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PROGRAM/放送作品
エル・ドラド(1966)
多勢に無勢でも悪に立ち向かう正義のオチコボレども…ジョン・ウェイン×ホークス監督の三部作最終章
ホークス監督が『リオ・ブラボー』で確立した西部劇の王道娯楽路線を踏襲、『リオ・ロボ』とあわせて“三部作”と呼ばれるに至った傑作。主演ジョン・ウェイン、本作では保安官役ロバート・ミッチャムの好演も光る。
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COLUMN/コラム2020.10.28
冷戦時代の 年代、月に人間を 送ろうとする宇宙計画を描く、 ロバート・アルトマン監督の 映画 デビュー作
今回お勧めする映画は、「ハリウッドから最も嫌われ、そして愛された男」ことロバート・アルトマン監督のメジ ャー・デビュー作『宇宙大征服』(68年) です。 アルトマンがSF映画なんか撮ってたの? と驚く人もいると思います。アルトマンの代表作は朝鮮戦争での医療部隊(略称がM.A.S.H)のデタラメぶ りを描いた『M★A★S★H マッシュ』(70年)と、カントリー音楽の殿堂テネシー州ナッシュビルに集まったミュージシャンとファンたちを描く『ナッシュビル』(75年)です。どちらもコメディで、アメリカを皮肉る群集劇です。 この『宇宙大征服』もアポロ計画に対する皮肉なんです。 1950年代から、アメリカとソ連(現在のロシア)は宇宙競争をしていました。どちらが先に月に人を送れるかを競い合っていたんです。ソ連のほうが先に有人宇宙船を打ち上げてしまって、アメリカは慌てて「ジェミニ計画」で追いかけましたが、出だしで遅れていました。で、ソ連に先んじるには、片道でいいから月にロケットで人を送ればいいという案が出ました。月から帰る方法はないけど、その後アポロ計画で迎えに来るまで月で暮らして待つという無茶な計画です。実行されませんでしたが、この『宇宙大征服』はそれを実際にやってしまう映画です。 主人公は2人の宇宙飛行士、ジェー ムズ・カーン扮するリーと、もうひとりはロバート・デュヴァル扮する現役空軍パイロットのチャイズです。チャイズは人類初の月着陸を目指していたんですが、政府が人類初の月着陸には民間人にさせるべきだと、リーを選んでしまいます。実際に月面に人類最初の一歩を残したアポロ11号のアームストロング船長もそうなんですよ。で、選ばれなかったチャイズはリーをいじめ抜きます。 『宇宙大征服』の前に、アルトマンは TVで第二次大戦ドラマ『コンバット』 (62〜67年)を演出していましたが、高視聴率にもかかわらず打ち切られてしまいます。反戦ドラマだったからです。 当時のアメリカはベトナム戦争に突入していたので、反戦的な内容が嫌われたんです。この『宇宙大征服』も宇宙競争という名の戦争の虚しさを描いています。 もともとアルトマンが原作の映画化権を自分で買ったのですが、アポロ計画で月ロケット・ブームだったので、ワーナー・ブラザーズがこの映画を欲しがって出資しました。でも、月面に取り残された主人公が絶望して終わるラストだったので、途中でアルトマンをクビにして、別の監督に希望のある結末を撮り直させました。 陰鬱な内容のため、『宇宙大征服』は興行的に失敗しましたが、今、観直すと、アポロ11号のアームストロング船長を描いた『ファーストマン』(2018 年)そっくりなんですよ。主人公が月に行くことを奥さんに黙っていて夫婦仲が破綻するところから、月に行くまでのシーンをコクピットに座る主人公しか写さず、飛んでいく宇宙船を見せないところまで。デイミアン・チャゼル監督は明らかに『宇宙大征服』を参考にしていますよ! (談/町山智浩) MORE★INFO.●ロバート・アルトマンは、ドキュメンタリー映画『ジェイムス・ディーン物語』(57年)で映画監督デビューし、第2作『The Delinquents』(57年/未公開)以後、気鋭のTV演出家として10年を過ごし、初めてメジャー・スタジオのワーナー・ブラザーズで映画監督に復帰したのが本作。 ●NASAは全面的に映画に協力・便宜を図り、おかげで映画は実際に初の月有人飛行を成功させる1年半前に公開された。●パーティ・シーンや高官たちが言い争う場面で、人物の会話をオーバーラップさせる、後にアルトマン作品のトレードマークとなる演出を、ラッシュで見て怒った当時のワーナー映画の代表ジャック・ワーナーはアルトマンをクビにし、映画を再編集してしまった。 ©︎Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)エル・ドラド(1966)【テレビ東京版】
多勢に無勢でも悪に立ち向かう正義のオチコボレども…ジョン・ウェイン×ホークス監督の三部作最終章
ホークス監督が『リオ・ブラボー』で確立した西部劇の王道娯楽路線を踏襲、『リオ・ロボ』とあわせて“三部作”と呼ばれるに至った傑作。主演ジョン・ウェイン、本作では保安官役ロバート・ミッチャムの好演も光る。
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COLUMN/コラム2020.02.26
幾度も「スピルバーグがまたやった」時代 「子供騙し」だからこそ愛された作品。『グーニーズ』
「スピルバーグがまたやった」 40代中盤以上の映画ファンなら、誰しもが耳にしたことがあるフレーズであろう。スピルバーグがプロデュースした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が、1985年12月に日本公開される際のプロモーションで、ガンガン流された惹句である。 2018年には、全世界での監督作品の総興行収入が100億㌦を突破した、史上初めての映画監督となったスピルバーグ。1946年生まれの彼がまだ30代だった1980年代前半は、その勢いというか、観客からの信頼度が、また格別なものであったように思う。 『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81)こそは、アメリカでの大ヒットに対して、日本での興行は不本意な結果となった。正月映画として公開されながらも、バート・レイノルズやジャッキー・チェンが出演する『キャノンボール』(81)の後塵を拝すという、まさかの結果に終わったのだ。 しかし翌年の『E.T.』(82)は、多くの方がご存知の通りの超特大ヒットとなった。アメリカ同様に日本でも、当時の興行記録を塗り替えたのである。 更に『レイダース』の続編『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)も、無事に大ヒット。前作の雪辱を果たす形となった。 この勢いは、クレジット上はスピルバーグがプロデュースのみを手掛けた、非監督作品にも及んだ。トビー・フーパ―監督の『ポルターガイスト』(82)、ジョー・ダンテ監督の『グレムリン』(84)なども、まるで「スピルバーグ監督作品」であるかのようなプロモーションが功を奏して、大ヒットとなった。 そして件の、「スピルバーグがまたやった」である。映画館に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観に押し寄せた観客たちの中には、監督がロバート・ゼメキスであることを知らない者が、山のようにいた。 そしてこの「スピルバーグがまたやった」というフレーズは、『バック…』のキャッチコピーであることを超え、その後のスピルバーグの監督作品や製作作品を紹介する際には、常套句として使われるようになったのである。 そんな『バック…』と、日本公開日が同じだったのが、やはりスピルバーグがプロデューサーとして参加した、本作『グーニーズ』である。アメリカでは、『グーニーズ』は85年の6月、『バック…』は7月の公開であったが、日本では共に、12月7日の封切。シネコン時代の到来前だったその頃、『バック…』は東宝系劇場、『グーニーズ』は松竹東急系劇場の、それぞれ正月興行のメイン作品として、大々的に公開された。 当時大学1年だった私は、『バック…』よりも、『グーニーズ』の方に高い期待を寄せていた。というのは、監督がリチャード・ドナーだったからである。 1930年生まれのドナーは、60年代に「拳銃無宿」や「トワイライト・ゾーン」などのTVシリーズで監督デビュー。70年代後半になると、『オーメン』(76)『スーパーマン』(78)といったメガヒット作を手掛け、一躍注目を集めた。 この2作品も大好きだが、私がドナー作品の中でも特に熱烈支持するのは、『サンフランシスコ物語』(80)である。ジョン・サヴェージ扮する主人公は、飛び降り自殺に失敗し、歩行が困難になった男。一度は人生に絶望した彼だが、心優しき仲間たちと出会い、その友愛によって救われていく。あざとい描き方は避けたヒューマンなタッチが、心に染み入る。 この素晴らしき作品が、日本ではなぜかVHSの昔より、1度もソフト化されたことがない。というわけで、81年の日本初公開時より後には、観た人がほとんどいない作品となってしまっている。出来ることならば、「ザ・シネマ」で放送権をお買い上げいただき、何とかオンエアしてもらえないだろうか? 余談はさて置き、ドナーは『サンフランシスコ物語』の後、『おもちゃがくれた愛』(82)『レディホーク』(85)を経て、スピルバーグとタッグを組んだ、『グーニーズ』へと至る。 私は幸いにして一般公開を前に、東銀座に在ったロードショー館「松竹セントラル」を会場にした、『グーニーズ』の試写会のチケットが当たった。そこでスピルバーグ×ドナーの組み合わせに大いに期待しながら、大スクリーンへと対峙したのだったが…。 舞台は、オレゴン州の港町アストリア。“グーニーズ”と名乗る、ティーンエイジの仲間たちがいた。ブランドとマイキーのウォルシュ兄弟に、マウス、チャンク、データの、男の子5人。ウォルシュ兄弟の家は、親の借金のカタに差し押さえられ、明日には立ち退かなければならない苦境に立たされていた。 そんな時5人は屋根裏から、海賊が隠した宝の地図らしきものを見付ける。その地図に従って宝探しに出掛けると、岬の潰れたレストランへと辿り着いた。 するとそこは、凶悪犯であるフラッテーニ一家のアジトになっていた。“グーニーズ”の後を追ってきた、アンディとステフという2人の女の子もメンバーに加えて、フラッテーニ一家の目を盗み、一同はレストランの地下から続く洞窟へと忍び込んでいく。 洞窟には海賊が仕掛けた、死のトラップが満載。しかも“グーニーズ”の侵入とお宝の存在を知ったフラッテーニ一家の、魔の手も迫ってくる。 果して“グーニーズ”は、海賊が隠した金銀財宝を手にすることが、出来るのか…!? ハラハラドキドキと言いたいところだが、『グーニーズ』初見の際、屋根裏から宝の地図が出てきて、その隠し場所がウチの近所…という展開に、まずは「おいおい」と突っ込みたくなった。その後の展開も一事が万事こんな調子で、ただただご都合主義としか思えず。大期待で試写に臨んだ一篇は、「あまりにも子ども騙し」のようで、私は相当にガッカリしたのである。 後日、同日公開のスピルバーグがプロデュースしたもう1作品、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を鑑賞。そちらは「とっても面白かった」だけに、『グーニーズ』の件は、ただただ残念であった。 『バック…』と『グーニーズ』は、共に製作費が1,900万㌦だが、興行のあがりは、大きく違った。『バック…』のアメリカでの興行収入は2億1,000万㌦、日本での配給収入が36億円であるのに対し、『グーニーズ』は、アメリカが6,100万㌦で、日本の配収は19億円。 『グーニーズ』も決して悪い成績ではないが、『バック…』は続編2本が作られ、それぞれ大ヒットを飛ばしている。『バック…』と『グーニーズ』でこうした差がついたのは、「出来の違い」と私には捉えられた。 こうして、私にとっては「至極残念」な作品となってしまった、『グーニーズ』。その後長らくは特に話題にすることもなかった。 ところが近年になって、10歳ほど年下の方々の話を聞いていると、『グーニーズ』の話が折々出てくる。曰く、「子どもの頃に、あんなにワクワクした作品はなかった」「ホントに楽しかった~」等々。 ネット番組などでご一緒することがある、NONA REEVESの西寺郷太氏も、そんな1人のようだ。彼が『グーニーズ』について語っている記事を見つけた。 西寺:『グーニーズ』はアメリカ公開が’85年夏で、日本が’86年度のお正月映画でした。僕もグーニーズたちと同年代の小学6年生だったということもあったのかもしれませんが、当時の空気まで呼び覚ませてくれるような気持ちを抱きますね… …僕ね、2012年に一度だけオレゴンに行ったことがあって。ジャクソンズの仕事で湯川れい子さんと一緒に。いざ、オレゴンってなると、思い浮かべた情景はもちろん『グーニーズ』… 西寺氏は1973年生まれ。あくまでも私の印象だが、初公開時に10歳前後だった、70年代中盤生まれに、“『グーニーズ』好き”のボリュームゾーンがあるように思える。 その世代だけが参加者だったわけではなかろうが、オレゴンのロケ地では、一時期“グーニーズ・ツアー”が大人気だったこともあるという。“『グーニーズ』好き”の人口は、私の想像を遥かに超えたところにあるようだ。 なぜこんな“ジェネレーション・ギャップ”のようなことが起きたのか?今回このコラムを書くに当たって、34年振りに全編を鑑賞してみて、わかったような気がする。 『グーニーズ』に登場するキッズたち=5人の男の子+2人の女の子は、それぞれのキャラクターが屹立しており、個性的だ。ある者は繊細、ある者は食いしん坊、ある者はエレクトロニクスおたく、またある者は男の子のことばっかり考えているといった具合にである。観客の中でも彼ら彼女らに世代が近い者は、7人の内の誰かに自らを投影して、同化できる。そしてそのまま、映画の中の冒険の旅に出掛けることが、可能になっている。 屋根裏で見つけた地図を頼りに、近場に宝探しに出掛けるといった、日常の隣り合わせに冒険がある卑近さ。これもまた、そうした観客を熱中させる仕掛けになっている。 元はスピルバーグが持っていた、「グーンキッズ」というストーリーのプランが、原案となった。少年時代にマーク・トウェインの小説に熱中し、海賊船や黄金探しの話に夢中だった、彼の少年時代そのものが原型であるという。 それを練り上げるパートナーとなったのが、後に『ホーム・アローン』(90)や『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)などを監督するクリス・コロンバス。スピルバーグとアイディアを出し合いながら、脚本化していった。 最終的に加わったのが、監督のリチャード・ドナー。スピルバーグは自分よりも16歳年長で、『グーニーズ』製作時にはすでに50代中盤だったドナーについて、「図体ばかりでっかい困った子ども」「絶対に成長しない。ピーターパンを地でいってる」「“グーニーズ”の仲間の中じゃ、彼がいっとう幼い」などと表現している。もちろんこれは、『グーニーズ』のメガフォンを取る仲間に対しての、最大級の賛辞なのであろう。 さてそんな『グーニーズ』である。初公開時から35年来、“続編”を待望する声が鳴りやまず、何度か企画が動きかけたこともあったが、結局は実現していない。 “グーニーズ”を演じた面々の内、スターになったと言えるのは、メンバーでは最年長だったジョシュ・ブローリンのみ。すでに芸能界に居ない者もおり、再集結も難しいのかも知れない。またリチャード・ドナー監督も、今年の4月には90歳。2006年以来、監督作品を撮っていない。 こうなると少なくとも、元の座組での“続編”というのは、ほぼ不可能に思える。ところがそれを揺るがすようなニュースが飛び込んできた。 『グーニーズ』以降の代表的なドナー作品と言えば、やはり『リーサル・ウェポン』シリーズ(87~98)。ドナーが全4作で製作・監督を担当し、世界的なヒットとなった、バディものの刑事アクションである。 22年振りとなるそのPART5が、監督を含めたオリジナルメンバーで、現在動き始めているという。64歳のメル・ギブソン、73歳のダニー・グローヴァ―という主演コンビに、90歳監督による刑事アクションとなると、「ホントかな?」という気持ちが正直拭えない。 しかし73歳となったスピルバーグが、77歳のハリソン・フォード主演で撮る、『インディ・ジョーンズ5』が、間もなくクランクインと伝えられている。 スピルバーグ、ドナー共に、それぞれに人気シリーズの復活で勢いをつけてから、『グーニーズ』続編へ雪崩れ込んでいただくのも、また一興かなという気がしている。■ 『グーニーズ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
ミザリー
熱狂的な愛読者に監禁された小説家の恐怖を描いた、スティーヴン・キング原作サイコ・スリラーの傑作!
モダン・ホラーの巨匠スティーヴン・キングの原作を『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナーが監督した血も凍るサイコ・スリラーの傑作。熱狂的な愛読者を演じたキャシー・ベイツはアカデミー主演女優賞を受賞。
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COLUMN/コラム2019.10.28
リチャード・ラッシュ監督が観客のモラルに挑戦した大量破壊アクション・コメディ
『フリービーとビーン/大乱戦』は、元祖『リーサル・ウェポン』(87年)のバディ・ムービーです。サンフランシスコを舞台に、ジェームズ・カーン扮する荒くれ刑事のフリービーと、アラン・アーキンが演じるあんまりやる気のない、家庭のほうが大事な中年刑事のビーンがケンカしながら事件を解決していくアクションコメディです。こういう凸凹刑事ものっていっぱいありそうで、実はこの『フリービーとビーン』の前にはなかったんですね。この映画の前は、刑事のバディものといえば、この番組で紹介した『ロールスロイスに銀の銃』(70年)くらいしかなかったんですね。 まず、この映画、とにかくカーチェイスが凄まじい。この数年前に『ブリット』(68年)で刑事に扮したスティーヴ・マックイーンがサンフランシスコで凄まじいスピードのカーチェイスを見せて、ハリウッドで刑事アクションのブームが起こりました。でも、この『フリービーとビーン』はスピードよりも数で勝負なんです。もう70台以上の車をスクラップにします。つまり『ブルース・ブラザース』(80年)の元祖なんですよ。 しかも、その撮り方がえぐい。例えば白いバンが高いところから落ちてグシャッとつぶれるところで、わずか2メートルくらい離れたところに人がいるんですよ。その人のすぐ横にバーンって落ちるんです、車が。危ねぇだろ(笑)!! 当時、コンピュータ・グラフィックスとかないですから、本当にそれをやってるんですよ。 それだけじゃない。『フリービーとビーン』はとんでもない暴力刑事です。カーチェイスや銃撃戦に周囲の一般人を平気で巻き込んで行きます。チアリーダーを車ではね飛ばし、普通の人のアパートの寝室に車で突っ込み、看護婦を間違って撃ってしまいます。それどころか、トイレに追い詰めた敵に二丁拳銃で何十発もの弾丸を撃ち込んで文字通り蜂の巣にします。ふざけながら。そんな残酷シーンをギャグとして演出してるんですよ! 監督はリチャード・ラッシュ。ハリウッドの異端の人で、独立プロデューサー、ロジャー・コーマンの下で、暴走族もの『爆走!ヘルズ・エンジェルス』(67年)を作り、学生運動を描いた『…YOU…』(70年)で注目された、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けた、左翼、反体制、ヒッピー系の監督です。 その反権力の人がなぜ、国家権力による暴力をジョークとして撮影したのか。ラッシュ監督自身がインタビューで答えているんですけど、当時のベトナム戦争であるとか、刑事映画ブームであるとかの、映画や現実にあふれているバイオレンスそのものを茶化したかったというんですよ。「観客は笑いながら、笑っているうちに、自分が笑っていることにゾッとする」そういう映画を撮りたかったと。ところが当時はこの実験は強烈すぎた。流れ弾で看護婦さんが血だらけになるのを観て笑えないですよ。 ただ、80年代に入ると、ジョエル・シルバー製作のアクション映画が暴力で笑わせる映画を作り始めます。『48時間』(82年)、『ダイ・ハード』(88)、そして『リーサル・ウェポン』ですね。で、そこからクエンティン・タランティーノが『パルプ・フィクション』(94年)で人の脳みそを吹き飛ばしてギャグ扱いするわけですが。『フリービーとビーン』は早過ぎたんです。タランティーノも『フリービーとビーン』に影響されたと言っています。 観ていて非常に困る映画ですが、それは、作り手の狙い通りです。これは観客のモラルに対する挑戦ですから。ある程度覚悟をしてご覧ください。俺に苦情を言わないでくださいね。作ったのは俺じゃないからね(笑)! ということで、今では考えられない、とんでもない映画ですよ!■ (談/町山智浩) MORE★INFO.●脚本は当初、コメディ要素のない“バディ・ムービー”だったのだが、スタッフと主演の2人が協議してアクション・コメディとなった。だが監督は、カーチェイスばかりに重点を置いていたため、主演の2人は「撮影をボイコットするぞ」と監督を脅したという。●主人公の刑事たちが使う車は、1972年型の白いフォード・カスタム500の警察車用インターセプター・セダン。スタントに使われたのは、廃棄された警察車両が1ダース以上。これはそのまま『ダーティハリー2』(73年)にも使われている。●同時期に撮影されていた『破壊!』(74年)との競合を避けるため公開時期を74年の春からクリスマスに変更した。●主演2人が続投し、監督にアーキンを迎えた正式な続編の企画があったという。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
ゴッドファーザー 【デジタル・リストア版】
非情なマフィアの世界とファミリーの絆を重厚に描く、映画史に輝く大河ドラマ・シリーズ第1弾
マリオ・プーゾのベストセラー小説を、フランシス・フォード・コッポラ監督が重厚かつ緻密な映像美によって映画化したシリーズ第1弾。アカデミー賞作品賞・主演男優賞(マーロン・ブランド/辞退)・脚色賞を受賞。
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COLUMN/コラム2019.09.27
自由を求めたコッポラ監督が設立した「ゾエトロープ」で自由自在に撮った“自分探しの旅”
今回はフランシス・フォード・コッポラ監督の『雨のなかの女』という1969年の映画です。コッポラが設立した製作会社ゾエトロープの第1回作品です。それまでのハリウッドの映画会社によるシステムから離れて、完全に独立のプロダクションを立てて映画を作ったんですね。『雨の中の女』のヒロインは、シャーリー・ナイト演じる専業主婦ナタリーで、ある日突然、母親になって家庭に埋没していく人生が嫌になって、夫に黙って車に乗って家出します。そして、ニューヨークからペンシルバニア、ウエストバージニア、テネシー州のチャタヌガ、ケンタッキー、ネブラスカ……というルートであてもなくアメリカを放浪していくロードムービーです。 『雨の中の女』はキャスティングの段階から、学生時代のジョージ・ルーカスが密着してメイキングを撮影し、今でもYouTubeで観ることができます。それを観るとわかるのは、撮影隊がヒロインと実際に旅をしながら、その場でロケハンをして、即興的にシーンを作っていく方法で撮られたことです。つまり、『雨の中の女』は、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(60年)のような、自由で実験的な映画なのです。 コッポラは、ゴダールに代表されるフランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響を強く受けて映画を撮り始めましたが、ハリウッドのメジャーであるワーナー・ブラザースに雇われて、『フィニアンの虹』(68年)というミュージカル映画を作らされてショックを受けました。とにかく撮影所の年老いたベテラン・スタッフが頑固で言うことをきかない。何十年もやってきた撮り方を固守するから、映像がどうしても古臭いんです。 もうハリウッドはダメだ、と思ったコッポラは自分の映画スタジオを立ち上げて、低予算で自由気ままに撮ることにしました。それが『雨の中の女』です。 ヒロインはコッポラ自身の母親をモデルにしています。だからイタリア式の結婚式の回想が入るんです。イタリア系の家庭は男尊女卑がひどくて、特に1950年代まで、女性は専業主婦として、家事と子育てする以外の人生がなかった。それでコッポラの母親は「私って何?」と絶望して家出したそうです。モーテルに一泊しただけで、あきらめて家に帰ったそうですが、『雨の中の女』のヒロインは愛を求めてアメリカの南部や中西部に入っていきます。 彼女はヒッチハイクしていた、たくましい元フットボール選手(ジェームズ・カーン)を拾います。カーンはコッポラの大学時代の友人なのでキャスティングされたんですが、実際に元フットボール選手です。夫以外に男を知らないヒロインは野性的なカーンと一夜の情事を体験しようとしますが、できません。カーンは試合中の事故で脳が壊れていたのです。 次にヒロインは優しい白バイ警官(ロバート・デュヴァル)を好きになりますが、彼も思っていたのとは違う男でした。 原題の「レイン・ピープル」とは、雨に流されて消えてしまう人々、涙でできた悲しく孤独な、この映画の登場人物たちを意味します。 自分自身を探してさまようヒロインには、ハリウッドをはぐれて自由を求めながら、この映画を撮影するコッポラ自身が重ねられています。 『雨の中の女』は興行的には成功しませんでしたが、この映画のジェームズ・カーンとロバート・デュヴァル、それにイタリア式結婚式が、コッポラの代表作『ゴッドファーザー』(72年)につながっていったのです。 ということで、巨匠コッポラの原点、『雨の中の女』、ぜひ、ご覧ください!■ (談/町山智浩) MORE★INFO.●シャーリー・ナイト演じるナタリーは妊娠している設定だったのは、ナイトが実際に妊娠していたから。●ロバート・デュヴァル演じるゴードンが失った妻を回想するが、その妻を演じたの監督夫人エレノア(ノー・クレジット)だった。●フィルム・スクールを卒業したてのジョージ・ルーカスが撮影に密着して、後にこの撮影風景を短編『Filmmaker』(68年)に仕上げた。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
(吹)ゴッドファーザー 【デジタル・リストア版】
非情なマフィアの世界とファミリーの絆を重厚に描く、映画史に輝く傑作シリーズ第1弾
マリオ・プーゾのベストセラー小説を、フランシス・フォード・コッポラ監督が重厚かつ緻密な映像美によって映画化したシリーズ第1弾。アカデミー作品賞・主演男優賞(マーロン・ブランド/辞退)・脚色賞を受賞。
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COLUMN/コラム2017.08.15
みんな大好きポルノをオンライン決算で見やすくしたアダルト業界のイノベーターに肉薄〜『ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち』〜8月17日(木)ほか
■冒頭にピーウィー・ハーマンも登場する 恐らく劇中に下半身ネタが満載されているのと、スター不在のせいで、日本では劇場未公開となった『ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち』を観ると、そんなインターネット創生期のカオスがひしひしと伝わって来る。時代はまさにソーシャルメディアが劇的に変化しようとしていた1997年。例えば、それ以前にポルノ映画を自宅で鑑賞しようと思ったら、レンタルビデオ店に足を運ぶか、(海外からこっそり持ち込むか@日本)、製作元から直接取り寄せるか、しかなかったはず。よくもまあ、そんな面倒臭いことができたもんだと思う。仕方がない。みんな大好きなんだから。映画の冒頭に誰だってポルノを観ながらオ○ニーするのが大好きというコーナーがちゃんと用意されているし。コーナーの最後を飾るのは、ポルノ映画館でオ○ニーしているのが見つかって逮捕され、社会復帰後、時代に関係なく特にアメリカでは絶対×の児童ポルノ所持で再逮捕されたオ×ニー大好きセレブ、コメディアンのピーウィー・ハーマンことポール・ルーベンスだ。 ■オンライン決算のパイオニアはアダルトだった? さてそこで、立ち上がった直後のネット上にポルノ画像専門のサイトを開設し、有料での閲覧を思いつくのが、物語の言わば発起人である元獣医のウェインと元科学者のバックの2人組。堅気の人生を送るのはそもそもかなり難しい享楽的ジャンキーの2人だったが、システムに精通していたバックが"オンライン・カード決済システム"をたったの15分でプログラミングしたことで、上がりは一気に100万ドル超え。このシステムのおかげで、地球上の男たちは誰にも知られず、何ら手を煩わせることなく、ワンクリックで視聴料を決済するだけで、各々が好みの女性(または男性)、好みのプレイにアクセスできるようになったわけだ。実話にインスパイアーされたという本作だが、アダルト産業に革命をもたらした男たちの成功と、必然的に訪れる挫折のプロセスを描く上で、どこまで事実を踏襲しているかは定かではない。しかし、"オンライン・カード決済システム"を最初に導入したのはアダルト産業だったとも言われていて、着眼点は下半身を見据えている分、ある意味鋭い。同時期に公開され、比較された『ソーシャル・ネットワーク』(10)のFacebookに匹敵するメディア革命を扱った野心作、という見方だってできそうだ。 ■『ソーシャル・ネットワーク』とはここが違う その『ソーシャル・ネットワーク』は、開発したシステムがセンセーショナルで想定外の巨額マネーを生んでしまったばっかりに、若者たちの人間関係がマネーゲームに取り込まれ、破綻していく様子を描いて、そこはかとない虚しさを漂わせていたのとは違い、『ミドルメン』はアダルトだけに裏社会もの。かなり血生臭い。ユーザーからの注文でオリジナル動画を製作しようと、ロシアン・マフィアが経営するストリップ・クラブに入り浸り、そこでマフィアとの契約を破って窮地に陥った2人組を助けるために、弁護士を介してこのカオスに加わることになる実業家、ジャックを主軸に、これ以降の物語は進んでいくことになる。 ■成功依存症に二日酔いはないってか? 最初はポルノになど関わりたくなかったジャックだったが、オンラインシステムの導入でビジネスが一気に巨大化した時、顧客とポルノ業者の間を取り持つ仲介業(=ミドルメン)を発案。それが大成功を収めたためにもはや後戻りできなくなる。本来は真面目で家族思いのジャックが、金と権力と女を手にした途端、何かに憑かれたように浮き足立っていく様は、終始喧噪の中で展開する物語の中で、妙に胸に突き刺さる部分。男として望むものをすべて手に入れた状態に依存し、それが異常であることに気づかないジャックは、モノローグの中でそんな自分をこう振り返る。「この依存症に二日酔いはないのが怖い」と。成功とは、現実に直面する不快な翌朝は決して訪れない、永遠に続くかに思われる祭のようなものかも知れないと、この独白からは想像できる。本作に製作者として関わり、ジャックのモデルとも言われているクリストファー・マリックなる人物が、虚実入り乱れた物語の中に注入した数少ない真実が、もしやコレなのではないだろうか? ■プロデューサーもアダルト業界も変わった! 因みに、『ミドルメン』に引き続き、同じジョージ・ギャロ監督と組んでセルマ・ブレア主演のクライムミステリー『Columbus Circle』(12)を製作する等、映画プロデューサーとしての人生も開拓してしまったマリックは、その傍らでしっかり仲介業は続けているとか。どうやら、祭は場所と形を変えてしぶとく続いているようだ。 ところで、アダルト産業はさらに状況が変化している。レンタルDVDは勿論、PCでのオンデマンド視聴も減少の一途を辿り、今やスマホでポルノを見るのが主流になって来ている。アダルトサイトの"Pornhub"によると、女性の視聴者が年々増加しているとか。思えば、こんなジェンダーフリーの時代に、『ミドルメン』で描かれるような女性は見せる側、男性は見る側という区分は、過ぎ去った前世紀の遺物になりつつあるのだ。 ■ルーク・ウィルソンが"下ぶくれ"過ぎ ジャック役のルーク・ウィルソンを見て、それがルーク・ウィルソンだと気づく人は少ないかも知れない。そうでもないか。だが、かつて、ウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)に兄のオーウェン・ウィルソンと出演し、ドリュー・バリモアやグウィネス・パルトロウと交際していた頃のイケメンぶりはどこへやらの"下ぶくれ顔"には、正直どん引きである。だからこそ、見方を変えれば巻き込まれ型のジャックを演じるのに、彼のヌーボーとしてつかみどころのないルックは効果てきめんだったとも言えるのだが。 ■76歳のロバート・フォスターが脇で渋い!! 地味だが脇役がけっこう充実している。ジャックにハイエナの如く付きまとう初老の弁護士、ハガティを演じるジェームズ・カーンを筆頭に、FBI捜査官役のケヴィン・ポラック、ギャング役のロバート・フォスター等は、各々1960年代から2000年代にかけて、長くハリウッド映画を支えてきたベテランたちだ。世代によって、記憶を刺激する顔は違ってくると思うが、特にアメリカン・ニュー・シネマの隠れた傑作『アメリカを斬る』(69)で、人種差別の実態を追求するTVカメラマンを演じて以来、76歳の今も現役バリバリのフォスターにシビレる人は多いはず。今現在、フォスターは『アメリカを斬る』から数えて79作目になる長編映画『What They Had』で怪優、マイケル・シャノンと共演中だ。これが日本では劇場未公開にならないことを願うばかりだ。日本にもコアなファンが多いマイケル・シャノンだから大丈夫だとは思うが。■ Middle Men © 2017 by Paramount Pictures. All rights reserved.