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COLUMN/コラム2018.05.14
『ブラックハット』6/9(土)字幕、10(日)吹き替え
「ブラックハット」とは悪いハッカーのこと。主演のクリス・ヘムズワースは良いハッカー「ホワイトハット」の役。これは英語のコンピュータをたくスラングで、さらに元をたどれば映画用語がルーツ。古い白黒の西部劇では、黒いカウボーイハットは悪玉、白っぽいのは善玉と相場が決まっていた(1960年の『荒野の七人』はその点ヒーローが黒かったのが画期的だったのだ)。「ブラックハット」、「ホワイトハット」はこれに由来する。 以下、あらすじ。 中国の原発で冷却が停止し、水蒸気爆発で原子炉建屋が吹き飛んだ。サイバーテロが原因だ。中国人民解放軍サイバー戦部隊「網絡藍軍(もうらくあいぐん、英語でオンライン・ブルー・アーミー)」の上尉(=大尉)陳大偉は、攻撃に使用された乗っ取りソフトのコードを解析し、見覚えがあることに驚く。米国留学時代に自分とルームメイトの天才ハッカー・ハサウェイが2人で作ったものに酷似しているのだ。おそらくそれが流出し何者かが改変し悪用したのだろう。捜査にはハサウェイの協力が不可欠だが、彼はサイバー犯罪の罪により米国で懲役15年の刑に服していた。陳大偉は米国側にハサウェイを超法規的に保釈させて協力させ、さらに、肉親ということで無条件に信頼できる妹でSEの陳蓮も加え、網絡藍軍+FBI+ハサウェイの混成チームでの合同捜査に乗り出す。はたして次なる国際サイバーテロを防げるのか!? 原発がハッキングによって故意にメルトダウンさせられるというテロは“今そこにある危機”なのでは!?と、考えるだに背筋が寒くなるが、こうしたサスペンス映画が作られることからも、2011年の日本の原発事故が世界にどれだけのショックを与えたかがよく判る。しかし実はもう一つ、2010年に発生した大事件で、米CIAとNSAとイスラエル国防軍のサイバー戦部隊「ユニット8200(エイト・トゥーハンドレッド)」の3者が極秘裏に共同開発したマルウェア「スタックスネット」を用いた、イラン核施設を標的とするサイバー攻撃秘密工作「オリンピック・ゲーム作戦」からも、本作は着想を得ている。そのスタックスネットが流出して感染が拡大し大騒ぎになったのだが、世界を震撼させたこの2つの事件事故を合体させたシナリオなのである。まさに、この映画で描かれている脅威は“今そこにある危機”、いつ現実に起きても不思議はないのだ。 『ヒート』(1995)以来のリアル銃撃戦や『コラテラル』(2004)以来のリアル夜間撮影など、マイケル・マン映画のリアリズムみなぎる特色も本作には満載。マイケル・マン監督は「俺の現場に偽物の銃など無い!」と豪語していたとのことで、お楽しみの本格的な銃撃戦ももちろん見逃せないのだが、本作ではさらに、ハッキングソフトのコードを本物のホワイトハットに書いてもらっているとのことで、実は見る人が見れば本当にヤバい、シャレになってないプログラムだと解るらしい。そこまでしてリアリズムに徹底的にこだわっている。 が、主演のクリヘムはおよそITヲタクに見えない。しかしそこは映画、イケメンを出さないと客が入らないだろう。クリヘム自身もこの見た目問題にはかなり悩んだそうだが、監督に相談したところ「見た目って何だ!」という鶴の一声があり万事解決したとのこと。そこにはこだわらないのかよ!と、監督のこだわりポイントが我々凡人には若干わかりづらいのだが、どうしてもクリヘムではヲタクに見えなくて困るという人は、各自『ビッグバン★セオリー』か『ナーズの復讐』の登場人物に脳内置換しながらご覧いただければ幸いである。 MIT留学時代にクリヘムとはルームメイトだった現・網絡藍軍上尉役のワン・リーホンは、日本とは大変ゆかりの深い台湾系の俳優だ。藤原紀香がブレイク期に国際デビューを果たして話題になった香港アクション『SPY_N』(2000)に主演。また、原案・脚本担当のGackt入魂の男の友情アクション、北京語・広東語・日本語乱れ飛ぶ多国籍マルチリンガル近未来ヴァンパイアSF『MOON CHILD』(2003)には、Gackt、hyde、現参議院議員山本太郎先生とマブダチ四人組として出演した。『真昼ノ星空』(2004)というイメージビデオのような映像美主体の恋愛映画では鈴木京香とも共演している。華流ブームの頃は歌手としても日本デビューしたとのことで、事ほど左様に、ゼロ年代には日本でも大活躍しておりファンも多い。古代中国の春秋戦国時代を舞台にした歴史物の二人旅ロードムービー『ラスト・ソルジャー』(2010)ではジャッキーとも共演しており、国際派華人スターとしてキャリアを順調に重ねている。 民間のSEである妹役にはタン・ウェイ。アン・リー監督『ラスト、コーション』(2007、ワン・リーホンも出ていた)に主演し体当たりの演技を披露して大いに話題をさらった女優だ。あまりにも体当たりすぎて『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)とか『愛のコリーダ』(1976)とか、ほとんどそっち系に近いような話題ののぼり方で、中国当局から睨まれてしまい活動を何年間も“封殺”されるという憂き目も見たが、圧力にめげず世界に羽ばたいていただきたく、『ラスト、コーション』での脱ぎっぷりの良さに惚れたファンとしては願ってやまない。 中国は2012年に興収面で日本を抜き去って世界第2の映画市場に躍り出て(内閣府HPのPDFにリンク)、その差は年々拡大し今では4倍差まで開き、2020年までに米国も抜いて1位になるのではとの見通しもあるほど。13億という人口規模から言って遅かれ早かれそうなるのは当然の成り行きだ(ちなみに製作本数1位はこちらも13億の人口を擁するボリウッド)。その超巨大市場でヒットを当て込もうというハリウッド映画が、特に2010年代に入ってから相次いで製作されたこともまた、ビジネスなのだから当然の成り行きだ。『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)などは顕著な例。本作『ブラックハット』のプロダクションであるレジェンダリー・ピクチャーズ社は今では中国企業傘下になっており、2015年の本作の後も、『グレートウォール』(2016)、『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)、『パシフィック・リム:アップライジング』(2018)など、中国の観客にちょっとだけ媚びてみせようと中華印を刻印した大作を、次から次に製作している(そしてその3本全てにジン・ティエンが出ていて、本国では口さがない連中から“ゴリ押し”などと言われていて可哀想)。『ブラックハット』も、そんな、“巨龍中国”のこれぞホントの“大躍進”という時代を、後世から見た時に象徴するような作品群のうちの1本だろう。 我々日本人だって、バブルの頃にはたっぷりと媚びをハリウッドからお売りいただいていたものだ。当時、外国映画の中に日本ネタが(“奇妙な果実”的な勘違いもたっぷりに)描かれたり、石橋貴明や高倉健が出演したりすれば、我々日本人も無邪気に喜んでいたし、今でも世界の渡辺謙、世界の真田広之、世界の菊地凛子の活躍を目にすれば、素直に嬉しい。『ダイ・ハード』(1988)のナカトミ商社や『TAXi2』(2000)の「ニンジャ〜!」も光栄に感じたものだ。今ではそれが、時勢もうつろい経済の重心とともに中国に移ったわけだが、我々もご相伴にあずからせていただき、チャイナマーケット向けビッグバジェット映画をチャッカリ楽しませてもらいましょう、というのが賢い。■ © 2015 Legendary Pictures. All Rights Reserved. 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存 保存保存
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COLUMN/コラム2014.06.29
2014年7月のシネマ・ソムリエ
■7月6日『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』 第二次世界大戦中のドイツで反ナチ運動を行ったミュンヘンの学生組織バラそのメンバーが当局に逮捕され、国家反逆罪で処刑されるまでを描く実録ドラマだ。 主人公は唯一の女性メンバーだったゾフィー・ショル。現存する尋問記録に基づき、彼女とゲシュタポの取調官との対話を再現した緊迫感みなぎるシークエンスが圧巻。 ベルリン国際映画祭で監督賞、女優賞を受賞。とりわけ迫りくる死の恐怖に震えながら、自らの良心と信念を貫き通すゾフィー役、ユリア・イェンチの演技が感動的だ。 ■7月13日『永遠のマリア・カラス』 1977年に53歳の若さで死去したマリア・カラス。この20世紀を代表する伝説のオペラ歌手の生誕80周年を記念し、彼女の謎めいた晩年の生き様に迫った人間ドラマだ。 かつての美声を失い、パリのアパルトマンで隠遁生活を送るカラス。旧知のプロモーターから新作映画の企画を持ち込まれた彼女のアーティストしての葛藤を描き出す。 事実に創作を織り交ぜて本作を完成させたF・ゼフィレッリ監督は、生前のカラスと親交があったオペラ演出家でもある。仏の名女優F・アルダンの入魂演技も見ものだ。 ■7月20日『ダウト〜あるカトリック学校で〜』 トニー賞とピュリッツァー賞に輝いた傑作舞台劇の映画化。カトリック学校を舞台に、具体的証拠のない“罪”をめぐって疑う者と疑われる者の闘いを描く心理劇である。 進歩的な思想を持つ神父が、学校内で黒人生徒に性的虐待を加えたとの疑惑が浮上。新米のシスターからその報告を受けた女性校長は、神父を厳しく問い質していく。 校長役のM・ストリープを中心とする主要キャスト4人全員がアカデミー賞候補に。人間の信念や弱さなどを多面的に体現した迫真のアンサンブルから目が離せない。 ■7月27日『リトル・ダンサー』 労働者階級の家庭で育った11歳の少年がバレエの虜になり、本格的にダンサーをめざしていく。サッチャー政権下の1980年代、炭鉱町を舞台にしたサクセスストーリーだ。 主人公ビリーがチュチュ姿の女の子たちに囲まれてレッスンを受けるシーンの微笑ましさ! 頑固な父親との対立と和解のエピソードも涙を誘う良質なドラマである。 『めぐりあう時間たち』のS・ダルドリー監督のデビュー作。T・レックスやザ・ジャムの曲に乗せ、ビリーがストリートで身を躍らせるダンス・シーンがすばらしい。 『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』©Jürgen Olczyk 『永遠のマリア・カラス』©2002 Medusa Film ‐ Cattleya ‐ Film and General Productions ‐ Galfin ‐ Alquimia Cinema ‐ MediaPro Pictures ‐ 『ダウト ?あるカトリック学校で?』© 2008 Miramax 『リトル・ダンサー』© Tiger Aspect Pictures Ltd. 2000 © 2000 Universal Studios. All Rights Reserved.