今回の映画は1971年の『ボーイフレンド』。主演はツィッギー。1966年にミニスカートを大ブームにしたイギリスのファッション・モデルです。“ツィッギー”とは“小枝のような”という意味で、木の枝のように痩せてがりがりなんです。そして髪の毛はショートカットでボーイッシュ。中性的な容姿が画期的でした。ツィッギーはモデルを経て女優に転身し、その主演作として作られたのがこの『ボーイフレンド』です。

監督はケン・ラッセル。僕の世代には「変態ケンちゃん」と呼ばれていました(笑)。たとえば『肉体の悪魔』(71年)は17世紀フランスで修道女たちが集団で悪魔に憑かれた事件の映画化ですが、尼さんたちがオナニーしたり浣腸されたり、ムチャクチャな内容だったり、『リストマニア』(75年)も実在のピアニスト、フランツ・リストの伝記映画なんですが、巨大なペニスがダーン! と出てくるので、日本では公開できなかったり。それで、ラ

ッセル自身が、世間からあまりにも変態だと思われてるから、そうじゃないところも見せようとしてミュージカル・ラブ・コメディの『ボーイフレンド』を撮ったそうです。だけどやっぱり……変態的な映画なんですよ(笑)!

 まず、作りがメチャクチャ複雑。もともと『ボーイフレンド』は、1953年にロンドンの舞台で上演されて、ジュリー・アンドリュースをスターにした同名のミュージカルの映画化です。そして、そのオリジナルの舞台の「ボーイフレンド」は、1926年の「ガー

ルフレンド」というミュージカルのパロディなんです。その1953年の「ボーイフレンド」を1971年に映画化するにあたって、ケン・ラッセルは、1920年代を舞台にして「ボーイフレンド」を上演する劇団の話にしたんですよ。ややこしいでしょ?

ツィッギーの役は、最初はアシスタントですが、グレンダ・ジャクソン扮する主演女優が足を怪我したので、彼女の代役を任されます。そして芝居の中で彼女と相手役をする俳優と恋に落ちてしまいます。さらに、ヒロイン以外の登場人物の想像や妄想も次々に映像化され、はっきり言って何が何だかわからない映画になっています。

 それに1920年代当時の舞台では、照明は天井からではなく、足もとからライムライト(石灰灯)で照らしていたんですが、ケン・ラッセルはリアリズムにこだわって、その照明を使っています。でも、顔を下から懐中電灯で照らしたら、どんな顔になるかわかりますよね? みんな怖い顔になっちゃってます。とはいえ、製作はハリウッド・ミュージカルの老舗、MGMです。それでラッセルは、1930年代のMGMミュージカルの伝説的振付師だったバズビー・バークレーの手法を再現しました。シンクロナイズされたダンサーの動きを俯瞰で撮影して、万華鏡のような豪華絢爛の映像を作るんです。これは見ものですよ!■

(談/町山智浩)

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●舞台の映画化権は1957年にMGMがすでに取得しており、当初の案ではドロシー・キングスリーとジョージ・ウェルズの脚本でデビー・レイノルズ主演、相手役にはデビッド・ニーブン、ドナルド・オコナーなどが検討されたが映画化には至らなかった。

●監督のラッセルは映画化に当たって、有名なミュージカル監督バスビー・バークレーのスタイルを取り入れた。

●映画デビューとなったツイッギーは、ポリー役を演じるため歌やタップを、ほぼ一から約9カ月にわたって練習したという。

●1971年のロンドンでの初公開時には110分のカット版だったが、1987年の再公開時に135分の復元完全版に戻された。

 

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