ジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」へのオマージュとして知られ、ホラーとコメディとラブストーリーのミックスを試みた映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」。ゾンビ映画好きならご存知の方も多いでしょう。今回紹介させていただくのは、その監督である”映画オタク”エドガー・ライトの2010年の作品。物語の舞台はまだ雪が残るトロント。どこか冴えないバンドのベースを務めるスコット・ピルグリムはゲイの同居人や年下の彼女らと共に、バンド同様冴えない生活を送っていた。しかし、ある日パーティーで出会った(その前に夢の中で会っている)ラモーナに一目惚れをしてから、彼の生活は良くも悪くも激変していく…
主演はマイケル・セラ。カナダの若手俳優で、出演作「JUNO/ジュノ」はまだ記憶に新しい。そして彼の同居人役のキーラン・カルキン。カルキンと聞いてあのいたずらっ子を思い浮かべる人も多いと思いますが、その通りマコーレー・カルキンの弟でございます。彼ら二人の台詞の掛け合いも見所の一つ。他にも「キャプテン・アメリカ」のクリス・エヴァンス、アカデミー賞助演女優賞にノミネート経験のあるアナ・ケンドリック、ウェス・アンダーソン作品常連メンバーのジェイソン・シュワルツマンといったそうそうたる面々が名をつらね、日本ではお馴染みの斉藤慶太・祥太も邪悪な元カレ軍団の一員として出演している。冒頭からエドガー節が炸裂します。デジタル化したユニバーサルのロゴ、RPGを思わせるナレーション、軽快なSE(サウンド・エフェクト)によって観客たちをゲームの世界に誘う。どこかで聞いたことのあるゲーム音楽(ゼルダの伝説)、ゲームのステージを連想させる展開、ストリートファイターや鉄拳を彷彿とさせるファイトシーン、ライフゲージ等の演出は観る者にあたかも自らが仮想現実の世界にいるような錯覚をも起こさせる。またこの映画には他にも様々な要素が詰まっています。バックに笑い声が入るホームドラマのようなシーンがあったり、ボリウッドを思わせるダンスシーンがあったり、原作が漫画なこともあり擬音文字が宙を舞ったり。それでいてリアルなところはリアル。過度な演出とリアル、そのギャップがまた僕らを夢中にさせます。前述したように、主人公はバンドマン。そのせいもあってかこの映画は音楽が非常に豪華。レディオヘッドのプロデューサーとしても名高いナイジェル・ゴドリッチを音楽監督に迎え、ブロークン・ソーシャル・シーン、ローリング・ストーンズ、T・レックスらが楽曲を提供、主人公のバンド「Sex Bob-omb」が演奏する曲はベックが作詞作曲している。是非音楽にも”注耳”したい。やりすぎ感がたまらない。いかにもエドガー・ライトな作品ではないでしょうか。この作品、1回観ただけでは味わいきれない面白さがあります。何度も観てほしいです。毎回新しい気付きがあるでしょう。マイケルの可愛いTシャツには注目です。

©2010 Universal Studios. All Rights Reserved