日時:18年7月4日(水) 19時~19時30分

場所:サンシャイン水族館 サンシャインラグーン前

登壇者:リュック・ジャケ監督、上田一生氏(ペンギン会議研究員)

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司会:フランスからこの方が来日してくださいました、リュック・ジャケ監督です。そして、ペンギン博士こと上田一生先生にもお越しいただきました。

上田先生:皆さん、こんばんは。前作、12年前の『皇帝ペンギン』も字幕版、吹替版等の監修をさせていただきました。そのご縁で、今回もお手伝いをさせて頂くことになりました。ぜひ、ジャケ監督の素晴らしいお話を聞いていただきたいと思います。

ジャケ監督:皆さん、こんばんは。今日はおいでいただきまして、ありがとうございます。本来であれば日本語で皆さんにご挨拶したいのですが、日本語がわかりませんので、フランス語でのご挨拶にさせていただきます。今回、私の映画が再び日本で公開されることは、本当に私にとっては光栄なことです。今日、このように皆さんにお会いでき、素晴らしいこの水族館でお会いできて大変うれしく思います。

司会:再び『皇帝ペンギン』を撮ろうと思った理由をお聞かせください。

ジャケ監督:『皇帝ペンギン』の公開からこの作品に至るまで、3本の長編を作りました。2015年にパリでCOP21という地球温暖化パリ国際会議が開催され、南極の現状、皇帝ペンギンたちを取り巻く南極の動物たちの生態系などを会議期間中にライブで映像を提供するという機会がありました。

前作『皇帝ペンギン』の作品の中には、水中の映像がほとんど入っていません。いろいろな事情で水中撮影が不可能だったからなのですが、皇帝ペンギンたちは人生の半分を水の中で過ごします。その彼らの重要な大半の部分を、前作の中では表現することができなかったフラストレーションがずっと私の中にはありました。COP21の会議がきっかけとなり、今回再び南極に遠征してこの映画を撮ることになりました。

司会:上田先生は本作をご覧になってみて、どんなところに特に注目されましたか。

上田先生:ふたつあります。ひとつは、先日、日本語版のナレーションを担当した草刈正雄さんの収録に立ち合ってきました。収録中に感極まって、草刈さんが泣かれていました。親子の絆の物語というものは、相当強烈な印象を草刈さんに与えたんだなと思います。それが第一点ですね。

ふたつ目は、今監督がおっしゃった水中映像が素晴らしい。機械を取り付けて撮ったものではなくて、ダイバーが70メートルくらい潜って命がけで撮った映像。それからドローンの映像。今ドローンは一般的ですが、南極で特に皇帝ペンギンをドローンで追うというのはあまりなく、非常に立体的な作品になっています。今までは、南極に人間が立った視点が多いのですが、今回は非常にいろんな視点から皇帝ペンギンを見ることができる貴重な内容になっていると思います。

※上田先生が学長を務めるWEBサイト「ペンギン大学」では、草刈正雄さんのナレーション記事を掲載しています!

司会:監督が皇帝ペンギンにこだわり続ける一番の理由と、その魅力は?

ジャケ監督:どうして皇帝ペンギンに惹かれるのか、私も本当に知りたいと思いますが、まずは皇帝ペンギンたちの置かれている環境。都市にいる私たちには想像もつかないほどの環境の中に彼らはいます。非常に過酷な環境とも言えますが、それ以上に、彼らが生息している場所というのは、私たちが想像できないくらい広大でダイナミックな環境ですし、私たちが日常で静かだと思っている以上に、静寂した環境の中で彼らは生きています。そして、外観の美しさもさることながら、彼ら自身が持っている魅力というのは本当に独特なもので、他の何とも似ていないと思います。まずひとつは、彼らは人間を怖がらない。氷原の上で私たちがただじっと座っていたり、あるいは寝転がっていたりしていると、むしろ向こうから人間に近づいてきます。彼らは人との関係性について何も怖がることがないし、とても穏やかで、平和的な動物です。そういう意味でも、私は大変好きです。

司会:上田先生、皇帝ペンギンと他のペンギンたちとの違いはありますか?

上田先生:ペンギンはたくさんの種類がいるのですが、巣を作らないペンギンというのは、この皇帝ペンギンと王様ペンギンの2種類だけで、足の上に卵と雛をのせて子育てをします。王様ペンギンは縄張りにこだわりまして、卵や雛を抱いているときに、つつき合ったりして、よくケンカをします。ところが、映像をご覧いただくとわかりますが、皇帝ペンギンの場合は、その縄張り争いがほとんどない。ものすごい強風のブリザード、吹雪の中で、体温を守るために卵と雛を抱きながら身を寄せ合ってしている。そういう特別な行動を見せてくれる、特別なペンギンだと思います。

司会:前作は12年前になりますが、南極に再び訪れてみて変化は感じましたか?

ジャケ監督:私が初めて南極を訪れたのは1991年。最近訪れたのは2015年で、その間に何度か訪れていますが、行くたびに変化を感じます。訪れた1991年、2015年を比較してみると、その変化は非常に大きいと言わざるを得ません。皆さんもご存じだと思いますが、南極のアイスバーグが陸地から分離されてしまったという事実。そのせいで陸地も変形し、海の流れも変わりました。そして、氷の流れそのものが変わったということが、南極の景色を大きく変化させたことにつながっています。

あともうひとつ、本当に衝撃的だったのは、今回南極を訪れたときに雨を体験しました。今まで何回か言った中で今回が初めてです。雨が降ると、様々な弊害がありますが、特に雛に対しての弊害がとても大きい。雛の羽毛には防水機能がないんですね。ですから、濡れてしまった雛は凍死していくしかない。そういう中で、たくさんの雛たちが凍死してしまったということが、ここ数年の間に記録されています。

気象学者たちの研究によると、随分以前から1~2℃の気温変化は南極に大きな弊害を及ぼすとは言われていたんです。それが雨になって実際に雛たちの生死を決めたという状況の今、本当に想像以上に深刻な事態が起こっていると私は感じています。データによると、このままの気象状態が続けば、50年以内に南極の皇帝ペンギンたちは絶滅するだろうと言われています。この状況の中で私ができることは、この事実をたくさんの人に知らしめることで、多くの人たちの意識化を図るということ、それが今私に直接できることのひとつだと思っています。ペンギンたちにそのような大きな弊害が起こるということは、南極のペンギンたちにだけ起こっているだけでなく、私たちの環境にも大きな影響を及ぼしているということを、やはり皆さんに知ってほしいと思います。

司会:先生はどうようにペンギンたちの暮らしをお考えですか。

上田先生:本作中にも登場するアデリーペンギンという、南極で夏を中心に繁殖する巣を作るタイプのペンギンがいます。このアデリーペンギンが棲息している南極半島でも、今から十数年前から同じようなことが起こっています。雨が今は普通に降っているのですが、防水性のない羽毛の雛がそれによって体温を失って、多数死んでいます。南極半島にはもうアデリーはほとんどいなくなってしまった。似たようなことが今後、皇帝ペンギンでも起こり得るという、本当に深刻な事態になっていると思います。

司会:お二人ありがとうございました。監督、フランス語でペンギンのことは何と呼ぶのでしょうか。

ジャケ監督:「ペンギン」という言葉はあるのですが、あまりフランスでは使わずに、「Manchot(マンショ)」と呼びます。

司会:ありがとうございます。ここでペンギンクイズ。会場の正解者には本作の非売品プレスシートをプレゼントします。

第1問:日本で皇帝ペンギンは見られる?

第2問:世界には何種類のペンギンがいる?

第3問:サンシャイン水族館には、何ペンギンがいる?

※正解はページの最後で!

司会:リュック・ジャケ監督への質問を受け付けたいと思います。

質問1:12年の間に南極の変化というものはあったというお話は聞き、ペンギンの生態に変化はありましたか?

ジャケ監督:先程お話ししたのもひとつの顕著な例ですが、もうひとつ挙げるとしたら、陸の面積がすごく広くなったということ。何を意味するかというと、ペンギンたちの生活というのは氷原、要するに氷のサイクルに完全に依存しています。その氷のサイクルが狂ってくると、彼らに直接的な影響があるわけです。今、気候が温暖化することで雪が解ける。その解けた水が海水と混ざるというサイクルがあり、雪が解けると軟水になるのですが、軟水というのは海水よりも早く凍ります。ですから、冬になって水が凍りだすときに軟水が早く凍ってしまうので、氷原の面積が大きくなってしまう。ということは、生息地の彼らの場所から海までの距離も長くなってしまうということになります。海水と陸を往復しながら餌を取り、雛に餌を与える行為を繰り返す彼らにはより過酷なものになるし、雛たちも今まで以上に親鳥を待たなければならず、飢えに耐えられずに死んでしまう場合もあるということです。

質問2:南極にはどのくらいのスタッフの方で撮影に行かれましたか?

ジャケ監督:私たちは12名で遠征しました。そのうち5名が水中部隊のダイバーの方たち。あとの7名は、外での撮影をする人たち(ムービーカメラとスチールカメラ)。12名で一本の映画を撮影するにあたっては非常に小規模なチームになりますが、南極では12名の撮影隊は大きな規模と言えると思います。

質問3:今回の作品を仕上げるにあたりまして、一番苦労したことは何ですか。

ジャケ監督:最も大変だったのは、やはり水中での撮影。今回、70メートルの深さでの映像を撮影したのですが、恐らく世界でも初めての映像と思います。1回の潜水でだいたい6時間くらい潜ります。水温はマイナス1.8℃です。スタッフにとってはものすごいストレスですし、初めてのことなので本当に毎回危険を伴いました。持っていく機材や着るものなどに細心の注意を払い、小さな見落としが大きな事故につながります。そういう意味で、常に道具のチェック、機材のチェックを怠りませんでした。

司会:たくさんのご質問をありがとうございました。お時間となってしまいましたので、最後に、ジャケ監督から一言だけご挨拶をいただければと思います。

ジャケ監督:Merci beaucoup、ありがとうございました。

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皇帝ペンギン ただいま

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画『皇帝ペンギン』(05)の続編。最新鋭のデジタル4Kカメラとドローンを導入し、水温マイナス1.8℃のなか、南極海では史上初となる水深70mの水中撮影を敢行。透き通る南極海を飛ぶように狩りをする皇帝ペンギンの雄姿や、子供の羽毛に覆われている若いペンギンたちの初めての旅に密着し、厳しい自然の中で一生懸命に生きる彼らの姿と親子の絆を感動的に描き出す。

8月25日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、 新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!

監督:リュック・ジャケ   配給:ハピネット

2017 年/フランス/仏語/カラー/ビスタ/85 分/原題:Lʼempereur

© BONNE PIOCHE CINEMA ‒ PAPRIKA FILMS - 2016 - Photo : © Daisy Gilardini

▼ペンギンクイズの正解▼

第1問:日本で見られる。白浜アドベンチャーワールドと、名古屋港水族館で皇帝ペンギンの元気な姿が見られます

第2問:18種類(IUCNという国際自然保護連合で18種類。皇帝ペンギン、キングペンギン、アデリーペンギン、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、キタイワトビペンギン、ミナミイワトビペンギン、マカロニペンギン、ロイヤルペンギン、シュレーターペンギン、フィヨルドランドペンギン、フンボルトペンギン、ケープペンギン、ガラパゴスペンギン、マゼランペンギン、コガタペンギン、キガシラペンギン、スネアーズペンギン)

第3問:ケープペンギン

監督が携帯電話で撮影しているのが、ケープペンギンです。

皇帝ペンギンたちの美しい水中映像は必見です!親子で!お一人で!カップルで!是非ご覧ください■