クセがスゴい!?ホン・サンスは「韓国のエリック・ロメール」なのか??

LETTERS ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
クセがスゴい!?ホン・サンスは「韓国のエリック・ロメール」なのか??
選択肢が超少ないサブスク!?ザ・シネマメンバーズでは、かねてより期待を寄せられていた、ホン・サンス監督作品を8作品、9月から順次配信開始。

目次[非表示]

  1. 作風の変化を楽しむ
  2. 以前/以後
  3. ターニングポイント
  4. 戸惑いも楽しむ
  5. 「!?」を感じること

作風の変化を楽しむ

 男女の恋愛模様を、会話を中心とした演出で少人数のロケによって描く作風で、エリック・ロメールを引き合いに出して語られることの多いホン・サンス監督。しかし、ザ・シネマメンバーズでは、特集名にあえて、「韓国のエリック・ロメール!?」と、「!?」を付けて、本当にロメールのようなのかどうかを問いたい。観て、あなたなりに確かめてほしいのです。

 ホン・サンスは、クセが強い映画作家です。人によっては、観て、どう自分の中で消化したらいいのか判らない作品がいくつもあるかもしれません。今回、ザ・シネマメンバーズでお届けするのは、2010s初頭の4作品と、キム・ミニをヒロインにした近年の4作品の計8作品です。何本か観て、もし万が一、自分にはイマイチ合わないと思っても、是非、8作品全てをご覧いただければと思います。 なぜならば、この8作品の中で、作風に大きな変化があり、その変遷を観ていくことがホン・サンス作品の楽しみ方になるからです。

「よく知りもしないくせに」

以前/以後

 ザ・シネマメンバーズで今回配信するのは、「キム・ミニ以前/キム・ミニ以後」ともいうべき8作品。映画監督の男性が主人公で、アウトサイダー的に訪れた場所での出会いや不和が、ときに映画への哲学を織り交ぜながら描かれる、「キム・ミニ以前」4作(「よく知りもしないくせに」、「ハハハ」、「教授とわたし、そして映画」、「次の朝は他人」)。そして、不倫が報じられ、公私にわたるパートナーとなっている女優キム・ミニとの関係自体を描いているかのような「キム・ミニ以後」4作(「正しい日 間違えた日」、「夜の浜辺でひとり」、「クレアのカメラ」、「それから」)。どの作品にも共通するのが、まるで私小説のような、ホン・サンス自身の人生の投影です。

 作風も、「キム・ミニ以前」4作では、主人公の男性によるナレーション、あくまでも男性中心に進んでいく会話や物語など、どこか女性が存在として軽んじられているようなところを感じるかもしれないのですが、「キム・ミニ以後」4作では、ホン・サンスとキム・ミニの二人が出会った最初の作品「正しい日 間違えた日」の後半を境に明確に変化します。この、コインの裏表のような構造になっている作品の後半から、男性のナレーションは消え、その後の作品からも使われなくなります。ヒロイン:キム・ミニを描くようになっていくのです。

ターニングポイント

 「正しい日 間違えた日」においてはっきりと感じるのは、「キム・ミニ以前」4作と同じような撮り方をされているのに、圧倒的にホン・サンスがキム・ミニに惹かれ、キム・ミニを見ていることが画面から伝わってくることです。そしてこの作品を境に、男性の主人公ではなく、キム・ミニをヒロインにした作品が作られていきますが、セリフにも変化があります。

 劇中では、酒を酌み交わすシーンが多用されますが、女性が男性に「先輩は男の中の男ですね。」「立派です。」と言う場面が「キム・ミニ以前」のどの作品でも見られ、会話の中心にいるのは男性だったのに対し、キム・ミニがヒロインになると、「ハンサムな男は偉そうよ」「男ってバカみたい」とキム・ミニは言うのです。お酒の場でも、会話の中心が異なってきます。

「夜の浜辺でひとり」

戸惑いも楽しむ

 ゆるんだ構図、こだわりのない風景と色彩、特徴的なズームなど、観る人によっては、大きな戸惑いをもたらす、ドキュメンタリービデオのような生っぽい撮り方などの手法が徐々に洗練され変わっていくところも8作品を通して観ていくことで、より鮮明に感じるでしょう。例えば「キム・ミニ以前」を何本か観るだけでは、その”クセの強さ”に違和感を感じる人もいるかも知れません。

 また、白黒の作品で、構図や色彩の違和感が軽くなるように感じることも無視できません。色彩の問題を白黒にすることで解決するかのように、例えば、「次の朝は他人」は、ほどよく締まった画面、構図すらしっかりしてきていると感じ、心地よく観ることができるでしょう。

「次の朝は他人」

 そして、「キム・ミニ以降」4作になると、彼女の醸し出す独特の雰囲気のせいなのか、はたまた、ホン・サンスの彼女に対する視線の投影のせいなのか、構図の緩みも少ないように見えてしまいます。色彩に関しても気を遣われていると感じます。そして、「それから」において、再び白黒の作品となります。本作に至っては、白黒であることによって、透明感と美しさまで手に入れて、新たな段階まで到達したと言えるでしょう。

「それから」

 映画において、構図や色彩が全てなのか?というと、そうではないのですが、「見ること」「視線」ということにおいては、どんな風に「見て」、スクリーンの四角に切り取るのか、それはどんな色彩なのか、は、無視はできないわけです。これらの8作品を観ていくと、その変化、転換点、白黒作品の要素は楽しみのポイントになりそうです。

「!?」を感じること

 「キム・ミニ以前/キム・ミニ以後」のホン・サンス8作品をエリック・ロメール9作品と見比べるように鑑賞する贅沢。それができるのがザ・シネマメンバーズです。

 「なるほど、ある意味ロメールだ」と思うかもしれないし、「全然ロメールとはちがうじゃないか。」と思うかもしれません。さらには、「全く良さがわからない」ということもあるかもしれません。そういう時には遠慮なく感想を声に出しましょう。間違いなどないのだから。


「よく知りもしないくせに」© 2009 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.「次の朝は他人」© 2011 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.「夜の浜辺でひとり」© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.「それから」© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

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この記事のライター

ザ・シネマメンバーズ 榎本  豊
ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
レトロスペクティブ:エリック・ロメールを皮切りにした2020年4月のザ・シネマメンバーズのリニューアルローンチから、ザ・シネマメンバーズにおける作品選定、キュレーションを担当。動画やチラシその他、宣伝物のクリエイティブなども手掛ける。

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