今回お勧めする映画は『五人の軍隊』です。

 いわゆる“マカロニ・ウエスタン”と呼ばれているイタリア製西部劇です。舞台はメキシコ、時代は1910年代なので、自動車が普通に出てきます。こういう映画をメキシコ革命のリーダー、ザパタの名前を取って“ザパタ・ウェスタン”と呼びます。サム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』(69年)からブームになりましたが、それをどこよりも早くパクったのが『五人の軍隊』です。

 革命側の村が5人のプロを雇って政府軍の資金強奪を依頼します。『七人の侍』(54年)に『ワイルドバンチ』の中盤の列車強奪を足した話です。

 主演はピーター・グレイブス。当時のTVシリーズ『スパイ大作戦』(66~73年)、今で言う映画「ミッション・インポッシブル」シリーズでリーダーの「フェルプス君」役で人気でした。これでもミッションのリーダー、ダッチマン役ですね。ダッチマンの4人の部下、まず、サムライ役に丹波哲郎! なぜかメキシコに流れてきた日本刀とナイフの名人。そう、『七人の侍』が原点ですから。怪力担当はバッド・スペンサー。日本では80年代のビデオブームのときに、テレンス・ヒルとのコンビで『サンドバギー、ドカンと3発』などのイタリア製アクション・コメディに主演して人気のあったコメディアンです。他には、軽業師ルイス(ニーノ・カステルヌオーボ)と、爆薬のプロ、オーガスタス(ジェームズ・デイリー)。彼はダッチマンの戦友で、『七人の侍』の加東大介の役割です。

 脚本はなんとダリオ・アルジェント! 『サスペリア』(77年)以降、血みどろ変態殺人映画の巨匠になりましたが、これは残酷じゃなくて、いい話ですよ。

 監督はドン・テイラー、ハリウッド黄金期(40〜50年代)には俳優で、監督に転向し、『五人の軍隊』のあと、『新・猿の惑星』(70年)を撮りました。そのせいかどうか、テイラー監督は出稼ぎでスペインへ行ってこの映画を監督したんですけど、撮影を完了させずに帰国しちゃったらしいんですよ。で、残りをアルジェントが演出して撮影したので、クレジットはありませんがアルジェントの非公式監督作として『五人の軍隊』はカウントされています。

 この映画でいちばんいいのは丹波さんです。でも、セリフが一言もありません。英語ができないという設定ですが、丹波さん自身は英語はできます。僕がインタビューしたときに話してくれたんですが、丹波さんは戦後GHQ(General Headquarters:連合国軍最高司令官総司令部)のための日本人通訳として働いていたんです。でも、英国映画『第七の暁』(64年)に出演したときは、実は英語が全然できなかったそうで、英国に行ってから現地の女性と付き合って彼女から英語を習ったんだそうです。「“ピロートーク”ってやつだな!」って言ってました(笑)。

 本作でセリフがないのは、セリフが覚えられなかったからだと思います。丹波さん、日本映画でも覚えない人だから。特にマカロニの場合には、セリフがギリギリに決まることが多いんですよ。脚本を書きながら進行してたりするから。けどこの映画、丹波さんを寡黙にしたことですごく良くなりましたね。最大のクライマックスは丹波さんがクレヨンしんちゃんのように走って走って走りまくるシーンです。しかも丹波さん、いつものようにモテモテです!

『五人の軍隊』は、後半の逆転に次ぐ逆転の展開も面白いし、負け犬たちの大逆転映画としても泣けますよ!

舞台はメキシコ革命期、革命軍に雇われた五人の男たちが、それぞれの特技を活かして、政府軍の現金輸送列車を襲撃するマカロニ・ウエスタン!

(談/町山智浩)

MORE★INFO

●俳優出身の監督ドン・テイラーは、ポーカー・プレイヤー役で出演もしているが、本作が最後の出演作となり、本格的に監督業に転身した。

●しかしテイラー監督は、最終的に映画を完成出来ず、ダリオ・アルジェントと『情無用のジャンゴ』(66年)の監督ジュリオ・クエスティによって完成された。イタリア版の監督はまた別で、本作や『風来坊/花と夕日とライフルと…』(70年)のプロデューサー、イタロ・ジンガレッリが完成させた。

●映画の一部は、同時期に撮影されていたセルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』(69年)のセットを流用している。

●1981年にインドで『Adima Changala』としてリメイクされている(日本には未輸入)。

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