寒い冬を過ごすための暖かな3本の映画「コロンバス」「オリ・マキの人生で最も幸せな日」「サマーフィーリング」

LETTERS ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
寒い冬を過ごすための暖かな3本の映画「コロンバス」「オリ・マキの人生で最も幸せな日」「サマーフィーリング」

目次[非表示]

  1. コロンバス
  2. オリ・マキの人生で最も幸せな日
  3. サマーフィーリング
 ミニシアター系の作品で、大手配信サービスにはない、あってもレンタル!ということ、ありませんか?ザ・シネマメンバーズで、2月に新たに配信開始されるのは、「コロンバス」「オリ・マキの人生で最も幸せな日」「サマーフィーリング」の3本。

 いずれも人生の中で立ち止まり、そしてまた歩き出す。そんなことが描かれている映画。あたたかい飲み物を用意して、やさしい時間を過ごそう。

コロンバス

 インディアナ州コロンバス。日本人にはあまりなじみのないこの街は、全米で有数の建築の街で、世界的に有名な建築物、屋外アートが70箇所もあるという。映画「コロンバス」は、この様々な有名建築物を舞台に、日常がつづられる。エドワード・ホッパーの絵のようなアメリカの風景の中で、主人公のケイシーは、家族と居ることを優先し、新しい世界へと旅立つことを遠ざけながら毎日を過ごしている。

 ケイシーからのもらいタバコがきっかけで出会う男性ジンは、父親の病状の悪化を受けてこの街にやってきた。父の最期を看取るという義務で、彼もある意味、人生でスタックしてしまっている。ケイシーとジンは、街に点在する建築物について語り合いながら、お互いの理解を深めていく。

コロンバス

 物語は時折、ミスリードを誘うかのようなカットによって二人の関係性を友情や優しさ以上のものへといざなってゆく。“その人のために余白を空けておく”という気持ち。それは、モダニズムの建築思想にも通底するものなのかもしれない。この映画において、触れそうで触れない感情や関係の余白のようなものは、映画を構成している、輪郭を強く意識した空間の切り取り方と同様に徹底されているように思える。それらは映画のサウンドトラックと相まって、独特の陶酔感を作り出す。静かで穏やかな、瞑想しているような気分にさせられる映画だ。

オリ・マキの人生で最も幸せな日

オリ・マキの人生で最も幸せな日

 ジム・ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」を彷彿とさせるようなBGMとともに映画は始まる。オフビートなコミカルさをたたえながらもカメラはオリ・マキのボクサーとしての日々を淡々と映していく。プロモーターの思惑、スポンサーのパーティー、一向に進まない減量と、とりとめもない毎日が続く。会話やシーンのリズム感には、同じフィンランドの監督、アキ&ミカ・カウリスマキの作品のようなニヒルさも感じるのは、お国柄だろうか。

 ボクサー人生のクライマックスともいうべき一大イベントを目前にしても、自分のやり方がブレることのないオリ・マキ。恋人のライヤも、自分の気持ちとその先の選択についての芯の通った考えがある。そして映画は、人生で最も幸せな日に向かって進んでいく。立ち往生しそうな出来事があったってどこ吹く風、一番大切な人と歩いていくオリ・マキの清々しい後ろ姿に胸を打たれる。

サマーフィーリング

 物語は唐突に転がりだし、そして停滞する。日々の暮らしを積み重ね、時間をかけて喪失から立ち直っていく。あいまいな恋心にも似た優しさと交錯する視線。「もしかして…」という観客の淡い期待や予感は、静かに積み重ねられていく生活と感情の揺れによってことごとく保留される。

 夏という季節に起きた出来事から再生していく姿が描かれるのも夏だ。色鮮やかなリゾート、街の風景がまったく暑さを感じさせないトーンで映し出され、主人公や家族たちは、喪失・不在、それぞれの感情に折り合いをつけていく。

サマーフィーリング

 静かな映画のなかで一際惹きつけられるのはサウンドトラック。プライベートパーティーでダンスするのは、パンクバンド、アンダートーンズの70年代の名曲だし、友達と訪れたクラブでライブ演奏するのは、今注目のSSW、マック・デマルコ(!)など、それぞれ、心に光を射し込ませるような重要なシーンとなっている。そして、物語が未来へと一歩踏み出した後、エンドロールでかかる曲は、ベン・ワットのNorth Marine Drive。まるで観客も、あの海辺で波を見つめているような感覚を抱きながら映画は終わっていくようだ。
 
 3作品とも独特な佇まいと抑揚を抑えたトーンで描かれた映画だけれども、穏やかな心の揺れを作り出してくれる。寒い冬を過ごす、あたたかな灯をともすような3本の映画をどうぞ。


「コロンバス」
©  2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED.

「オリ・マキの人生で最も幸せな日」
©  2016 Aamu Film Company Ltd

「サマーフィーリング」
© Nord-Ouest Films - Arte France Cinema - Katuh Studio - Rhone-Alpes Cinema

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この記事のライター

ザ・シネマメンバーズ 榎本  豊
ザ・シネマメンバーズ 榎本 豊
レトロスペクティブ:エリック・ロメールを皮切りにした2020年4月のザ・シネマメンバーズのリニューアルローンチから、ザ・シネマメンバーズにおける作品選定、キュレーションを担当。動画やチラシその他、宣伝物のクリエイティブなども手掛ける。

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