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COLUMN/コラム2019.04.24
【ロッキー一挙放送記念コラム:長谷川町蔵さん】「やれるまでやる」スタローンはそう教えてくれた。
小学校のころ入っていたブラスバンド部で、『ロッキー』のテーマを練習させられたことがある。担当は太鼓だった。なぜトランペットを選ばなかったのか覚えていないけど、ビル・コンティによる勇壮な曲調に釣られてテンションを上げまくって、ドカドカと叩きまくった記憶がある。 当時はまだ『ロッキー2』までしか公開されていなかった頃だから、トレンドに相当敏感な選曲ではある。でも『ロッキー』のテーマは小学生に人気があったし、演奏映えがするから楽譜が全国に出回っていたのだろう。『ロッキー』が教育的観点から支持されていた可能性もあるかもしれない。たとえ倒れても立ち上がるロッキーのネバー・ギブアップ精神は、部活を運営する側にとっても都合がいいからだ。 やれるまでやる。部活の顧問でもないのにシルベスター・スタローン=ロッキー・バルボアはこうした教えを40年以上にわたって僕らに説き続けてきた。 そもそも生まれつき顔の左側が麻痺して表情や発音が万全とは言い難い人物が、俳優を志すだろうか? 身長が170センチ代半ばにもかかわらずヘビー級ボクサー役を自ら演じて世に出ようとするだろうか? でもスタローンはやってみせた。製作会社からスター俳優を起用すればヒット間違いなしと勧められても、主演に拘って低予算で『ロッキー』を作り上げたのだ。 同作の大成功によってスター俳優になったスタローンは、『ロッキー2』『ロッキー3』『ロッキー4/炎の友情』とリングで戦い続け、製作費と興行収入は膨れあがっていった。その一方で作品の評価が下降線を描いていったのも事実だ。 「俺と戦った時のお前は“虎の眼”をしていた」 『ロッキー3』でアポロがロッキーに語るこうしたセリフは、スタローンによる自分への問いかけだったかもしれない。かくして完結篇として構想された『ロッキー5/最後のドラマ』でスタローンはロッキーにフィラデルフィアの街角で若手ボクサーとストリート・ファイトをさせた。原点回帰だ。だがこの決着は観客に支持されないまま、シリーズは幕を閉じることになる。普通の人間ならここで諦めるところだろう。 しかしスタローンは諦めなかった。26年後の『ロッキー・ザ・ファイナル』で老齢にさしかかったロッキーに第一作と同じような練習やファイトをさせることによって、別の原点回帰を行なわせたのだ。結果、同作は執念が生んだ偉大なる完結編として絶賛された。 これで終わり。誰もがそう思って久しかった頃、スピンオフ作『クリード チャンプを継ぐ男』への出演がスタローンの魂に再び火を付けた。『ロッキー3』のラストでは描かれなかったロッキーとアポロふたりだけの試合の結果を重要なモチーフに掲げた同作の成功は、彼に正統な評価を得られなかった過去作のリベンジを行うアイデアをもたらしたのだ。 かくしてスタローンが脚本家に復帰した『クリード 炎の宿敵』は、『ロッキー4/炎の友情』の後日談をベースにしながら、『ロッキー2』における妻の出産や『ロッキー3』における持久戦に弱いライバルの存在など、過去作のモチーフを積極的にリサイクル。加えて『クリード』では影が薄かったロッキー・ジュニアまで再登場、『ロッキー・ザ・ファイナル』で十分に書き込めなかった父子の物語にケリをつけている。この傑作によって、ロッキーシリーズの全作品は映画ファンに肯定されるものになった。 スタローンがインタビューで「『クリード 炎の宿敵』の続編が製作されてもロッキーは登場しないだろう」で語っているのは、<やれるまでやる>を貫いてやり遂げた自分に達成感を感じているからにちがいない……いや、またやる気になっても、それはそれでオッケーなんだけど。 特集の記事はコチラ番組を視聴するにはこちら © 1985 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved© 1990 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2019.04.24
【ロッキー一挙放送記念コラム:松崎まことさん】「もういいよ~」を乗り越えて… 『ロッキー』シリーズの40年余
「もういいよ~」を乗り越えて… 『ロッキー』シリーズの40年余 「もういいよ〜」 そのニュースを耳にして、思わず口に出してしまった。『ロッキー』シリーズの続編というかスピンオフとして、『クリード』という作品の製作が報じられた時だ。 主役が、アポロの息子!? ロッキーのライバルであり親友だった、あのアポロ・クリードの息子が主人公で、しかもロッキーも登場するって…。うわ、そんな蛇足みたいな話やっても、面白くなるわけないじゃん。やめてよ~と、心の底から思った。 思えば『ロッキー』(1976)と出会ったのは、シリーズ第1作が日本公開された、1977年の4月。私は中学に入学したばかりで、映画を猛然と見始めた頃だった。 主人公は、30代になっても芽が出ない、三流ボクサーのロッキー・バルボア。しかし偶然の成り行きから、偉大なるチャンピオンとして君臨する、アポロへの挑戦権を得る。 お馴染み「ロッキーのテーマ」に乗っての特訓やアポロとの壮絶なファイトなど、燃えるシーンも多々あるが、私が忘れられないのは戦いの前夜、ロッキーが恋人のエイドリアンに、訥々と語る“想い”。 「もし最終15ラウンドまでリングの上に立っていられたら、自分がただのゴロツキではないことが証明できる」 イジめに遭うなど暗い小学生時代を経て、中学という新しいステージに立ったばかりの自分に、このセリフはいたく響いた。自らシナリオを書いた『ロッキー』で、それまでの無名の存在から一気にスターダムを駆け上がった、シルベスター・スタローンのリアルストーリーも重なって、生きていく上で大切な何かを教えられた気がした。 それからの『ロッキー』シリーズは、『ロッキー2』(1979)『ロッキー3』(1982)…と、ほぼリアルタイムで追い続けたが、実は『クリード』以前にも、「もういいよ~」という思いを抱いたことがある。第1作から、ちょうど30年後の2007年4月に日本公開となった第6作、『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)のストーリーを聞いた時だ。既に60代に突入していたスタローンが演じる50代のロッキーが、カムバックを決意。現役の世界チャンピオンと戦う…。 現実世界では1990年代中盤に、ジョージ・フォアマンが45歳で世界チャンピオンの座を奪い、48歳まで現役を続けたというケースがある。しかしいくら何でも、“50代”のロッキーのファイトなんて…。 だが、観ねばなるまい。『ロッキー4/炎の友情』(1985)『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)の2作に正直辟易する部分が多かったこともあって、そんな義務感込みの醒めた気持ちで、16年ぶりのシリーズ最新作『…ファイナル』を迎えた。ところが、この作品が素晴らしかった!シリーズのお約束を踏襲しながらも、最愛の妻エイドリアンを亡くし、ひとり息子とも疎遠になっているロッキーが、“50代”にして戦う意味を明確に打ち出している。 元世界チャンピオンの偉大な父親にコンプレックスを抱き続けている息子に、ロッキーが言う。 「人生ほど重いパンチはない。それでも、どんなに強く打たれてもずっと前に進み続けることだ。そうすれば勝てる」 鑑賞時40代前半になっていた私は、ちょうど“放送作家”という、長年の稼業の曲がり角に近づきつつあった頃。『…ファイナル』には、中坊の時に第1作を観た時と同じく、いやそれ以上に大きく感情を揺さぶられた。改めて、スタローンに打ちのめされてしまったのである。 さて、それから更に9年を経ての『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)。アポロの血を継いで闘いの炎を燃やすアドニスと、そんなかつての親友の息子の師匠となったロッキーの物語。それぞれに孤独を抱えた同士が、力を合わせてファイトに望んでいく中で、徐々に“家族”のような絆で結ばれていく…。 嬉しいことに『クリード』は、『…ファイナル』に続いて、またこちらの予想を大きく裏切ってくれた!ほぼ無名の新人だったライアン・クーグラー監督が持ち込んだ企画を、スタローンが受け入れたことからスタートしたこの作品で、クーグラー監督と主演のマイケル・B・ジョーダンは、ハリウッドで大注目の存在になった。そんな展開も第1作を彷彿とさせ、10代から50代になるまで、このシリーズを観続けてきた私の心をギュッと掴んだ。 改めてスタローンのキャリアを振り返ると、『ロッキー』以外にも、『ランボー』や『エクスペンダブルズ』のようなヒット作はある。でも結局は、40年以上に渡って演じ続けている“ロッキー”なのである!『クリード 炎の宿敵』(2018)も大ヒットを収めた今、こうなったらいのちの炎を燃やし続ける限りは、スタローンにはロッキー・バルボアを演じ続けて欲しいと、熱烈に希望する! 特集の記事はコチラ番組を視聴するにはこちら © 2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2019.04.24
【ロッキー一挙放送記念!コラム:なかざわひでゆきさん】ファンと共に成長してきた『ロッキー』シリーズ40年の歩みを振り返れ!
記念すべき第1作目『ロッキー』(’76)の誕生から、既に43年の歳月が経つ。売れない無名の3流ボクサー、ロッキー・バルボアが、苦悩と葛藤の末に悲願の成功を手に掴む。まさしくサクセス・ストーリーの王道と呼ぶべき本作が、なぜ今もなお世代を超えて熱烈に愛され、数々の続編やスピンオフが製作されるほどの人気を獲得しているのか。それは本作が根本的に、いつの時代も色褪せることのない「持たざる者たちへの応援歌」だからに他ならないのではないかと思う。 物語の冒頭、ボクサーとしてそれなりの才能がありながらも実力を伸ばせず、ヤクザな高利貸しの用心棒として生計を立てる自分を「ゴロツキ」と自嘲するロッキー。なぜなら、恵まれない環境に育った自分自身を、その程度の価値しかない人間と思い込んでいるからだ。それはなにもロッキーだけに限ったことではない。恋人エイドリアンも親友ポーリーも、さらに言えばコーチのミッキーもそうだ。貧しいスラム街の惨めな生活に慣れてしまった彼らは、どうせ財産もコネも学歴もない凡人の自分に明るい未来など望めないと諦めている。
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NEWS/ニュース2019.04.23
竹原慎二さん特番放送へのコメント到着!動画あり! 「ロッキーから勇気や希望をもらうんじゃないですかね」 番組「『クリード チャンプを継ぐ男』「ロッキー」放送記念:竹原慎二の選択」 ザ・シネマにてGW最終日5/6(火・休)放送! 竹原慎二さんの格言付き直筆サイン入り色紙をプレゼント!
洋画専門CS放送ザ・シネマとBS4K放送ザ・シネマ4Kは、令和元年のゴールデンウィーク最終日に、 「ロッキー」シリーズ全6作品とCSベーシック初放送の『クリード チャンプを継ぐ男』を一挙放送いたします。放送にあわせ元ボクサー・竹原慎二さんのインタビュー特別番組の放送が決定! この度、特別番組の放送を記念し竹原慎二さんにインタビューを行いました。 山あり谷ありロッキーさながらの人生を過ごしてきた、竹原さんが語る自身の半生と、『ロッキー』への熱い想いがこもったインタビューとなりました。 そして竹原さんの格言付き直筆サイン入り色紙をプレゼントキャンペーンも実施します。 「ロッキー」シリーズと『クリード チャンプを継ぐ男』の一挙放送とあわせてお楽しみください! ■元WBA世界ミドル級王者・竹原慎二、「『ロッキー』は勇気や希望をもらえる作品」 ★ 竹原慎二さんインタビュー!特別番組「『クリード チャンプを継ぐ男』「ロッキー」放送記念:竹原慎二の選択」 40年以上もの間、多くの人に勇気と希望を与えてきたシルヴェスター・スタローン主演の映画「ロッキー」シリーズ。ザ・シネマとザ・シネマ4Kでは、その「ロッキー」シリーズ全6作と、ロッキーのライバルであり親友だったアポロの息子アドニス・クリードを主人公にした新章「クリード」シリーズの第一弾『クリード チャンプを継ぐ男』(CSベーシック初放送)を5月6日に一挙放送する。この放送にあわせて、元WBA世界ミドル級王者・竹原慎二さんが自身の半生について大いに語った特別番組「『クリード チャンプを継ぐ男』「ロッキー」放送記念:竹原慎二の選択」も放送される。少年時代から、ボクシングとの出会いで人生を変えて世界王者になった竹原氏。人生を変えた父の言葉。上京。世界戦への挑戦。また、近年は癌との過酷な戦いなど……。数々の困難にも、不屈の精神で立ち向かってきた竹原氏は、まさにリアル・ロッキーとも言うべき存在だ。竹原氏自身はその言葉に「単に不良だったとか出来損ないだった、という点が一緒だというだけでしょ」と笑ってみせるが、それでも氏の言葉は多くの人の心を揺さぶるハズだ。 ★竹原慎二さんコメント 「ロッキー」シリーズは、幼少時からビデオや映画館などで観てきたという竹原氏。 <竹原さん> 「現役の時も、試合前に自分を奮い立たせるために『ロッキー』を観ていました。本当に感動や夢、すべてをくれる映画。僕の場合は高校にも行けなくて。夢も希望もなかったんですけど、そういう僕みたいな奴らが『ロッキー』や「あしたのジョー」なんかを観て、夢を抱いていたんです。ボクサーになれば、この現状を変えられるかもしれないと。今の子はどうか分からないですが、僕らの頃は、ほとんどのボクサーが『ロッキー』を観て感動していたと思いますよ」。 しかし今回の企画に挑むにあたり、改めて「ロッキー」シリーズを鑑賞し直してみたところ、その印象に変化があったという。 ■『クリード チャンプを継ぐ男』&「ロッキー」シリーズ特別番組情報 『クリード チャンプを継ぐ男』「ロッキー」放送記念:竹原慎二の選択放送日:5月6日(月・休) 20:45~/5月18日(土) 20:45~元ボクシング世界王者・竹原慎二氏。リアル・ロッキーが「ロッキー」シリーズと自身の半生を語り尽くす! 番組情報はコチラ 番組を視聴するにはこちら ■「『クリード チャンプを継ぐ男』「ロッキー」放送記念:竹原慎二の選択」 放送記念プレゼントキャンペーン! ★竹原慎二さん格言付き直筆サイン入り色紙を3名様にプレゼント! ザ・シネマのWEBサイトプレゼントページより応募ください。※ザ・シネマの会員「ザ・シネマメンバーズ」へ会員登録(無料)が必要です。応募期間:2019年4月23日(火)~2019年5月31日(金) プレゼント応募先ページはコチラ 番組を視聴するにはこちら
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COLUMN/コラム2016.04.20
軽妙なヒッチコック風ジャンルミックス映画を、時代を代表するコメディ俳優ゴールディ・ホーンとチェヴィー・チェイスの好相性が輝かせる〜『ファール・プレイ』〜
図書館で働くバツイチ女子グロリア(ゴールディ・ホーン)は、ドライブ中にスコッティと名乗る男を拾う。成り行きで一緒に映画を観る約束をさせられるが、映画館内で再会した時には彼は既に息も絶え絶え。「用心しろ、ドワーフに」と謎の言葉を残して絶命してしまう。 驚くグロリアは映画館の支配人を呼ぶが、座席に戻った時には何故か死体は消えていた。 それ以来、彼女は白スーツのスナイパーに追われるように。助けを求めるグロリアだったが警察からは逆に不審者扱いされる始末。唯一、信じてくれた刑事は、かつて彼女をナンパしたことがあるイイ加減男のトニー(チェヴィー・チェイス)だった。やがて一連の事件の裏に、アメリカ訪問中のローマ教皇を暗殺する陰謀が横たわっていることを二人は知るのだが ……。 大学の卒業制作に、あの『ハロルドとモード』(71年)の脚本を書き、そのままハリウッド・デビューを果たした逸話を持つ才人コリー・ヒギンズが、『大陸横断超特急』(76年)で試した手法をさらに発展させたのが『ファールプレイ』である。その手法とは、コメディ、ミステリー、ロマンス、サスペンスといった様々なジャンル映画の要素をヒッチコック・タッチのもとでミックスさせるというもの。 その証拠に、本作の舞台は『めまい』の舞台であるサンフランシスコ。ほかにも『ダイヤルMを廻せ!』や『知りすぎていた男』といったヒッチコック作品へのオマージュがふんだんに盛り込まれている。 こうしたヒッチコックへのオマージュは、『殺しのドレス』 (80年)や『ボディ・ダブル』 (84年)といった同時代のブライアン・デ・パルマ作品にも見られるものだけど、『ファールプレイ』はいい意味でもっと軽い。 というのも、グロリアとトニーのやりとりはロマンティック・コメディ調だし、ふたりが複数の自動車を乗り継いでローマ教皇がオペラ鑑賞をしているオペラハウスに向かうシーンは、同じサンフランシスコを舞台にしたスティーブ・マックイーンの刑事アクション『ブリット』(68年)の様。ベテラン俳優バージェス・メレディス(テレビドラマ版『バットマン』のペンギンや『ロッキー』シリーズのトレーナー、ミッキー役で有名)がカンフーで敵と延々と戦うシーンが設けられるなど、同時代の流行への目配せも行き届いているし、何よりグロリアを演じているのがゴールディ・ホーンだからだ。 1945年生まれのゴールディは、ブロードウェイでのダンサーとしての活動を経て、伝説的なコメディ番組『Laugh-In』(68〜73年)にレギュラー出演したことで人気を獲得。映画進出作『サボテンの花』(69年)ではあの大女優イングリッド・バーグマンの恋敵役だったものの魅力で圧倒、ハジけた演技を披露してアカデミー助演女優賞をゲットしてしまった。この下克上的偉業において比較できるのは『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97年)におけるジュリア・ロバーツに対するキャメロン・ディアスくらいのものだろう。 70年代に入るとスティーヴン・スピルバーグの初の劇場作『続・激突!/カージャック』(74年)やハル・アシュビーの監督作『シャンプー』(75年)といった話題作に次々と出演。満を持して挑んだ主演コメディが『ファールプレイ』だったというわけだ。その後は制作総指揮を兼ねる形で『プライベート・ベンジャミン』(80年)や『アメリカ万歳』(84年)といったヒット作に主演。90年代半ばまで主演を張れるコメディ女優として活躍を続けた(彼女のポジションは娘のケイト・ハドソンがそのまま引き継いだ)。 そんなゴールディの相手役を本作でチェヴィー・チェイスが務めたのはある種の必然かもしれない。チェイスは『Laugh-In』の後継番組といえる『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』(75年〜)の初期レギュラーだったからだ(ついでに言うと『サボテンの花』は90年代『SNL』のレギュラーだったアダム・サンドラーが『ウソツキは結婚のはじまり』(11年)としてリメイクしている)。 そのチェイスのバイオグラフィーはとてもユニークだ。1943年ニューヨーク生まれの彼の本名はコーネリアス・クレーン・チェイス。そう、とても重々しいのである。それもそのはず、彼は重機メーカー、クレーン社の創業家の血を引く富豪一族のボンボンで、総資産は5000万ドルにも及ぶらしい。 なのにチェイスはロックンロールに夢中になり、バード大学ではスティーリー・ダンの前身バンドでドラムスを叩いていたという。その後、ソフトロック・バンド、カメレオン・チャーチのメンバーとしてメジャー・デビュー。しかし徐々にお笑いに関心を持ち始め、70年代に入るとパロディ雑誌「ナショナル・ランプーン」が始めたお笑いライブやラジオ番組で活動するようになった。これが認められて『SNL』スタート時にメンバーに迎えられたというわけだ。 現在も伝説として語り継がれる第1シーズンは、採用されるネタが殆どチェイスのものだったことから、彼の独壇場(あのジョン・ベルーシとダン・エイクロイドも脇に押しやられていた)。すぐさまハリウッドから映画出演のオファーが殺到したため、チェイスは最初の1年であっさり番組を降板(ちなみに彼の後任がビル・マーレーである)、今作がハリウッド進出第一作となった。 いかなる時でも余裕を感じさせる得難い個性は、アッパーなゴールディを包み込むかのよう。『昔みたい』(80年)で再共演したのも頷ける相性の良さだ。40代を迎えたあたりから急速にオッサン化し(しかしハングリー精神が薄いせいか、加齢と戦おうとはしなかった)なぜ『SNL』でダントツのスターだったのかが謎になってしまったチェイスだけど、本作では天下を取ったその魅力が伝わってくると思う。 そして『ファールプレイ』を語る上で欠かせない第三の存在が、ある時はバー、ある時はいかがわしい館、そしてオペラハウスにも登場する謎の英国人スタンレーを怪演するダドリー・ムーアだ。 1935年生まれと、ゴールディやチェイスより一世代上にあたる彼のキャリアは60年代初頭まで遡る。主演映画『悪いことしましョ!』(67年)もあったものの、意外にも本作がハリウッドへの本格進出作となる。 変態チックだけど愛すべき男である本作のスタンレー役で、成功への足掛かりを掴んだ彼は、ブレイク・エドワーズ監督作『テン』(79年)、そして『ミスター・アーサー』(81年)といったヒット作に立て続けに主演してトップ・スターとなったのだった。 しかしこの二作の彼はいずれもアルコール中毒の設定だった。ムーアの手足の動きがアル中のそれにしか見えなかったからだった。当初は、酒好きの本人すらそう思っていたというが、やがてこうした症状が進行性核上性麻痺という病が原因であることが判明した。 これが次第に日常生活にまで支障をきたすようになり、90年代以降は一線を退くことを余儀なくされたムーアは、長い闘病生活の末に02年に亡くなっている。本作こそがコンディションが万全だった頃のムーアの演技が観れる数少ない作品といえるだろう。 なお本作の監督のコリン・ヒギンズも『9時から5時まで 』(80年)など大ヒット作を放ちながら、88年にHIVで47歳の若さで亡くなっている。ムーアとヒギンズが病に倒れなければ、90年代以降のコメディ映画界はもっと華やかになったかもしれない。『ファールプレイ』は、そんなありえたかもしれない未来を妄想させてくれる映画でもあるのだ。■ COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.12.25
男たちのシネマ愛②愛すべき、味わい深い吹き替え映画(6)
なかざわ:その他のイチオシはどれでしょう? 飯森:「ファールプレイ」(注54)ですね。これは日曜洋画劇場でやったバージョンなんですが、ローカライズが魅力的なんですよ。日本ならではの味というか、日本語吹き替えにしか出せない味。オリジナルよりも面白くなっちゃったというパターンです。なぜなら、ダドリー・ムーア(注55)を広川太一郎(注56)さんがやっているから。もう明らかにオリジナルのセリフとは関係ないことをしゃべっているんです。 なかざわ:コメディーは特にそうだと思うんですが、笑いの文化って国によって全く違うじゃないですか。その国の生活様式であったり価値観であったりが色濃く反映されますから。それをそのまま日本に持ってきてもピンと来ないことが多いですもんね。 飯森:あくまで僕の個人的な感想ですけど、某動画配信サイトで提供している字幕版の「サタデーナイトライブ」(注57)なんかも、すごく期待して見たものの、僕みたいなリアルタイムのアメリカ事情に通じてないコッテコテの日本男児でおまけに英語弱者には、面白さがいまいち分かりづらいんですよ。 なかざわ:ユーモアって言葉の組み合わせや語呂合わせ、ニュアンスなんかから生まれたりするので、そもそもの構造が違う別言語に直接変換しても意味が伝わらないんですよね。 飯森:広川太一郎さんはいつもの調子ですよ。“選り取りみどり赤黄色”、ってギャグを言うんですけど、そんなこと英語で言っているわけがない(笑)。でも、直訳しても意味がないんですよ。結果的に面白ければいいじゃんというノリで作られた吹き替えなんです。 なかざわ:結果的に面白くて、なおかつ映画を壊してなければ全然構いませんよね。 飯森:若干壊しちゃっているんですけどね(笑)。ちょっとヤンチャが過ぎるというか。なんでもこの調子で笑い倒してしまうので、そのキャラクターじゃなくて広川太一郎が前面に出てきてしまう。特にコメディーリリーフ的な脇役をやると、全部かっさらっていくような目立ち方をするんです。だって、この映画だってダドリー・ムーアなんか殆ど出ていない。たったの3回しか出てこないんですよ。その全てに変な日本語ギャグを入れているおかげで、すごく面白い。でも異常に広川太一郎の印象が残ってしまう。 なかざわ:もはやそれはダドリー・ムーアじゃない(笑)。 飯森:なのでこれには賛否両論あるかもしれませんが、でも気に入らなければ字幕版を見ればいいんですから。僕は間違いなく字幕版より面白いと思いますね。ちなみに、キャラクターよりも前に出てきてしまうといえば、野沢那智さんもその傾向がありますよね。ただ、今回初めて野沢さん版の「ゴッドファーザー」を見たんですけど、パート1の音声を最初に聞いたとき、何度聞いても野沢さんに聞こえないの。しかも完全に違うんじゃなくて、野沢那智にすごく似ている普通の人がやっている感じなんです。ミスで違う音源が納品されたのかと確認しても、テープには’76年版と書かれているし、野沢さん以外のキャストは’76年版キャスト表と照らし合わせて間違いなく一致するので、恐らく間違ってはいないはずです。でも、これオンエアしたら音源間違いの放送事故になっちゃうんじゃないかと、いまだに若干ビビってるぐらいなんですが、こればっかりは確かめようがない。結局、100%裏を取れる確実な方法が実は無いんですよ。最後に頼れるのは自分の耳だけなんです。 なかざわ:ご本人も亡くなっていますしね。 飯森:それがね、パート3になると完全に野沢那智になってるんです。アクが強くなっているんですよ。僕らの知っている野沢さんです。誰が聞いても一発で野沢さんだと分かる個性がある。山寺宏一(注58)さんみたいにカメレオンのごとく声を変えられる方もいますけど、野沢さんは野沢那智調みたいな独特の節回しがあって、パート1とパート3を聴き比べると、それが後年になるに従って強くなっていたことが分かります。恐らく吹き替えに寛容ではない人が見ると、「これはもうアル・パチーノじゃない」ってなるんでしょうけれど、その一方で「よっ!野沢那智!」って期待している人もいますから、良きにつけ悪しきにつけだとは思いますが。いずれにせよ、パート1の頃はすごく抑えて演技をしていたんでしょうね。まだ独特のクセが生み出される前だったんだろうと。 なかざわ:声優として経験を積むことで、自分のスタイルを確立して行ったんでしょうね。 飯森:するとね、「ゴッドファーザー」にも別の物語が生まれるわけですよ。堅気の道を歩もうとした若者マイケル・コルレオーネ(注59)が、やがてマフィアのボスに登りつめる。一方で、ごくごく平凡な青年の声だった野沢さんが、パート3で年季の入ったボスを演じると途端にドスが効いているんです。 なかざわ:マイケルと野沢さんの成長がシンクロするんですね。 飯森:そうなんですよ。しかも、野沢さんも意図してやっているわけじゃないですから。そういう面白い見方もできるかもしれませんよね。 なかざわ:それは確かに意外な発見です。 ■字幕絶対派だのアンチ字幕派だのということ自体がナンセンス(飯森) 飯森:さて、最後にこれだけは言っておきたいということがあるんですが、よろしいですか(笑)? なかざわ:どーぞどーぞ。 飯森:うちのザ・シネマというのは東北新社がやっているチャンネルじゃないですか。東北新社というのは映像制作会社でCM作ったり映画作ったりCSチャンネル運営したりしてますけれど、そもそもの成り立ちは外国映画やドラマの日本語吹き替え版の制作なんです。なので、もともと吹き替えに強い会社なんですよ。 なかざわ:確かに、最初に東北新社さんの社名を覚えたのは、映画だかドラマだかの最後に出てくるクレジットだったと思います。 飯森:とはいえ、字幕も作っているんですよ。両方うちで作ってる。だから、字幕絶対派だのアンチ字幕派だのということ自体がナンセンスで、両方いいに決まっているじゃないか!というのがサラリーマンとしての僕の立場なんです。だから、そういう日本における吹き替え制作の歴史を踏まえたうえで、この「厳選!吹き替えシネマ」という企画をやっているということも、是非みなさんにお伝えしておきたいと思います。 (終) 注54:1978年制作。ローマ法王の暗殺計画に巻き込まれた女性と探偵を描いたヒッチコック風コメディー。ゴールディ・ホーン主演。注55:1935年生まれ。俳優。代表作は「ミスター・アーサー」(’81)や「ロマンチック・コメディ」(’83)など。注56:1939年生まれ。声優。ロジャー・ムーアやトニー・カーティスの吹き替えのほか、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の古代守役でも知られる。2008年没。注57:1975年から続くアメリカの国民的なバラエティ系コメディ番組。ジョン・ベルーシやビル・マーレイなど数多くの大物コメディアンを輩出している。注58:1961年生まれ。声優。ジム・キャリーやウィル・スミスなどの吹き替えで知られ、バラエティ番組などでも活躍している。注59:映画「ゴッドファーザー」三部作を通しての主人公。コルレオーネ家の三男として生まれ、普通の人生を送ろうとするものの、やがて家業を継いでボスになる。 『ゴッドファーザー』COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 『ゴッドファーザーPART Ⅲ』TM & COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED 『レインマン』RAIN MAN © 1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved 『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』©Channel Four Television/UK Film Council/Illuminations Films Limited/Warp X Limited 2012 『ファール・プレイ』COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.