町山智浩のVIDEO SHOP UFO
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COLUMN/コラム2019.05.23
映画史から忘れられた偉大な映画作家コーネル・ワイルドの素晴らしい戦争映画!
今回は『ビーチレッド戦記』。製作・監督・主演はコーネル・ワイルドです。ハリウッドのスターから映画作家になった、クリント・イーストウッドやメル・ギブソンたちの先駆けです。『ビーチレッド戦記』は、第二次世界大戦時の日本軍が占領している太平洋のとある島にコーネル・ワイルド率いるアメリカ海兵隊が上陸作戦をして、制圧するまでの話です。この非常にシンプルな構造の中でいろんな映画的実験が行われています。 製作費はものすごく安いので、俳優は20人くらい。上陸用舟艇も一艘しかないようです。でも、数千人の大軍勢に見える。軍の記録フィルムを巧みに混ぜて超大作に見せてるんです。これぞ編集のマジック。あまりに上手いのでアカデミー編集賞にノミネートされています。 海兵隊は日本軍が守る海岸に真正面から上陸します。腕がもげ、喉に穴が開く人体破壊描写は当時、画期的でした。ヘイズコード(ハリウッドの自主倫理規制)はこの映画の後、1968年に廃止されてやっと血みどろ描写が可能になるんですが、その前にワイルドがここまでやれたのはやはりインディペンデントだからでしょう。そして、この上陸シーンはもちろん、スピルバーグの『プライベート・ライアン』(98年)に先駆けています。なんと、31年も前に。 地獄の戦場で、兵士たちの頭には故郷の恋人や、家に残してきた妻や子どもとの思い出が浮かんでは消えます。『ビーチレッド戦記』は兵士一人一人の内面に入り込んで、脳裏に浮かぶ回想や幻想を次々とフラッシュバックさせます。その構成は、テレンス・マリック監督がやはり日本軍が守る太平洋の島に上陸する米軍を描いた『シン・レッド・ライン』(98年)にも31年先駆けています。 『シン・レッド・ライン』よりも『ビーチレッド戦記』がすごいのは、米兵だけでなく、敵である日本兵の内面にも入ることです。当時のハリウッド製戦争映画に登場する日本兵は喜怒哀楽もないエイリアン扱いでしたが、この映画の日本兵は、米兵と同じように妻や子どもを愛する善良な人々です。真珠湾攻撃を日米両方から描いた『トラ!トラ!トラ!』(70年)の3年前、イーストウッドの『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』(06年)よりも39年も前ですから。 日本の描写も当時としては正確です。それは出演した日本人俳優が考証を手伝ったからだそうです。若き日の羽佐間道夫さんも出演していますよ。日米双方を、兵士ではなく人間として描くことで、彼らが殺し合う悲劇はせつなさを増します。ラストシーンの銃弾は必ずやあなたの胸を撃ち抜くことでしょう! コーネル・ワイルドは、監督作『裸のジャングル』(65年)がメル・ギブソン監督『アポカリプト』(06年)にパクられています。また、ワイルドの『最後の脱出』(70年)は、文明崩壊後の荒野でバイカーたちがヒャッハーするのを『ゾンビ』(78 年)よりも『マッドマックス』(79年)よりも早く描いた映画でもあります。この早すぎた天才コーネル・ワイルドをビデオ・ショップUFOでは引き続き紹介していきます!■ (談/町山智浩) MORE★INFO.●66年にコーネル・ワイルドが主宰する『セオドア・プロ』が、終戦間もない1945年に出版されたピーター・ボウマンの原作『BEACHRED』の製作を発表。●脚本にクレジットされているジェファーソン・パスカルはワイルドの変名。●タイトル・バックで歌われる主題歌はワイルドの作詞で、ヒロイン、ジュリー役のジーン・ウォーレス(当時のワイルドの妻)が歌っている。●フィリピンのルソン島やリンガエン海岸でロケされ、日本兵役は当時のフィリピン陸軍が扮した。●回想シーンの日本がフィリピン・ロケなのが惜しい。●冒頭の上陸シーンは後の『プライベート・ライアン』(98年)、日・米両兵士の回想シーンは『シン・レッド・ライン』(98年)やクリント・イーストウッド「硫黄島」二部作(06年)に影響を与えている。 © 1967 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2019.05.23
町山智浩のVIDEO SHOP UFO『ビーチレッド戦記』出演日本人キャストご遺族から届いたお手紙〜戦後のにおいがする俳優・小山源喜さんのこと〜
『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』、5月は『ビーチレッド戦記』という1967年の映画を紹介します。これは未DVD/BD化の超激レア作で、50年も前の作品なのに、太平洋戦争を描く上で米軍と日本軍をほぼフィフティーフィフティーで取り上げる、日本の描写も可能な限りちゃんとしてる、という、実に志の高い映画です。日本人をワケのわからない野蛮な敵あつかいしていない。 と、いう映画ですから日本人キャストが何人も出てくるのですが、実はこんなお手紙が町山さんのところに届きました。 「町山智浩様 突然のお手紙、失礼いたします。 私は、『ビーチレッド戦記』に杉山大佐として出演していた俳優・小山源喜の長男で、小山唯史と申します。以前から、町山様がこの映画を評価されていることを嬉しく思っていました。」 このお手紙を町山さんから見せていただきました。作品を改めて今の世にお届けする側としても、予期せぬ反響、嬉しく思います。 「日本側出演者の決定に当たっては、簡単なオーディションらしきものもあったようです。父は、出演が決まった日に、帰宅してから次のような話をしていました。『野外で食事をする場面で、箸で、(剣の達人の武士のように)体の近くを飛び回っている虫を掴む仕草をして見せたら、監督がとても気に入った様子だった』」 などと、興味深いエピソードも教えていただきました。箸で虫を掴むサムライのような日本人ですと!? この出来事が何か後世の作品に影響あたえちゃったのではなかろうか?などと、想像は膨らみますねぇ。 小山源喜さんという俳優は、ご子息のお手紙にあったプロフィールを引用しますと、 ◎小山源喜(コヤマゲンキ) 1915.7.8生〜1991.4.11 没 ★戦後早々のNHKラジオ連続ドラマ『鐘の鳴る丘』で主役の青年の役。 死亡当日の朝日新聞「素粒子」が手元にありますが、次のように書かれています。「最後の声優、小山源喜の死に思う、イモ腹で聴いたラジオの『鐘の鳴る丘』の、あの歌声。」 ★TV外国ドラマの声 ①『ドクター・キルデア』(リチャード・チェンバレン主演)で、ギレスビー病院長(レイモンド・マッセイ)の声を担当。 ②NHK『タイムトンネル』(ジェームス・ダーレンら)で、研究所のヘイウッド・カーク所長(ホイット・ビッセル)の声を担当。 という役者さんでして、以上でお手紙からの引用を終わります。 ちょっと私の方からは、朝日新聞「素粒子」にあったという「最後の声優」「イモ腹」という言葉について、説明します。その前に「素粒子」とは何ぞやですが、ごく短い一言社会批評のような、朝日新聞夕刊紙上のご長寿名物コラムです。確認してみたところ、ご命日ではなく2日後の平成3年4月13日土曜日の夕刊に、確かに前掲のコラムは掲載されていました。 先に「イモ腹」という言葉の方から説明すると、これは、米不足で米の代わりにサツマイモを食っているような食糧事情のこと。つまり戦中・戦後の頃の話だと察しがつきます。どうにかして映画『この世界の片隅に』を見てください、中で出てきます。洋画専門チャンネル ザ・シネマでは未来永劫やりません、たぶん…。 『鐘の鳴る丘』は、ご子息の手紙にあったとおり「戦後早々のNHKラジオ連続ドラマ」なのです。Wikiからコピペすると「1947年(昭和22年)7月5日から1950年(昭和25年)12月29日までNHKラジオで放送されたラジオドラマ」だそうですから、敗戦から2年目の夏に始まったんですね…。 Wikiにはそのあらすじも記されています。小山源喜さんは主役の復員兵を声で演じられました(ラジオドラマですから)。その復員兵が戦災孤児たちと田舎で共同生活を始める、という物語だったようです。去年夏のNスペ『“駅の子”の闘い~語り始めた戦争孤児~』、あれは可哀想でしたねぇ…。ああいう子供達です。 主題歌の「とんがり帽子」は、戦後30年目生まれの私でもさすがに知っている、♪鐘が鳴りますキンコンカン という、あの有名な歌です。「素粒子」のコラムニストが書いた「あの歌声。」というのは、それのことでしょう。 さて、「素粒子」にあった謎の一言「最後の声優」。これ、今の人が読むと意味わかりませんよね。当チャンネルは『マッドマックス』新録吹き替えや「厳選!吹き替えシネマ」など吹き替え企画も名物ですから、声優ファンの視聴者も大勢いらっしゃいますが、意味がわからない。声優は今もますます大人気で、2010年代には歌で紅白歌合戦に出場するようなアイドル声優まで現れています。それが、1991年の小山源喜さん訃報の時点で「最後の声優」とは、一体全体どういう意味なのか!? 実は「声優」とは、戦前戦中戦後のラジオドラマ全盛期に、まずは使われ始めた用語なのです。TVが生まれる前までお茶の間娯楽の王様であったラジオドラマで、声の演技をさせるため、NHKが戦中から養成していた放送劇団、その第1期生のお1人が、小山源喜さんなのです。 なので「最後の声優」と言うより、どっちかと言うと「最初の声優」ですね。 他にも、2期研究生に大木民夫さん、3期生に名古屋章さん、4期生来宮良子さん黒沢良さん山内雅人さん、そして5期生には黒柳徹子なんていう、錚々たるレジェンドを輩出しています。 大森一樹監督の1987年の映画版『トットチャンネル』という、当時人気絶頂の斉藤由貴が若かりし頃の黒柳徹子を演じている凄い作品があり、NHK放送劇団について詳細に描かれていますので、どうにかして見てください。洋画専門チャンネル ザ・シネマでは未来永劫やりません、たぶん…。 しかし、ラジオドラマが娯楽の王様だった時代は長くは続かず、その後TVがすぐに始まり、「声優」の語はそれ以上広まることはありませんでした。5期生の黒柳さんは『サンダーバード』や『ひょっこりひょうたん島』等で声優としても有名ですが、黒柳さんの頃からTVタレントとしての活動も増えていったようです。 私は昔、とある大御所声優の方から、「俺が声の仕事を始めた頃はまだ『声優』なんて呼び方さえ無かったんだ」というお話を直接うかがったことがあります。その大御所が声優の仕事を始められたのは70年代。その時点では「声優」なんて日本語は存在しない、聞いたこともない、それは最近作られた新語か造語か何かか?というぐらいに、業界で声の仕事をされている方たちすら知らないマイナーな言葉になってしまっていたのです。 「声優」という日本語が爆発的に普及するのは70〜80年代のアニメブームの到来を待たねばなりませんでしたが、そもそもは、戦前から戦後にかけての娯楽の王道ラジオドラマで使われだした用語だったのです。 朝日の「素粒子」はそういう意味で使っているのでしょう。戦後の焼け野原を回想する万感が、「最後の声優、小山源喜の死に思う、イモ腹で聴いたラジオの『鐘の鳴る丘』の、あの歌声。」との短いコラムにはこめられていたのでしょうな。 その小山源喜さんが日本軍大佐を演じる、太平洋戦争を描いたアメリカ映画。日本が戦後の日々を迎える前の悲惨な日米の殺し合いを描きながら、その時代の日本人にも、アメリカ人にも、家族や平和な故郷を想う人間性はあったのだ、それでもひとたび戦場に放り込まれたら殺し合わざるを得ない、この理不尽と不正義!を描いている、この戦争映画に、戦後の声優第1号・小山源喜さんの起用は、実に相応しいキャスティングではなかったでしょうか。 以上の消息、戦後ラジオ声優の活躍などにも思い致しながら、ぜひこの戦争映画の幻の傑作をご鑑賞ください。■ 追伸: ①『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』の前解説がYouTubeにアップされています。町山解説を無料で前半だけは視聴できます。コチラ ②この映画に小山源喜さんと同じく日本軍将校役で出演されている日本人キャスト、あの声優界の大重鎮・羽佐間道夫さんにも、この映画についてロングインタビューさせてもらいました。「ふきカエル 大作戦!!」に掲載されています。あわせてお読みください。 ③本ブログ記事掲載後、ご子息に掲載報告とお礼をさしあげとところ、以下のようなお返事をいただきましたので、お許しを得て転載させていただきます。 「『最後の声優』については、飯森様の原稿を読んで改めて考えさせられました。 以下、参考までに。 父は(出演記録によると)NHKのラジオ放送劇全盛期に数多くの番組に出演していたようで、全く画像のないラジオでトータルに劇を演じる声優だったという意味で、現在のアニメ全盛期の声優とも異なる時代の声優だったのだと思い到りました。 他界した時期は、そういう時代が幕を閉じた時期だったのでしょう。 また、父のもとには黒沢良さん、滝口順平さんなど声優や、『巨人の星』等の制作関係者、太宰久雄さんら数多くの人々が、父を師や先輩として勉強会に集い、のちの声優界に多少の影響を与えたことも、関係しているのかもしれません。」 © 1967 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2019.04.23
ファンキーな音楽とデカい車とピカピカの銃と暴力とエロで描く70年代のブラックムービー
スパイク・リーが『ブラック・クランズマン』の脚色でようやくアカデミー賞を獲得しましたが、彼には師匠がいます。『ドゥ・ザ・ライト・シング』など、スパイク・リーの映画に何本か出演している黒人の老人で、オシー・デイヴィスという俳優です。デイヴィスは、ハリウッドの黒人監督の草分けなんです。 今回紹介するオシー・デイヴィス監督作『ロールスロイスに銀の銃』は、70年代黒人アクション映画のブームを巻き起こしたヒット作です。 主人公は、ニューヨークの黒人街ハーレムの警察署に勤める黒人刑事コンビ、その名も墓掘りジョーンズと棺桶エド。2人は捜査が荒っぽくて、悪い奴らを地獄に送ってしまうことも多く、そんな不吉なニックネームで呼ばれています。 原作はチェスター・ハイムズ。アメリカ生まれの黒人作家で、若い頃、強盗で刑務所に入りますが、獄中で小説を書き始めました。自分の体験を活かした、暴力と犯罪とセックスと皮肉なジョークに満ちた世界です。 しかし、1950年代はまだ南部で人種隔離が続いていた時代ですから、ハイムズの小説はアメリカには受け入れられませんでした。失意のハイムズはフランスに移住し、そこでセリ・ノワール(暗黒小説)として墓掘りジョーンズと棺桶エド・シリーズを書き、ベストセラーになります。60年代にはアメリカでも公民権運動で黒人の地位が向上して、ハイムズの本も売れまして、1970年、ブラックパワーのなかで映画化された第1作が『ロールスロイスに銀の銃』です。 タイトル通り、映画はピカピカのロールスロイスがハーレムに入ってくるところから始まります。貧しい黒人が住むハーレムに高級車ロールスロイスが入ってくれば、乗っているのはギャングのボスだろうと思うと、車を降りたのはオマリーというハンサムな牧師さんです。彼は当時盛り上がっていたアフリカ回帰運動を掲げて、アフリカ行きの客船を買うために黒人から金を集めています。 その金をめぐって、イタリア系のマフィアやブラックパンサーのような黒人過激派、それに墓掘りジョーンズと棺桶エドが加わってのアクションが展開します。 タイトルの「銀の銃」は、棺桶エドが撃つコルト・パイソン357マグナムを意味します。パイソンが出た最も初期の映画ですね。相棒の墓掘りジョーンズが使うのはなんと信号銃です。これで照明弾を敵に向かって水平撃ちするのは映画史上でも珍しい戦い方ですね。 エド(レイモン・サン・ジャック)は眼光鋭く、タフで悪への怒りに燃える男。逆にジョーンズ(ゴッドフリー・ケンブリッジ)は眠そうな目でダルそうに皮肉なジョークばかり言ってるキャラです。だから、これは『バッドボーイズ』みたいなハードなアクションとコメディの合体によるバディ・ムービーの元祖です。『フリービーとビーン/大乱戦』(74年)よりも4年も古い画期的な映画です。 70年代の黒人アクション映画は一般的には『黒いジャガー』(71 年)と『スイート・スイートバック』(71年)が始まりだとされますが、『ロールスロイスに銀の銃』はそれより早くヒットし、のちにブラックスプロイテーションと呼ばれるジャンルの「型」を作りました。つまり、セクシーで賢い黒人、ダサくてマヌケな白人、ファンキーな音楽とイカしたファッションとデカい車とピカピカの銃と暴力とエロです。 オシー・デイヴィス監督はもともと俳優で、シドニー・ポラック監督の西部劇『インディアン狩り』(68年)で、デイヴィス扮する南部からの脱走奴隷が、白人のバート・ランカスターと友情で結ばれていく、これもバディ・ムービーでした。デイヴィスはハリウッド俳優として働きながら公民権運動に参加し、マルコムXの葬儀でも、キング牧師の葬儀でも弔辞を読み上げました。つまり映画と社会運動の革命家だったから、スパイク・リーからリスペクトされたんですね。 というわけで『ブラック・クランズマン』の原点をお楽しみください!■ (文/町山智浩) MORE★INFO. ●原作は邦訳もあるチェスター・ハイムズの“墓掘りジョーンズと棺桶エド”シリーズの第6作『ロールスロイスに銀の銃』(文庫化改題『聖者が街にやってくる』)。●原作にはロールスロイスは登場しない。●俳優オシー・デイヴィスの監督デビュー作。●“ブラクスプロイテーション映画”の最初期の1本で、70年代にハリウッドで作られた黒人映画で最も興行的に成功した映画だった。●メルバ・ムーアの歌う主題歌“Ain't Now But It's Gonna Be”の作詞もデイヴィスが担当。●本作と同じくケンブリッジ&サン・ジャックの主演の続編『ハーレム愚連隊』(72年)もハイムズの『夜の熱気の中で』が原作。原作シリーズでは他にも『イマベルへの愛』が『レイジ・イン・ハーレム』(' 91 年)として映画化されている。 COTTON COMES TO HARLEM © 1970 SAMUEL GOLDWYN JR.. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2019.03.26
自分をCIAの工作員だと思い込んだ青年が相棒に選んだチアガールは、もっとイカれた女子高校生だった!
サイコ・スリラーの傑作『かわいい毒草』、これはもう、今シーズン2の目玉です!日本では1973年に淀川長治先生の『日曜洋画劇場』で放送されて、僕はその時に観たんですが、それ以降、日本では観ることができませんでした。VHSやDVDも未だに出ていません。今回お届けするのが誇りに思える映画です。 主演はアンソニー・パーキンス。彼が精神病院から出てくるところから映画が始まります。もう、これがもう「やられた!」って感じです。なぜなら、彼はヒッチコックの『サイコ』(60年)以来、8年間、アメリカ映画に出てなかったんですが、『サイコ』の最後はパーキンスが精神病院に入るところで終わるんですよ。だから、当時の観客からすれば、8年間病院に入ってた彼がまさに出てきたみたいなんですよ。 パーキンスといえば、かつては青春スターだったんですが、『サイコ』でサイコ・キラーを演じて、それがあまりに強烈すぎて、サイコ役しか回って来なくなったので、ヨーロッパに逃げていたと言われています。この『かわいい毒草』でのパーキンスは妄想性の虚言症。だから、彼は主役なのに、彼が言ってることを観客は信用できないというトリッキーな役です。 その彼が美少女に恋します。そして、いつもの調子で「僕は実は正義のスパイなんだ」とか妄想というか虚言で口説きますが、その少女は全部信じてくれる。そのうちになりゆきでスパイみたいな破壊活動まですることになりますが、そのとき、やっと主人公は気づきます。この子のほうがクレイジーだと。タイトルになっている、かわいい毒草ちゃんだったんですね。 毒草ちゃんを演じるのはチューズデイ・ウェルド。少女モデル出身で、セブンアップという清涼飲料水の広告で大人気になった人です。清純派のアイドルだったんですが、私生活では中学生くらいから酒と麻薬とセックスでめちゃくちゃでした。だから、見た目は可愛いけど実は猛毒という役柄とぴったりなんですね。 監督はノエル・ブラック。まだ30歳での商業映画デビュー作です。この人は天才です。学生時代に作った自主短編『スケーターデーター(Skat erdat er )』でいきなりカンヌ映画祭の短編部門で賞を獲りました。カリフォルニアのスケボー少年少女を描いた、詩のような、ミュージックビデオみたいな青春映画の傑作です。この『かわいい毒草』もサイコ・サスペンスですがブラック・ユーモアに満ちていて、色彩や編集もポップ、まったく古びていません。さらに、環境破壊やアメリカ文化批評まで含んだ、深い映画になっています。 しかし『かわいい毒草』を作った20世紀フォックスは、当時別の大作映画の失敗で資金難に陥り、『かわいい毒草』は宣伝や配給の予算を与えられず、ひっそりと小規模に公開されて忘れられました。でも、その後、少しずつ評価が高まり、現在はカルト・ムービーになっていますが、おそらく日本では初めて観る人も多いと思います。絶対に面白いので、ぜひ、ご覧ください。■ (談/町山智浩) MORE★INFO. ●製作のマーシャル・バックラーとノエル・ブラック監督は、TV界出身の新人で短篇『Skaterdater』(未公開)で61年カンヌ映画祭でグラン・プリ、アカデミー賞の短編賞ノミニーを得たチームだった。 ●原作は66年に発表されたスティーヴン・ジェラーの未訳小説『She Let Him Continue』。 ●依頼されてから6週間で書き上げたという脚色のロレンツォ・センプル・Jr. が、ニューヨーク映画批評家協会脚本賞を授与された。 ●『サイコ』(60年)以来アメリカを離れヨーロッパで映画出演を続けていたパーキンス久々のハリウッド映画出演となった。 ●初の長編となるノエル・ブラック監督は、神経質なウェルドに適切な演技指導が出来ず、ウェルドは後に「最低の体験だった」と述べた。 © 2001 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2019.02.22
アニメと実写を融合させた愉快なブラックなファンタジー・コメディ!!
今回の映画は『モンキーボーン』、これはほとんど忘れられている映画ですけど、僕は今でも大傑作だと思っています。監督はヘンリー・セリック。この人はティム・バートンの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の監督として有名なストップモーション・アニメーターです。表情やポーズが違う人形を1コマずつ撮影していく大変なアートです。そのセリックが初めて手掛けた実写長編映画がこの『モンキーボーン』です。 主人公はブレンダン・フレイザー扮する漫画家。彼の作品『モンキーボーン』がT Vでアニメ化されるんですけど、彼自身は事故で昏睡状態になってしまいます。病院で眠っている彼の意識は自分の無意識下に堕ちて、生と死の間にある“ダークタウン”という街にたどり着きます。彼は自分が描いた漫画のキャラクター、モンキーボーンに出会います。するとモンキーボーンが主人公の体を乗っ取って、主人公の可愛い婚約者ブリジット・フォンダと結婚しようとします。で、主人公はなんとかダークタウンから脱出して、モンキーボーンの野望を阻止しようとする、というコメディです。面白そうでしょ? この映画でまずすごいのは、ダークタウンの世界観なんですよ。ヘンリー・セリックのものすごいイマジネーションが爆発してます。ダークタウンに住んでいるキャラクターは皆、神話上の人たちばかりです。ミノタウロスがいたりとか、サテュロスがいたりとか。ヒプノスという名前で夢の神様として出てくるんですけど、あれは明らかにサテュロス。パン神とも言われている神話上の存在ですね。一つ目のサイクロップスもいます。そういった神話上の者たちが、しかもピカソの絵のようなキュビズムで描かれているという、このへんがヘンリー・セリック独特の、なんだかわけがわからない悪夢のような世界になっていて、本当に素晴らしいんです。 それに心理学的なテーマが面白いですね。モンキーボーンというキャラは欲望むき出しのスケベ猿で、その名前はスラングでペニスのことなんです。主人公は婚約者に手も出さない大人しい男なんですが、彼の心の奥に抑圧した欲望をキャラにしたら漫画が人気になるんだけど、そのキャラに作者が乗っ取られてしまうので、作者自身も野生を発揮して戦わざるを得なくなるという、深い話です。映画の冒頭で主人公が漫画を描いているシーンのクロースアップの手はヘンリー・セリック自身の手なんです。だから、監督自身も主人公に反映されているわけです。 そしてクライマックスのチェイス。これが実に悪趣味で、今観てもめちゃくちゃ面白い。 あと、ダークタウンに猫娘がいて、最近はハーヴェイ・ワインスタインにレイプされたことを告白して話題になったローズ・マッゴーワンが演じてるんですが、これが古今東西のあらゆる猫娘のなかでダントツに可愛いのも注目です!『モンキーボーン』、ぜひご覧ください!■ (談/町山智浩) MORE★INFO. 当初はコミック・ブック「Dark Town」(ストーリー:カジャ・ブラックリー、イラスト:バネッサ・チョン)の映画化として始まったが、原作のダークなイメージに近い当初のキャスティングはステュ役にニコラス・ケイジ、デス役はクリストファー・ウォーケンが考えられていた。 映画ではジョン・タートゥーロが演じたモンキーボーンの声は当初ベン・スティラーの予定だったが、彼が『ミステリー・メン』(99年)への出演が決まって断念された。 監督によればタイトル・シークエンスは左手で書いたのだという。 © 2001 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2019.01.23
ヘロイン地獄に堕ちたダメ男と田舎娘の希望の恋愛を描く初の麻薬カルチャー映画
今回紹介する『哀しみの街かど』、たぶんタイトルを見ただけだと、しっとりしたメロドラマかな?って思う人もいると思うんですが、全然違いま す。原題は『THE PANIC IN NEEDLE PARK』。「注射針公園のパニック」という意味で、注射針公園というのは、ニューヨークのマンハッタンに実在す るシャーマンズ・スクエアという小さな公園のことです。1970年頃、そこにヘロイン中毒患者が集まって、ヘロインを買ったり売ったりしていたんで、使用後の注射針もたくさん散らばっていたので、そう呼ばれるようになったわけです。「パニック」というのは、売人によるヘロインの供給が断たれて、中毒患者たちが禁断症状に襲われることを意味します。どこが「哀しみの街かど」 やねん!(笑)。 僕はこの映画を中学生の ときにTVで観ました。今では地上波で放送できないですよ。今回も、CSチャンネルのザ・シネマだから可能なんだと思います※。というのも、ヘロインの注射をこと細かく撮影していますから。実際にその俳優が注射を打ってます。ヘロインじゃなくてブドウ糖ですけど。とにかく徹底したドキュメンタリー・タッチで、音楽すら入っていない殺伐さです。 ※これを鑑み、今回ザ・シネマでは独自にR15相当として本作を放送します。15歳以上の方のみご鑑賞ください。保護者の方はご配慮をお願いします。 主演はアル・パチーノ。彼の主演第1作です。この演技で全米、全世界を驚かせて、翌年『ゴッドファーザー』(72年)の主役に抜擢されて、世界的なスターになりますね。パチーノの役は、気は優しいんだけど、ヘロインのためだったら何でもする中毒患者。ヒロインを演じるのはキティ・ウィンという女優さんで、田舎から出てきた純朴な少女だったのに、ダメ男パチーノと会ってしまったがために、どんどんヘロイン中毒に堕ちていきます。 2人は何度も立ち直ろうとするんですが、麻薬のために挫けます。 キティ・ウィンは地道にウェイトレスとして働こうとしても、勘定ができなかったり、注文が覚えられなかったりして、 ヘロインに戻ってきます。それで、ヘロイン欲しさで体を売って、アル・パ チーノは「俺という男がいるのに!」と怒りますが、彼もヘロイン欲しさで彼女に客を取ってくるようになります。そんなドン底で、2人はお互いしか頼るものがいないので、何の希望もない恋愛を続けていきます。 監督のジェリー・シャッツバーグはニューヨークのファッション雑誌のカメラマンで、いつもはオシャレでゴージャスな世界を撮っていたのに、いきなりヒリヒリするようなリアリズムの映画を撮って世間を驚かせました。 『哀しみの街かど』に衝撃を受けた映画作家は世界中にいます。特にオーバードーズ(麻薬過剰摂取)で死にかけ るシーンはクエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(94年) やダニー・ボイルの『トレイン・スポッ ティング』(96年)に多大な影響を与えています。オイラの相棒の柳下毅一郎のトラウマ映画でもあります。あのころはT Vでやたらと放送してたから彼も観たんですよ。ああ、ほんとうにいい時代だった!■ (談/町山智浩) MORE★INFO.原作はジェームズ・ミルズが「ライフ」誌に発表した2部からなる記事。主役のボビー役にはロバート・デ・ニーロも考慮されたが、直前にブロードウェイ舞台「Me, Natalie」でオビー&トニー賞をW受賞したアル・パチーノに監督は決めていた。ヘレン役には当初ミア・ファローの予定だったが、これ がデビューとなる新人のキティ・ウィンになり、彼女はカンヌ映画祭で主演女優賞を獲得した。音楽はピューリッツァー賞音楽部門を受賞したネッド・ロアムが担当していたが、製作側の意向で自然音や背景音だけにしたため、ファイナル・カットからは除かれた。フランシス・フォード・コッポラは『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネ役にアル・パチーノを起用させるためパラマウントの経営陣に本作を見せて説得した。 © 1971 Twentieth Century Fox Film Corporation. Renewed 1999 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2018.12.22
「ビルとテッド」シリーズのアレックス・ウィンター初監督作はマニア泣かせの“ホラー・ギャグ”満載!
最近は、犬しか友だちがいない殺し屋とか、ハリウッドで一人寂しくたたずむフィギュアとか、鬱なイメージのキアヌ・リーヴスだが、最初にブレイクした『ビルとテッドの大冒険』(89 年)では、陽気でカラッポな高校生テッド役だった。続編『ビルとテッドの地獄旅行』(91年)もヒットし、3本目が期待されていた93年にひっそりアメリカで公開されたのが、ビル役のアレックス・ウィンターが脚本・監督・主演の『ミュータント・フリークス』だった。フリークスとはトッド・ブラウニング監督『フリークス』(32年)のフリークス。というか、石井輝男監督『恐怖奇形人間』(69年)のお笑い版。こりゃ、ひっそり公開するしかないわな。 ウィンター扮する映画俳優が、ランディ・クエイド扮するマッド・サイエンティストによって奇形人間に改造されてサーカスの見世物にされる、という話だが、中身は徹底的にデタラメ。フロッグマン(カエル男)という名で出てくるのは潜水夫(フロッグマン)だし、5秒ごとにくーだらないギャグの連続で最後までぶっ飛ばす。当時は世界最高の美女だったブルック・シールズが本人役で出ているが、これがまあトンデモない役で……。 でも、スタッフは無意味に豪華。特殊メイクはスクリーミング・マッド・ジョージだったり、ストップ・モーション・アニメがデヴィッド・アレンだったり、主題歌はバットホールサーファーズやヘンリー・ロリンズやジョージ・クリントンやビル・ラズウェルだったり……。 クレジットされてないが、相棒のキアヌもちゃんと出ている。犬少年役でずっと画面に映ってた。最後まで特殊メイクのままだが。それに、カウボーイ役で『ウィンターズ・ボーン』や『スリー・ビルボード』の渋いオヤジ役のジョン・ホークスも出ている。カウボーイといっても牛人間なのでやっぱりずっとメイクのままだが。 今回、見直して驚いたのは、ロブ・ゾンビ監督の『マーダー・ライド・ショー』(03年)の舞台設定などに大きな影響を与えていること。それに、ミスターT扮するヒゲ令嬢が「これが私 This is me」と力強く言うシーン。そう、『グレイテスト・ショーマン』のヒゲ令嬢が歌う「ディス・イズ・ミー」はこれが原点だったのだ!絶対!いや、きっと、たぶん。 『ミュータント・フリークス』は長い間プリントが失われ、DVD出なかったが、最近発見されてカルト映画になった。アレックス・ウィンターは『ビルとテッド』3作目の製作を宣言。大スターになったキアヌは必ず出演すると誓っている。いい奴。■ (文/町山智浩) © 1993 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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NEWS/ニュース2018.12.09
町山さん自身が披露@コミコン! 来年1月〜3月の『VIDEO SHOP UFO』ラインナップ
先週12月1日、東京コミコンのメインステージにて『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』の公開収録が行われました。12月のセレクト・タイトル『ミュータント・フリークス』の映画本編前解説と、映画本編後用の解説をあわせて収録。ステージは立ち見の盛況っぷりでした。視聴者の皆様は12月20日からの放送回でその模様はお楽しみください。 その収録終了後、会場の別のミニステージに場所を移して(ここも立錐の余地なしでした。ご来場の皆様、ありがとうございました!)、来年1月以降のラインナップも解禁。3月までの3本についても町山さんにご紹介いただきましたので、その模様をこの場でもご披露します。 ちなみに『VIDEO SHOP UFO』とは番組名。LAに超マニア向けビデオ店があり、そこの店長が町山さんという設定。町山店長が激レア映画(ソフトになってなくて見られないとか、完全に忘れ去られちゃってる、とか)を毎月1本お薦めしてくれる、たっぷり解説も付けて、という趣旨の、映画本編の前と後をサンドイッチして付く、古き良き民放TV洋画劇場形式の映画解説番組です。月々の該当作品にはタイトルに【町山智浩撰】と付けてます。バックナンバーはこちら。 さあ、ここからがトークショーの模様です。お相手はVIDEO SHOP UFOのバイト君です。では、どうぞ! ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ 町山店長「どうもよろしくお願いします。お客さん多すぎですね。トムヒ※と間違えてませんか? こっちは トモヒロですよ」 (※コミコンの来日ゲストとしてトム・ヒドルストンが来場中で、向かいのサインコーナーで撮影会などをしていた) バイト君「メインステージお疲れ様でした。『ミュータント・フリークス』は今月後半にやりますが、その先のラインナップを3ヶ月分、この場では発表していただきましょう。まず1月が『哀しみの街かど』ですね」 町山店長「主演はアル・パシーノですけど、彼の初主演作なんです。この映画、僕が子供の頃はTVで何回も何回も放送してたんですが、今では地上波ではとても放送不可能な内容ですね」 バイト君「なのでザ・シネマでは今回、R15相当に指定して放送するんですよ。15歳未満の方は視聴禁止です」 町山店長「タイトルも『哀しみの街かど』なんていうとラブストーリーみたいですけど、原題は『パニック・イン・ニードルパーク』というんですよ。『針公園』というのは、1960年代にニューヨークに実際にあった公園で、そこにはいつも麻薬中毒患者が集まっていて、ヘロインを打つ注射器の針がいっぱい落ちてたんですね。『パニック』というのは麻薬の供給が切れて売人が麻薬を売らなくなると、中毒者たちが禁断症状でパニックに陥ることを意味しています。どこが『哀しみの街かど』やねん!っていう内容なんですよ(笑)。これ凄いのは、麻薬を注射するディテールを緻密に撮影してるんですよ」 バイト君「でも結局、この人たちって、堕ちるところまで堕ちていくじゃないですか。だからやっぱり、“ダメ。ゼッタイ。”っていうのがこの映画のメッセージですよ」 町山店長「まぁ、そりゃあそうなんですが、全部演技ですからね。ヘロインじゃなくてブドウ糖を打っているらしいんですが、肌がボロボロになって、目が虚ろになっていくリアリティが凄いです。これでアル・パシーノは物凄く評価されて、『ゴッドファーザー』の主演にいきなり抜擢されることになったんです。 この映画は本当に辛い辛い映画で、何も良いことが無いんですが、麻薬中毒の悲惨さをこれほど詳細に描いた映画も珍しいですよ。麻薬中毒とは一体何か、それ自体がテーマで、一切オブラートに包まないで、真正面から現実を見せます。音楽すらまったく無くて、演出もザックリと甘さがなく、ドキュメンタリーにしか見えない。 キティ・ウィン扮するヒロインが途中で真面目になろうと思ってコーヒーショップで働き始めるんだけれど、麻薬でボロボロになっているから、勘定ができなかったり、注文を覚えられなくて、結局麻薬中毒に戻っていったり。で、お金がないから体を売るんですが、最初、アル・パシーノは「俺という男がいるのに!」と怒るんですが、だんだんと麻薬のほうが大事になってきて、自分から彼女を売るようになって、彼女の方も彼を売って、どん底に落ちていくんですよ。 あと、ラウル・ジュリアが出ていますね。『アダムス・ファミリー』のお父さんですけど、デビュー作に近いですね、彼もこの映画が」 バイト君「彼女が最初に付き合ってたのがラウル・ジュリアなんですよね」 町山店長「この映画は今では忘れられていますが、マニアの間では物凄く人気があって、中古ビデオにはプレミアがついてたりしますね。ザ・シネマで観た方が安く済むと思います(笑)」 バイト君「次の2月が『モンキーボーン』です」 町山店長「これ、ヘンリー・セリックという、ストップモーション・アニメの巨匠の唯一の実写作品なんです。ただ、闇に葬り去られてしまって、ほとんど見ている人いないと思います。 ヘンリー・セリックは、ティム・バートンが製作した『ジャイアント・ピーチ』や、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の本当の監督ですね。その後『コララインとボタンの魔女』でアカデミー賞にノミネートされます。 ただ、この『モンキーボーン』は、製作会社の20世紀FOXの経営体制が変わる時にちょうど当たってしまって、撮影中にセリックは監督をクビになり、ロクに宣伝されないまま公開されたんで、あまり観ている人はいないんですけれども、凄い面白い映画なんですよ。 ブレンダン・フレイザー扮する漫画家が、モンキーボーンという猿の形をしたキャラクターの漫画を描いたらアニメ化されて大ヒットします。フレイザーは真面目で気の弱い漫画家なんですけども、彼の中に秘めている暴力性とか性的な欲望をモンキーボーンに託して表現していたんですね。ところがモンキーボーンが暴走して、作者フレイザーの肉体を乗っ取って、フレイザー自身の人格を『ダークタウン』という名前の地獄のような世界に閉じ込めてしまう。だから、彼はそこから脱出して、自らの欲望の具現化であるモンキーボーンと戦わなければならないっていう話なんです。そうしないと、婚約者のブリジット・フォンダをモンキーボーンに盗られちゃう訳ですよ。モンキーボーンっていうのは、英語のスラングでチン×ンのことです」 バイト君「ち×ちん?」 町山店長「つまり、彼自身のペニスの象徴であるモンキーボーン君に、恋人を寝取られるという、非常に象徴的な、面白い話なんですよ。 途中で監督が替わっているから、ぎこちないところもあるにはあるんですが、クライマックスのドタバタシーンはめちゃくちゃおかしくて、死ぬほど笑いますよ」 バイト君「ちょっと『ミュータント・フリークス』と似た雰囲気もありますよね」 町山店長「FOXって、途中まで変な映画を作らせておいて、『やっぱりこれはダメだ!』って、お蔵入りにしちゃうことがよくあるんですね。でも、『ダークタウン』のピカソの絵のようなシュールなビジュアルは本当に素晴らしいし、そこで主人公を助けるローズ・マッゴーワンの演じる猫娘がまた健気で可愛いいんですよ。ケモナーの人も是非見ていただきたい映画ですね」 バイト君「そして3月が『かわいい毒草』です。これは目玉タイトルですね」 町山店長「でもこの画像、ちょっと画質悪いよ?」 バイト君「悪いんです…」 町山店長「これしか無かったの?」 バイト君「それぐらい激レアな作品ってことです」 町山店長「川喜多映画財団とかでちゃんと当時のスチルを買ってくださいよ。それはともかく、これは本当に珍しい映画ですよ。日本ではDVDはもちろんVHSも出てません。劇場公開時もさっと消えてしまって、テレビの日曜洋画劇場で1971、2年に1回放送したきりです。僕はたまたまそれを観て、一生忘れられない映画になりました。アメリカでも実はずっと幻の映画で、10年くらい前にやっとDVDになって、奇跡と言われたんですよ。 これもまた20世紀FOXの作品なんですが(笑)、この時は経営難にありまして、せっかく作ったんだけど配給や宣伝するお金がなくて、消えちゃった映画なんです。でも、これが大変な傑作。主役はアンソニー・パーキンスなんですが、彼は『サイコ』というヒッチコックの映画で… ↓↓↓↓↓↓↓↓この後『サイコ』のネタバレに言及します↓↓↓↓↓↓↓↓ 二重人格の殺人鬼を演じたんですね。って『サイコ』のネタバレしてますけど(笑)、あの役が強烈すぎて、演じたパーキンスまで変態じゃないかと思われて、ハリウッドで仕事が無くなって、ヨーロッパ映画に出ていたんですね。で、10年ぐらい経って、そろそろいいんじゃないかと思ってハリウッドに帰ってきて撮った映画がこの『かわいい毒草』なんです。が、役がいきなり、精神病院から出てきた青年という役で、何のためにヨーロッパに行ってたのかわからない(笑)。『サイコ』の続編みたいな話なんです。 パーキンスは誇大妄想症で、放火事件を起こして精神病院に入っていて、だいぶ良くなってきただろうということで退院して、働き始めたところで、チューズデイ・ウェルド扮する美少女と出会います。で、パーキンスは、彼女にいいところ見せようとして、僕は実はCIAのスパイなんだ、国を守るミッションに協力して欲しいんだと言うんですが、何と彼女の方が100倍上手の、“基地の外”に出ちゃった人だった。で、大変な連続殺人に発展していくという話なんです」 バイト君「これ、この写真が悪すぎるんですけど、チューズデイ・ウェルドって凄い可愛いんですよね」 町山店長「物凄い可愛いんです。実は当時25歳で1人の子持ちなんですが、童顔なので高校生役でも違和感ないです。チューズデイ・ウェルドは少女モデル出身で、アメリカでは1950年代にセブンアップの広告に出て大変な人気になったんですが、本人はステージママにコキ使われて、グレて、中学生くらいの年齢からセックスやアルコールで大変なことになっていました。子役の転落をそのまま絵に描いたような人で、最終的には母親と決別するんですが、そういった本人のドロドロの人生をそのまま反映したような怖い話なんですよ。 監督はノエル・ブラックという人で、残念なことにこれ1本なんですよ。今では天才と言われているんですけどね。単なるサスペンス映画ではなく、チューズデイ・ウェルドという『かわいい毒草』を、アメリカのポップカルチャーや、環境破壊の問題にまで広げている刺激的な作品です。これが今回の目玉です」 バイト君「で、この番組ですけど、前解説というのがあって、だいたいこんな映画ですよ、っていう、今いただいたお話のようなものが映画の前に付いて、そこから本編をご覧いただいて、本編が終わった後には後解説というのもあるんですよね」 町山店長「やっぱりネタバレになるから、映画の後半部についての解説は普通できないんですよね。映画の紹介は山ほどあるけど、ほとんど映画を見てない人向けの記事ですよね。でも、見た後の解説のほうが本当は重要なんですよ。映画の結末に作り手のテーマがあるわけだし。昔はテレビの映画劇場で、映画が終わった後、評論家が解説してくれましたが、今はそれがなくなっちゃいましたからね。だから、この番組ではそれを復活させようと。「で、この映画は何だったの!?」という疑問に答えていこうと思いますので、是非ご覧ください!」■
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NEWS/ニュース2018.12.06
★イベントレポート★『町山智浩のVIDEO SHOP UFO in 東京コミコン』映画『ミュータント・フリークス』を徹底解説!
ザ・シネマがお届けするオリジナル番組「町山智浩のVIDEO SHOP UFO」の公開収録が12月1日、幕張メッセで開催された「東京コミックコンベンション2018」(以下東京コミコン2018)コミコンステージで行われ、大勢の観客が詰めかけた。 ビデオショップ店長に扮した映画評論家・町山智浩が、「今の時代、忘れられかけてしまっている、またはソフトでの鑑賞も困難になってしまっている、しかし大変素晴らしい映画」という条件で作品を厳選、その映画を自ら解説するという本番組。東京コミコン2018で行われた今回の収録は「町山智浩のVIDEO SHOP UFO in 東京コミコン2018」と題して、町山店長がLAより幕張に1日限りの出張開店をするというコンセプトで実施された。 © 2014 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved. 『ミュータント・フリークス【町山智浩撰】』番組情報はコチラ 今回紹介する、幻のカルト映画『ミュータント・フリークス』(ザ・シネマで12月20日(木)に放送)は、元国民的子役だったリッキーたちが、見世物小屋の興行師に監禁されてしまうさまを描き出すブラック・コメディー。「ビルとテッド」シリーズで、キアヌ・リーヴスと共演したアレックス・ウィンターが、トム・スターンとともに共同監督を務めている。この映画のレアさについて町山は「この映画は1993年に作られたんですが、アメリカではNYとロスでひっそりと劇場公開されて、その後は封印されてしまい、劇場公開はされていません。その頃、日本では松竹富士という配給会社が公開しようとして、『東京国際ファンタスティック映画祭』などで上映されましたが、それっきりです。それ以降、少なくとも日本ではDVDになりませんでした」。 本作はハリウッドの大手映画会社20世紀フォックスが制作。キアヌ・リーヴス、ブルック・シールズというトップスターをはじめ、特殊メイクにスクリーミング・マッド・ジョージ、ストップ・モーション・アニメーション界の巨匠デヴィッド・アレンなどそうそうたるスタッフ、キャストが参加した。それにもかかわらず、封印されてしまった。実は観てみると非常に楽しくてバカバカしい映画なんですね。まずとんでもないのが、キアヌが最初から最後までずっと画面に出ているのに、どこに出てるか分からないということ。そして美人女優だったブルック・シールズがとんでもない役をやっているということ。映画が会社が期待する売りを全部破壊するというとんでもない内容だったんです。超大物たちが集まってものすごくバカな映画を作った」という説明に会場も興味津々。 だがそれが逆に話題となり、その後は知る人ぞ知る映画としてカルト化していった。この日の客席にも、キアヌ・リーヴスふんするドッグボーイのコスプレをしたファンの姿もあり、本作がファンに愛されている様子がうかがい知れた。「このようにフィギュアも発売されるほどの人気を集めたんですが、(関係者は)誰もこの映画のことを大切にしなかったため、フィルムが紛失してしまったんです。でも最近になってどこかでプリントが発見されたのでDVDが発売されることになったというわけです」とその経緯を解説する。 そして「この映画を今、見直してみると実に後生の映画に影響を与えているなということが分かると思うんです」と続けると、「例えばロブ・ゾンビの『マーダー・ライド・ショー』なんて、この映画とコンセプトが一緒ですよね。それから、この映画に出てくる、ひげを生やした女性は『誰が何と言おうが、これがわたしだから』と言うんです。最近も、ひげを生やしたレディーが『This is me』と歌う映画が大ヒットしましたよね。おそらくこの映画が、”あの大ヒット作”にも影響を与えているんだと思うんです。いい時代になりましたね」と笑ってみせた。 スペシャル応援団の犬男(※ご来場のお客様)さんとともに! ■公開収録後のミニトークショー! そして公開収録終了後は、会場内の「スカパー!」ブースに場所を移して、ミニトークショーを実施し、今後の放送予定作品を先取り解説した。こちらも多くの観客が詰めかけ、その解説に熱心に耳を傾けていたが、そんな観客に向けて「最近はネタばれということで、映画の後半部分の解説ができないんですよ。でも映画を観た後の解説というのは重要なんです。昔はテレビの映画劇場の解説はたくさんあったんですが、最近はなくなってしまった。だからこの番組でやってみようと思いました。観た後に、今のあれは何なのというところを解説したいと思います」とその重要性を語りかけた。 『ミュータント・フリークス』【町山智浩撰】番組情報はコチラ初回放送:12月20日(木) 深夜 01:15~ 『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』の番組情報はコチラザ・シネマの視聴方法はコチラ
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NEWS/ニュース2018.11.27
いよいよ、今週末開催!12月1日(土)『町山智浩のVIDEO SHOP UFO in 東京コミコン』
ザ・シネマが、「東京コミックコンベンション2018」の「スカパー! 」ブース内に各専門チャンネルとともに共同出展し、ザ・シネマのオリジナル番組『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』を、12月1日(金)に同イベントのメインステージにて14:15~15:00に公開収録を敢行します! 公開収録では、かつて東京国際ファンタスティック映画祭など一部で上映されただけの幻の映画『ミュータント・フリークス』(ザ・シネマで12月20日(木)に放送)を映画評論家の町山智浩さんが圧倒的知識量で徹底解説します!ぜひ、ご来場ください!※映画本編は上映しません。『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』の番組情報はコチラ『ミュータント・フリークス』の番組情報はコチラ 当日はメインステージの後に、「町山智浩さんのミニトークショー!」をスカパー!ブース(E-026)にて15:30~16:00(予定)に行います。12月1日は町山さんのトークを、メインステージでの公開収録、スカパー!ブースでのミニトークショー!と2度お楽しみいただける貴重な一日です!また、ザ・シネマのブースでは番組『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』の世界観を展開!番組特製クリアファイルを11月30日~12月2日の三日間、無料配布します。(※数に限りがございます。)ぜひ、お立ち寄りください。 ■『町山智浩のVIDEO SHOP UFO in 東京コミコン2018』開催日時:12月1日(土)14:15~15:00(予定)開催場所:東京コミコン 2018 メインステージ会場MAPはコチラ観覧料金:東京コミコン 2018 入場料金のみ ※当日の事故・混乱防止のため、イベントではさまざまな制限を設けさせていただくことがあります。予めご了承下さい。※イベント内容は予告なく変更する場合がございます。※場内でのカメラ(携帯カメラ含む)・ビデオによる撮影、録音、及び動画撮影は固くお断りいたします。(撮影補助機材の使用も禁止致します)※当日マスコミ・メディアの取材・撮影が入る場合がございます。予めご了承ください。※番組用以外に、記録用、情報発信(オフィシャルSNS等)のため、スタッフが映像・写真の撮影をする場合がございます。※撮影内容は、お客様がうつり込む可能性がございます。また、各種メディア等に掲載される場合がありますので、あらかじめご了承ください。※観覧席は状況により入場を制限させていただく場合がございます。 ■『町山智浩ミニトークショー』日程: 12 月 1 日(土)15:30~16:00予定場所:東京コミコン スカパー!ブース(E-026)「スカパー!」公式サイト:https://www.skyperfectv.co.jp/special/promo/tokyocomiccon/ ■東京コミックコンベンション 2018(略称:東京コミコン 2018)日程:11 月 30 日(金)、12 月 1 日(土)、12 月 2 日(日)場所:幕張メッセ ホール 9-11 (千葉市美浜区中瀬 2-1)主催 :株式会社東京コミックコンベンション、東京コミックコンベンション実行委員会公式サイト:http://tokyocomiccon.jp