スパイク・リーが『ブラック・クランズマン』の脚色でようやくアカデミー賞を獲得しましたが、彼には師匠がいます。『ドゥ・ザ・ライト・シング』など、スパイク・リーの映画に何本か出演している黒人の老人で、オシー・デイヴィスという俳優です。デイヴィスは、ハリウッドの黒人監督の草分けなんです。

 今回紹介するオシー・デイヴィス監督作『ロールスロイスに銀の銃』は、70年代黒人アクション映画のブームを巻き起こしたヒット作です。

 主人公は、ニューヨークの黒人街ハーレムの警察署に勤める黒人刑事コンビ、その名も墓掘りジョーンズと棺桶エド。2人は捜査が荒っぽくて、悪い奴らを地
獄に送ってしまうことも多く、そんな不吉なニックネームで呼ばれています。

 原作はチェスター・ハイムズ。アメリカ生まれの黒人作家で、若い頃、強盗で刑務所に入りますが、獄中で小説を書き始めました。自分の体験を活かした、暴力と犯罪とセックスと皮肉なジョークに満ちた世界です。

 しかし、1950年代はまだ南部で人種隔離が続いていた時代ですから、ハイムズの小説はアメリカには受け入れられませんでした。失意のハイムズはフランス
に移住し、そこでセリ・ノワール(暗黒小説)として墓掘りジョーンズと棺桶エド・シリーズを書き、ベストセラーになります。60年代にはアメリカでも公民権運動で黒人の地位が向上して、ハイムズの本も売れまして、1970年、ブラックパワーのなかで映画化された第1作が『ロールスロイスに銀の銃』です。

 タイトル通り、映画はピカピカのロールスロイスがハーレムに入ってくるところから始まります。貧しい黒人が住むハーレムに高級車ロールスロイスが入ってくれば、乗っているのはギャングのボスだろうと思うと、車を降りたのはオマリーというハンサムな牧師さんです。彼は当時盛り上がっていたアフリカ回
帰運動を掲げて、アフリカ行きの客船を買うために黒人から金を集めています。

 その金をめぐって、イタリア系のマフィアやブラックパンサーのような黒人過激派、それに墓掘りジョーンズと棺桶エドが加わってのアクションが展開します。

 タイトルの「銀の銃」は、棺桶エドが撃つコルト・パイソン357マグナムを意味します。パイソンが出た最も初期の映画ですね。相棒の墓掘りジョーンズが使うのはなんと信号銃です。これで照明弾を敵に向かって水平撃ちするのは映画史上でも珍しい戦い方ですね。

 エド(レイモン・サン・ジャック)は眼光鋭く、タフで悪への怒りに燃える男。逆にジョーンズ(ゴッドフリー・ケンブリッジ)は眠そうな目でダルそうに皮
肉なジョークばかり言ってるキャラです。だから、これは『バッドボーイズ』みたいなハードなアクションとコメディの合体によるバディ・ムービーの元祖です。『フリービーとビーン/大乱戦』(74年)よりも4年も古い画期的な映画です。

 70年代の黒人アクション映画は一般的には『黒いジャガー』(71 年)と『スイート・スイートバック』(71年)が始まりだとされますが、『ロールスロイスに銀の銃』はそれより早くヒットし、のちにブラックスプロイテーションと呼ばれるジャンルの「型」を作りました。つまり、セクシーで賢い黒人、ダサくてマヌケな白人、ファンキーな音楽とイカしたファッションとデカい車とピカピカの銃と暴力とエロです。

 オシー・デイヴィス監督はもともと俳優で、シドニー・ポラック監督の西部劇『インディアン狩り』(68年)で、デイヴィス扮する南部からの脱走奴隷が、白人のバート・ランカスターと友情で結ばれていく、これもバディ・ムービーでした。デイヴィスはハリウッド俳優として働きながら公民権運動に参加し、マルコムXの葬儀でも、キング牧師の葬儀でも弔辞を読み上げました。つまり映画と社会運動の革命家だったから、スパイク・リーからリスペクトされたんですね。

 というわけで『ブラック・クランズマン』の原点をお楽しみください!■

(文/町山智浩)

MORE★INFO.

●原作は邦訳もあるチェスター・ハイムズの“墓掘りジョーンズと棺桶エド”シリーズの第6作『ロールスロイスに銀の銃』(文庫化改題『聖者が街にやってくる』)。
●原作にはロールスロイスは登場しない。
●俳優オシー・デイヴィスの監督デビュー作。
●“ブラクスプロイテーション映画”の最初期の1本で、70年代にハリウッドで作られた黒人映画で最も興行的に成功した映画だった。
●メルバ・ムーアの歌う主題歌“Ain't Now But It's Gonna Be”の作詞もデイヴィスが担当。
●本作と同じくケンブリッジ&サン・ジャックの主演の続編『ハーレム愚連隊』(72年)もハイムズの『夜の熱気の中で』が原作。原作シリーズでは他にも『イマベルへの愛』が『レイジ・イン・ハーレム』(' 91 年)として映画化されている。

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