてロシア帝国によって三分割された時代が舞台になっている。要は、ポーランドという国自体が実質的になくなってしまった悲劇の時代です。ポーランド分割というのは高校時代に世界史の授業で習いますが、この時代のポーランドの様子を描いた映画はなかなかありませんから、それだけでも貴重な作品です。 なかざわ:日本でポーランド映画というと、どうしてもアンジェイ・ワイダとか一部の巨匠の作品しか見る機会がありませんもんね。 飯森:この映画では冒頭にカトリックのお坊さんが出てきて、懺悔に来たヒロインに「あなたはものすごく綺麗で可愛いから、男たちが言い寄ってくるだろうけれど、誘惑に負けちゃだめだ」と釘を刺すわけです。つまり、彼女は誰が見ても美しい汚れなき処女で、男が隙あらば言い寄ってくるくらいの美少女というわけ。そんな彼女に、神父は「自由な性欲に身を委ねちゃダメだよ」と禁圧するわけです。ボロフチック監督って、普段ならこういうものを批判的に描こうとしますよね。自由にやったらいいじゃないかと。でもこの映画だとね、神父の言うことを聞かなかったヒロインは、実家の下宿屋に部屋を借りた胡散臭い男に惚れちゃう。こいつが、どうしようもないクズなんですよ。最初からおかしい。実は俺には妻がいる、でも妻のことはもう愛していない。離婚調停中で近々別れる予定だっていうことで、2人は出来ちゃうわけです。 なかざわ:よくあるパターンですね(笑)。 飯森:はい、つい最近もあったばかりです(笑)。で、結局やっぱり無理でしたと。妻が難条件を突きつけてきたせいで離婚が不成立になりました、って手紙を送りつけただけで姿をくらます。ゴメン、離婚はもうないから諦めてくれってことですね。すると、ヒロインは仕事も手がつかなくなっちゃって、彼を探してヨーロッパ中を追い掛け回すんですよ。つまらない喧嘩から決闘沙汰を起こして死にかけた男を病院に見舞いに行ったり、今度は詐欺か何かで逮捕された男を探してイタリアの刑務所まで行ったり。そうした過程が多言語で描かれる。普段はポーランド語、ロシア領のポーランドにいるから時々ロシア語、イタリアではイタリア語という感じで、セリフの言語も次々と変わる。これぞヨーロッパです!で、とにかくこの男をつかまえて幸せになりたいと奔走しているうちに、ヒロインはどんどん身を持ち崩していくわけです。 なかざわ:ダメだと分かっていても、どうしようもできない人間の性(さが)を描いているんでしょうね。そういう激情こそが、実は人を人たらしめるものなんじゃないですか?という。好きになったら最後っていうのは、恋愛においてよくある話ですし。こればっかりは、理性ではどうにもならない。ダメ男ばかり好きになる女性ってのも実際にいますしね。 飯森:ボロフチック映画の中において、この作品はエロというものがそこまで前面に出ておらず、一番普通の映画の装いをしているんです。主人公を駆り立てて暴走させるものも、今回は性欲ではなくて恋。あくまでも、恋に狂った女が果てしなく堕ちていくという物語になっている。 なかざわ:ボロフチックの懐の深さというか、作家としての幅広さががよく分かりますね。 <注61>1926年生まれ。ポーランドの映画監督。代表作は「灰とダイヤモンド」(’58)、「大理石の男」(’77)、「コルチャック先生」(’90)など。<注62>10世紀~19世紀初頭にかけて、現在の中央ヨーロッパの一帯に存在した国家。<注63>中世から20世紀初頭まで、中央ヨーロッパ各国の皇帝や大公などの権力者を輩出した名門貴族の家系。<注64>ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。1756年生まれ。オーストリアの作曲家。1791年没。<注65>フレデリック・ショパン。1810年生まれ。ポーランドの作曲家。男装の麗人ジョルジュ・サンドとの恋愛でも有名。1849年没。<注66>16世紀半ば~20世紀初頭まで存在した国家。現在のロシアを中心にフィンランドから極東まで支配していたが、ロシア革命で消滅した。<注67>君主が絶対的な権力を有する政治形態のこと。<注68>18世紀から20世紀初頭にかけて、現在のドイツを中心に栄えた王国。<注69>1804~1867年までオーストリアに存在したハプスブルグ家の国家。 次ページ >> 男性器でも勃起してなければモザイクなしでOK…かも?(なかざわ) 『インモラル物語』"CONTES IMMORAUX" by Walerian Borowczyk © 1974 Argos Films 『夜明けのマルジュ』©ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO.
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PROGRAM/放送作品
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
トミー・リー・ジョーンズ初監督作にしてカンヌ映画祭脚本賞受賞作。男の友情と孤独を味わい深く描く
トミー・リー・ジョーンズ初監督作品。脚本は、『アモーレス・ペロス』『21グラム』そして新作『あの日、欲望の大地で』などの深い人間ドラマで知られるギジェルモ・アリアガ。本作はカンヌで脚本賞を受賞した。
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COLUMN/コラム2016.01.30
男たちのシネマ愛③愛すべき、ボロフチック監督作品(6)
飯森:最後に、今回はせっかくこういうテーマだったので、ちょっとばかりモザイクの話をしたいと思います。まず、映画屋でありテレビ屋でもある僕は、個人的に映画館とテレビとでは倫理の基準が違って然るべきだと思っているんですが、海外ではどうなんですかね。さすがにテレビでは規制がかかりますでしょ? なかざわ:アメリカの場合で言えば、ネットワークかケーブルかによっても基準が分かれますよね。ケーブルだとモロ出しもありだと思います。 飯森:HBO【注70】とかですかね。 雑食系映画ライター なかざわひでゆき「ダン・オバノン監督『ヘルハザード/禁断の黙示録』(‘91)のドイツ盤ブルーレイを購入。日本盤未収録の特典映像&オーディオコメンタリーてんこ盛りで、まさに至福のひと時を過ごしております」 なかざわ:そうですね、あとはStarz【注71】とか、Showtime【注72】とか、いわゆるプレミアム・チャンネルですよね。ケーブルの基本契約料金に加えて、別料金を支払わないと見れないチャンネル。HBOやStarzのオリジナルドラマだと、女性のヘアや男性器のモロ出しも珍しくありません。親が番組の視聴制限を設定できる仕組みになっているようですし。 飯森:「ウォーキング・デッド」【注73】なんかも、ケーブル局だから残酷シーンの規制がないって聞きますしね。日本の場合ですと、うちも子供がいるからよく分かるんですが、簡単にチャンネルを合わせることが出来るんですよね。さんざん陰毛を映して何が悪いと言っておきながら恐縮ですけれど、我が家で子供がそうしたものを見てしまうというケースが起こり得ると想定すると、それはよろしくないなと思うわけです。 なかざわ:それは確かにその通りですね。 飯森:なので、テレビに関しては仕方がない。我が国では、たとえCS放送であったとしても、リモコンでザッピングすれば子供でも見れてしまう状況ですので。何かしらの対応策は講じなくてはならない。ただ、劇場なりパッケージ商品なり、入口できちんと観客を選別できるものに関しては、日本ももうちょっと進んでいて欲しかったなと残念には思いますね。僕が生まれた日のキネ旬で、ポルノに関して日本はあまりにも遅れていると書かれ、ボロフチックさんにも昔は春画のような素晴らしい文化があったのに酷い有様だねと苦言を呈されていて、それから40年経っても大して変わってはいない。 なかざわ:それもケースバイケースですけれどね。配給会社の姿勢にもよるとは思います。最近であれば、男性器でも勃起さえしていなければモザイクなしでOK…かも?とか(笑)。結局、基準が明確化されていないので、確実に大丈夫なのかどうかは誰もハッキリと太鼓判を押せない。だから、例えば最近だと「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」【注74】なんかはガッチガチに修正されていましたし。もう、今時こんなのアリか!?ってくらい真っ黒でした(笑)。 飯森:あれは話題作でしたから、なおさら神経を使ったんでしょうね。その昔、「黒い雪事件」【注75】という“猥褻と芸術”裁判があったのご存知ですか? 映倫【注76】の審査を通った映画が、わいせつ図画公然陳列罪【注77】で起訴されちゃったんですよ。後出しジャンケンじゃないですか!でもよく考えると、そもそも映倫って公的機関ではない。あくまでもお上とのトラブルを避けるために、これだったら問題ないんじゃないですか、映画館でお客さんに見せても大丈夫だと思いますよ、というお墨付きを与える業界団体に過ぎないんです。だから、先ほどなかざわさんが仰ったように、どこからがアウトなのかは当局の気分次第という側面があるんです。とはいえ、この40年の間にヘアヌードも解禁になったわけだし、男性器でもちょっと写っているくらいなら問題視されなくなりましたけれど。 なかざわ:実際、映画版「セックス・アンド・ザ・シティ」【注78】の日本公開バージョンでも、堂々と男性器が写っていましたからね。 飯森:なんとなく、なし崩し的にはなっているけれど、まだまだ遅れていますよね。 なかざわ:欧米の常識に比べるとですね。 飯森:レイティング【注79】の基準があるんだからいいのでは?とも思うんですけれど。 なかざわ:海外でもそれを基にして、青少年の目に触れないようになっているわけですから。 飯森:とはいえ、やはりテレビは別です。そこは視聴者の方にも理解して頂きたい。自宅に小さな子供がいることを想定すれば分かると思うんですが、簡単にアクセスできてしまいますから。今の時代、インターネットの海外ポルノサイトで何でも見れるじゃないかという声もありますが、それは大人の感覚で、Googleのエロブロックフィルター外して画像・動画検索し、そこまでたどり着ける子供はなかなかいない。テレビの場合は、少なくとも日本だと子供でも見れてしまうので、そこは一線を引かないといけない。テレビは一番保守的であって然るべきでしょうね。 (終) <注70>1972年に創設されたケーブルテレビ局。「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」や「セックス・アンド・ザ・シティ」、「ゲーム・オブ・スローンズ」などのドラマを生んでいる。<注71>1994年に設立されたケーブルテレビ局。もともとは映画専門チャンネルだが、近年は「スパルタカス」シリーズや「アウトランダー」などのドラマも放送。<注72>1976年に設立されたケーブルテレビ局。「デクスター 警察官は殺人鬼」や「Lの世界」、「HOMELAND」などの問題作ドラマを次々と放送している。<注73>2010年より米ケーブルテレビ局AMCで放送されているドラマ。ゾンビの蔓延によって文明の崩壊した世界で、僅かな生存者が決死のサバイバルを試みる。<注74>2015年製作。過激な性描写が各国で問題視された。ダコタ・ジョンソン主演。<注75>1965年に公開された日本映画「黒い雪」の関係者が警察に書類送検され、武智鉄二監督が起訴された。69年に無罪確定。<注76>映画倫理委員会。1956年に設立され、映画作品の内容を審査してレイティングを設定する日本の任意団体。<注77>わいせつな図画を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者を罰金若しくは科料に処すこと。<注78>2008年製作。同名テレビシリーズの劇場用映画版。ニューヨークに住む大人の女性4人組の恋愛とセックスを描く。<注79>映画やテレビ番組などの内容に応じて、その対象年齢の制限を設定するシステム。 『インモラル物語』"CONTES IMMORAUX" by Walerian Borowczyk © 1974 Argos Films 『夜明けのマルジュ』©ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO.
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PROGRAM/放送作品
レマゲン鉄橋
敗軍にとっては脱出路、勝軍にとっては進撃路となる“橋”をめぐる攻防戦を描く、戦争娯楽映画の傑作
『タワーリング・インフェルノ』の監督による戦争娯楽作。本作でロバート・ヴォーンが築いた“まるでドイツ軍人に見えないドイツ軍人はヒーロー”というパターンは、『ワルキューレ』のトム・クルーズにも引き継がれた。
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COLUMN/コラム2017.05.03
今ハリウッドが最も注目する映画監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴとその作品。最新作『メッセージ』に至る彼の映画とは。
※ヴィルヌーヴ監督の過去作のネタバレが含まれます。未見の方はご注意ください。 ドゥニ・ヴィルヌーヴが『メッセージ』という、変則的ではあれどポジティブなメッセージを持った映画を撮った。ただそれだけのことが大事件に思えるのが、ヴィルヌーヴという才気と野心に満ちた映画監督の作家性と言える。それほどまでにヴィルヌーヴは、強烈で、苛酷で、風変りな映画を作り続けてきたのだ。 『灼熱の魂』で自ら命を絶った母親の苛酷すぎる人生、『複製する男』の迷宮の如き精神世界、『プリズナーズ』でヒュー・ジャックマンが見せた狂気じみた暴走、『ボーダーライン』の法律などお構いなしの歪んだ正義。映画を観てスカッとしたい、ロマンチックな展開にキュンとしたい、腹を抱えて笑いたいなんて気持ちは鉄槌で粉々にされるのがオチだ。もちろんそんな目的でヴィルヌーヴ作品を選ぶ時点で、取り返しのつかない間違いを犯してしまっているわけだが。 とはいえ、ヴィルヌーヴを“わかっている”顔で語るのは危険極まりないことでもある。このカナダ人監督は、観客に解釈の余地を残すタイプの映画作家で、スト―リーを理解する上で重要な要素さえも韜晦のベールに包んでしまう。もはや“よくわからない”ことすらトレードマークになっているにも関わらず、最注目の気鋭監督としてハリウッドで受け入れられている現状は“奇跡”と呼んでいいだろう。 ではヴィルヌーヴの作品はなぜ、どこか観客を突き放したような印象を受けるのか。本人の発言を追ってみると「何度観ても考えさせられ、それでも答えがわからない『2001年宇宙の旅』が大好きだ」と言っていて、乱暴に言えば結論を提示しないオープンエンディングを好む監督ということになる。一方で「どんな題材でも観客に身近な物語として感じて欲しい」とも発言している。 過去作に当てはめてみると、精神的に極限まで追い詰められるような状況を描き、あなたにも起こることかも知れませんよと観客に物語への参加を促しつつ、「すべての答えは風の中さ」と嘯くような作風……いや、かなり歪曲しているのは承知の上ですが、当たらずとも遠からず、ではないだろうか。 もうひとつ、一般的な作劇と異なる要素として、ヴィルヌーヴの映画は主人公が一定しないケースが非常に多い。『灼熱の魂』の主人公は誰かと問われれば、2人の子供に遺書を残した母親と、その遺言によって見知らぬ兄と父を探す旅に出る子供たち、ということになる。しかし物語が終わってみると、冒頭にだけ登場した小さな刺青のある少年こそが、誰よりも重要な人物だったとわかる。 『プリズナーズ』の主人公はヒュー・ジャックマン扮する、娘を誘拐された父親だ。父親は釈放された容疑者の青年を拉致監禁して、娘の居場所を聞き出そうと苛酷な拷問にかける。しかしこの事件は、娘を想うがゆえの常軌を逸した暴力とは別のところで、別の刑事がひょっこり解決してしまう。 『プリズナーズ』はジャンルとしてミステリーの形式を取っていて、『灼熱の魂』は精神的な意味でのミステリーだ。そしてどちらの映画も、複雑に絡み合った糸を解きほぐし、ひとつの筋道にたどり着く類の作品ではない。ヴィルヌーヴの映画に明快な解はない。観終わった時に「これって誰の物語だったのだろう?」と思考を促され、検証すればするほど語られていない物の大きさに愕然とするのである。 『複製された男』は、同じ流れにありながらとんでもない変化球だ。ある大学講師が自分と瓜二つの見た目の役者が存在していることを知り、興味を持って接触しようとする。しかし役者の方が性質の悪い男で、大学講師は美しい恋人を差し出すように脅迫を受けるのだ。 単純化を試みると、『複製された男』は物語自体が「妻(もしくは恋人)には文句ないけど浮気もしてみたい!」という分裂した気持ちのメタファーである。ミもフタもない言い方だが、2人の男は分裂したひとつの人格で、劇中で描かれるストーリーは男の精神世界か妄想ということになる。われわれは見たものすべてを疑ってかからなくてはならない類の作品なのだ。 そしてやっかいなことに、随所に挿入される空撮の目線が誰なのかがよくわからない。神、と言ってしまうのは短絡的すぎる。原作小説に登場する3人目の自分なのかも知れないが、とにかくこの痴話じみた葛藤の物語を、まったく第三者の目線から見下ろしている何者かがいる。ここでも「じゃあこれは誰の物語か?」という疑問が頭をもたげてくるのだ。 前作『ボーダーライン』でヴィルヌーヴと主演のベニチオ・デル・トロは、デル・トロが演じたアレハンドロという男のセリフを9割がた削除した。このアレハンドロこそが原題でもある「SICARIO」であることが終盤で明らかになるのだが、物語の形式上の主人公はエイミー・ブラント扮するFBI捜査官ケイトであり、アレハンドロは登場する分量も少なければ、セリフに至ってはほんのわずか。しかし最も尺を割いているケイトは最後まで傍観者以上の役割を与えられない異様さが、作品のテーマにも繋がってくる仕掛けだ。 ヴィルヌーヴはアレハンドロをまるで脇役であるかのように描写し、クラマイックスで一気に主役交代を成し遂げる。得意の主人公のかく乱だ。ちなみにアレハンドロが愛する妻と娘を亡くしているという設定は実は序盤で示唆されている。メキシコの街フアレスで、車に乗っているアレハンドロの顔から町の壁に貼られている「行方不明者」の張り紙にフォーカスが移動する。共演者のジェフリー・ドノヴァンによると、その行方不明者こそがアレハンドロの妻なのだという。 この伏線に気づく観客はほとんどいないだろうし、気づくにしても2度目以上の鑑賞でなければ不可能に近い。そして気づいたとしても、アレハンドロは貼り紙に一瞥もくれていない。視界の端に入っていて、表情を押し殺して苦悶に耐えているのだ、と想像することはできるが、これも想像でしかない。こういう小さな要素を繋ぎ合わせ、自分なりの答えを探り当てることがヴィルヌーヴ作品の鑑賞法なのである。 そんなヴィルヌーヴが「ダークな作品が続いてさすがに疲れた」と言って撮った『メッセージ』も、素直にハッピーな映画などではない。謎の宇宙船が地球に現れ、未知の地球外生物の言葉を解析しようとする言語学者の物語であると同時に、大切な人を亡くした喪失感にまつわるとてもパーソナルなヒューマンドラマでもある。ただし自分の感情に折り合いをつける方法が「宇宙人の言語体系を通じて既成概念を転換させる」ことなので、やはりゴリゴリの知的SFと呼ぶべきかも知れない。 『メッセージ』の主人公は明確にヒロインのルイーズであり、珍しく単独主人公の作品になっている。が、敢えて言うとこの映画の主人公は「言語」と「概念」である。ついに人間だけでなく概念が主人公になってしまった。この概念と『スローターハウス5』との相似は映画ファンには気にならずにはいられないところだが、ヴィルヌーヴは筆者とのインタビューで「その映画は知らない」と明言したし、原作者のテッド・チャンは小説を執筆してから『スローターハウス5』を知ったというから、偶然の一致以上の答えが出ないのはいささか残念ではある。 そしてヴィルヌーヴの次回作はかの『ブレードランナー』の続編、『ブレードランナー2049』。『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングが主演を務めるだけでなく、前作からデッカード役のハリソン・フォードも再登場する。つい短絡的に「また主人公が複数いる!」と飛びつきそうになるが、そこはヴィルヌーヴ。こちらの予想など鼻で笑うような斜め上をいく怪作に仕上がることを期待したい。■ 『メッセージ』5月19日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー配給:ソニー・ピクチャーズ
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PROGRAM/放送作品
青いドレスの女
デンゼル・ワシントン主演!ロサンゼルスを舞台にしたハードボイルド・サスペンス!
私立探偵イージー・ローリンズを描くウォルター・モズレイの人気ハードボイルド小説を映画化!製作総指揮は『羊たちの沈黙』の名監督ジョナサン・デミ、ヒロインは『フラッシュ・ダンス』のジェニファー・ビールス。
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COLUMN/コラム2017.04.26
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年5月】キャロル
冒頭からキャメロン・ディアスの全裸が出てきて、かなり期待できる!・・・と思いきや、肝心のSEX自撮り撮影するシーンになると、あれ?あれあれあれ?!コトが始まる直前で、アッという間に翌朝の疲れ果てたシーンに切り替わってしまったではありませんか。・・・まだ何もヤッてないのに!そのシーンだけを楽しみに映画観てたのに!! (とまあ取り乱したものの、気を取り直して)主演のキャメロンは昔に比べて「老けたな~」と感じるものの、やっぱり明るいテンションと最強のスマイルは健在。やっぱりキャミーはかわいい!共演のジェイソン・シーゲルとも相性抜群で、二人の仲睦まじさは見ていて清々しい気さえしてきます。さらに特筆すべきはこの人、ロブ・ロウ!キャミーの上司役で出演しているのですが、この映画、どこか身に覚えのあるストーリーだったんじゃなかろうか(この方もかつて自撮りテープが流出する大失敗を経験している)。出演しているだけでギャグになるという、最高にオイシイ役どころは必見です。 ちなみに、最後の最後で、期待以上のオモシロSEX映像がちゃーんと入っていました(あ~、最後まで観てヨカッタ!)。私ったら恥ずかしげもなく社内のデスクで堂々と試写してしまったけれど、今思うと隣の席の男性上司&先輩的には大分迷惑だったかも。今更ですが、ごめんなさ~い! それにしても、あんだけ素っ裸なのにキャミーのニップルは一切見えないというのが不思議。撮影・編集マンの苦労を考えると脱帽です。ドタバタエロコメディですが、途中でグッとくる素敵なメッセージが込められていたりして、とにかく期待は裏切りません。5月のプラチナ・シネマでどうぞお楽しみに~!■ © 2014 Columbia Pictures Industries, Inc., LSC Film Corporation and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
大列車作戦
芸術は命より重いのか?第二次大戦中の事実を元に、迫力の機関車アクションで男達の活躍を描く!
『グラン・プリ』のフランケンハイマー監督とアカデミー俳優ランカスター、強力タッグの骨太アクション。音楽は『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』等多くの名曲を遺したモーリス・ジャール。
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COLUMN/コラム2017.01.14
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年2月】飯森盛良
シン・シティ1&2は短編集みたいな映画で、それぞれのエピソードはユルくつながってる。けど、時系列が映画も、原作コミックでさえもメチャクチャで、わかりづらい。そこで、時系列順で見るならこうだ!という懇切丁寧なガイドをここに発表! まず①1のブルース・ウィリス主役のエピソード前後編をセットで ↓②2のアバンタイトル、ミッキー・ロークがホームレス狩りしてる調子コイてる大学生どもをシバくくだり ↓③2のエヴァ・グリーンがファム・ファタル無双のノワールなお話 ↓④2のジョゼフ・ゴードン=レヴィット主役の前後編セット ↓⑤2ラストの、逆襲のジェシカ・アルバ ↓⑥1のミッキー・ロークが一発ヤラせてくれたマブい女の仇を討つお話 ↓⑦1のクライヴ・オーウェン主役エピソード と、いう順番なんです実は。これでもう安心ですね?2本丸ごと録画して、ぜひ2度目はこの順番で再生してみてください。当方で編集してこう流すと著作権侵害で訴えられそうなのでゴメン無理! ©2014 Maddartico Limited. All Rights Reserved.