ザ・シネマメンバーズが考える「クラシックス」とは?

LETTERS ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
ザ・シネマメンバーズが考える「クラシックス」とは?

目次[非表示]

  1. 『ミツバチのささやき』
  2. 『恋する惑星』
  3. 『友だちのうちはどこ?』
  4. 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
  5. 『アニエスによるヴァルダ』
  6. 『パリ、テキサス』
 ザ・シネマメンバーズでは、毎月作品をセレクトし、ラインナップしていますが、あらゆる映画にアクセス可能になっている現在、それをどんな文脈で捉えて、観るのか―。かつて音楽において、過去の膨大なアーカイヴから独自の解釈や視点でピックアップされたレコードがレアグルーヴ、◯◯クラシックスと呼ばれたように、ミニシアター系サブスクとしてのザ・シネマメンバーズの独自のクラシックスとは何か?そんなことを考え続けています。

 2020年4月にレトロスペクティブ:エリック・ロメールとともにサービスをリニューアルして1年半が経ちました。これまで、台湾青春映画を「ヤング・ソウル・レベルズを探して―」と題して俯瞰したり、ホン・サンス監督作品をただ並べるのではなく、「キム・ミニ以前/以後」としてお届けしたり、はたまた、『悪魔のいけにえ』、『ラ・ジュテ』、『ピクニック』を並べて「リアリズムとは何か?」としてみたり。(←これはあまり賛同されなかったようです。)監督でくくるだけではない視点や解釈で取り上げることも続けてまいりました。

 そんななか、もう一度、今度は既存の特集を横断して、セレクトし直そうと思いました。特集自体のラインナップは、月を追うごとに下へ行ってしまうので、是非観て頂きたいという作品が埋もれてしまうからです。今回、配信期間が終わりそうな作品も含め、ザ・シネマメンバーズが実現したかった並びを確認し直すために、ザ・シネマメンバーズクラシックスとして、「これこそ私たちのクラシックス!」と言える、“サービスの顔”を表現する作品群を再度まとめました。一度観た作品でもこの機会に観なおして楽しんでいただけたら幸いです。以下、LETTERSで書いてきたことと重複しますが、作品に関する簡単なコメントを画像とともにお届けします。

『ミツバチのささやき』

「ミツバチのささやき」© 2005 Video Mercury Films S.A.

 フランケンシュタインというモチーフを、兵士と少女とをつなぐ重要なキーとしてこんな形で物語に取り入れるとは!という驚き。そして丁寧なクローズアップを交えながらも無駄にカットを割らないクラシカルな撮り方にしびれる。母親が自転車に乗って駅へ行くシーンは、何度見ても鳥肌が立つ。曲がりくねった道をやってきて、自転車から降りた彼女がそのままホームへと歩いていくと、画面の奥から列車がやってくる。まるでリュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』のように。強烈に「映画」を感じるこの場面を見るためだけにでも再見の価値はある。

『恋する惑星』

「恋する惑星」©1994, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

 登場する人物は皆、どこかストイックで孤独だ。自分だけのルールで行動し、自分の世界に住んでいる。その“恋する惑星”同士は、それぞれの周回軌道を変えることはできず、どうやらお互いを意識しながらもすれ違うらしい。描かれるのは、出会いと恋と予感だ。しかし、観客はそれが成就する光景は見せてもらえず、予感と余韻だけを残して映画は終わっていく。それでも『恋する惑星』は、砂糖菓子のような甘いじれったさを超えて、まるでドキドキする未来の予感が自分にもあるかのような気分でエンディングロールを体験してしまうことにこの作品の不思議な魅力があるように思う。その時代、その時の衝動で突き動かされるようにして取り組むことでしか実現しえないものがこの作品には宿っている。

『友だちのうちはどこ?』

「友だちのうちはどこ?」© 1987 KANOON

 絶対に宿題をやらなくちゃ。そんな切羽詰まった状況のなか、間違えて持ってきてしまった友だちのノートを返す。そんな“お話”をこんなにも魅力的な映画にしてしまう、魔法がかかっているような作品。ある村を訪れ、村人を起用し、その場所でフィクションを立ち上げて、そこに生きている人々に「物語=映画」の一部になってもらう。映画のためにフィクションとしてそこに起こす出来事をカメラで記録するという非常にシンプルかつ映画の原点的なことに基づいているのだが、実際には、そこに必然性がないとその動き、その表情が出てこない素人を起用し、必然性自体はフィクションのために現実の方で仕込むという、複数のトリックが組み合わさって出来ていることにキアロスタミの独自性があるのだろう。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」©1984 Cinesthesia Productions Inc.

 世の中には様々な金字塔があり、それによってスタイルに影響を受ける人々が続出するという現象が起こる。例えばそれはゴダールなのかもしれないし、ローリング・ストーンズなのかもしれないし、はたまたフリッパーズ・ギターなのかもしれない。この作品は、何も起こらない、フラットな表情、静かにシンプルに撮るといったことで、監督だけでなく俳優や一般の若者にも影響を与え、スタイルのフォロワーを生んだように思う。自分独自の世界とルールを持ち、相手に興味を持ちながらも淡々としているというあの感じは、つい真似してみたくなるものなのかも。ジャームッシュ自体はオフビートコメディ的なことでやっているのだと思うのだけれども。ジャームッシュに関しては、LETTERSの「ジム・ジャームッシュからつながるカルチャー・ツリー」は、他にはない記事になっていると思うので是非。

『アニエスによるヴァルダ』

「アニエスによるヴァルダ」© 2019 Cine Tamaris – Arte France – HBB26 – Scarlett Production – MK2 films

 アニエス・ヴァルダの遺作にして入門作。ヴァルダの取扱説明書のような本作は、その柔らかなイメージとは裏腹に、ハードコアなアーティストである彼女の考え方、核となっているものに触れられる。暮らしの中で見つけたこと、興味をひかれたこと、思い出したこと―。そんなささやかな断片が、アニエス・ヴァルダの手にかかると、途端に輝き出す。映画だけでなく、写真、インスタレーションと、様々な表現の場での彼女の尽きることのない創作への情熱と人への好奇心に触れたら、そのほかのドキュメンタリー作品も是非観てほしい。

『パリ、テキサス』

「パリ、テキサス」© 1984 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH
ARGOS FILMS S.A. and CHRIS SIEVERNICH
PRO-JECT FILMPRODUKTION IM FILMVERLAG DER AUTOREN GMBH & CO. KG

「アメリカなるもの」を描いた映画。自分が今の時代にはそぐわない、幸せにはなれない人間であることを受け入れ、失われた家族を再生し、去っていく男の物語。この映画を象徴する一節
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その時初めて遠くへ行きたいと思った
誰も自分を知らぬ深く広い所
言葉もない所 
通りの名もない 
町の名もない所に
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は、U2の「Where the street have no name」にリンクするものだというのはやはり考え過ぎなのだろうか?

今後も「ザ・シネマメンバーズの独自のクラシックスとは何か。」を考え続けていきたいと思います。

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この記事のライター

ザ・シネマメンバーズ 榎本  豊
ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
レトロスペクティブ:エリック・ロメールを皮切りにした2020年4月のザ・シネマメンバーズのリニューアルローンチから、ザ・シネマメンバーズにおける作品選定、キュレーションを担当。動画やチラシその他、宣伝物のクリエイティブなども手掛ける。

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