苅田梨都子 連載:WORD-ROBE file10「私に影響を与えた寒色の室内とルイーズ」

FEATURES 苅田梨都子
苅田梨都子 連載:WORD-ROBE file10「私に影響を与えた寒色の室内とルイーズ」

目次[非表示]

  1. 自分と相手の生き方
  2. 映像のひんやりとしたトーン
  3. 洗練されたインテリア・ファッション・デザイン
  4. ルイーズ・Louise
 フィルターにほんのり薄く水色掛かったような、仄明るい早朝の景色からスロウに始まる。静寂な街並みに走る車の音、カラスの鳴き声、白にうっすら紫が混ざったような色味の無機質なビルが立ち並ぶ。窓やドアはビビッドな青色で縁取られており、印象に残る。
 カメラがゆっくり移動しながら本作は始まる。エリック・ロメール『満月の夜』は“喜劇と格言劇”シリーズの第4作目である。このシリーズは始めに本作にまつわる格言が掲げられる。私は“喜劇と格言劇”シリーズが大好きで、幾つかを繰り返し観ている。

 本作の格言は、“二人の妻を持つ者は心をなくし 二つの家を持つ者は分別をなくす”。

自分と相手の生き方

 11月から2月にかけての冬のお話。ベランダで筋トレをしている男性レミの姿がチラリと映る。彼は休日にはテニスを趣味とし、自己管理ができ生活が整っている印象を持った。

 女性は若草色の受話器を手に取り、妻子持ちの男性オクターヴに電話をかける。ロングヘアにソバージュ、シフォンのリボンを髪に巻いたルイーズが今回の主人公だ。ルイーズは郊外とパリに2つ部屋を持ち、複数の男性と会っていく。
 主人公のルイーズは恋人であるレミと郊外で同棲している。ルイーズを演じる俳優パスカル・オジエの声は優しくて可愛らしい。フランス語との相性もばっちり。彼女の声をずっと聴いていたいと思えるほど心地良い声をしている。そんな彼女のことが気になり調べたところ、たまたまと思うが誕生日を迎える前日に亡くなっていた。『満月の夜』公開から数ヶ月後、25歳の若さで急逝。よって本作が彼女にとって遺作となる。
 ルイーズはレミにこんな話を打ち明ける。「別の男に恋すると前の男を忘れる。私に欠けているのは孤独の体験なの。孤独の苦しみよ。」私を愛しすぎる男に対して飽き飽きし、束縛を嫌う。同棲しているレミはルイーズの心配をしている。電話で約束したことを聞いても曖昧な返事。レミは「君は帰りが毎晩遅くなる、会う暇もない。」と言う。別の男とは会う時間があり、カーキのプラスチック製の網カゴを携えながら反論するルイーズ。レミの話を真面目に聞かず、解決しないまま部屋を出て行く。電車で移動し、街へ急ぐ。赤いマフラーを身に纏う。学校帰りに先ほど電話したオクターヴと落ち合う。パリの家で分厚いコートを脱ぐ。その中に着ているイージーでラフなファッションスタイルに私は魅了されてしまった。

「満月の夜」
©1984 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 物語は進み、ルイーズは3人ほどの男性と駆け引きをする。本当に好きなのだとは思えないけれど、男性を翻弄するのが得意なようだ。後半、ある男と寝たが夜中に男を置いてきぼりにしたまま着替え、一人外に出ていく。少し歩いたところにカフェを見つけ入店する。奥の席に座り、隣には絵を書いている男性が。彼はチラチラとルイーズを見てすぐに「お好きなのは?」と話しかける。彼は絵本作家で子供の夢をインスピレーションとして描いているそうだ。「寝てない?」と話しかけ、昨晩の満月のせいで誰も眠れなかった話をする。満月は私たちの睡眠を妨げる。
 ルイーズは今、レミに会いたくなって始発を待っているところ。帰宅して彼を驚かせようとするも不在。彼を待つ間にソファで眠るルイーズ。目を覚ますとレミの姿が。自信に満ち溢れたルイーズだが、レミの話を聞くと自分が一番ではないことに気づき涙を流す。

 満月の夜に起こった一瞬の心の煌めきは、ルイーズが気づいた時には既に遅かった。レミは最初からずっとルイーズに向き合おうとしていた。相手のことをおざなりにしておいて、そんな自分のことをずっと選んでくれるはずはない。そんなことを頭の片隅に置きつつもこの生き方を選んだのも自分自身。表面的な関係はやはり相手に伝わるもので、いつまでも側に居てくれる人なんて居ない。自由な恋愛を謳歌するルイーズはどうしたら涙を流さずに居られたのだろうか。

 冒頭に掲げられた格言“二人の妻を持つ者は心をなくし 二つの家を持つ者は分別をなくす”は、ことわざでいう“二兎追うものは一兎も得ず”的な意味だろうと私は捉える。

映像のひんやりとしたトーン

 ストーリーだけ見ると賛否両論ありそうであるが、私は『満月の夜』の映像の温度が好きだ。全体的に寒色系のひんやりしたトーンを感じる。繊細で静謐なトーンは身体に自然と染み込むように心地良く感じた。私が普段、写真撮影をする時はひんやりと感じるような色設定や編集を好む。初めて鑑賞した際、「私のための映画なのかもしれない」と強く感じた。
 エリック・ロメールは好きな監督の一人。連載でも幾度か書いているようにロメールを特別贔屓しているのでは、と密かに感じていた。ある日、北千住にある私の大好きな映画館、シネマブルースタジオ。そこで上映していた35mmフィルムのダニエル・シュミット『書かれた顔』を観た際に、キャプションにロメールの『満月の夜』の撮影も担当したレナート・ベルタと記載してあったのだ。そういえば同じくダニエル・シュミットの『ヘカテ』も映画全体の色合いや空気感も大好きだとピンときた。ロメールと同様にシュミットの虜になっていたところ、こんな繋がりがあるなんて、と私が惹かれる理由がわかったような気がした。

洗練されたインテリア・ファッション・デザイン

「満月の夜」
©1984 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 エリック・ロメール映画の醍醐味の一つとして室内・インテリアがお洒落であること。ミルキーブルーの壁紙、ガラスの花瓶にさっと生けた白い花々、特徴のあるイエローのライト。シンプルながらも個性的でセンスを感じるインテリアだ。また驚くことに主人公のルイーズを務めたパスカル・オジエは本作の美術も担当し、部屋のインテリア・衣装を手掛けた。
 本作を観進めていくと、ルイーズは劇中でさまざまな衣装に着替えながらも黒色の服しか身に纏っていないことに気づく。黒い立派なコート、ツナギのような部屋着、ショルダーにファスナーがアクセントとなったドレス。何もかも黒色だ。さまざまな男性を翻弄させる姿はどこか黒猫のような雰囲気も醸し出ていた。

 さらに気になったのはマフラーの色と数。赤、青、ピンク、紫。と毎度出掛けるたびに異なる色のマフラーを身に纏っている。コートや内側の服の色はブラックと抑えめだが、ヘアに纏った水色のシフォンリボン、マフラーの派手なカラーバリエーション。網かごバッグも同型で二色以上登場する。ルイーズは男性以外にも何かを収集する習性があるのだろうか?そうだとしたら同じくエリック・ロメール作品の『コレクションする女』もルイーズに通ずる内容である。機会があればこちらも鑑賞してみてほしい。

ルイーズ・Louise

「満月の夜」
©1984 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 最後に、私はこの映画から影響を受け、仕事にもリスペクトの意味を込めて反映した部分があるので綴っていく。

 私は『ritsuko karita』というファッションブランドのデザイナーをしており、幾つかライン名がある。2021年の秋冬に発表したコレクションの中に“Louise ルイーズ”と名付けた室内着のラインが存在する。ルーズ、ゆったりとしたという意味も含め、名付けた。そう、私は『満月の夜』からインスピレーションを受けたのだ。主人公のルイーズのようにゆったりと過ごし、自分のスタイルを確率している姿と名前の可愛らしさに何故かピンと来たのだ。

 室内着でもあるし、そのまま外出しても良い。好きなように着て欲しいし、外出着よりも沢山着るという設定。発表時期もルーズで気まぐれに作っていく。

 少しだらしない主人公ルイーズであるが、良く言えば素直に好きに向き合っているのかもしれないとも思えた。真面目に生きすぎて疲れてしまったら、時にはルイーズのように正しさよりも好きな気持ちの線路に乗っかってみるのも良いのでは。

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この記事のライター

苅田梨都子
苅田梨都子
1993年岐阜県生まれ。

和裁士である母の影響で幼少期から手芸が趣味となる。

バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科在学中から自身のブランド活動を始める。

卒業後、本格的に始動。台東デザイナーズビレッジを経て2020年にブランド名を改める。
現在は自身の名を掲げたritsuko karitaとして活動している。

最近好きな映画監督はエリック・ロメール、濱口竜介、ロベール・ブレッソン、ハル・ハートリー、ギヨーム・ブラック、小津安二郎。

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