なかざわ:「世界殺人公社」は本当に面白い!今だったらマシュー・ヴォーン監督(注17)が喜んで撮りそうな映画ですよね。

飯森:(マシュー・ヴォーン監督作品の)「キングスメン」(注18)ですか。あとは「ルパン三世」。「世界殺人公社」は完全にルパンの世界ですよ。主演はオリバー・リード(注19)。これがムキムキというか、ゴリラみたいな男で。

なかざわ:なんたって狼男ですし(注20)。

飯森:そんな野蛮人みたいな顔した男が、とある企業の創業二代目の若社長なんですよね。で、その企業というのが“世界殺人公社”で、ずばり殺人を請け負っている。で、そんなけしからん企業があるらしいってことを、元ボンド・ガールのダイアナ・リッグ(注21)ふんする女性新聞記者が嗅ぎつけ、潜入取材することとなるわけです。オリバー・リードふんする若社長が一応お坊ちゃんという設定なので、蝶ネクタイとかしているんだけど、これがちっとも似合っていない(笑)。

なかざわ:だいたい、あの当時のオリバー・リードは二枚目の路線で売っていましたけど、今見るとおかしいですよね。

飯森:オリバー・リードとか、バート・レイノルズ(注22)とかが二枚目でいけたというのが、あの時代らしいというか、全てにおいて間違っていますよね(笑)。僕は大好きですけど。

なかざわ:若いころの勝新太郎が白塗りで二枚目をやっていたのと似ているかも。

飯森:若いころの勝新は二枚目ですけど、こいつは言い訳のしようがない。なんたって、顔がゴリラですから。それがピシッと夜会服を着てダイアナ・リッグを出迎えるわけですけど、彼女から「もし私があなたのことを殺してくれと頼んだらどうするの?」と問われて、「いいですよと」引き受けちゃう。会社の役員会に持っていきますからってことになるんだけど、役員会の連中も全員殺し屋なんですよね。そこで、若社長が「お前らみんなで俺を殺しに来い、もちろん俺も反撃するよ」ってな感じで、役員会と社長が殺し合うわけです。そもそも世界殺人公社の創業理念というのは、悪い奴を殺す代わりにお金をいただきますということで、世直しをするための会社だったのが、だんだんと役員会が金もうけに傾いていってしまった。だから、二代目としては一回リセットボタンを押すという目論見もある。そこで、ヨーロッパ各地を転々としながら、常務だとか専務だとかをぶっ殺していく…というコメディーなわけです。まさにルパンのファーストシリーズの匂いですよ。

なかざわ:殺しを請け負う彼らの仕事と、第一次世界大戦になだれ込んでいく時代の世界情勢が、ほのかにリンクしているところも面白い。舞台となる20世紀初頭の社会背景をうまく取り込んでいますよね。

飯森:国名は架空ですけど、いわゆるサラエボ事件を題材にしたような暗殺事件も出てきますし。歴史好きの人間はワクワクしちゃうかもしれませんね。

なかざわ:実際にこういう組織が存在して、世界の政治を裏で操っているかもしれないという、観客の想像力を刺激するところがある。

飯森:そこもルパンぽいでしょ。スコーピオン(注23)みたいな。それに、サラエボ事件が元ネタだと分かる人は、ほかのこともいろいろと分かると思うんです。例えば音楽だったりとか、各国のお国柄の違いだったりとか、ファッションだったりとか。あとは美術デザインがアールヌーヴォー(注24)っぽくていいですね。

なかざわ:タイトルロールからしておしゃれじゃないですか。ああいうセンスって今ではなかなか再現できない。’60年代ならではの洒脱ですよね。それから、確かイタリアのベネチアで登場しましたっけ、旦那を殺しちゃうイタリア支部長の奥さん。

飯森:あれはいい女でしたね。

なかざわ:アナベラ・インコントレッラ(注25)っていう、ヴィットリオ・デ・シーカの映画にも出ている女優さんです。

飯森:ちゃんとした女優さんなんですね。

なかざわはい、ちゃんとしたセクシー女優です(笑)。恐らく、日本でも中高年世代にはファンが少なくないはず。マカロニ・ウエスタンのヒロインも結構やっていますし。彼女がまたエレガントで素敵なんですよね。

飯森:まさしく、ルパンに色仕掛けをして一服盛ってやろうとするような女。本当にルパンっぽい要素がいっぱいですよね。

なかざわ:あとはダイアナ・リッグもカワイイ。彼女って、パッと見はジュリー・アンドリュース(注26)にも似ているんだけれど、ジュリーが淑女しか演じられないのに対し、彼女は淑女も悪女もイケる。ちょうど今は「ゲーム・オブ・スローンズ」(注27)にも出ていて、息の長い女優さんですけれど、この「世界殺人公社」の彼女は抜群にコケティッシュでセクシーです。

飯森:今で言うツンデレですよ。当時はそんな概念なかったはずですけど。フェミニストの闘士としてオリバー・リードふんする若社長に接近したはずが、だんだんと弱いところを見せるようになって、最後はルパン助けて~みたいな状況に陥る。だから、世界観や音楽などを含めてファースト・ルパンをカッコイイと崇める層っていると思うんですけれど、そこに完全にハマる作品だと思うんですよ。

注17:1971年生まれ。監督。代表作は「キック・アス」シリーズなど。
注18:2014年製作。国際的な秘密諜報機関キングスメンの凄腕スパイと新人スパイの活躍を描く。コリン・ファース主演。
注19:1938年生まれ。俳優。代表作は「オリバー!」(’68)や「トミー」(’75)など。1999年死去。
注20:出世作が「吸血狼男」(’61)の狼男役だった。
注21:1938年生まれ。女優。代表作は「女王陛下の007」(’69)など。元ボンドガールで唯一、英国王室から大英帝国勲章を授与されている。
注22:1936年生まれ。俳優。代表作は「白熱」(’73)、「トランザム7000」(’77)など。70年代を代表する男性セックスシンボル。
注23:「ルパン三世」TVシリーズにたびたび登場する犯罪組織。コミッショナーはミスターX。
注24:19世紀末から20世紀初頭にヨーロッパで流行った美術様式。植物や花などの有機的なモチーフをデザインに用いる。
注25:1943年生まれ。女優。代表作は「西部決闘史」(’72)や「旅路」(’74)など。
注26:1935年生まれ。女優。代表作は「メリー・ポピンズ」(’64)に「サウンド・オブ・ミュージック」(’65)。
注27:2011年より放送中の大作テレビシリーズ。歴史劇とファンタジーを融合し、エミー賞作品賞など多数受賞。ダイアナ・リッグはシーズン3より出演中。

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