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レディホーク
夜は狼になる騎士、昼は鷹になる令嬢──呪いを受けた恋人たちの復讐を描くファンタジー・アクション
アクション映画を得意とするリチャード・ドナー監督が、ファンタジー設定のロマンスに迫力満点の剣術バトルを織り交ぜて本領発揮。ルトガー・ハウアーとミシェル・ファイファーのカップルとしてのバランスも絶妙。
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COLUMN/コラム2020.08.06
血で血を洗うバイオレンスの応酬で描かれるデ・パルマ流ギャング映画『スカーフェイス』
ギャング映画の古典を現代にアップデート 劇場公開時は相当な物議を醸した作品である。ホラー&サスペンスの巨匠ブライアン・デ・パルマ監督にとって初めてのギャング映画。セックスとドラッグとバイオレンスが満載の過激な内容は、当時まだ高校生だった筆者を含めて若い世代の映画ファンからは熱狂的に受け入れられたものの、その一方で良識(?)ある評論家や大人たちからは眉をひそめられ、「不愉快だ」「冒涜的だ」「見るに堪えない」などと激しく非難された。そういえば、デ・パルマは『殺しのドレス』(’80)の時も同様の理由で叩かれまくったっけ。しかし、蓋を開けてみればどちらの作品も興行的には大成功。特に本作は、デ・パルマのキャリアにおいて『アンタッチャブル』(’86)や『カリートへの道』(’93)へと繋がる重要な通過点となった。今では映画史上最も優れたギャング映画のひとつに数えられている名作だ。 ご存じの通り、本作はハワード・ホークス監督によるギャング映画の古典『暗黒街の顔役』(’32)のリメイクに当たる。ストーリーの基本的な要素はオリジナル版とほぼ一緒。貧しい移民のチンピラが裏社会でのし上がり、一大犯罪帝国を築き上げて我が世の春を謳歌するものの、やがて金と権力がものをいう弱肉強食の世界に自らが呑み込まれて破滅する。恐らく最大の違いは、オリジナル版の主人公が禁酒法時代のシカゴで密造酒ビジネスを手掛けるイタリア系移民であったのに対し、本作の主人公トニー・モンタナはコカイン戦争真っ只中のマイアミを舞台に麻薬ビジネスで財を成すキューバ系移民であるという点であろう。 南米のコロンビアやボリビアから大量に密輸されるコカインが、深刻な社会問題となった’80年代のアメリカ。その入り口が常夏の避暑地マイアミを擁するフロリダ州であった。そして、そんなフロリダ州と海を挟んで目と鼻の先に位置するのがキューバ共和国。社会主義国家であるキューバは、当時まだアメリカと国交を断絶していたのだが、1980年4月20日に国家元首フィデル・カストロがアメリカへの亡命希望者に対してマリエル港からの出国を許可すると発表したことから、同年9月26日にマリエル港が閉鎖されるまでの5カ月間に渡って、実に12万5000人以上ものキューバ人がフロリダ州へと上陸した。その大半はカストロ体制を嫌う一般人や文化人だったが、中にはキューバ政府が厄介払いしたい犯罪者も含まれており、およそ2万5000人に逮捕歴があったとも言われている。本作はこうした当時の社会情勢をストーリーの背景として巧みに反映させており、ありきたりなリメイク映画とは一線を画する秀逸なアップデートが施されているのだ。 金もコネも学歴もないチンピラの成り上がり物語 物語の始まりは1980年の5月。マリアナ港から難民ボートでマイアミへ上陸した前科者トニー・モンタナ(アル・パチーノ)は、弟分マニー(スティーブン・バウアー)やアンヘル(ペペ・セルナ)らと共に難民キャンプへ強制収容されるものの、そこで麻薬王フランク・ロペス(ロバート・ロジア)の依頼を受けてカストロ政権の元幹部を殺害。その見返りとしてグリーンカードを取得し、晴れてアメリカ市民となる。 とはいえ、金もコネも学歴もないチンピラのトニーやマニーに出来る仕事と言えば、せいぜい飲食店の皿洗いが関の山。目の前で美女をはべらせ高級車を乗り回すスーツ姿のリッチなヤンキー男を眺めながら、俺だってああいう生活がしたい!こんなところで燻っていられるもんか!アメリカは誰にだってチャンスのある国じゃないか!と息巻くトニーは、持ち前の知恵と度胸とビッグマウスを武器に裏社会での立身出世を目論む。まず手始めにロペスの右腕オマール(F・マーリー・エイブラハム)から大口の麻薬取引代行を請け負ったトニーとマニー。ところが、お膳立てが整っているはずのコカインと現金の交換は、コロンビア人ギャングによる罠だった。 安ホテルでの壮絶な殺し合いの末にコカインを奪ったトニーだったが、しかし仲間のアンヘルが犠牲になってしまう。あのオマールって奴は信用ならない。ボスであるロペスのもとへコカインと現金を届けたトニーは、交渉の結果ロペスから直接仕事を引き受けることとなり、みるみるうちに裏社会で頭角を現していく。そんな彼を上手いこと利用するつもりでいたロペスだったが、しかしボリビアの麻薬王ソーサ(ポール・シェナー)との商談を独断で取りまとめ、自分の情婦エルヴァイラ(ミシェル・ファイファー)に公然と手を出そうとするトニーの大胆不敵な態度が目に余るように。このままでは自分の立場が脅かされる。そう感じたロペスは、殺し屋を差し向けてトニーを亡き者にしようとするも失敗。すぐさまトニーは仲間を集めて組織の事務所を襲撃し、ロペスだけでなく彼と癒着していた麻薬捜査官バーンスタイン(ハリス・ユーリン)をも殺害する。 かくして組織を乗っ取り新たなボスの座に君臨したトニーは、ソーサの強力な後ろ盾を得てビジネスを拡大していく。夢だった大豪邸も手に入れ、高根の花だったエルヴァイラとも結婚。貧しい暮らしをしていた大切な妹ジーナ(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)にも贅沢をさせられるようになった。しかし、他人を蹴落として頂点に登りつめた者だからこそ、いつどこで誰に足を引っ張られるか分からない。猜疑心を深めるトニーは自らも麻薬に溺れるようになり、やがてエルヴァイラをはじめ周囲の人々との間にも亀裂が生じていく。そんな折、脱税容疑で窮地に立たされた彼は、ソーサから依頼された仕事で致命的な判断ミスを犯してしまう…。 デ・パルマとオリバー・ストーンのコラボレーション これぞまさしくアメリカン・ドリームの光と影。社会主義国キューバからやって来た貧しい移民が、資本主義社会における競争の原理を実践したところ、束の間の栄光の果てに破滅の道を辿ることになるという皮肉。確かに主人公トニーは犯罪者という分かりやすい悪人だが、しかし果たして彼のやっていることの本質は、アメリカの富を牛耳る一部の資本家や銀行家、政治家などと大して違わないのではないか。脚本を手掛けたオリバー・ストーンは、裏社会の栄枯盛衰という極めてドラマチックなストーリーを通して、物質的な豊かさばかりを追求するアメリカ型資本主義の歪んだ価値観に疑問を呈する。そこには、過度な自由競争を促して格差社会を広げる、当時のレーガン大統領の経済政策レーガノミックスに対する批判も見え隠れするだろう。そういう意味では、この4年後にオリバー・ストーンが監督する『ウォール街』(’87)とテーマ的に相通ずるものがあるようにも思える。 とはいえ、あくまでも本作が前面に押し出すのは、人間の浅ましい欲望と欲望がぶつかり合うセックス&バイオレンスの世界。堕落した資本主義の成れの果てのような虚飾の裏社会で、札束とドラッグに溺れる人々が更なる富を求め、醜い殺し合いを繰り広げていく。その露骨で赤裸々なこと!おかげで、最初に監督として白羽の矢が立っていたシドニー・ルメットは降板してしまう。実はイタリア系移民というオリジナル版の設定をキューバ系移民に変更したのもルメットのアイディア。しかし、どうやら彼は政治的なメッセージ性の高い社会派映画を目指していたらしい。ところが、仕上がって来た脚本は『仁義なき戦い』も真っ青のストレートなバイオレス映画。どう考えたってルメットの柄ではない。 そこで代役に指名されたのがブライアン・デ・パルマ。『悪魔のシスター』(’72)にしろ、『ファントム・オブ・パラダイス』(’74)にしろ、はたまた『キャリー』(’76)にしろ、それまで手掛けてきた作品のジャンルこそ違えども、観客にショックを与えて物議を醸すような映画は彼の十八番だ。本作の監督としては適任。しかも、前作『ミッドナイト・クロス』(’81)が不発に終わったデ・パルマは、ちょうど映像作家としての新たな方向性を模索していた。なるほど、彼にとって本作は文字通り「渡りに船」だったわけだ。 血で血を洗うような凄まじいバイオレンスの応酬、成金趣味丸出しのけばけばしい美術セットや衣装、’80年代を代表するヒットメーカーのジョルジオ・モロダーによる煌びやかなダンス・ミュージックを散りばめながら、ハイテンションで突っ走っていくデ・パルマの演出。放送禁止用語のFワードだって226回も登場する。こうした下世話なまでのトゥー・マッチ感こそが本作の醍醐味であり、オリバー・ストーンの脚本が描き出そうとしたレーガノミックス時代のアメリカの醜悪さそのものだと言えよう。 ただ、改めて今見直してみると、当時さんざん非難された暴力シーンも実はそこまで残酷じゃない。例えば、安ホテルのバスルームを舞台にした有名なチェーンソー惨殺シーンだって、実際はほとんど何も見せていないに等しい。スクリーンに映し出されるのは、犠牲者の苦悶の表情と大量に飛び散る血糊、そこから目を背けようと必死にもがくアル・パチーノの姿だけ。それらの間接的要素を矢継ぎ早に畳みかけることで、観客は正視に耐えないような光景を直接目撃したように錯覚するのだ。これこそが演出の力、映画のマジック。近ごろの『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ハンニバル』のようなテレビ・シリーズの方が遥かに残酷だ。 そして、まるでイタリアン・オペラさながらのグランド・フィナーレ。屋敷へなだれ込んできた無数の殺し屋部隊を相手に、トニーが機関銃をぶっ放しまくる壮大な銃撃戦の圧巻なこと!オリジナル版の呆気ないクライマックスとは大違いだ。ちなみに、このシーンの撮影ではアル・パチーノが火薬を使って熱くなった小道具の銃に誤って触れてしまい、そのせいで左手に火傷を負ったことから、2週間の休養を余儀なくされたという。しかし、かといって撮影を中断するわけにもいかないため、その間にトニーと銃撃戦を演じる殺し屋たちをまとめ撮りしたそうなのだが、実はその際にスティーブン・スピルバーグが撮影に参加している。 スピルバーグとデ・パルマはお互いに無名時代からの仲間。かつて最初のハリウッド進出に失敗したデ・パルマは、大学時代の先輩である女優ジェニファー・ソルトとその親友マーゴット・キダーが同居するビーチハウスに半年ほど居候していたのだが、そこはマーティン・スコセッシやハーヴェイ・カイテルなどの若手映画人が将来の夢を語り合う溜まり場と化しており、その常連組の中にスピルバーグもいたのである。当初は見学だけのつもりで『スカーフェイス』のセットを訪れたスピルバーグだが、4台配置されたカメラのうち1台を彼が回すことになったという。ただ、具体的にどのカットがスピルバーグの撮ったものかはデ・パルマもハッキリと覚えていないそうだ。 ジョルジオ・モロダーの音楽とヒップホップ・カルチャーへの影響 もともとリメイクの企画を思いついたのはアル・パチーノ。かねてから『暗黒街の顔役』の評判を聞いていた彼は、たまたま通りがかったL.A.の名画座劇場で同作を初めて鑑賞したところ、主役を演じるポール・ムニの芝居にすっかり感化されてしまった。自分もトニー役をやってみたいと考えたパチーノは、『セルピコ』(’73)や『狼たちの午後』(’75)などで組んだプロデューサー、マーティン・ブレグマンに相談を持ちかけ、そこから本作の企画が始動したのだという。それだけに、トニー役を演じるパチーノの気迫は並大抵のものじゃない。賞レースではゴールデン・グローブ賞の主演男優賞候補のみに止まったが、むしろなぜオスカーから無視されたのか不思議なくらいだ。 そのトニーの相棒マニー役に起用されたのが、当時はまだ全くの無名だったスティーブン・バウアー。制作サイドの思い描いていたマニー像と驚くほど一致したため、実質的にオーディションなしの一発合格だったという。しかも、彼は3歳の時にマイアミへ移住したキューバ移民2世。これ以上望むことのない理想のキャスティングだったと言えよう。本作で一躍注目されたバウアーだが、しかしあまりにもマニー役のイメージが強すぎたせいで、その後のキャリアが伸び悩んだのは残念だった。それでもなお、現在に至るまで息の長い役者生活を続けているのだから立派なもの。テレビ『ブレイキング・バッド』で演じたメキシコ麻薬王役などは、この『スカーフェイス』あってこその仕事だったはずだ。 一方、裏社会の男たちに翻弄されるトロフィー・ワイフ、エルヴァイラ役のミシェル・ファイファーも好演。金と女と権力への欲望をたぎらせた男だらけのホモソーシャルな世界で、ただの性的なオブジェクトとしての役割しか与えられず、何か物申そうものなら「女のくせに」と頭ごなしでバカにされる。そんな屈辱的な日常を黙って受け入れているように見えつつ、次第に我慢しきれなくなり壊れていくエルヴァイラは、一見したところ地味に思えて実はかなり難しい役柄だ。当初、デ・パルマやパチーノが推したのはグレン・クローズだったそうだが、プロデューサーのブレグマンが最後まで粘ってファイファーをキャスティングしたという。これはどう考えたってブレグマンが大正解。動くバービー人形のようなミシェル・ファイファーでなければ全く説得力がない。 そのほか、ジーナ役のメアリー・エリザベス・マストラントニオにロペス役のロバート・ロジア、オマール役のF・マレー・エイブラハムにソーサ役のポール・シェナーと、脇を固める役者たちのどれもがはまり役。トニーの母親を演じるミリアム・コロンは、プエルトリコ系の有名な舞台女優で、『片目のジャック』(’61)と『シエラマドレの決斗』(’66)ではマーロン・ブランドと共演している。若い頃はえらく綺麗な女優さんだった。 なお、『フラッシュダンス』(’83)や『フットルース』(’84)の大ヒットにとって、オムニバス形式のサントラ盤ブームが巻き起こった当時だけあって、本作のサウンドトラックにも複数のアーティストが参加しているのだが、基本的に全ての楽曲でジョルジオ・モロダーが作曲・プロデュースを手掛けている。中でも要注目なのは、『アメリカン・ジゴロ』(’80)の主題歌でモロダーと組んだブロンディのリード・ボーカリスト、デビー・ハリーが歌う「ラッシュ・ラッシュ」。トニーが初めてディスコ「バビロン・クラブ」に足を踏み入れるシーンで使用されている。また、難民キャンプのシーンで流れるトロピカルなラテン・ナンバーを歌っているのは、『ダブルボーダー』(’87)や『バトルランナー』(’87)、『プレデター2』(’90)のヒロイン役で有名な女優マリア・コンチータ・アロンソ。実は彼女、もともと母国ベネズエラで歌手としてデビューしており、アメリカへ拠点を移してからも数々のラテン・ヒットを放っている人気ボーカリストだった。 そういえば音楽絡みの話題で忘れてならないのは、本作がその後のヒップホップ・カルチャーに少なからず影響を及ぼしていることだろう。アントン・フークアやイーライ・ロスといった映画人たちと並んで、ナスやリル・ウェインなど本作をこよなく愛し、自作でオマージュを捧げるラッパーが実は結構多いのだ。恐らく、社会の最底辺から裸一貫で成り上がっていくトニー・モンタナのストーリーに、我が身を重ねて共感するものがあるのだろう。■ 『スカーフェイス』(C) 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事
巨匠マーティン・スコセッシが19世紀社交界を舞台に許されぬ愛を描いた、大人のための恋愛文芸映画
ピューリッツァー賞受賞の同名小説をマーティン・スコセッシが映像化した恋愛文芸映画。19世紀を舞台に禁じられた男女の愛を描く。主演は『ギャング・オブ・ニューヨーク』のダニエル・デイ=ルイス。
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COLUMN/コラム2019.12.04
ティム・バートンがリメイクしたホラー・コメディのルーツを探る!
監督ティム・バートン×主演ジョニー・デップという黄金コンビの顔合わせで、200年の時を経て現代へ甦ったヴァンパイアの巻き起こす珍騒動を描いたホラー・コメディ『ダーク・シャドウ』(’12)。本作がかつてアメリカで一世を風靡したソープオペラ(昼帯ドラマ)「Dark Shadows」の映画版リメイクであることはご存じの映画ファンも少なくないと思うが、しかし残念ながら日本では未放送に終わっているため、オリジナルのテレビ版がどのような作品だったのかは殆ど知られていないのが実情だろう。 それでも一応、テレビ版のストーリーを再構築した劇場版として、リアルタイムで制作された映画『血の唇』(’70)および『血の唇2』(’71)は日本でも見ることが出来る。とはいえ、どちらも劇場用に新しく撮り直しをしたリブート版であり、キャストの顔ぶれこそテレビ版を踏襲しているものの、設定は改変されているし、演出スタイルも劇場用モードに切り替わっているので、必ずしもテレビ版の雰囲気や魅力をそのまま伝えるものではない。そこで、まずは原点であるテレビ版「Dark Shadows」の詳細から振り返っていこう。 伝説のゴシック・ソープオペラ「Dark Shadows」とは? ‘66年6月27日から’71年4月2日まで、全米ネットワーク局ABCの昼帯ドラマとして放送された「Dark Shadows」は、今も昔も王道的なメロドラマで占められる同時間帯にあって、『嵐が丘』や『ジェーン・エア』を彷彿とさせるゴシック・ロマン・スタイルを全面に押し出した唯一無二の作品だった。企画・製作を担当したのは、『凄惨!狂血鬼ドラキュラ』(’73)や『残酷・魔性!ジキルとハイド』(’73)などテレビ向けのホラー映画を幾つも生み出し、劇場用映画としては幽霊屋敷物の佳作『家』(’76)を手掛けたダン・カーティス監督。もともとカーティスはプライムタイム向けの企画としてテレビ局幹部にプレゼンしたのだが、当時3大ネットワークで最も昼帯ドラマの視聴率が弱かったABCは、いわば現状打破するための起爆剤として、本作を月曜~金曜までの週5日間、昼間の時間帯に放送される30分番組としてピックアップしたのだ。 ただし、当初はそれこそ『嵐が丘』の系譜に属する純然たるゴシック・ロマンで、後に本作のトレードマークとなるスーパーナチュラルな要素は皆無だった。だが、放送開始から2ヶ月経っても3ヶ月経っても視聴率は低迷したまま。番組の打ち切りも囁かれ始めた頃、カーティスは思い切った勝負に出る。ドラマに幽霊や魔物を登場させたのだ。ここから徐々に視聴率が上り調子となるものの、しかしまだ決め手に欠ける。そこでカーティスが切り札として用意したのが、200年の時を経て蘇った孤高の吸血鬼バーナバス・コリンズだった。このバーナバスの登場によって番組の人気に火が付き、それまで4%台だった視聴率も一気に倍へと跳ね上がった。中でもカーティスやネットワーク局にとって嬉しい誤算だったのは、昼帯ドラマとしては異例とも言える若年層への人気拡大だ。 とういうのも、中部標準時間で午後3時、東部標準時間では午後4時から放送されたこの番組、ちょうど子供たちが学校から帰宅する時間帯に当たったのである。通常、この時間帯はテレビを付けても子供たちが楽しめるような番組は殆どない。しかし実は、そこにこそ想定外のニッチなマーケットが存在したのだ。吸血鬼やら幽霊やら魔女やらが登場する番組のホラー風味はたちまち若年層のハートを捕え、劇場版の制作はもとよりノベライズ本やコミック本、ボードゲームにジグソーパズルなどの関連商品も発売されるほどのブームを巻き起こす。さらには、サントラ盤LPが全米アルバムチャートのトップ20内にランキングされるという、テレビドラマとしては史上初の快挙まで成し遂げた。ただ、この若年層における人気が結果的に番組の弱点ともなる。なぜなら、当時のテレビ業界において昼間の時間帯のスポンサーは、主婦層向けの家庭用品メーカーや食品メーカーが主流。若年層の視聴者が中心の「Dark Shadows」はスポンサー企業のニーズと合致せず、テレビ局はCM枠を埋めるのに苦労した。そのため、’68~’69年のシーズンをピークに視聴率が下がり始めると、たちまちキャンセルが決まってしまったのである。 さて、放送期間およそ4年、総エピソード数1225本という、気の遠くなるほど膨大なストーリーから、重要な要素だけをかいつまむと以下のようになる。 ①メイン州の古い港町コリンズポート。その郊外に広大な屋敷コリンウッドを所有する由緒正しいコリンズ家の家庭教師として、身寄りのない女性ヴィクトリア(アレクサンドラ・モルトケ)が着任する。女主人エリザベス(ジョーン・ベネット)を筆頭に、愛憎の入り混じる複雑な事情を抱えたコリンズ家の人々。謎めいた前科者バーク(ライアン・ミッチェル)やウェイトレスのマギー(キャスリン・リー・スコット)と親しくなるヴィクトリアだったが、やがてエリザベスの弟ロジャー(ルイス・エドモンズ)を巡る暗い秘密が明らかとなっていく。さらに、コリンズポートで殺人事件が発生。犯人に捕らえられたヴィクトリアを救ったのは、200年前に自殺した令嬢ジョゼットの幽霊だった。 ②コリンズ家を脅迫していた男ウィリー・ルーミス(ジョン・カーレン)が、先祖の遺体と一緒に埋葬された宝石類を盗もうとコリンズ家の霊廟を暴いたところ、200年前に死んだ吸血鬼バーナバス・コリンズ(ジョナサン・フリッド)を蘇らせてしまう。イギリスからやって来た親戚を装ってコリンズ家に接近し、自分の下僕にしたウィリーを手足として使うバーナバスは、たまたま見かけたマギーに一目で心を奪われてしまう。200年前に自殺した恋人ジョゼットと瓜二つだったからだ。マギーを自分と同じ吸血鬼に変えようとするバーナバスを、ヴィクトリアやエリザベスの娘キャロリン(ナンシー・バレット)が阻止。正気を失ったマギーの治療を任された医師ジュリア(グレイソン・ホール)は、吸血鬼の治療法を探ってバーナバスを人間に戻そうとする。 ③交霊会の最中にヴィクトリアが忽然と姿を消す。気が付いた彼女は、1795年のコリンウッドで家庭教師となっていた。まだ吸血鬼になる前のバーナバスは、恋人ジョゼット(キャスリン・リー・スコット)との結婚を控えていたのだが、これに嫉妬を燃やしていたのがジョゼットの召使アンジェリーク(ララ・パーカー)。実は強大な力を持つ魔女であるアンジェリークは、秘かに横恋慕するバーナバスとジョゼットの結婚を邪魔するべく、様々な呪いを駆使するものの失敗。そこで彼女はジョゼットを自殺へ追い込み、バーナバスを吸血鬼へと変えてしまう。 ④辛うじて現代へ戻ってきたヴィクトリア。すると今度はロジャーが姿を消し、カサンドラ(ララ・パーカー)という女性と再婚してコリンウッドへ帰還する。そのカサンドラの正体が魔女アンジェリークであると一目で気付くバーナバスとヴィクトリア。アンジェリークはバーナバスに復讐するべく再び呪いをかけようとする。 ⑤1897年へタイムスリップしたバーナバス。イギリスから訪れた親戚を装い、コリンズ家の若き跡継クエンティン(デヴィッド・セルビー)に接近するバーナバスだが、彼の正体に気付いたクエンティンは魔女アンジェリークを復活させる。さらには、フェニックスの化身ローラまで登場し、コリンウッドは次から次へと危機に見舞われることに。さらに、クエンティンはアンジェリークの呪いで狼男となってしまう。 ⑥パラレルワールドの現代へ迷い込んでしまったバーナバス。そこではクエンティンがコリンウッドの当主で、前妻アンジェリークと死別した彼はマギーと再婚する。また、ウィリーは売れない作家でキャロリンと結婚していた。吸血鬼として処刑されかけたバーナバスを、現実世界から現れた医師ジュリアが救出し、全ては魔女アンジェリークの企みだと明かす。 ⑦1995年へタイムリップしたバーナバスと医師ジュリアは、ジェラルド・スタイルズという幽霊の呪いでコリンズ家が滅亡したと知る。1970年へ戻った2人は、現代に輪廻転生したクエンティンと一緒に呪いを食い止めようとするものの失敗。辛うじて1840年へ逃げたバーナバスとジュリアは、この時代のクエンティンに復讐を企てる魔法使いザカリーが呪いの元凶と気付くが、そんな彼らの前に再び魔女アンジェリークが立ち塞がる。 …とまあ、ザックリとしたポイントを要約しただけでも、テレビ版「Dark Shadows」がどれだけ荒唐無稽かつ奇想天外なドラマであったかがお分かりいただけるだろう。脚本のセリフも大袈裟なら役者の演技も大袈裟。しかも、週5日放送のタイトなスケジュールであるため、撮影は基本的にワンテイクで済ませたため、セリフを間違えたり小道具が落下したりなどのハプニングもそのまま残されている。ストーリーが大真面目であればあるほど、意図せずして笑えるシーンが少なくない。それがまた、番組のカルトな人気に拍車をかけたものと思われる。 オリジナルのエッセンスを拡大解釈した映画版リメイク そんな往年の人気ドラマを21世紀に映画として復活させたティム・バートン監督の『ダーク・シャドウ』は、あえてオリジナルの「意図せずして笑える」という要素に焦点を絞ることで、いわばパロディ的なテイストのホラー・コメディとして仕上げている。そこがアメリカでも大きく賛否の分かれたポイントと言えるだろう。 物語は18世紀から始まる。水産会社を経営する大富豪の家庭に生まれ、イギリスからアメリカへ移住して育ったバーナバス・コリンズ(ジョニー・デップ)。しかし、火遊びをしたメイドのアンジェリーク(エヴァ・グリーン)が実は魔女で、その呪いによって最愛の恋人ジョゼット(ベラ・ヒースコート)は自殺を遂げ、バーナバス自身も吸血鬼に変えられて生きたまま地中へ埋められてしまう。 それから200年後の1972年。ある秘密を抱えた女性マギー・エヴァンズ(ベラ・ヒースコート)は、ヴィクトリア・ウィンターズと名前を変えてメイン州のコリンズポートへと到着し、今はすっかり没落したコリンズ家の家庭教師となる。その頃、近隣の森で工事業者が土地を掘り起こしていたところ、偶然にもバーナバスを復活させてしまった。初めて見る電光掲示板や車に戦々恐々としつつ、変わり果てた我が家コリンウッドへと戻ってくるバーナバス。召使ウィリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)に催眠術をかけた彼は、イギリスから来た親戚としてコリンズ家に身を寄せることとなる。 コリンズ家の末裔は誇り高き女主人エリザベス(ミシェル・ファイファー)と不肖の弟ロジャー(ジョニー・リー・ミラー)、エリザベスの反抗的な娘キャロリン(クロエ・グレース・モレッツ)、そして母親を亡くして情緒不安定なロジャーの息子デヴィッド(ガリー・マグラス)。さらに、主治医ジュリア・ホフマン(ヘレナ・ボナム・カーター)が同居している。早々に自らの素性をエリザベスだけに明かしたバーナバスは、秘密の隠し部屋に眠る財宝を元手にコリンズ家の再興を計画。ところが、そんな彼の前に立ちはだかるのが、今や町を牛耳る女性経営者となった不老不死の魔女アンジェリークだった…! オリジナル・ストーリーにおける①~③の要素を融合し、独自の設定を加味しながら2時間以内にまとめ上げた本作。最大の特徴は、オリジナル版のキャラ、マギーとヴィクトリアを1人に集約させている点であろう。キャロリンが実は狼人間だったという設定は、オリジナル版のキャロリンが狼男クリスと交際するというサブプロットに、⑤で描かれた祖先クエンティン・コリンズの運命を融合させたもの。ウィリーがコリンズ家の召使となっているのは、映画版『血の唇』で採用された新設定を踏襲している。テレビ版では最後まで活躍する名物キャラの女医ジュリアが、バーナバスを裏切って報復されるという流れも、『血の唇』で改変された新設定をなぞったものだ。そのほか、オリジナル版ではフェニックスの化身という魔物だったデヴィッドの母親が本作では息子を守る幽霊に、生まれ変わりを繰り返していたアンジェリークが不老不死にといった具合で、こまごまと変更された設定は枚挙にいとまない。 溢れ出んばかりの家族愛に燃えるバーナバスが、かつての栄光を再びコリンズ家にもたらすべく、一族の宿敵である魔女アンジェリークと壮絶な戦いを繰り広げるというのが物語の主軸だが、やはり最大の見どころは20世紀の現代社会についていけない時代遅れな吸血鬼バーナバスの巻き起こす珍騒動、そのバーナバスとアンジェリークによるトゥー・マッチな愛憎ドラマの生み出すシュールな笑いだ。お互いの持つ魔力がぶつかり合い、部屋中を破壊しまくる濃密(?)なラブシーンなどはその好例。善と悪の魅力を兼ね備えたバーナバスのキャラを含め、オリジナル版の拡大解釈とも呼ぶべきコミカルな味付けは、確かに賛否あるのは当然だと思うものの、しかしティム・バートン監督がテレビ版のカルト人気の本質をちゃんと見抜いた証だとも言える。 なお、オリジナル版の熱狂的なファンで、本作の監督にバートンを推薦したのが主演のジョニー・デップ。エリザベス役のミシェル・ファイファーも番組のファンで、リメイク版の企画を知ってすぐに自らをバートン監督へ売り込んだという。また、アリス・クーパーもゲスト出演するパーティ・シーンでは、オリジナル版のバーナバス役ジョナサン・フリッド、アンジェリーク役ララ・パーカー、クエンティン役デヴィッド・シェルビー、マギー役キャスリン・リー・スコットがカメオ出演。「お招きどうも」と挨拶して来場する男女4人が彼らだ。 ‘91年にリメイク版が全米放送されて話題となった「Dark Shadows」。’04年にも新たなリメイク版シリーズの企画が立ち上がり、パイロット版まで制作されたがお蔵入りとなった。生みの親ダン・カーティスは’06年に亡くなり、バーナバス役ジョナサン・フリッドも映画版完成の直後に急逝。当初予定された映画版の続編企画は立ち消えたが、先ごろワーナー・テレビジョンがオリジナル版の続編シリーズ「Dark Shadows: Reincarnation」の制作を発表したばかりで、シリーズのレガシーはまだまだ今後も続きそうだ。■ 『ダーク・シャドウ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
愛されちゃって、マフィア
マフィアの未亡人が危険な恋騒動に巻き込まれる!ジョナサン・デミ監督が軽妙に織りなすラブコメディ
ジョナサン・デミ監督がオスカー受賞作『羊たちの沈黙』の前作として手がけたオフビートコメディ。魔性の女を得意とするミシェル・ファイファーが、マフィアやFBI捜査官に愛される女性の騒動をキュートに魅せる。
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COLUMN/コラム2018.09.21
A級スターたちが集まって、ものすごく 馬鹿げたコントを見せる傑作コメディ『アメリカン・パロディ・シアター』
『アメリカン・パロディ・シアター』、1987年の映画です。 日本では劇場公開されずに、ビデオで発売されました。レンタルビデオブームの最盛期でしたね。50歳以上の人じゃないと覚えていないと思うんですけど、日本中、どこに行ってもレンタルビデオ屋さんがあった時代です。1985年から90年くらいにかけてなんですけど。 この映画にもレンタルビデオ屋さんが出てきます。“カウチポテト”といわれる、ソファに座ってビデオを観るのが流行った時代で、この映画はまさにカウチポテト族を対象にして作られた“レンタルビデオ用映画”なんです。監督はジョン・ランディス。『ブルース・ブラザーズ』(80年)や『アニマル・ハウス』(78年)という傑作を作ってきた、コメディの巨匠なんですけど、この人の出世作『ケンタッキー・フライド・ムービー』(77年)は、短いコントが脈絡なくつながっていく映画で、この『アメリカン・パロディ・シアター』も同じ形式のコント集です。 で、コント集ですから、何人かの監督が手分けをしています。たとえばジョー・ダンテ。『グレムリン』(84年)で世界的な大ヒットを飛ばした監督ですね。この人のいちばん最初の作品『ムービー・オージー』(68年・未)は、TVをずっと録画してて、それを編集して、コマーシャルや歌番組やドラマや映画をぐちゃぐちゃにつないで笑えるものに組み替えた、6時間もある自主映画でした。もちろん著作権を無視しているので、観ることはできないんですが、要するに当時の言葉でチャンネル・サーフィン、今でいうザッピングをそのまま映画にしたようなものらしいです。で、この『アメリカン・パロディ・シアター』という映画自体が、その『ムービー・オージー』と同じ構成なんですね。 深夜に何もやることがない人が、TVのチャンネルをカチャカチャ替えるのをそのまま映画にしたような。この、チャンネルをカチャカチャ替える感じというのも、若い人にはわからないかもしれないですけど(笑)。つまり、ジョン・ランディスとジョー・ダンテという2人のコメディ監督が、原点に戻って撮ったのが、この『アメリカン・パロディ・シアター』です。 まあ、バカバカしい映画ですけど、今でもまったく古びてない秀逸なギャグも多いです。ランディスが演出した「ソウルのない黒人」とか、ダンテの「人生批評」は傑作です。あと、あっと驚くような当時の大スターが特別出演してるのもポイントです!■ (談/町山智浩) MORE★INFO. 本作は85年に撮影され、86年には完成していたが、ランディス監督の『トワイライトゾーン/超次元の体験』訴訟(ヴィク・モローが撮影中に事故死した事件)が長引いたため、アメリカ公開は87年になった。冒頭のパニック映画風なメイン・テーマは巨匠ジェリー・ゴールドスミス。「病院」スケッチの患者ミシェル・ファイファーと夫役ピーター・ホートンは、実生活でも結婚したばかりだった。ランディス監督のトレードマーク「See You Next Wednesday」、今回は「ビデオ・パイレーツ」の挿話の中に出てくる。コンドームを買いに行く「Titan Man」挿話は、名作『素晴らしき哉、人生!』(46年)のパロディ。ヘンリー・シルヴァがホストを務める、ネッシーが切り裂きジャックだったという挿話「Bullshit or Not」は、漫画家ロバート・L・リプリーの『Ripley's Believe It or Not(ウソかマコトか)』のパロディ。
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PROGRAM/放送作品
マザー!
[R15相当]見知らぬ訪問者たちが妻を…ショッキングな内容で物議を醸したJ・ローレンス主演の問題作
衝撃的な内容と難解な物語の解釈を巡って物議を醸し、日本で劇場公開が中止となった問題作。不審な訪問者たちに振り回される不安と恐怖を、ダーレン・アロノフスキー監督が緻密な心理描写で不穏感たっぷりに映す。
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COLUMN/コラム2013.11.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年12月】銀輪次郎
シアトルのナイトクラブを舞台にジェフ・ブリッジスと、その実兄であるボー・ブリッジスが映画の中でもジャズ・ピアニストの兄弟を演じる本作。人気に陰りの見えたピアニストの兄弟デュオにボーカルとして加わった女性シンガーをミシェル・ファイファーが演じます。物語の雰囲気や内容もさることながら、本作で特に注目をしたいのが、アカデミー主演女優賞にノミネートされた(惜しくも受賞はならず。)ミシェル・ファイファーの演技。とりわけ歌唱力がすごい!“The Look of Love”(恋の面影)の他、“My Funny Valentine"等のジャズスタンダード曲を全編にわたり披露してくれます。聞くところに寄れば、役が決まるまでは特に歌の練習はしておらず、役が決定してから毎日10時間の猛練習をしたとか。音楽担当がデイヴ・グルーシンというところも、小粋なジャズ・フュージョンが所々に聞こえて心地よい。音楽にも是非注目してご覧頂きたい作品です! © Copyright ITV plc (ITV Global Entertainment Ltd)
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PROGRAM/放送作品
恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ
アカデミー主演男優受賞の名優ジェフ・ブリッジスがピアニスト役を熱演、大人の音楽恋愛映画
シアトルのナイトクラブを舞台に、ジャズ・ピアニストの兄弟と一人の女性シンガーの三角関係を描く大人のラブストーリー。ミシェル・ファイファーが吹き替え無しで挑んだボーカルが素晴らしい。
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COLUMN/コラム2008.06.12
6月の吹き替えの日は
まえにここのブログで「昭和の洋画吹き替えを無形文化財に指定せよ」という記事を書いてから、視聴者の皆様よりたくさんのご意見・ご要望をいただいてます。ありがとうございます! 「よくぞやってくれた!っていうか、いっそ吹き替え専門チャンネルになって」という激励(?)もあれば、「吹き替えなんて邪道だから字幕版だけでよい!」というご意見もあります。 結論として、ザ・シネマとしては、吹き替え専門にはなりません。けど、吹き替え特集に力は入れ続けます。 吹き替え版しかやらない、という作品が原則ないよう心がけてますので(ごくごくまれな例外中の例外はご勘弁ください)、吹き替え否定派のかたは、字幕版の放送のほうでお楽しみください。 また吹き替え肯定派のかたは、今後も特集「吹き替えの日」にご注目ください。その筋のひと的に価値ある吹き替え版を、これからも厳選してお届けします。 っていうか、その筋のエッジなひとたちのあいだで高まった吹き替え再評価の気運って、いま、広く一般ピープルのあいだにも「むかしは映画って夜9時からテレビの洋画劇場で見てたよなー、あの頃の吹き替えって懐かしいよなー」的な昭和ノスタルジアとして波及してるんですよね。 字幕のオリジナリティも良い。吹き替えの妙も捨てがたい。要はケース・バイ・ケースなのでは?という柔軟な立ち位置にザ・シネマはいますが、この気運がますます盛り上がればよいと願っており、吹き替え再評価ブームの一翼を担えれば、と思ってます。 そこで早速、またしても「6月20日は吹き替えの日」という24時間特集を組みます! 今度のラインナップは、 『レッドブル』…シュワ=玄田哲章 『ロックアップ』…スタも玄田哲章 『レッドソニア』…シュワ=今度は屋良有作 『インナースペース』…(後述) 『ユニバーサル・ソルジャー』…ヴァンダミング=山ちゃん、ドルフ・ラングレン=大塚明夫 『テキーラ・サンライズ』…(後述) というアクション系6タイトルです。 とくにご注目いただきたいのが、『レッドソニア』。これについては以前書いたとおり。 さらに追加で書くと、この映画は『コナン・ザ・グレート』の番外編だとまえに触れましたけど、正伝『コナン・ザ・グレート』でヒロインの女剣士バレリアをアテてた戸田恵子が、異伝『レッドソニア』ではヒロインの女剣士ソニアを担当してます。なるほど、『コナン』シリーズでの戸田恵子は、正義のヒロイン女剣士担当声優ってワケなんですね。 ちなみに、正伝『コナン・ザ・グレート』のヒロイン女剣士役サンダール・バーグマンは、異伝『レッドソニア』では悪の女王役です。ヒロインやった女優が今度は悪役で起用された。こういうキャスティングの遊びって、番外編ならではのお楽しみですよね。ただ、逆に言うと、戸田恵子はサンダール・バーグマンFIXの声優扱いをされなかった、ってことです。 個人的には、そうであって欲しかった!そうすれば正伝と異伝がきれいに日本語の声でもつながったのに、というらちもないマニア願望をいだかずにはいられない僕です…(すでにシュワ声優が玄田哲章と屋良有作で違っちゃってますから、その時点でつながらないのですが…)。 次に注目は『インナースペース』。DVDは、なんと『クライマーズ・ハイ』の原田眞人監督が吹き替え演出を担当、デニス・クエイド=上杉祥三、マーティン・ショート=野田秀樹、メグ・ライアン=斉藤慶子という、ある意味サプライズ人事ですが、まぁ、これに関しては各自、DVDでお楽しみください。 今回ザ・シネマで放送しますのは、見ようと思っても見れないレアなテレビ版です! こっちのバージョンですと、デニクエ=谷口節、マーティン・ショート=堀内賢雄、メグ・ライアン=佐々木優子と、手堅い人事になってて安心です。 さらに!きわめつけは『テキーラ・サンライズ』。あさ10時からはメル・ギブ=神谷明版、よる10時からは野沢那智版にて放送!(我ながらこんなマニアックな企画よくやるわ…) この映画でのメル・ギブソンは、ヤクのディーラーという「二枚目なヤバいひと」の役なんですが、メルギブの二枚目感は神谷明に、ヤバいひと感は野沢那智に、僕ならそれぞれ軍配を上げたい。ぜひ、聴き比べてみてください。 さらにさらに、『レッドブル』のジェームズ・ベルーシ=富山敬、『ロックアップ』のドナルド・サザーランド=家弓家正といった脇も、見逃せない(聴き逃せない?)配役です。 というわけで、全国の吹き替えファンの皆々様、6月20日も、ザ・シネマ吹き替えの日、ご堪能ください! コアな吹き替えマニアではない一般ピープルの皆様も、この日は、一昔前のテレビ洋画劇場、荻昌弘が、水野晴郎が、高島忠夫が、そして淀長翁が(むろん木村奈保子もですが)、夜ごとシネマの世界へと誘ってくれた、あの時代の夜の、あの雰囲気に囲まれて、幸福なノスタルジーに浸りきってみてはいかがでしょう? それにしても、いゃー、昔のテレビ洋画劇場って、本っ当にいいもんですね! 【特報!】そして盛夏8月、すごい品ぞろえで「吹き替えの日」を実施予定!詳細後日!! 乞う御期待!!!■