最近は、犬しか友だちがいない殺し屋とか、ハリウッドで一人寂しくたたずむフィギュアとか、鬱なイメージのキアヌ・リーヴスだが、最初にブレイクした『ビルとテッドの大冒険』(89 年)では、陽気でカラッポな高校生テッド役だった。続編『ビルとテッドの地獄旅行』(91年)もヒットし、3本目が期待されていた93年にひっそりアメリカで公開されたのが、ビル役のアレックス・ウィンターが脚本・監督・主演の『ミュータント・フリークス』だった。フリークスとはトッド・ブラウニング監督『フリークス』(32年)のフリークス。というか、石井輝男監督『恐怖奇形人間』(69年)のお笑い版。こりゃ、ひっそり公開するしかないわな。

 ウィンター扮する映画俳優が、ランディ・クエイド扮するマッド・サイエンティストによって奇形人間に改造されてサーカスの見世物にされる、という話だが、中身は徹底的にデタラメ。フロッグマン(カエル男)という名で出てくるのは潜水夫(フロッグマン)だし、5秒ごとにくーだらないギャグの連続で最後までぶっ飛ばす。当時は世界最高の美女だったブルック・シールズが本人役で出ているが、これがまあトンデモない役で……。

 でも、スタッフは無意味に豪華。特殊メイクはスクリーミング・マッド・ジョージだったり、ストップ・モーション・アニメがデヴィッド・アレンだったり、主題歌はバットホールサーファーズやヘンリー・ロリンズやジョージ・クリントンやビル・ラズウェルだったり……。

 クレジットされてないが、相棒のキアヌもちゃんと出ている。犬少年役でずっと画面に映ってた。最後まで特殊メイクのままだが。それに、カウボーイ役で『ウィンターズ・ボーン』や『スリー・ビルボード』の渋いオヤジ役のジョン・ホークスも出ている。カウボーイといっても牛人間なのでやっぱりずっとメイクのままだが。

 今回、見直して驚いたのは、ロブ・ゾンビ監督の『マーダー・ライド・ショー』(03年)の舞台設定などに大きな影響を与えていること。それに、ミスターT扮するヒゲ令嬢が「これが私 This is me」と力強く言うシーン。そう、『グレイテスト・ショーマン』のヒゲ令嬢が歌う「ディス・イズ・ミー」はこれが原点だったのだ!絶対!いや、きっと、たぶん。

『ミュータント・フリークス』は長い間プリントが失われ、DVD出なかったが、最近発見されてカルト映画になった。アレックス・ウィンターは『ビルとテッド』3作目の製作を宣言。大スターになったキアヌは必ず出演すると誓っている。いい奴。■

(文/町山智浩)

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